真相
それでも屋敷に戻り父に説明する時には、どうしても気が滅入ってしまった。今回の破棄でひどく傷付く人がいるからだ。その人にもすぐに話が伝わるだろう。
私は沈んだその顔を思い浮かべながら、父に「以上です」と告げる。父は窓の縁に手をかけ外を眺めていたが、やがて、
「第二王子を王太子に立てる」
そう言い切り私を振り返った。
「第二王子のシャルル様はすでに十二歳。勤勉、かつ真面目なお方であり、王族としての心得もある。いつ立太子をされても問題はない」
私はニヤリと唇の端に笑みを浮かべた。ざまあみろと心の中で吐き捨てる。これで王太子の、フィリップの運命は決まったようなものだ。
今度はめでたくも男爵家の跡継ぎとなり、男爵として終わることになるのだろう。まあ、好きな女と結婚できるんだから問題ないよな。ああ、男爵家は辺境に領地替えになる可能性もある。空気のよい田舎はバカップルの頭を冷やすのにも最適だ。
私はそう思いつつも深々と頭を下げた。
「……力及ばず申し訳ございませんでした」
父が歩み寄る足音が聞こえる。やがて、大きな手が私の肩を二度叩いた。
「いいや、お前はよくやってくれた」
父は、閣下は「顔を上げろ」と言い、私の、俺の頭に手を置いた。
「背が伸びて来たな。肩も、腕もたくましくなった。いずれにせよこの茶番ももうじき終わりになるはずだった」
「……」
「お前ももうアデライードの仮面を脱いでいい。四年間ご苦労だった」
「閣下……」
閣下はゆっくりと首を振ると、苦笑してもう一度俺の肩を叩いた。
「その呼び方は止めてくれ。これまで通りお父様でいい。お前は既に息子同然だ」
息子と呼ばれ胸がいっぱいになる。
「ありがとう、ございます」
俺は熱いものを堪えながら、「……お願いがあります」と、やっとの思いで父に告げた。
「この件は俺からアディに……アデライードに説明させてください。俺にはその義務があると思うんです」
「……」
父は「わかった」と頷き再び窓に目を向けた。
「そのほうがいいのだろう。アデライードはお前をもっとも信頼しているからな」
俺はさっそく自室へ戻るとドレスを脱ぎ捨て、父に与えられた男の服に着替えた。最後に伸ばし続けていた褐色の髪を掴む。そして、左手に持ったナイフで根元からぶつりと切り捨てた。
この色も今から薬で落として、元の金に戻してしまおうと決める。
――君は俺のこの姿を見てどう思うだろうか。君にもちゃんと男に見えるだろうか。
俺は不安に思いながらも浴室へと向かった。通りすがりのメイドが驚くのを横目に、この四年間アディとして過ごした日々を思う。
四年前俺のアディは、アデライードは病に倒れた。治療に時間がかかる病だった。そこで俺が身代わりを買って出たのだ。当時はまだ俺とアディは髪の色以外はそっくりで、父すら見分けがつかないほどだったから。
そう、俺の名はジェラール。父の遠縁の没落貴族の息子に当たり、八年前すんでのところをアディに助けられ、シャルトル家に引き取られた。




