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婚約破棄の結末と真相  作者: 東 万里央
アデライードサイド
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真相(5)

 ジェラールとの出会いはヒロインが体験するはずの、「曲がり角での馬車の事故」だった。そう、アデライードのイベントじゃない。なのに、ジェラールに遭遇したのは私だったのだ。


 馬車から降りてジェラールと口を利いた時、私の頭の中に何度も「なぜ」が過ぎった。ほんとうならジェラールのイベントは、十六歳ごろに起こるはずなのだ。けれども、私たちはまだほんの子どもでしかない。


 番狂わせが起きている? いったいどうして?


 私はジェラールと話しながらその理由を探った。そして、「そうだったのか」と頷くしかなかったのだ。


「ねえ、どうして逃げようと思ったの?」


 私が何気なくそう尋ねたとき、ジェラールはきっと私を睨んだ。


「父さんが俺を捨てるなら、俺も父さんを捨てると決めたんだ――それだけの話だ。俺は俺だけのものだ。男娼なんて冗談じゃねーよ!!」


 私と同じ紫の瞳に燃える、激しい怒りの炎を見て思う。


 ああ、この子は私なんかとは全然違っていた。親を捨てる勇気を、自分一人の足で立つ覚悟を、生きて行こうとする意志を持っているんだ。


 その強い力が動かせないはずのシナリオ――この世界での運命まで変えてしまった。


 私は強くきらめく紫の瞳を見つめながら思う。


 この子と――ジェラールといっしょにいれば、私にもわかるのかもしれない。抗う意味、この世界に生まれた意味、アデライードとして生きて行く意味がわかるのかもしれない。

 

 そう考えると放っておいてはいけないと思った。それに、ここでジェラールを助けなければ、私は自分が嫌いになってしまうだろう。


「ねえ、ジェラール、一緒に来ない? 私、一人っ子なの。もしあなたが来てくれたら、きょうだいができたみたいで、きっと楽しくなるわ」


 思い切って差し伸べたその手は、ほんの少しだけ震えていたと思う。


「えっ……」


 断られたらどうしよう――そんな思いが脳裏をよぎった。


「あ、あなたがよければなんだけど……」


 さら遠慮がちになった私に、ジェラールはちょっと偉そうな顔になった。


「あんた、俺に来てほしいのか?」


「……」


 図星なのだから頷くしかない。ジェラールは指先で頬をかくと、「そっか」と今度はにっと笑った。


「仕方ねーな。一緒に行ってやるよ」


 その頬はほんんちょっとだけ赤くなっていた。

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