ティマー
「すまんのチー転じゃ」
「いや、大丈夫っすよ」
「なんと欲のない、ダブルスキルじゃ」
「いらないって。それより、あんただっていつも苦労してんだろ」
「それは」
「たまにはミスしたって仕方ないって」
「ぐぬぬ」
「ほら頭出せ、撫でてやるよ。おしおし」
あごひげを掻き撫でるてやると神様はごろごろと喉を鳴らしながら丸くなった。
はじめに頭頂部に手を持っていくと、手が視覚外で見えないので攻撃を警戒して怯えさせてしまう。だからまず下の方から、喉のあたりで次に耳の裏、そして安心させたところでやっと撫で回す事が可能になる。
物事には順序があるのだ。
陸奥吾郎は運悪く馬に蹴られて死んだ。転生先は獣人の国だという。
この時点で既にチートハーレムの未来しか見えない。
転生前ですら、彼は超絶スキル持ちのビーストティマーだったのだ。
猫耳、狐女、犬ころ、リザードウーマン、馬並み、羊、らくだ、鳥頭、龍人、神様と吾郎のパーティはとうとう魔王の城を訪れた。
彼らの後ろには、吾郎が手懐けたモンスターが川のように連なっている。
スライムの群れやゴブリンの集団、オークの家族から始まり後ろの方にはバハムートだとかフェンリルまでいる。
たまにお互いに齧りあったりするのでその度に仲裁に飛んで行ったりして、手間取った。
ウコバクがガネーシャの牙を離さなかったり、ガーゴイルと蛇頭が石化させ合ったり、ピシャーチャが花子さんのストーカーと化したり、なかなか手のかかる可愛いモンスター達だ。
「はいはい。分かったから行くよ?」
ワイバーンがじゃれて逃げていこうとするのを冷たく無視すると、振り向いて『あれ?遊んでくれないの何で何で』としゅんとした顔で戻ってくる。
「お邪魔します」
ティムしたモンスターの餌代を稼ぐ為にギルドの仕事をこなし、その間に出会って懐かれた各種属の王女やプリンセスに惜しみない援助と同行をせがまれてたので吾郎はそれを全部受け入れた。
「で、やっぱりこの世界にも魔王とかいるんでしょ。色々して貰ってばっかりじゃ悪いんで、かわりにそれを何とかするよ」
と魔王城へ向かったのだ。
「みんな、油断するなよ」
と吾郎が言ったそばからエンカウント。ナイアルラトホテプが出現し襲いかかってきた。
千の異なる顕現を持って一同を混乱に陥れようと暗躍するニャルラトーテップを毛針とルアーで引き寄せて、釣り餌に食いつかせる。魚介類は懐かないと思いきや、以外と優しく接すると人の顔を覚えてくれる。網で乱暴にすくったり暴れさせると警戒心むき出しに、攻撃的になってしまうが、移動も優しくプラケースに入れたりと気を使うと、餌を手から直に食べてくれるようになるのだ。
無心にイソメを食べているナイアーラソテプを、吾郎はそっと水槽に移した。
攻略も半分くらい進んだ頃、シヴァが焦げた奥さんを抱えながら眉間から都市破壊ビームを出して攻撃してきたのでそれをいなし、軽くデコピンをしてから話を聞いてやる。
「だからってヤケになっちゃあいけねえよ」
奥さんのサティーが焼身自殺したとか、結婚を反対されたからだとか言って唸っている。吾郎は事情をうんうんと聞いてやり、でも前を向いて生きろよとアドバイスをして、それでもまだうじうじとしているシヴァに向かって言い放つ。
「こんなものがあるからいけないんだ。ええい!」
と、消し炭みたいなサティーを砕いて、
「恨むなら俺を恨め。でも自分を恨んじゃいけねえよ」
シヴァは吾郎に飛び掛って…その胸で号泣していた。
その後もマルドゥークとティアマトーが、テスカトリポカとケツァルコアトルが、襲いかかるそばから次々に仲魔になっていった。
城の最後の扉を開ける。
「魔王さん?」
「あっはい」
「ええと…」
「やっ、やるんですか? それならこっちだって最後まで抵抗はさせてもらいましょう」
とプルプル震えながら槍を構える。
「そんなつもりはねえよ。俺だって本当はお前の事が怖いんだ」
「そんなに沢山の軍勢を連れて、何を言ってるんですか」
魔王の間には入りきらないほど、味方のモンスターが続々と詰めてくる。
「いや、魔王さんっていつも何食べてんだ?まさか人間なんて言わねえだろうな」
「それがどうしたんですか!」
「どうもこうもねえよ、俺が心配なのはただ一つ。……餌代がたかいといけねえ」