6話 村への移住
帰りは森の中を、魔物狩りをしながら進む。まあ、ゴブリンばかりだけどね。しばらく進むと、ゴブリンがひときわ多く集まっている場所が有った。人らしき気配も4つ有るから、冒険者がゴブリンを狩って居るのだろう。
……変だな? 獲物の取り合いにならない様に、離れようとしたとき人らしい気配が一つゴブリンを伴って森の奥に離れて行く。何やってんだろ?
気になったので、様子を見に行くと男が一人倒れ、もう一人の男もゴブリン五匹と戦っているが、押されている。残り一人は若い女の子で、ゴブリンに胴上げされて何か話して居た。
「? なあ、何かの訓練か遊びか?」
「馬鹿いうな!」
「誰か居るの?! 助けて!」
「え? 助け必要?」
「早く!」
よくわからないが、胴上げしているゴブリンを纏めて輪切りにして、倒れた奴を棍棒で殴って居たゴブリンを棍棒ごと斬り倒す。
「これで良いのか?」
「俺も助けてくれ!」
ゴブリン五匹と戦っていたお男が、何か言っていたので、五匹の内三匹の首を切り落とした。
「しめた!」
敵の減った男は、あっと言うまに残りのゴブリンを斬り伏せた。
「助かった。ありがとう」
「それは良いけど、何してたの?」
「それは「そんな事より!」」
話を聞こうとすると、女の子が怒りだした。
「早く助けに行かないと!」
「そうだった! 済まない、手を貸してくれないか? 仲間がゴブリンに連れてかれたんだ!」
「ん? ああ、わかった。ポチ、こいつらを見ててくれ」
「ピ!」
「スライム?」
「まて、俺も行く!」
「そうか? 急ぐから、頑張れよ?」
俺はゴブリン達の気配が向かった、森の奥へと走り出した。
「………」
「ジェイク、行かないの?」
「……すまん、もう見失った。追いつけねぇわ」
「でしょうね。私達は、出来る事をしましょうか」
「そうだな、グレドの手当てでもするか」
「ポチくん? ちゃん? 見張りよろしくね?」
「ピ!」
「見えた!」
ゴブリン達は人を担いで、足場の悪い森の中を走っていた。
すれ違い様に、全てのゴブリンを切り裂いた。担がれた人が投げ出されたが、地面に落ちる前に何とかキャッチする。
「おい! 大丈夫か?」
返事はなく、気絶しているようだ。ひとまず、転がっているゴブリンをアイテムボックスに放り込んで、気絶している若い女性を担いで先ほどの場所へ戻る事にした。
「ピ!」
「お? 助けられたか! ありがとう!」
戻ると、倒れた男を手当てしている所の様だ。意識が戻らないのか、鎧を脱がそうと悪戦苦闘していた。周りのゴブリンの死体はポチが、討伐証明部位と魔石を残して片付けたらしい。
「まあ、成り行きだ。それより、こっちの女性も意識が戻らない」
「サラは多分、MP切れだ。魔法使ってて倒れたからな。しばらくすれば、目をさますと思う」
「なら、大丈夫か」
俺はサラと呼ばれた女性を、もう一人の女の子に預けた。
「助かった。あのままだったら、どうなっていたか……」
「あたしはミリィ、この人がサラ」
「俺はジェイクで倒れているのがグレド。本当にありがとう」
「あれ? 冒険者ギルドで会ったイケメンくん?」
「イ、イケ?」
「あ、何でもない。俺はタカだ」
「ああ、お前、ソフィアさんの所に行った、新人か?!」
「そうだよ。…いや、それよりそのグレド?の状態は?」
「ボッコボッコだな。沢山のゴブリンに袋叩きにされたから。死にはしないが、意識が戻っても直ぐに動けるかどうか……」
「いやいや、わかってるなら、回復してやれよ。みんな怪我してるのか?……癒やしの光よ! エリアヒール!」
淡い光がグレドを中心に全員を包み、傷が消えて行く。
「回復魔法か? 凄いな、ホーリーナイトとかパラディンなのか?」
「いや? ティマーだよ」
「……何でだよ……」
「……うっ……」
グレドが呻き声を上げて、身じろぎする。
「グレド! 気がついたか!」
「耳元で、喚くな」
グレドと呼ばれた男は頭を振りつつ、起き上がった。
「気絶してたのか?」
「ああ、このタカさんに助けられたんだ」
「そうか、ありがとう」
「いや、さっきも言ったが、成り行きだよ。気にしなくて良い。それより、何してたんだ? ゴブリンごときに」
「しかし、ゴブリンごときと言うが、あれだけの数が居ると手に負えない」
「ごめんねぇ~。わたしMP切れちゃってぇ~」
「サラ! 気がついたか!」
「最初は優位に戦えたんだけどぉ~、わたしがぁ倒れて均衡が崩れぇ負けてしまったのぉ」
「……まあ、いいや。じゃあ、俺は行くから」
「申し訳ないけどぉ、まだ、クラクラするのぉ。お礼も兼ねてMP分けていただけるぅ?」
「? お礼はいらない。…マジックポーションか?」
「違うのよぉ~」
何言ってるか分からず。他の連中を見ると、目をそらされた。訳が分からず、再度サラの方を向くと突然キスされ舌を入れられる。
「ん?!」
驚き固まって居ると、わずかにMPが引っ張られる。この女、口からMPが吸収出来るのか。
仕掛けさえ判れば、大したことはない。武具に魔力を流す感じで、MPを送ってやる。
「やぁん、そんなに大きいのは入らないわぁ。そんなに沢山注ぎ込まれてもぉ、こぼれちゃうぅ」
「なら、もう良いか?」
「冷静ねぇ、お姉さん、自信なくしちゃうわぁ」
「ん? 驚いたよ、MP吸収なんてスキルあったんだな」
「女としての自信よぉ~」
「……たち悪いなぁ……そちらも大丈夫だよ、二人で部屋の中なら押し倒した……かも知れない、と言っておく」
「嬉しいわぁ、今度お部屋に行くわねぇ~」
「来なくて良いよ」
「大丈夫ぅ、こう見えてぇ~わたし処女なのぉ」
「聞いてないから!」
「……なんかすまん」
「……もう行くよ。ポチ」
「ピ!」
ポチが肩に乗ったのを確認し、俺は立ち去った。
「行ったか……」
「何者?」
「わからん。しかし、命の恩人だ」
「俺は気絶していて、見ていない。強いのか?」
「多分俺達パーティーより強いな」
「そろそろ、私達も行きましょう。またゴブリンに囲まれたら、たまらないわ」
「その方が良いわねぇ~」
「よし! いくぞ! 周囲に気を付けろ、無理に戦わなくていい。街まで戻ろう!」
周囲のゴブリンを狩りながら、トロアまで戻って来た。ギルドカードを見せて門を抜け、冒険者ギルドへ。ソフィアさんに、常時依頼の報告と買い取りを頼んだ。
「今日は銀貨15枚ですね」
「あ、そこから引いて従魔証の小さいのを10個下さい」
「それは構いませんが、そんなに連れて来たのですか?」
「いえ、予備です」
「そうですか?」
不思議そうな顔をしつつも、従魔証を出してくれた。
「ありがとうございます」
「あの、タカさん」
帰ろうとした俺を、ソフィアさんが呼び止めた。
「はい?」
「最近何か、変わった事は無いですか?」
「と言われても、ここに来たのが最近ですので」
「そうですよね……」
「でも変わった事と言えば、今日戻る途中ゴブリンに女の子は攫われかけ、男は殺され掛けてる、変な冒険者パーティーを見かけました」
「ええ?!」
「ああ言う時は、ほっといた方が良いですか?」
「ま、まさか……」
「今回は助けました」
「良かった……出来ればそう言う場面に出合ったら、助けて上げて下さい」
「でも、今回は相手のパーティーも良い方でお礼も言ってくれたのですが、必ずそうとは限りませんよね?」
「……そうですね。基本的には冒険者は自己責任です。助けてもらったにもかかわらず、難癖を付けたり攻撃して来る者も居ます。ですが、私個人としては、それでも助けて上げて欲しいです。だいたいタカさんなら、相手が何かして来てもはねのける力が有るのでは?」
「……俺は優しい人間ではない。難癖や攻撃して来たら殺します。……それでも良いですか?」
「はい、十分です。自業自得ですから」
「では、出来る範囲で」
「ありがとうございます。それで、そのパーティーですが……」
「その内戻ると思います。辺りのゴブリンは、倒しましたし怪我もないはず?」
「それなら大丈夫ですね。ちなみに、タカさんはゴブリンをどの程度の脅威だと思いますか?」
「上位種になれば、少し大変かなと思います」
「普通のは?」
「普通のは、ただの害虫ですね。集まった所で、煩わしいと思いますが、脅威にはなり得ない」
「それが間違いです。ゴブリンは、平均的な一般成人男性なら1対1で何とか勝てるレベルです。冒険者なら、2対1で勝てる。中級の冒険者なら、3対1でも勝てるでしょう。しかし、4対1や5対1なら負けるかも知れない。パーティーで連携すれば、もっと多くても勝てるかも知れない。ですが、負ける危険性も有るのです」
「え?」
……ちょっと感覚がずれて居たか? 一般の人は分かるとして、中級冒険でも負けるとは思わなかった。
「では、あの冒険者達は別に変な事をしていた訳ではなく、普通にピンチだった?」
「そうですね」
「……なるほど、良くわかりました」
俺はもう少し、この世界の常識を知らないと行けないらしい。色々悩みながら、宿屋に戻った。
「ソフィアさん」
タカを見送ったソフィアに隣の受付嬢が、恐る恐る話しかけてきた。
「今の方って……」
「彼はけして悪い人ではないわ。ただ、他の冒険者達と同じ様に、いくつか秘密が有るの。彼の事は私が対応するから、安心して」
「わかりました」
タカが出て行き、しばらくしてからジェイク達四人が戻って来た。
「パーティー〈炎の煌めき〉だ、調査依頼の報告をしたい」
「はい、少々お待ち下さい………はい、どうぞ」
話し掛けられた受付嬢が、紙とペンを用意してから答えた。
「ギルド依頼の森の調査だが、ゴブリンの異常繁殖が認められる。街道及び森のすぐ浅い所は変わらないが、中域で既に相当数のゴブリンが溢れていた。俺達も囲まれて、死にかけたよ」
「そんなにですか……」
「ああ、たまたま通り掛かった、他の冒険者に助けてもらわなかったら、俺とグレドは奴らの餌、サラとミリィは連れ去られてた。とにかく、ゴブリンが多すぎて森の深域までは、とても行けない」
「仕方ないですね」
「俺達からは、戦闘能力の低い冒険者の森への立ち入り禁止措置と、隠身能力の高い冒険者によるどこかに有ると予想されるゴブリン村の偵察をギルドへ提案する」
「わかりました、早急に検討します。あと、こちらが今回の報酬ですね、確認して下さい」
「…確かに」
「ではお疲れ様でした」
報告を受けた受付嬢がソフィアに報告し、ソフィアから各受付嬢へ冒険者への注意喚起と掲示板への警告文の張り出しが、指示された。
「ソフィアさん」
「何かしら?」
「俺達、タカさん? に助けられたんだ」
「……聞いたわ、大変だったようね。怪我は無い?」
「それは大丈夫です。それより、彼は何者ですか?」
「……他の冒険者の情報は教えられません。知ってるはずよ?」
「それは知ってますが……。彼はティマーだと言ってました」
「それは本当ですね、スライムも連れてましたし」
「いやいや、従魔に戦わせないで自分で戦ってましたよ? それに回復魔法まで使っていた。俺達が怪我をしてないのは、彼が回復してくれたからだ」
「良かったじゃない。何か問題でも有るの?」
「いや、おかしくないか?!」
「ジェイク、止めろ」
「そうよぉ~、マナー違反ねぇ~」
「……すみません」
「あたしは、少し気になる。強くて格好いいし」
「それはぁわかるぅ」
「あなた達は少し休みなさい。疲れて居るのよ」
「……そうですね。ソフィアさんすみませんでした。失礼します」
「いいのよ」
立ち去るジェイク達を眺め、ソフィアは溜め息をついた。
「……いつかはこうなると思ったけど、困ったわね」
翌日また、トト村までやってきた。昨日はあの後、久しぶりに迷宮の畑と家に転移で戻った。ポチの分体に従魔証を渡すためだ。ポチ達?が見ていてくれる為か、畑と家に異常はなかった。
トト村の門には昨日違う村人が立っていた。ギルドカードを見せて中に入れてもらう。村長の家を聞くと、広場の近くの大きな家らしい。あの家か?
「すみません」
「はい、はい。どちら様ですか?」
「冒険者のタカと言います。こちらは村長のお宅ですか?」
「はい、そうですよ。少しお待ち下さいね」
応対に出て来てくれた初老の女性が中に戻り、しばらく待つと初老の男性が出てきた。
「冒険者のタカと言います。村長ですか?」
「そうだが、何の用かね?」
まだまだ元気そうな、現役で働いて居る様な人だ。
「実は、冒険者を続けて行く上で、住む家をこの村のはずれにでも作りたいと思いまして、良ければその許可を頂きたく思いまして」
「この村に住む? まだ若い冒険者のあなたが?」
「はい。駄目でしょうか?」
「駄目な事は無いが、何でまた」
「失礼かも知れませんが、ここは静かな田舎です」
「そうだな」
特に気を悪くした様子もなく、鷹揚にうなずく。
「こう言う、静かな村で暮らしながら、のんびりしたペースで冒険者を続けて行きたいと考えています。もちろん、依頼などで出掛けて戻らない日も有るとは思います。それでも、ここに本拠地を置こうかと」
「なるほどなぁ。そんな事も有るのか?」
「ええ、俺自身の好みですから」
「物好きだとは思うが、まあ良いじゃろ。もし悪さをすれば領主様や衛兵に報告して村から出て行ってもらう。良いな?」
「当然の措置ですね、どうぞ。……ちなみに、この村独特の風習みたいな物は有りますか? この辺の出身ではなくて、余り知らないのですが?」
「特には無いと思うが……他の村人が嫌がる事をしなければ大丈夫だろう」
「わかりました。あと、皆さんが必要な物で余っていればお売りしますから」
「必要な物?」
「例えば塩などですね。スキルの関係で詳しくは言えませんが、生活雑貨等も言ってくだされば用意できます」
「それは良いな」
「それで、住む場所なのですが」
「村の中の空き家を紹介しよう」
「あっ、いえ、土地を貸して下さい。家も自分で作りたいので」
「……本当に物好きだな。どこが良い?」
「魔物が来るとすれば、森からですよね? 俺は冒険者なので、村のはずれの一番森側が良いですね」
「良かろう」
その後、村長に村の一番森側まで案内してもらった。木の柵は意外と広く村を囲って居たようだ。
「この辺になるが、本当に良いのか?」
「ええ、大丈夫です」
他の家から離れていて、辺りは広場の様になっている。
「どの辺まで使用して良いですか?」
「あの辺の畑近くまでなら、自由にするが良い。一応言っておくが、使用料なども特にないから、安心するが良い」
「ありがとうございます」
礼を言うと、村長は戻って行った。今回は移動式ではないため、まず地面の基礎工事をしなければ。適当に十メートルぐらい地下まで硬い岩盤に変える。家のサイズそのままの、地下室も作り階段を作った。少し広めに庭を確保して、柵も立てる。
他にも細々やり、1日で建ててしまう訳には行かないので、適当な所で切り上げた。アイテムボックスの中から作り置きで昼を済ませてから、村を出て森でゴブリン狩りをした。
……少し前から、他の冒険者?らしい気配が付いて来る。
「……なあ、何の用だ?」
返事はない。やる気か? 縮地を利用して、一瞬で背後に回り込み首筋に虎鉄を添える。
「動くな。動けば殺す。勝手に声も出すな、質問にだけ答えろ」
声に殺気を乗せ、相手に本気だと判る様に静かに話し掛ける。
「嘘をつけば殺す。……もう一度聞く。何の用だ?」
「と、特に用はありません」
「では、なぜ付いて来る?」
「何となく」
「……ふざけて居るのか?」
殺してしまおうかと、言う考えが頭をよぎる。
「……あの、胸元に依頼書が入ってます」
相手は全身黒い服にマスクをしており、暗殺者か忍者の様な動きやすい格好をしていた。
「素手でも殺せる。ピクリとも動くな」
虎鉄を鞘に収め、左手を相手のくびに添え、右手を胸元の服の合わせに入れた。
「お前女か」
右手を柔らかい膨らみが包み込む。
「あの、ご奉仕すれば殺さないで下さいますか?」
「………………………………………………………………………………………………………………………………いや、そんな事には左右されない」
名残惜しさを感じつつ、服の中の紙を取り出した。
「かなり迷いました?」
「……何の事かわからん」
折り畳まれた紙を広げると、森の調査依頼と書かれていた。
「手伝って頂けませんか?」
「悪いが断る」
「なぜですか? 報酬はお渡しします」
「街から出て、別の所に住む為に色々と忙しい」
「え?」
「とにかく、俺の事を探ろうとするな」
俺はそう警告し、紙を返すと一気に走って相手を引き離し、距離を取るのだった。
街に着くともう夕方だった。真っ直ぐ宿屋に戻り、晩ご飯を出してもらい食べる。その後部屋でお風呂に入って、ベットに入り横になる。
「………ああ、駄目だ。眠れない」
昨日のキスといい、今日の胸といい、少し刺激が強すぎたようだ。目がさえて眠れない。……行くしかない! 俺はポチに留守番を頼み、夜の街にくり出した。
花街らしき場所は判っている。一番綺麗な、それでいて落ち着いた雰囲気のお店に入った。応対に出てきた女性に少し困った様な顔をされたが、気にしたら負けだろう。素知らぬ振りをして、気だての良い体力の有る女性を朝まで3人頼んだ。そんな事をすると支払いに金貨が必要になると言われたが、金貨二枚を渡し黙ってもらった。
たまたま空いていたとか、キャンセルが出たとかでお店のベスト3がつくらしい。しばらく待つと、かなり広い部屋に案内された。扉を開けると、もの凄い美人、美少女が3人立っていた。容姿もさることながら、スタイルも素晴らしい。そして何より優しげな雰囲気と笑顔が、俺の好みだ。
………夢の世界がそこに有った。女の子達には疲れさせてしまって、悪い事をしてしまったが、朝までとっかえひっかえ楽しんだ。
気絶しているのか、グッタリしている彼女達(ね、念の為ヒールをかけておく)の額にキスをして別れをつげ、店を出る。……見送ってくれたお店人の顔が引きっていた気がするが、きっと気のせいだ。
宿屋に戻り、ポチと合流。また、トト村に行き家作りの続きをした。柱を立て、部屋割りをして行く。リビングにカウンターキッチン、トイレとお風呂、使うか分からないが書斎と客室も用意した。二階に寝室を作る予定だ。
今日も適当な所で切り上げ、森の中のゴブリンを狩りながら街へ戻る。今日でこの街の宿屋も終わりだ。ゆっくり休もう。
休む前に、冒険者ギルドに行かなくては。忘れる所だった。ギルドに行き、ソフィアさんに常時依頼の報告と買い取りをお願いする。
「今回は銀貨22枚になります。また、今回でランクがFランクに上がります」
「ありがとうございます」
「ところで、この街を出られるのですか?」
「あれ? 良くご存知ですね。別な所に、家を自分で建てて住もうかと思ってます」
「そうですか……」
「まあ、家が完成したら暇を見て遊びに来て下さい。招待しますよ」
「……遊びに行ける所ですか?」
「トト村の一番森側にあります」
「トト村? では依頼を受けるのは?」
「依頼? ギルドの依頼はここに来ますよ。トト村には冒険者ギルドがありませんから」
「そうですよね! お待ちしてます!」
「はい?」
良く分からないが、冒険者ギルドを出て宿屋で晩ご飯を食べて、早めに寝た。……昨日寝てないし。
翌朝、宿屋の人に5日間お世話になったお礼を言って街を出た。ふたたびトト村へ。今日からここが俺の住む村だ。……家、完成してないけどね。
さて、続きだ。壁や床を張っていき、二階の形成も取りかかる。部屋割りは昨日決めた通り、俺の寝室……だけだと少し広すぎるので、空き部屋も作ろう。壁、床、屋根を作り上げ、強化の魔法を組み込んで、耐久性を限界まであげた。
水は魔道具の他に、井戸水も使える様に家の地下を掘ってみた。かなり深い所だったが、魔法で強引に掘り昼前には問題なく綺麗な水がでた。硬い岩盤をかなり深く掘らないと出ないので、普通の人には無理だろう。
………しかし、この水の出る層の下の岩盤の更に下、もの凄い深い層だがこの反応はどちらだ? あれか? あっちか? ……どちらにせよ、掘って見るか。場合によっては、設備に変更を掛けなくてはならなくなる。
昼前、ちょっと早いが昼ご飯を食べる事にする。今日は、少し気分を変えて村の宿屋に行って食べる事にしよう。
「こんにちは。食事オススメで一つお願いします」
「おう。本当にまた来たのか」
「ええ、別に嘘はつきませんよ?」
「まあ、座んな」
近くの席に座って、少し待つと料理を運んで来てくれた。銅貨五枚を渡し食べ始めると、宿屋のオヤジが話しかけてきた。
「お前さんだろ? 村の森側に家立てて住もうとしてるのは?」
「ええ、そうです。言いましたっけ?」
「村長が、村の皆に冒険者が住むと言って居たよ。物好きだな」
「そうかも知れませんね」
「あと、何か売ってくれるっーのは本当か?」
「そうですね。商売をするほどでは無いのですが、少し売るぐらいなら、問題ないと冒険者ギルドに聞きまして」
「何が有るんだ?」
「塩とか雑貨とか色々有りますよ。ああ、試しに少しだけ置いて行きます」
俺は塩一キロ、オーク肉100キロ、粗挽き胡椒30グラムをアイテムボックスから出しておいた。
「アイテムボックス持ちかよ、なるほどな。それにしても、肉多すぎねーか?」
「その辺歩いてますよ。一匹倒すだけでそれぐらい取れるんです」
「お前さん、オーク倒すのか……見かけに寄らず、凄腕なんだな。この塩もずいぶんと綺麗なサラサラの塩だな。こんな塩見たこと無いぞ?」
「そうですか?」
「この黒い粉はなんだ?」
「胡椒です」
「胡椒?! 馬鹿やろう! こんな高級品もらえるか!」
やはり、胡椒は高いのか。だから、使っている店が無いのだろう。
「少しだけですから。もし貴族とかが来たとき、使って高い料金取って、そのお金で次の胡椒を買って下さい」
「でもなぁ……」
「この串焼きは、塩胡椒で焼いた物です。食べて見て下さい」
アイテムボックスから出した、オークの串焼きを渡す。オヤジは恐る恐る手に取り一口食べる。
「……これは旨いなぁ、かなり違う」
「でしょう? 貴族なら多少高くても食べますよ。少し高い、特別メニューですって言えば良いと思いますよ」
「なるほど、極たまに貴族も来るからな。じゃあ、これは預かって置くとするか。これで売り上げが出たら、お金を渡すか、新しく買うか考えよう」
「良いですよ。……あ、そうだ。今日宿屋は忙しいですか?」
「いや? 今日は客も居ないし、暇だ」
「でしたら、肉と塩胡椒を渡すので村人全員に振る舞ってあげてもらえませんか?」
「村人全員にかよ?」
「ええ、俺の引っ越しの挨拶代わりです。手間賃も少しお渡ししますから、お願いします」
「まあ、暇だし良いぜ。やってやるよ」
「ありがとうございます」
そう言えば、村人って何人居るのかな? ……まあ、少し多めに渡せば良いかな? まず、オーク肉500キロ、タマネキ100キロ、キャベツ100キロ、ジャガイモ100キロ、人参100キロ、ビッグホーンバッファローの肉100キロ、小麦粉100キロ、塩と細挽き胡椒を混ぜたものを10キロ出した。
「まて! なにしてる?!」
「何って、材料ですよ?」
「肉と塩って言ってなかったか?!」
「肉だけだと味気なくて、寂しいじゃないですか? パンとスープぐらいは欲しいかと」
「……お前さん、馬鹿だろう?」
「認識はしてます」
「鍋が足りない」
「今出します」
大型の寸胴を十個だした。
「こんなに鍋が有ってもなぁ、かまどが足りん」
「では、簡易かまどを作ります。どこに作れば良いですかね?」
「作れるのか? 作るなら、裏庭の方だな。ちょっと待て」
何かあきらめ顔で、奥に向かって叫ぶ。
「おーい! 皆手伝ってくれ!」
奥から、きれいな女性一人と若い可愛い女の子が二人出てきた。三人は良く似ている、多分親子なのだろう。
「どうしたの? お客様?」
「ああ、仕事を頼まれた。ちょっと手伝ってくれ」
「うわ! どうしたの、この食べ物?」
「今度引っ越してくる……」
「冒険者のタカと言います」
「名乗ってなかったな。宿屋のグレッグだ。こっちは嫁のジェシーと娘のベティ、ベスだ」
「こんにちは」
「村人達に奢ってやりたいんだと」
「へ~」
「……従業員ですか?」
「家族だよ、さっき言っただろう?」
「グレッグさんの奥さんや娘さん達にしては、綺麗過ぎやしませんか?」
「……怒るぞ?」
「まあまあ、あなた落ち着いて、良く言われる事だし良いじゃないの」
皆さん思うことは、同じらしい。
「それで、簡易かまどはどこに作れば?」
「案内する」
納得行かない顔をしながら、裏庭まで連れて行ってくれた。俺は魔法で石のかまどを二十個作った。
「すげぇな、ファイターの身なりして、ソーサラーか?」
「俺はティマーだよ」
「……まあ、いい」
「手間賃はこれで足りますか?」
銀貨十枚を出して渡した。
「多すぎる、銅貨は何枚ある? こんな小さな村だと銅貨の方が使いやすいんだ」
「そうですか?」
俺は銀貨をしまい、銅貨を千枚だして袋に入れて渡した。
「……こうなるのか……重過ぎる……」
「あとは……」
ゴブリンが持って居た棍棒を大量に出した。
「うぉ! なんだ? 棍棒なんてどうすんだ?」
「薪の代わりですね」
「こんなの燃やすのは大変だぞ?」
「こうすれば、大丈夫」
虎鉄で棍棒を全てサイコロ状に切断した。ついでに、スコップも出しておく。
「……まあ、使えるか」
「では、お願いします」
「わかった。お前さんはどうすんだ?」
「家作りの続きです。皆さんに、よろしくお伝え下さい。……あ、もし余ったら適当に分けて下さいね」
「判った。その辺は上手くやっておく」
俺は宿屋の皆に後を頼み、家(建設中)に戻った。
家作りの続きだ、ベットや戸棚、食器棚を作る。テーブルに椅子、ソファーも作ろう。食器類を作ってしまっていく。ひとまず、家の中はこんな感じか? 後は外に馬小屋と物置を作ろう。使う予定は無いけどね。
何だかんだで、新しい家が完成した。少し出来るのが早いかも知れないが、誰もたずねて来る予定の無い家だ、大丈夫だろう。
まだ時間が有ったので、森へゴブリン狩りに行こう。……あいつ等全然減らないなぁ? ボウフラみたいに何処からか、わいて来るのか? 数えて無いが、俺がここに来てから200匹位は倒したと思うのだが?
冒険者ギルドに行き、ソフィアさんに報告と買い取りをお願いする。そして、トト村の我が家に戻った。村の中はワイワイと小さなお祭りみたいな騒ぎだったが、引っ越し蕎麦は渡したら関知しないし、放置でいいはずだ。帰って寝よう。
駄目な様でした。グレッグが呼びに来て、皆集まって居るから、挨拶しろとの事。
「皆さん、初めまして。冒険者のタカと言います。今日より、この村で住まわせて頂来ます。何か御座いましたら、お気軽にお声かけ下さい。これから、よろしくお願いします」
ちょっと、冒険者としては固かったかな? 村の皆は比較的、好意的に受け入れてくれたようだ。
お酒もない食事会(一部の村人は自分でお酒を出して来て飲んで居たようだ)なので、比較的すんなり終わり、余った食材をもらって村人達はホクホク顔で帰って行った。
「グレッグさん、お疲れ様でした。面倒な事を頼んでしまい、すみません」
「なかなか、良い経験させてもらったよ。金ももらったし、気にするな」
「簡易かまどとか必要ですか? いらなければ、壊してしまいますが?」
「壊すぐらいなら、あのままにしといてくれ、何かの時に使えるだろう」
「判りました。では、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
今度こそ、家に帰って寝た。明日からの、のんびりスローライフを夢見ながら。
翌朝、本当の生活が、俺が目指す生活が始まった。食事を終えて村の中の家の付近を歩いてみる。
お隣さんだと思って居た建物は、教会のようだ。………そういえば、この世界の神様は詳しく知らない。……一柱、知り合いは居るけど。
中を覗いて見ると、シスターらしき中年の女性が一人掃除をしていた。
「すみません」
「あらあら、あなたは冒険者のタカさん? おはようございます」
「おはようございます。はい、昨日から少し離れてますが隣に住んでます」
「昨日はご馳走様でした」
「いえいえ、あの様な形ですみません」
「それで、今日はどうされましたか?」
「無知で申し訳ありません。ここは何の神様の教会ですか?」
「ここは、大地の神の教会になります。こういう小さな村では、豊作を祈って大地の神を祀る教会が多いですね」
「なるほど、お祈りするのに作法や決まりは有りますか?」
「特には有りません」
「俺が祈っても?」
「大丈夫です」
俺は、恐る恐る中に入り祭壇の前に立った。辺りを見渡すが、見慣れた物は無かった。
「……あの、お賽銭はどこに入れれば?」
「お賽銭?」
「礼拝料と言うか寄進と言うか……」
「ああ、寄付して頂けるのでしたら、その祭壇の下の段に置いていただけますか?」
「寄付する物は何でも良いのでしょうか?」
「はい、何でも大丈夫です」
「判りました」
俺は中ぐらいの壺を二つと小さな壺を一つ祭壇にソッと置いた。中は中ぐらいの壺が塩と小麦粉。小さな壺には銅貨が入っている。
膝をつき手を合わせ、静かで平和な日常に感謝の祈りを捧げた。
しばらく祈ったあと、顔を上げると奥の扉から幼い子供が三人程顔を覗かせていた。目が合うとサッと隠れてしまった。何だろうと思い、シスターを振り返る。
「あの子達ですか? 孤児です。こういう教会は孤児院も兼ねてますから」
「そうなんですね」
俺はコッソリ、リンゴとバナナを各10個程追加で祭壇に置いた。しばらくすればあの子達のおやつになるだろう。
「ありがとうございます。優しいのですね」
「……何の事かわかりません」
とぼけて見たが、笑って居るのでバレて居るのだろう。
「孤児院の経営は順調とは言えませんが、多少は国からの援助もあります。自給自足と村人達との助け合いで、意外と何とか成っています。心配なさらなくても大丈夫ですよ」
「へ~……また、お祈り来ても良いですか」
「いつでもお待ちしております」
俺は身勝手な自己満足かも知れないが、少し清々しい気持ちで、家に戻った。
誰も訪ねてくる予定のない家の前に、一人の少女が立っていた。十四才前後だろうか? 可愛くあどけない顔だが、発育はかなり良い。特に胸の辺りが……。しかし、今は酷く疲れた様子で少しやつれていた。思いつめた困った表情をしている。
「おはようございます。何かご用ですか?」
「あっ! お、おはようございます。エリーといいます。じ、実はお願いが……ありまして」
「タカです。お願いですか? 何でしょう?」
「あの……ここでは……」
「判りました。どうぞ、中にお入り下さい」
俺はエリーと言う少女を、家の中に案内した。ソファーに座るように促し、自分は紅茶の用意をする。お願いとは何だろう? 見ず知らずの俺に、思いつめてのお願い……やばい事か?
「お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
「まずは一口お飲み下さい。落ち着いてから、話して下さい」
エリーが紅茶を飲んだのを確認し、俺も飲む。
「あの、私を買って下さい!」
「ブグッ! ゲホッ! ゲホッ……」
「だ、大丈夫ですか?!」
驚き過ぎて、気管に入った。
「ご、ごめん。もう大丈夫。何だって?」
「私を買って下さい」
「……なんで?」
聞き間違いでは、ないらしい。
「実はお母さんが、病気なってしまって……薬を買いたいけど、お金が無くて」
「病気? 何の病気? 症状は?」
「ごめんなさい……詳しくは解らなくて……」
「お金さえあれば、お母さんは必ず治るのかい?」
「……たぶん……」
「う~ん、君を疑う訳ではないけど……」
「あ、あの! 私まだ処女です! 経験は無いけどこれから、毎晩頑張ります! 家事とかも出来ます!」
「……い、いや、そうではなくて。疑う訳では無いけど、お金を渡しても無駄になっても困るから。申し訳無いけど、一度お母さんを見せてもらえるかな? もしかすると、お金で無くて薬その物を渡せるかも知れないしね」
「! お願いします!」
エリーに案内され、家にお邪魔した。木製の小さな家だった。奥の寝室のベットに、そのお母さんは寝ていた。…と言うか既に意識が無いようだ。苦しげな呼吸だけが聞こえて来る。
「いつから?」
「ここまで悪くなったのはつい最近です」
「お父さんは?」
「私が幼い時に亡くなりました」
「ごめん、変な事聞いた」
「いえ、気にしてません。それよりお母さんは?」
鑑定すると、状態の所に石化毒との表示が出ている。
「毛布めくっても大丈夫?」
「はい」
許可を貰って毛布をめくると、手足がグレーに変わり固くなって居る。指先など本当に石の様だ。
「間違いない。ちょっと特殊な毒だね」
「毒?! ……お母さん、少し前に毒消し飲んでたのに……」
「毒消し? 何で飲んだか聞いた?」
「あ、はい。何でもヘビに噛まれたと言ってました」
「なるほど、ヘビの魔物に咬まれたかな?」
「治りそうですか?」
ここで、対応を間違えると面倒な事になりそうだな。
「治るけど、約束して欲しい事がある」
「はい! こ、今夜から頑張ります!」
「まだ続いてたんだね……一度それは忘れてくれ」
「え~……」
「俺が薬をあげたことは秘密にして欲しい。もし聞かれたら、言うなと言われている。口止めされていると言って欲しい」
「何でですか?」
「とても高価で貴重な薬を使う。次々人が来ても困るんだ。変な連中に目を付けられても困る。だから、黙っていて欲しい。しつこく聞いて来る人には、ある冒険者から高額で買った。お金は無かったから、借金している。と言ってくれ」
「それだけで良いのですか?」
「甘く考えないでくれ。これから、何十年も言い続ける事になる。何十年も秘密を守るのは、大変だろう。もちろん君にもマイナスはある」
「マイナス?」
「莫大な借金を抱えた人との結婚は大変だぞ?」
「あっ……」
「将来を誓い合った男性は人は居る?」
「いません」
「では、彼氏が出来るのは当分先になるだろう」
「かまいません。お母さんを助けて下さい」
「判った。任せておけ」
「お願いします」
俺はアイテムボックスから、最上級状態異常回復薬オールキュアポーションを出してエリーに渡した。
「これをお母さんに飲ませてあげて」
「ありがとうございます!」
エリーは薬を受け取ると、母親の枕元にひざまずいて声をかける。
「お母さん! お母さん! 起きて! このお薬飲んで!」
「ウッ……グゥ……」
「お母さん……どうしよう……もうお薬飲めないの?」
やばいか? 魔法薬はどこの段階で効くのか……分からない。でも、やるしかないな。
「貸して」
俺は、薬を受け取ると口移しでエリーの母親に強引に飲ませた。ついでにヒールもかけて、回復する。
母親の全身を淡い光がおおい、目に見えて回復して行く。呼吸も楽になった様で顔色も良く、グレーに変わっていた手足も、健康的な肌色に戻って行く。石の様に固かった部分も、柔らかく戻った。意識はまだ戻らないが、これなら大丈夫だろう。
「効いたみたいだ」
「良かった」
安堵したのか、エリーは泣き出してしまった。俺は、肉や野菜やパンと塩等の食材を出して置き、銅貨を100枚に握らせる。
「こ、これは?」
「良いかい? まだお母さんは意識が戻らないから、まず今のうちに君がご飯を食べて体力をつけること。それから、消化の良い物を作って、気がついたお母さんに食べさせてあげてね。いつから食べて無いのか分からないけど、状態異常は治っても体力は落ちてるからね。お金は少しの間の生活用だよ。お母さんの看病は体力が戻るまで、続けないとダメだよ」
「分かりました」
「もし食材やお金が足りなくなったら、言いに来てね。俺が居なくてもポチが居るから。ポチに言えば、俺に伝えてくれるよ」
「ピ!」
「スライムですか?」
「そうだよ。賢いから、絶対伝えてくれるから」
「はい。何から何まで本当にありがとうございます」
「それより、約束忘れないでね」
「はい! 殺されても言いません」
「あっ! 命の危険が有るときは正直に言っていいよ? そいつぶん殴ってから、逃げるから。あと、結婚する好きな人が出来たら、教えてね。何かお宝拾って、それと交換で借金チャラにしたことにしよう」
「………そんなんで良いのですか?」
「もちろん、命かけるほどの事では無いからね。ただし、俺に悪意を持って接するのならば、覚悟してね。敵には容赦しないよ?」
「そんな事はあり得ません。恩人のタカさんに、そんな事出来るはずかありません。……でも……自分から助けを求めて置いて何ですが、なぜそこまでしてくれるの?」
「まあ、気まぐれかな? お母さんを大切にね。親孝行頑張って」
俺は声をかけて、エリーの家を出た。自分の家に帰る道すがら、少しだけ考えてしまう。元の世界に居る両親は元気だろうか? 無駄に俺を探したりして、要らない苦労をしてなければいいのだが…。
家に戻って来た。色々有ったが、住み始めたばかりだ。多少の問題は有るだろう。ポチにこの家用の分体を作ってもらい、従魔証を着けて留守の時の対応をお願いする。ポチは賢いから、問題ない。何かあれば、本体を通して教えてくれる。
それより、あれを確認せねば。裏庭の地面、ちょうどお風呂場の外ぐらいの所を、魔法で筒状に深く掘っていく。硬い岩盤を貫き掘り進めると、冷たい水が出て来た。台所に掘った井戸と同じ所に来たのだろう。魔法を使い水が出ない様にパイプを作り上げ、水の下の層までつなぐ。その上でパイプを厚く丈夫にしていく。更に下に下にと掘っていく。何層もの岩盤を貫き、時間はかかったがやっと目的の液体のある層までたどり着いた。
「……石油だったら蓋をして、見なかった事にしよう」
長い管の中を上がって来るのを待つ。念の為、結界を張って飛び散らない様にする。待って居ると、ゴゴゴゴと音がし出した。
「そろそろか。何だろう?」
ドン! と言う音と共に結界の中に高温の液体が満たされる。
「やった! 当たりだ! 成分は?!」
鑑定すると、色々な成分は含まれてはいるが、有害成分はなし。ただ、長い距離を上がって来たにもかかわらず、温度がまだ六十度以上を保って居る。
「温泉で間違いないが、温度が高すぎる。このままだと火傷するなぁ」
温泉なのは間違いないので、アダマンタイトで管の内側を保護していく。その後、管の出口にタンクを作り一時的にお湯を貯め、41度まで下げてから家の中の湯船に供給する。
せっかく温泉が出たので、露天風呂も作ろう。壁を作り、中を見えない様にした後結界を張り、湯気等が外に漏れないようにしておく。あとは、岩風呂風の湯船を作り、地面を石畳風に作り変えた。タンクから温泉を岩風呂に供給し完成。……うーん、タンクが少し目立つか? タンクを丸ごと岩で覆って、大きな岩がある感じに作り変えるか。……よし! これで本当に完成だ。
「我ながら、良い出来だ。お風呂が楽しみだ」
お昼を食べた後、森の中のゴブリンを大量に狩り、トロアの街の冒険者ギルドへ。ソフィアさんに報告と買い取りをお願いする。
「今回は銀貨21枚です」
「ありがとうございます。あの少し聞いても良いですか?」
「あの森、もしくはこの近辺に石化毒を使う魔物は居ますか?」
「森や近辺にはそのような魔物は居ません。居るのは、森の向こう側歩いて2日ぐらいの所にある岩場の辺りですね。あそこまで行けば、たまにバジリスクやストーンスネークが出ます。……何かありましたか?」
「トト村の方に、石化毒になっていた人がいて」
「その方は?」
「今は回復してます」
「……確か十日ぐらい前に、バジリスクの幼体かストーンスネークか不明の魔物が、森近くの街道のそばで討伐されています。恐らく迷ってはぐれになったのだろうと推測されています」
はぐれとは、めったに居ないが本来の生息地と離れた場所に居る魔物だ。恐らくエリーの母親は運悪く、その魔物に咬まれてしまったのだろう。
「討伐されたのなら、大丈夫ですね。ありがとうございます」
「……あの、もしかして、石化毒はタカさんが回復したのですか?」
「………内緒ですよ? 俺が持っていた状態異常回復薬を渡しました」
「やはり……まだありますか?」
「ええ」
「お売り頂く事は可能でしょうか?」
「それは……可能ですね。欲しいですか?」
「はい、ぜひお願いします」
これはチャンスか? 上手く行けば、面倒事を避けられるかも知れない。
「良いでしょう。しかし、条件とお願いがあります」
「それでは、少し場所を移しましょう」
カウンターの奥にある階段を上がり、二階の部屋に案内された。ソフィアさんが、扉をノックする。
「ギルドマスター、ソフィアです。少しよろしいでしょうか?」
「はいれ」
中には、筋骨隆々のおっさんがいた。机で書類を書いていたらしく、机の上は色々な書類が山積みになっていた。
「Fランク冒険者タカさんを、お連れしました。何でも、石化毒を治せる薬をお持ちとのことです」
「ほう? まあ、座ってくれ」
横に応接セットがあり、ソファーをすすめられた。おっさんが机から、応接セットに歩いて来るが左足が義足で杖をついていた。
「タカです」
「わしがギルドマスターのガイだ」
ソフィアさんが、お茶を用意してくれた。
「トト村に石化毒になっていた人が居たらしく、タカさんが状態異常回復薬を渡して治したそうです。まだ、その薬が有るらしく、売って下さると」
「それで? 貴重な物だろうが、それだけでは無いのだろう?」
「条件とお願いがあります。まず、俺が売ったとはけして口外しないこと」
「良いだろう。それが条件か? では、おねがいとはなんだ?」
「お願いは、もし他の冒険者、商人、貴族、王族などが何処からか聞きつけて、俺の所に来たら、残りの薬は全て、冒険者ギルドに売ってしまったと言うことを許して頂きたい」
「ギルドを盾代わりに使う気か? ……まあ、それも良いだろう。元々冒険者の為のギルドだ。それで? 薬は今あるのか?」
俺はアイテムボックスから、オールキュアポーションを五本取り出してテーブルに並べた。
「もっと必要ですか?」
「………こ、これは……」
ギルドマスターもソフィアさんも、物凄い驚いていた。
「状態異常回復薬ですよ?」
「準エリクサー級じゃねぇか!」
「駄目ですか?」
「ああ、そう言う事か? ずいぶん慎重だと思ったら……ソフィア、ギルドの金はいくらある?」
「……これを全部買ってしまうと、他の冒険者への支払いが……」
「だよな。これをいくらで売ってくれるんだ?」
そういえば俺、価値しらないね。いくらぐらいが適正価格だろう?
「タカさん、このお薬は捨て値で売っても白金貨十枚はするんです。オークションなどに出せば、いくらまで値が上がるかわかりません」
……ヤバイお薬だった! 考えてみれば、全ての状態異常が治ると言うことは、元の世界で言う不治の病が治るのか。それは高くもなるか。
「買うの止めますか? あと、この薬は何に使う予定ですか?」
「出来る物なら欲しい」
「ポーション類は保険なんです。基本的には冒険者は自己責任なのですが、街などの防衛にも当たることがあります。例えばその時に、防衛の要になる人物が怪我や状態異常になると街が滅ぶ、もしくは大きな被害が出るかも知れません。そのような時に、使う時があります」
「では今は、特に使う予定はないと?」
「そうなります」
「……では、これはギルドに預けて置きましょう。そして、もし使用したら代金を貰う形はどうでしょう?」
「いいのか? ギルドが有利すぎるとおもうが?」
「俺も使う予定は無いですし、大丈夫です。……ただ、横領したり転売して利益を得たら許しません。盗まれてしまってギルドは関知していない等の言い訳も聞きません」
「……許さないって、どうするつもりだ?」
「それはギルド次第ではありませんか? 少なくとも、得た利益以上の損失は覚悟して下さい」
「……そんな事出来るのか?」
「なぜ出来ないと思うんですか?」
「……………」
「それとも、この話は無かった事にしましょうか?」
「いや、その条件で頼む」
「いいのですか?」
「ああ、構わん。責任は俺が取る」
「ではついでに、こちらもお預けします」
俺はエクストラヒールポーション三本とハイヒールポーション七本を、追加でアイテムボックスから出した。
「………本物か?」
「ええ、もちろん。あ、ギルドマスターちょうど良い……と言ったら怒られるかも知れませんが、試しにこちらを飲んで見て下さい」
もう一本エクストラヒールポーションを出して、ギルドマスターの前に置いた。
「お金はいりませんので。さあ、どうぞ。ググッとお飲み下さい」
少し躊躇していたが、ギルドマスターは飲んだ。次第に全身を淡い光が覆って行く。特に左足に光が集まり、義足が勝手に外れ光が足の形になった。光がおさまると、そこには生身の左足があった。
「……足が生えてきた……」
「そうですね」
「そうですねって、お前無くなった足が生えてきたんだぞ?」
「ええ、だってそう言う薬ですから」
「感動が薄いな、お前」
「タカさん、エクストラヒールやオールキュアは、伝説の勇者などが使っていた魔法で現在使える人はいませんよ?」
「え?」
ソフィアさんが、衝撃の事実を教えてくれる。やはりヤバイお薬だったらしい。
「……もちろん、知ってますよ? それより、約束を忘れないでくださいね?」
「わかった。……ギルドの警備を強化せねばな。本当にわしが飲んだ分の代金はいらんのか? 少しぐらいならはらうが?」
「いえ、それは大丈夫です。それより、約束を忘れない様にお願いします」
俺は念を押してからギルドを後にして、トト村に帰ることにした。
タカを下まで送ってきた、ソフィアがギルドマスターの所に戻って来た。
「帰ったか?」
「……帰られました。ギルドマスターは何をされているのですか?」
ギルドマスターはスクワットをしていた。
「別に遊んで居る訳ではない。足の具合を確認していただけだ」
「いかがですか?」
「間違いなく、わしの足だ。無いと事に慣れてしまって居た分、感覚的な違和感やズレは多少有るが、力や動きについては問題ない」
「良かったですね」
「奴は間違いないな」
「まだ疑ってたんですか? 私は最初からそう言ってました」
「そう言うな。重要案件だ、慎重に判断せねばならん」
「もう十分でしょう」
「そうだな。……強いのか?」
「私では手も足も出ません。ギルドマスターは実際会って見てどう思いましたか?」
「わからん、としか言いようが無い。スキルか魔道具で、隠しているかどうかもわからん。普通わしらぐらいになれば、隠されようと多少の違和感は感じるのだがな。……レベルは?」
「先ほど報告と買い取りの時に、ギルドカードで確認してますが、レベル2のままです」
「おかしいだろう?」
「ええ、おかしいです。ゴブリンだけでも200匹は倒してます。本当なら、もうレベル3になってます」
「壊れてるのか? それともカードを偽装してるのか?」
「わかりません」
「……わしは、何もわからんかったが、何だか山や海を見ている気分になった」
「山や海ですか?」
「何となくだがな」