現在(1)
この学園は十二歳から十六歳までであり、そこから先は進路が専門別になる。騎士になりたいやつは騎士団へ行き、魔術師になりたいやつは魔術院に入学し、あとを継ぐやつは実家に戻り、親の助手として働き始めることになる。
王太子と「アディ」もそれぞれ王宮と実家に戻り、十八歳になるのを待って結婚するはずだった。
けれども、こんな状態で結婚できるはずがない。一年後に俺たちが卒業式を迎えるころには、王太子はすっかり色ボケてしまい、「アディ」には見向きもしなくなっていた。
教師がどんなに説得しても、生徒が忠告をしても無駄だった。王太子は坂道を転がり落ちるかのように、自分を駄目にして行ったんだ。俺もみんなもうるさいと思われていたんだろう。
人間周囲がうるさいと思えるうちはまだいい。まだなんとかなる、なんとかしてあげたいと、そう思われている証拠だからだ。何も言われなくなった時が、そいつの終わりの時だ。
結局王太子はその終わりが来ても気づかず、やっと邪魔がいなくなったとばかりに、ちょいブスとあいかわらずイチャイチャしていた。
色ボケトリオの親たちとは違い、さすがに王太子の仕送りを止めて、懲らしめると言う手段は使えない。無理やり止めたところで、親バカの国王が小遣いをやっちまうからだ。
頭の痛い日々だったけれども、朗報もいくつかあった。
このころにはアディの病気もすっかり良くなり、ふつうの生活には問題がなくなっていた。もういつ入れ替わっても問題ない。本人もそう言い始めている。だが、こんな状態の王太子を見てどう思うだろうか。傷つくんじゃないだろうか。
そう思っていた矢先に、あの断罪事件があったんだ。
――俺は髪の色を金に戻すと、さっそくアディの部屋に向かった。
ノックを二度した直後にいつにない緊張が走る。アディには俺が俺とわかるだろうか。
「はい、どうぞ」
中からすっかり馴染んだ可愛い声が聞こえた。俺はゆっくりと扉を掛け、窓辺近くの椅子に腰かける、褐色の髪の女の子を見つけたんだ。アディは本を読んでいたところだった。
俺と同じ紫の目が見開かれる。
「ジェラール……? ジェラールなの?」