真相(4)
私はそうしてわけがわからないまま、「アデライード」として成長していった。
今世の父は泣きたくなるほど優しい人だった。仕事がどれだけ忙しくても、私が熱を出すと飛んできてくれる。寂しいと泣くと添い寝をしてくれる。
そして、私が寝返りをうつたび、はいはいをするたび、立ち上がるたび、「おとうしゃま」と呼ぶたびに、手を打って喜んで抱き上げてくれる。
「うちの娘は天才だ」と言われて、何度恥ずかしくなったことだろう。けれどもそのたっぷりの愛情が涙が出るほど嬉しくて、私はどんなことでも頑張るようになった。
「アデライード」の頭脳と肉体は優秀だった。努力すればするだけ結果がついてくる。だから、私は勉強も運動ものめり込むように頑張った。
それから年月が瞬く間に過ぎ去って、六歳になったころのことだろうか。私は父に初めて連れられて行った王宮で、同じ年のフィリップ様に出会った。
「さあ、アデライード、殿下に挨拶をなさい」
「……こ、こんにちは」
父の後ろからおずおずと顔を出すと、フィリップ様は「可愛い子だね」とそつなく笑った。
「いい友達になってくれると嬉しいな。この身分じゃなかなか気を許せる子がいないんだ」
金髪碧眼のその姿を見た瞬間、私の頭に前世の記憶が洪水となって、一気に襲い掛かってくるのを感じた。「プリンセスロード」「フィリップ」「アデライード」「悪役令嬢」「アネット」「ヒロイン」「ジェラール」、そして最後の「抗う」と言う言葉――。
記憶の量は膨大で、私はただ混乱するばかりだった。けれども、これだけははっきりわかっていた。私は、「アデライード」の、「悪役令嬢」の運命に抗わなければならない。この手で人生を掴み取らなければならないのだと。
運命に抗わなければならない――けれども、どうやって?
手段も方法もまったくわからずに、途方に暮れるしかなかった。その間にも「プリンセスロード」の始まる、学園への入学は刻一刻と迫って来る。
このままでは私は断罪されて、婚約を破棄され大変な目に遭う――焦りながらも手をこまねくしかない中で、私は苦手だった「ジェラール」に出会ったのだ。




