真相(1)
私の前世はろくなものじゃない。思い出すのも寂しい一生だった。それでも私は見つめ直さなければならない。ちゃんとアデライードとして生きていくために――。
人間は心身に与えられる苦痛を我慢するよりも、勇気を出して自分や環境を変えるほうが難しいんだそうだ。
なぜなら、苦痛にはいずれ慣れてしまう。耐えられるようになる。けれども、周囲を取り巻くものと戦い、自分を根本から変えるのは、大きなパワーが必要だからだ。
そして、弱い人間は試しもしないうちに変化を、未来の幸福を諦め、現状の維持を選ぶ。前世の私はまさにそんな人間だった。
生まれた時から私はいらない子だった。兄ほど優秀でもなければ、妹ほど可愛くもない。なんの取り柄もない貧相な女――それが家族にとっての私だった。
誕生日は毎年忘れられ、お小遣いなんてもらったこともない。兄からは頭が悪いと蔑まれ、妹からは地味すぎると見下される。両親は無関心でそんな二人を止めもしない。それでも私はへらへら笑っているしかなかった。
どうせものにならないからと大学も出してもらえず、就職と同時に家を追い出された。妹は私より成績が悪くても、縁談に泊を付けられるからと、私立の女子大に入れてもらっていたのに。その学費は私のお給料から出ていたのに。
そう、両親は少しは役に立てと言って、私に実家に仕送りをさせていた。稼ぎの半分近くを毎月取られて、ろくな生活ができるはずもない。私はあばら屋のようなアパートで、やっと暮らしていくしかなかった。
それでも私は家族から逃げられなかった。逃げようとしなかった。いつか私の努力をわかってくれるかもしれない――そんなありうるはずのない夢を見て、また、苦痛に慣れ勇気を出すのが怖かったからだ。
苦しい日々が続く中で、私は唯一の楽しみである、古本屋へ立ち寄った。そこで少女漫画の立ち読みをしたり、安い中古ソフトを漁っていたのだ。
その日はワゴンセールをやっていて、私は何気なくその山の一番上を手に取った。それがマイナー乙女ゲーム、「プリンセスロード」だったのだ。