結末
私たちの結婚式は晴れた春の朝に行われた。教会の聖堂にいっぱいに人が集まっている。そして私は今バージンロードの、道の始まりに立っていた。
「準備はいいだろうか?」
私は小さく頷いて父の手を取った。手が緊張に震えていることに気付いたのだろう。父は安心しなさいと笑った。
白い十字の刻まれた扉が開かれ、淡く白い光に視界が包まれる。私はその向こうにベールに霞む真紅の絨毯の道のりを見た。
私の登場に道の両脇に集う人々が一瞬かすかにざわめき、それを合図として二台のオルガンの音楽が聖堂内に重なり合い満ちて行く。
「では、行こうか」
私は父と共に最初の一歩を踏み出した。
バージンロードは花嫁がこれまで歩いて来た、一人きりの人生を意味するのだと言う。
思えば私の人生はずいぶん奇妙なものだった。それに悪役令嬢とジェラールのルートだなんて、スピンオフにすらなかったのに。「こんなはずじゃなかったんだけどな」と、くすりと微笑みがこぼれていた。
父の足が祭壇の直前に止まる。私は顔を上げて道の終わり立つジェラールを見た。腕を絡め合わせ祭壇に向き合う。そこには私たちの結婚を取り仕切る司教がいた。
音楽が徐々に止んでいく。司教は聖書を開き、一度きりとなるその言葉を述べた。
「さて、ではジェラール殿、あなたは今主の定めに従い、この女性と夫婦となろうとしています。健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
ジェラールは真っ直ぐに司教を見た。
「誓います」
「では、新婦アデライード殿、あなたは今主の定めに従い、この男性と夫婦となろうとしています。健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「……」
私はジェラールと目を合わせ、にっこりと笑った。ジェラールもにっこりと笑う。
「……誓います」
この日のこの瞬間のこの幸福な気持ちを、きっと一生忘れることはないのだろう。
「では、誓いの口付けを」
私はジェラールにベールを取られながら思った。
これからも二人で頑張って行こう。二人ならきっと頑張れるはずだから。




