現在(7)
アディのそのセリフでフィリップがやっと我に返った。
「何……好き、好きだと。私以外の男を好きだと!? アデライード、どういうことだ。お前は浮気をしていたのか!? 決して許さないぞ。姦通罪で処刑してやる!!」
「……」
俺とアディは顔を見合わせるしかなかった。
浮気をしたのはお前だろうが。自分の浮気はよくて、相手の浮気はいけませんってか?
第一姦通罪だなんて一〇〇年前に廃止されている。処刑などという物騒な罰則もない。
ああ、でも、こいつの中では「自分以外の男を好きになる」、それだけで処刑に値するんだろうな。馬鹿な男が考えていそうなことだ。
俺とどっと出た疲れに大きな溜め息を吐き、アディに「王家に連絡を入れてくれないか」と頼んだ。さっさとこのアホを回収させなければならない。
アディが「わかったわ」と身を翻す。フィリップが「待て!」と怒声を上げた。
「待つんだアデライード!!」
俺もバカバカしくなり背を向けた次の瞬間だった。今度は聞き覚えのある甘ったるくしつこく、一発で不快になる間延びした声が響き渡ったんだ。
「フィリップ様ぁ~! やっぱりここにいた! 私とはもう終わりだって、どういうことなんですかぁ!? アデライードとやり直すだなんて、あんな悪役令嬢どこがいいのよぉ!」
「……!?」
こ、こいつは、ちょいブスのアネットじゃないか。フィリップを追いかけて来たのか!?
ところがアネットは俺達を見るなり、フィリップには見向きもせずに、黄色く甲高い歓声を上げたんだ。
「えぇ~! 金髪に紫の目って……あなたってジェラール!?」
「……!?」
ちょいブスには学校でしか会ったことがないはずだ。こいつは「ジェラール」を知らないはずなのに、なぜ俺が俺だとわかるんだ!?
一気に警戒して顔を強張らせていると、ちょいブスはずかずかと俺に歩み寄り、「やっだぁ~!」とまたもや黄色い声を上げた。
「フィリップ様よりカッコいいじゃない! あたし、こっちにする!!」
――はぁ!?