過去(4)
閣下とよく話し合ったすえに、病に倒れたのは俺だということにした。関係者は閣下と俺、アディだけだ。秘密を知る人間は少ないほどいい。
そしてその数か月後、俺はアデライード・ドゥ・シャルトルとして、学園に入学したのだ。
足のスース―するスカートには苦労したが、それ以外は無理をするまでもなく、自然にアディを演じることができた。だって俺はアディをずっと見て来たんだ。アディが何を好きで何を嫌いか、どんな時に喜んで怒るのかを知っている。
そんな俺の演技が見事だったからなのか、入れ替わりに気付いたやつは一人もいなかった。そう、「一人もいなかった」んだ。婚約者の王太子・フィリップもまったく気付かなかった。
アディと王太子は幼馴染だと聞いている。幼いころにはよく一緒に遊んだだけではなく、大きくなっても王宮を訪問するたびに、お茶会や散歩などのデートを重ねたのだとも。なのに、王太子は俺がアディだと疑いもしなかったのだ。
王太子と俺は同じクラスだったが、王太子は俺の席が二つ後ろだとわかると、「久しぶりだね、アデライード」、と笑いながら握手を求めた。
「君がこのクラスにいるとなると、私がトップを取るのは難しいかもしれないな」
その瞬間、王太子はアディをなんとも思っていない。婚約者の義務として接しているだけだと覚ってしまった。
――俺だったら気付く。どれだけそっくりなやつであっても、一目でアディではないと気付いたはずだ。
貴族の結婚なんてそんなものだ、愛なんて珍しいと言われれば頷くしかない。けれども俺には許せなかった。アディを俺から奪っていくやつは、俺よりアディを好きでいて欲しかったんだ。
俺はぐっと怒りを噛み殺して、王太子の手を取り笑顔を浮かべた。
「これから六年間、よいライバルとなり頑張りましょうね」
勉強も、運動も、交友も、最大限に努力するようになったのはそれからだ。
俺は週末にはシャルトル家に帰り、アディに学園で習った教科や、できた先輩、後輩、友人について詳しく教えた。アディがいつかアディに戻った時、ついていけるようにするためだ。アディは「難しい」と悲鳴を上げながらも、医師と体力の許す限り頑張った。
学園で二年目を迎えたころだっただろうか。アディはベッドに横たわりながら俺を見上げた。
「あれっ、ジェラール、背が伸びた?」
俺は「そうか?」と心配になって頭に手を当てた。
アディになり切る以上身体が男らしくなるとまずい。だから、医師に無理を言って成長を遅らせる薬を飲んでいた。命を縮める可能性があると言われても構わなかった。
薬を増やさなければと考えていると、アディは目を細めてぽつりとこう呟いたんだ。
「きっと身長だけじゃないわよね。いろんなものをもう追い越されているわ。ジェラールは昔から頑張り屋さんだったもの」
「……アディ?」
アディは俺の視線に気付くと、なぜかぱっと頬を染めてキルトを被った。
「な、なんでもないわ。月曜日からまた頑張ってね」




