真相(8)
私は生まれて初めて抱く感情に戸惑った。私はフィリップ様が好きだったはずなのだ。かっこよくて、優しくて、絵に描いたような王子様――。
けれども、ジェラールは兄弟同然なのに。私にそっくりな男の子なのに。こんなの変だと振り払おうとしても、ジェラールの顔が浮かんでしまう。
なぜこんな気持ちになったのかと、自問自答を繰り返す日々になった。そして、ある日理解してしまう。フィリップ様への思いは恋ではなく甘えだった。
ゲームの中のフィリップ様は、「諦めるな」などとは言わずに、ただ私を甘やかしてくれる。「そのままの君を愛している」と囁いてくれる。――そんなお砂糖みたいな存在だった。食べ続けているうちに、歯も身体も悪くする甘い毒だ。
やっと気付いたそのころには、病気もすっかり良くなって、私は起き上れるまでになっていた。
私は、ジェラールに私のすべてを打ち明けたいと思った。今週末にまたジェラールは屋敷に戻って来る。その時に絶対に逃げずに前世を告白して、「好きです」と伝えようと決めた。
週末に戻って来たジェラールは、初めて出会った頃のジェラールだった。金髪に戻して男の子の服装をしていたんだから驚いた。私は「ああ、そうか」と悟るものがあった。
――断罪イベントがあったんだ。
もう私を装う必要がなくなったからだろう。
「フィリップ様から婚約を破棄されたんでしょう?」
私がきっとそうだろうと思って尋ねると、ジェラールは目を丸くして驚いていた。
「どうして……」
「……」
私は勇気を振り絞ってジェラールに頼んだ。
「ねえ、ジェラール、聞いてくれる?」
私は一時間をかけてすべて語ったあとで、「私ってバカだなあ」とぽろりと涙を流した。これが前世の「私」が流す最後の涙だと決める。
私は「私」に語り掛けた。
ねえ、「私」、もういいんだよ。あなたも一生懸命だったんだよね。頑張ったよね。だから、もう眠っていいんだよ……。
私は「私」が私の中に徐々に溶けて、やがてゆっくりと一つになるのを感じた。
私はこれからアデライードとして生きて行こう。今度こそ後悔のない、諦めない人生を送るために。
「アディ?」
「……」
私は首を傾げるジェラールに目を向けた。その紫色の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「ジェラール、私、あなたが好き」
迷いなんてなかった。
「世界で一番好き。あなただけが好き」
ジェラールは目を見開いて私を凝視している。けれどもやがて頬をポリポリと搔くと、「ああ、カッコ悪ぃな」と顔を真っ赤にした。
「……先に言われちまった」
「絶対に俺のほうが先に好きになったのに」――そう言って大きく溜め息を吐いた。




