9話 王都へ
翌日、黙々と出発の準備を整える。そこへ王女様とギルドマスターがやってきた。
「おはよう」
「ああ、おはよう。2人揃って、何か有りましたか?」
「ちょっと相談なんだが、助け出した女性達はまだ歩ける状態では無い。普通は回復を待つか誰かが背負うしかないのだが……」
「何かいい方法無いかしら?」
「有ります。馬車に乗せて帰りましょう」
「「………」」
何故か2人とも黙ってしまった。
「来るときはゴブリンに気がつかれると困るので、馬車は使えませんでしたが、後は帰るだけですから」
「どうやってと言うのは無駄か? 見せてくれるか?」
「もちろん」
俺は石壁の扉を開けて、外に出ると魔法で地面を石畳に変えて道路を作った。トロアの街の方向に、ひたすら真っ直ぐだ。
「ここから森よ? どうするの? 焼き払うの?」
「いや、どいてもらうんだよ」
俺が植物魔法を使うと、森の木々が動き出し場所を空けてくれる。そこを石畳で平らにしていく。
「簡単だろ?」
「「………」」
また、2人して黙ってしまった。いい方法だと思ったんだが……。
「なにかまずいか? 法律で勝手に道路を作ってはいけないとか?」
「……いや、大丈夫だ。やってくれ」
「……こんな魔法も有ったのね」
「たぶんエルフ達が使う魔法を、大規模にしたものじゃないか?」
「なるほどね。本当に規格外よね」
よく分からないが、大丈夫な様だ。俺は一気に魔力を振り絞り、道路を完成させる。
「馬車を使って、この道路を行けば半日位で行けると思う」
アイテムボックスからシルバーと馬車を出した。
「助け出した女性達と王女様達、後はギルドマスター位なら何とか乗れるかな? 他の冒険者達は悪いけど歩いてくれ。歩いても、夕方には着くだろう」
「それでかまわん。あいつ等には儂から言っておこう」
「正直、また一日半も森の中を歩かなくてすむのは嬉しいわ」
「では準備して下さい。準備が出来次第出発しましょう」
「分かったわ」
「よし! 冒険者達は一度集まってくれ!」
俺も準備を急がないと。
馬車を利用していると言うこともあり、トロアの街までスムーズに帰って来た。突然出来た道路に驚いた様だったが、ギルドマスターが説明してくれた。
助け出した女性達を治療院に運び、王女様達を辺境伯の屋敷で下ろし、冒険者ギルドまで戻って来た。
「タカ、今回は助かった」
「仕事ですから気にしないで下さい。それより、ゴブリンの魔石はどうしますか?」
「今回の依頼で言えば、倒した者の物だ。買い取りも冒険者ギルドで出来るぞ」
「では、上位種の魔石だけもらっておきます。普通のゴブリンの魔石はギルドにあげますので、そのお金で今回参加した他の冒険者達の報酬に少し上乗せしてあげて下さい」
「いいのか?」
「大丈夫です。俺だけ稼ぎやすいポジションでしたから、少しお裾分けです」
「皆喜ぶだろう」
「ここに出して良いですか?」
「まて、中に入ろう」
ギルドマスターと共に、冒険者ギルドの中に入る。
「お帰りなさい、如何でしたか?」
中に入るとすぐに、ソフィアさんがカウンターから出てきた。
「おう、今戻った。ゴブリンどもは片付けた。留守中問題は無かったか?」
「こちらは通常通りです。特に問題ありません」
「そうか、大きな箱を用意してくれ」
買い取りカウンターに大きな木箱が用意された。
「ここに出してくれ」
俺はアイテムボックスからゴブリンの魔石を選んで出していく。ザラザラと出して行き、箱の9割ぐらい埋まった所でで出し終えた。
「改めて見ると凄い量だな。ではこれは参加者で分けておく。それでお前の報酬がこれだ」
受け取ると、小さな革袋に金貨が二十枚入っていた。
「お? ありがとうございます」
「いや、お前がやった事を考えると本当はもっと出したいぐらいなんだが、それが限界だった」
「十分ですよ」
事実、日本円で二千万だ。かなりの大金と言える。
「じゃあ、そろそろ……」
帰ろうと思ったら、ギルドの前に馬車が止まる音が聞こえ、ギルドのドアが乱暴に開かれ騎士が飛び込んで来た。
「い、居ました! こちらです!」
「良かった!」
続けて、騎士団長と王女様が入って来る。
「そんなに慌ててどうされました? 馬車に忘れ物でもってしましたか?」
「違うわ! あなたに指名依頼を出します!」
「王女様、ここでは何です。別室をご用意しますので、そこで話されてはいかがですか?」
ソフィアさんが間に入って、場を改める事を提案した。
「そうですね、案内を頼みます」
「こちらです」
ソフィアさんが王女様を奥に案内していく。
「……厄介事ですかね? 帰って良いですか?」
「駄目だろ。行くぞ」
隣にいたギルドマスターに聞いて見たが、ダメだった。しぶしぶ後ろをついて行く。
会議室のような部屋に通された。皆が揃った所で、王女様が口を開く。
「冒険者タカに指名依頼を出します。内容は私達を王都まで至急連れて行って欲しい」
「護衛か?」
「ちょっと違うわ。もちろん危険があれば守って欲しいけど、急いで王都に帰りたいの。あのミスリルの馬車とゴーレムなら、普通の馬車より早く帰れるでしょう?」
「まあな」
「だからよ。………念の為聞くけど、あなた転移魔法とか使えたりしない?」
「………何故そんなに急いでいる?」
「ここだけの話にして欲しいのだけど、王が……お父様が倒れたの」
「………使えるが、知らない場所へは飛べない。だが、話は分かった。大変だな」
「じゃあ……」
「依頼を受けよう。転移とは行かないが、最速で送って行く」
「ありがとう!」
「まだ、お礼を言うのは早い。準備は出来てるのか? 俺はいつでも行けるぞ」
「急ぐわ」
「あ、連れて行く人を厳選してくれるか? 流石に全員は乗れない」
「分かってる。メイドと女騎士、後は騎士団長と騎士を2人だけ連れて行くわ。これなら、あの馬車にギリギリ乗れるはず。残りはゆっくり帰って来てもらうわ」
「それなのですが、換え馬を用意すればついて行けませんか?」
「それは無理だな。それよりも早く準備して来ると良い。早く出れば、それだけ早く着く」
「そうね、そうしましょう」
「門の外で待ってる」
「分かったわ」
「行く奴は全部乗ったか?」
俺は馬車の御者台から声をかける。
「大丈夫よ出してちょうだい」
王女様が馬車の窓から顔を出す。辺りには乗れなかった騎士達とギルドマスター、辺境白達が居る。
「姫様、我らもすぐに出発します」
「ええ、でも無理はしなくて良いわよ」
「いえいえ、こちらは換え馬も有ります。ゴーレムとは言え、馬車よりは早いかも知れません。追い越したら、周囲の安全を確保しておきますので」
「頼むわ」
「ハッ!」
居残りを纏める騎士隊長はこちらを見て頭を下げる。
「姫様を頼む」
「任せてくれ。では出発する。シルバー、王都まで最短距離を全速力だ」
「かしこまりました」
シルバーが空へ駆け出した。
「え?!」
徐々にスピードを上げ、トロアの街はすぐに見えなくなった。
残された者は全員、唖然として空を見上げていた。
「あれを追い越すのか?」
「無理だろ」
「無理だな」
「無理だ」
「……馬に乗れ、我らは自分のペースで行く」
「「「ハッ!」」」
ひたすら高速で飛ばし続け、空が茜色に染まる頃ようやく王都が見えて来た。
「見えた! 手前で降りるぞ!」
「そのまま城に行けないかしら?」
「よく分からないが、結界が張ってある。壊して良いなら行ける」
「ごめんなさい。止めて頂ける? 手前で良いわ」
「残念。降りるぞ」
速度を落とし、地面に降りる。普通の馬車以上の速度は保ったまま、城壁の門に近寄る。
門は夕方の人混みで、長い列が出来ていた。
「混んでるな、少し時間が掛かりそうだ」
「!……本当に王都に着いたのか………我々はここじゃない。あちらの門に行ってくれ」
騎士団長が2人の騎士を伴って降りて来た。騎士団長が指して居る方は、無駄に豪華な馬車が何台か並んで居るが、簡単な検査なのか比較的スムーズに門をくぐって行く。
「いや、あれはお貴族様用でないの? 俺ただの冒険者だし、無礼者!とか言われて、あの槍で刺されるんじゃないかな?」
「馬鹿な事言ってないで、早く進みなさい」
軽く拒絶反応を示したら、王女様が馬車の窓を開けて怒った。少しだけ地味に本気なんだが、選択肢は無いようだ。
先導するように歩く騎士団長達の後を、しぶしぶ馬車でついて行く。
「急ぎである! 道をあけよ!」
「なんだ? 我らの方が先だぞ」
「割り込みか? 急ぎなどと、その様な連絡は受けてない」
騎士団長の声に、前に居た馬車の護衛や門番が振り返る。
「カ、カイル様! ま、まさか……」
「そのまさかだ。急ぎ戻るために、早い馬車を持つ冒険者を雇った。馬車が違うのはそのためだ。何時まで待たせるつもりだ! 急ぎ道をあけよ!」
「は、はい!」
「あと緊急連絡用に馬がいたな? それを三頭借り受ける。後で別の者が戻しに来るだろう」
「はい!」
慌てて道があけられ、どこからかよく手入れされた馬を三頭連れて来た。
騎士団長達は馬を受け取り、それぞれまたがった。
「1人先行して城に知らせよ」
「ハッ!」
騎士の1人が馬を走ら、先を行く。
「では、行こう。着いてきてくれ」
騎士団長と残った騎士が、案内してくれるらしい。知らない都市だ、着いて行くしか無い。
「分かった。シルバー頼む」
「かしこまりました」
騎士団長について馬車をしばらく走らせると、王城が見えて来た。
「でかいなぁ」
白を基調とした実用的かつ、優雅な城だ。先行した騎士が知らせているため、止められることもなく城門もくぐり抜ける。流石に馬車では城の中に入れない為、城の前で停めた。
馬車の中から、女騎士が降りて周囲を警戒し王女様が降りて来た。王女様は父親が心配なのか、急いで城の中に入って行く。
侍女達が降りてこないので、御者台から降りて中を覗くと片付けをしていた。
「大して汚れてませんよ? 気にせず降りて下さい」
「もうすぐ終わります、それにこれが私達の仕事ですから」
言葉通り、すぐにファーナさん達は降りてきた。馬車とシルバーをアイテムボックスにしまう。
「本当にこれほどの短時間で、お城まで連れてきて頂きありがとうございます」
「いえいえ、これも仕事です。気にしないで下さい」
「では、依頼料をお渡ししますので中にどうぞ」
「……依頼料は冒険者ギルドから貰わないといけないので、ギルド方にお願いします」
「大丈夫です。今回のみ特例で許可を頂いております。冒険者ギルドへの手数料も渡して有ります。後はお城の中で依頼料をお渡しするだけです」
「そうですか……ちなみになんで侍女の皆さんは俺の服を掴んで居るのでしょう?」
いつの間にか後ろに回った侍女達が、マントや服の端を掴んでいた。
「マリア王女様が、逃がすなと……」
読まれてる。
「騎士とかだと振り払って逃げるかも知れないが、戦えないかわいい侍女達なら乱暴な事は出来ないだろうと」
完璧に読まれてる。
「もしかすると、部屋で性的に襲われるかも知れないが、そうなればこっちの物。将来は安泰、子供も英雄みたいなのが生まれるだろうと」
「いやいやいや、それは言ったら駄目なやつでしょう。襲いませんよ」
「「「エ~!」」」
「エ~じゃないでしょう! 王女様の侍女なんだから、貴族の子女とかじゃないんですか? 駄目でしょう」
侍女達は目をそらして居る。
「とにかく中に入りましょうか?」
「……そうですね。入らないと話が進まない様ですし」
「はい、こちらへどうぞ」
俺はファーナさんの案内で王城へ入った。