過去(5)
あの女がクラスメートとなったのは、それから一年後の話になる。季節外れの春の入学だった。こんな場合はわけ有の生徒が多い。あの女も例にもれずそうだった。
クラスでも話題になっていたが、女は平民出だが成績が優秀だったために、男爵が見込んで養女にしたのだそうだ。俺はまったく興味がなくどうでもよく、「ふうん、そうか」としか思ってなかった。
ところが三ヵ月も経たないうちに、否が応でも関わることになってしまう。女が――アネットが友人たちの婚約者に言い寄り、取り巻きにしてしまったからだ。
呆れたことに一人だけではなく、なんと三人もの男を篭絡していた。しかも全員が大臣の息子に騎士団長の息子、宮廷魔術師の息子と、名門出身の将来有望なやつらばかりだ。
友人たちは突然婚約者が冷たくなり、自分たちを蔑ろにするようになり、人目も憚らずにアネットをちやほやすると相談に来た。
「いくら説得しても、”もう両親や君の思い通りにはならない。僕は自分の意志のままに生きるんだ!”と言い張るようになって……」
「……」
俺はアホらしさに頭を抱えてしまった。どうやらあの平民の女にそそのかされ、世間知らずのお坊ちゃんどもは、今更になって反抗期を迎えたらしい。
自分の意志のままに生きるって、女の取り巻きになることだったのか? そんなアホどもなど放っておきたいところだが、友人たちの訴えはどうにかするべきだろう。
「わかったわ。ここは私に任せて」
俺は溜め息を吐きつつ席から立った。友人たちが不安そうな表情になる。
「でも、アデライード様、大丈夫でしょうか。アルフォンス様も、エドガー様も、マティアス様も、あの女に夢中であの女の言うことしか聞かないんです」
「あー、大丈夫、大丈夫。楽勝、楽勝」
俺は笑いながらひらひらと手を振った。
何、やつらに世間の厳しさを教えてやればいいのさ。
――友人たちが婚約者に謝罪され、仲直りができたと報告に来たのは、それから三ヵ月後の午後の話になる。
みんな俺の言ったとおりだったと目を丸くしていた。
「アデライード様、どんな魔法を使われたんですか? みんな”目が覚めた”と言っていました」
俺はウィンクをして「内緒」と笑った。
「魔法の仕掛けはわからないほうが楽しいでしょう?」
まあ、仕掛けは仕掛けとすら言えない単純なものだ。閣下からやつらの親に女の尻を追っかけているとチクッてもらい、頭が冷えるまで仕送りを止めるよう求めたのである。
仕送りがなければ学費も、食費も、寮費も賄えない。退学まっしぐらでエリートコースから脱落、お先真っ暗の未来しか待っていない。そんな中で女と仕送りのどちらを選ぶのかと問われれば、脳みそが一片でもあれば仕送りを取るだろう。
どん底の生活をしたからこそわかるが、人間がプライドを保てるのは、余裕があるからなんだよな。その余裕を一時的に取り上げて、誰のおかげで生きているのか、思い知らせてやったってだけの話だ。
こうして取り巻き騒動はあっさり一件落着。クラスも落ち着きを取り戻したかのように見えた。
ところがアネットにはそれが我慢ならなかったらしい。ある日俺を校庭にある木の裏に呼び出してきたんだ。




