5話 ダンジョンマスターそして…街へ
「やっと到着したのか」
「そう言う事じゃな。立ち話もなんじゃ、座るが良い」
応接セットらしき、ソファーの有る方へ案内された。座ると紅茶らしき物を出してくれた。
「改めて妾がダンジョンマスターの竜神じゃ」
「竜神?」
「左様、先ほどお主が倒した竜神は、妾の分体でな、妾が操り戦ったのじゃ」
「なるほど、ポチの分裂と似た物か」
「少し違うだが、まあ良い」
「それで言えば、あの装備品はなんだ? 消えてしまったが?」
「消えてはおらぬ。神器は身体に宿り呼べば姿を現す。武具ならば、装備した状態で呼べよう」
そうだったのか。試しに篭手を呼んで見るが、確かに自分の中に存在は感じるが、出て来ない。
「……出ないな」
「出ないだと? 何を呼んだのじゃ?」
「篭手だ」
「……お主、別の篭手を装備したまま、どこに呼ぶのじゃ?」
顔を赤くしつつ、篭手を外すと武神の篭手が現れた。
「すまない。問題無いようだ」
「案外抜けておるの? それでダンジョン踏破者として何を望む? 妾に出来る事なら何でも聞こう」
「何でも?!」
「無論神の端くれ大概は何とかするが、出来ぬ事も有る」
「おお!」
「……破廉恥な事は駄目じゃ」
「……おお……」
「……あからさまに落ち込むの?」
「美女が何でも言うことを聞いてくれるとなると、願うことはただ一つ!」
「お主馬鹿じゃろう?」
「認識はしている」
「…それで何を望む?」
「詳細な地図と情報。後、何か良い乗り物とか無い?」
「乗り物はミスリルゴーレムが有ったであろう?」
「ああ、あれな。ゴーレムは重くて砂漠だと砂に沈んで、進めなかった」
「何を言うておる。あれは空も駆け抜ける事が出来る。砂に沈むのであれば、空を行け」
「そうなの?!」
「あと地図であったな? これを授けよう」
竜神は一枚の板を取り出した。
「これは魔道具でな。今現在のこの世界を表しておる。国や街が変われば勝手に地図も変わる、優れ物ぞ。このしるしが現在地になる」
「これは良い! ありがとう!」
「ちなみに大きな三つの大陸があるが、それぞれ人の大陸、魔の大陸、獣の大陸と成っておって、人の大陸には人やエルフやドワーフなどが多く棲んでおり、魔の大陸には魔族や邪人族が多く棲んでおる。獣の大陸には高位魔獣やドラゴンが多く棲んで居るのじゃ」
「……なるほど。と言うことは、現在地は獣の大陸の真ん中ぐらい?」
「そうなる」
「人は?」
「おそらくお主だけじゃな。獣の大陸の魔獣やドラゴンは、このダンジョン程ではないが高レベルのものが多く人や魔族は住めないだろう。逆に人の大陸や魔の大陸にはレベルこそ低いものの魔獣やドラゴンは沢山おる」
「なんてこった」
「付け足すなら、魔の大陸に人は少数、人の大陸に魔族は少数、それぞれ住んでおるぞ?」
「まあ、行くなら人の大陸だな」
「あのゴーレムで空を駆ければ、一月もかかるまい。馬車の中は暮らせる様になっておるから、進むのはゴーレムに任せ、お主はゆっくりすれば良かろう」
「ありがとう。世話になった」
「まあ、まて」
立ち上がり、出て行こうとした俺を竜神が呼び止めた。
「そこの扉を開けて入るがよい」
「ここか?」
言われた扉を開けて中に入ると、大きなベッドやクローゼットなど私室と思える部屋だった。
「ここは…」
「そ、その、なんじゃ、お主は妾に勝ったのしの? 踏破者のい、一番の要望には答えんといかん。………ち、ちょっとだけじゃぞ?」
「……ありがとう!」
「お、落ち着け、ち、ちょっとだけだと………」
「お主、加減は知らんのか?」
「いや、ごめんごめん」
「死ぬかと思ったわ」
「ついつい」
「……全然反省しとらん。…まあ、良い。静かに暮らしたいと、言っておったな?」
「ああ、その予定だ」
「ならば、これをやろう」
竜神は棚から、ネックレスを出して渡して来た。
「これは、偽装のネックレスじゃ。外に出ておる神器は無理じゃが、他の装備ならよくあるありふれた物に見せかける事が出来る。本人も目立たなくなるはずじゃ」
「それは、有り難い」
「壮健での」
「また来るよ」
「そうか? 楽しみしておこう」
「毎日来るよ」
「それは妾の体がもたぬ。こう言うのは、たまにで良い。そうさのぉ~数百年もした頃に来るが良い」
「……人はそんなに長生きしないから」
「おお、忘れておった。……お主本当に人か?」
「そうだよ?」
「そうか? ……まあ、達者でな」
「またな、竜神」
「妾は竜神シルファーナと言う。名を伏せし神であるが、お主には特別に名を呼ぶ事を許そう」
「ありがとう、シルファーナ。また会おう」
「またな」
俺は迷宮を出て、アイテムボックスからホーンスレイプニルを出して地図を見せ人の大陸に向かうように頼んだ。後は勝手に行ってくれるらしい。馬車を繋ぎ乗り込んだ。
中は本当に家の様だ。入ってすぐにソファーやテーブルが有り、リビングの様な作りになっていた。奥のドアを開けると寝室や台所や風呂なんかもあった。
窓らしき物を開けると、既に空高くかなりのスピードで飛んでいた。いつ動いたのか全くわからなかった。
今の所、問題もなさそうなので、俺は少し昼寝でもしよう。昨日は徹夜だったので、眠い。
あれから、二週間が経った。途中魔物に何度か襲われたらしいが、全てホーンスレイプニルが返り討ちにしたらしい。MP減少を訴えられ、補給した。
「タカ様、人の大陸が見えて来ました」
「お! やった! 目立たない様に結界を張るから、少し待て」
「かしこまりました」
光学迷彩や気配遮断、魔力遮断など様々な結界を幾重にも重ねて発動した。
「……よし! これで見つかることは無いだろう。一応、海岸線は避けて少し内陸の人気の無い所に降りてくれ」
「かしこまりました」
ホーンスレイプニルは、村や街を避け大きな森の横に広がる、岩場の小さく平らな場所を見つけて降りた。
俺は結界をそのままし、馬車とホーンスレイプニルをアイテムボックスにしまい、周囲の気配を探る。
「……あまり大きな個体は居ないな。狼ぐらいか?」
念の為、隠身で身を隠しその場を離れてから結界を解除した。しばらく様子をうかがうが、見ている者も居ないようだ。俺は隠身のまま上空から見た、一番近い街へ歩き出した。
今の装備は蛟、虎鉄、知恵の額冠、結界結晶の篭手、ゴルゴンの革ブーツ、竜王の鎧(フード付きマント形態)、偽装のネックレスとなっている。移動中に作ったリュック(風カバン)を肩にかけ、同じく移動中に作ったウエストポーチ(風)を腰に着けて居る。
両方ともミスリルの銀糸を編み込んで、無駄に丈夫に作ってある。二つともダミーで、中には服や小銭等しか入ってない。必要な物はアイテムボックスから出す。ダミーのカバンは手を入れて、アイテムボックスのスキルを隠す為の物だ。
ここまでやって、アイテムボックスがみんな持ってる、標準的なスキルだったら泣くかもしれない。だが、用心するに越したことはない。………はずだ。ちなみに、マジックバックも似たような理由で使用を見合わせている。
段々街が見えて来た。少し道らしくなってきて、たまに武装したグループとすれ違った。……隠身中の俺には、気がつかないようだ。
街は城塞都市なのだろうか? 高く丈夫そうな壁に囲まれ、門を通らないと中には入れないらしい。このまま隠身で忍び込めそうだが、やましい事はない……と信じて、隠身を解除して普通に入る事にした。変にばれるとよけいにトラブルの元だしな。
門番らしき人の大分手前で、隠身を解除してゆっくり歩み寄った。
「すみません」
「ん? 中に入るのか?」
今は昼前で、出て行く人は多いが入ろうとしている者は居なかった。
「はい。それでここはシェル王国のトロアの街で合ってますか? ちょっと道に迷ってしまって」
地図ではそうなっていたが、確認してみる。
「ああ、合っているよ。身分証は?」
「ああ、良かった! 田舎から出て来たもので、身分証は無いんです」
「そうか。なら、入るには銀貨一枚掛かる。この街に来た目的は?」
「仕事探しですね。……ちなみにこの街では身寄りも実績も無い人間が、働くとしてたら何がありますか?」
「そんなの冒険者ぐらいだろう? 他に何か有るのか?」
やはり冒険者とか居るのか。あ、さっきすれ違った連中の事かな?
「鉱山とか傭兵とかも、あるかと思って」
「うーん、この街ではあまり聞かないな」
「そうですか」
俺は銀貨二枚を渡した。
「ん? 一枚だぞ?」
「ポチの分です」
「ポチ? ああ、スライムが居たのか」
「はい」
「お前さん、ティマーか。珍しい色だな。従魔は銅貨十枚だ。ただし、問題を起こせば飼い主のお前が責任を取る事になる」
「分かりました」
俺は銀貨一枚を返してもらい、銅貨十枚を支払って木の板を二枚受け取った。
「それが身分証代わりだ、無くさない様に気を付けろよ。この街は冒険者は、通行料は無料になっている。もし冒険者になるなら、ギルドカードを持って来れば返金される」
「ありがとうございます」
「この水晶に触れてくれ」
奥に置いて有った水晶球を示された。飾りかと思ったら、何かの魔道具らしい。
「何ですかこれ?」
手を置きながら尋ねた。触ったが、特に反応はない。
「知らんのか? これで指名手配の罪人とかを判別している」
「へ~便利ですね」
「よし! これで入っていいぞ。しかし、お前さん、なんでスライムなんかティムしてるんだ? 弱すぎて、役に立たないだろう? 珍しい色だが、何か特別な特技でも有るのか?」
「ポチは色以外は普通のスライムですね。でも、役立たずでは無いですよ?」
「何か出来るのか?」
「戦闘ではなく、それ以外の所で活躍してもらうんです」
「戦闘以外?」
「夜営の時に寝ずの番を頼んだり、取った獲物のいらない内臓や骨を喰わせて、穴を掘って埋める手間を省いたりとかですね」
「なるほどなぁ。ああ、引き止めてすまんな、冒険者ギルドに行くなら、この大きな通りをそのまま進んで、中央広場に行くと良い。そこにある大きな建物が、冒険者ギルドだ」
「ありがとうございます」
俺は礼を言うと、門をくぐった。色々質問されたが、全て想定内だ。馬車の中で考えた、言い訳をスムーズに言う事が出来た。
中は中世のヨーロッパ風と言うか感じか? 石造りの家が立ち並び、ようやく人の生活圏にたどり着いて少しホッとした。
街並みを眺めながら、暫く歩くと広場に出た。ここが中央広場か? 良く見ると武装した連中が、普通に出入りしている大きな建物があった。
近づくと看板に冒険者ギルドと書いてあり、間違い無さそうだ。中に入るといくつものカウンターが並び、壁に掲示板がある。奥には椅子とテーブルが置いてあり、簡単な飲食が出来る様だ。
今は空いている時間帯なのか、若く綺麗な受付嬢の所は人が居るが、誰も居ない所もある。俺は一番落ち着いていて、ベテランそうな受付嬢の所へ向かった。
「すみません」
「冒険者ギルドへようこそ。あなたは当ギルドは初めてですね? ご用件は?」
「ここの事を教えて頂いても良いですか?」
「冒険者ギルドの事でしょうか?」
「はい。実は田舎から出てきて、何か仕事を探してまして。聞くと身寄りも実績も無くても出来る仕事は冒険者だと。他の仕事も気にはなるのですが、先ずは話を聞いてみたいと、ここに来ました」
「そうでしたか。それならば、確かに冒険者はおすすめできます。冒険者ギルドはご登録頂いた、冒険者に様々な依頼をご紹介して、受けて頂いております」
一呼吸あけ、俺が理解しているか確認するように見つめて来る。俺が軽く頷くと、再度話し始めた。
「依頼は討伐、駆除、運搬、採取、護衛、強制、緊急、指名、お手伝いなど多岐に渡ります。通常職人などになるためには、どなたかに紹介して貰い弟子入りして修行してからなるのですが、依頼の種類によっては依頼達成が実績や評価になり、弟子入り出来たりすることも有ります。また、冒険者のかたわら商売などをされる方も居るようです」
「他の仕事をしても、冒険者は辞めないのですか?」
「ランクに寄って違うのですが、一定の期間内に一定数の依頼をこなせば他の仕事をしていても大丈夫です。時期により本業が暇になる方が、冒険者を兼ねている事が多いようです」
なるほど、内職代わりか? これなら、良さそうか?
「良い話ばかりですね。デメリットは無いのですか?」
「もちろん有ります。急いでいても、緊急や強制依頼で足止めされ手伝わないと行けないことも有ります。依頼は外にでる物が多く、命の危険も多いです」
まあ、それは当たり前だな。これぐらいなら大丈夫だ。
「冒険者をしながら、物を売るにはどうしたら良いですか?」
「基本的には、冒険者ギルドにお売り頂く形になります。それ以外でも、お店に売るのはいくら売って頂いても大丈夫です。一般の方に売る場合は少量なら、問題ありません。商店のように大量にお売りになるのでしたら、その場所の長……たとえばこの街でしたら、領主様、村でしたら村長などに税金を納めて下さい。また、ここのように大きな街ですと冒険者ギルドや商人ギルドに納めて、ギルドが代わりに他の方の分とまとめて、領主様に納めるのが手間が少なく楽かと思います」
「わかりました。冒険者ギルドに登録するのに、必要な物は有りますか?」
「こちらの用紙に必要事項をご記入下さい。それで仮登録が完了します。仮登録後依頼を三件、達成すれば本登録になります。本登録時には、血を一滴頂きます」
「血を?」
「はい。本登録のギルドカードは魔道具になってまして、血をたらす事により本人のスキル等も確認出来る様になります」
スキルがバレてしまうのか……まずいかな?
「スキルは全てですか?」
「正確には全てではありません。あまり沢山のスキルを持つ方は居ませんが、ギルドカードには6個まで乗ります。また、個人のスキルは部外秘となってまして本人が公開または人前で使用しない限り、他者に知られる事は有りません」
「ですが、貴族や王族、国に聞かれたら……」
「あなたが話さなければ、大丈夫です。ギルドは国とは独立した組織になります。例え国王が、聞きに来たとしてもギルドが公開する事は有りません」
「独立した組織ですか?」
「はい。冒険者ギルドは、鎖国等をしている一部の国を除き全ての国にまたがった組織です。国の干渉は受けません。もちろん国から依頼を受けて行動する事は有ります。ですが、国から命令される事はありません」
「トラブルは無いのですか?」
「もちろん有ります。過去には命令や干渉を受けたギルドが、全ての冒険者を連れて撤退、もしくはその貴族の依頼を受けない等の措置を取り、滅びた国や破滅した貴族も居ます。最近はほとんど聞きませんけど」
「それは凄い! では、失礼かもしれませんがギルド職員が、不正や買収されもらす事は?」
「それも過去に有りました。その場合は、ギルドより、討伐指示が出て関係者全て殺害されます。また、情報を漏らされた被害者の方には謝罪と慰謝料が支払われます」
「全て殺害ですか?」
「はい。ここは甘くするときりが有りませんので。もちろん、犯罪者に脅されて等の状況による情状酌量は有ります」
「素晴らしいですね」
「過去の失敗などを経て、かなり考えられた組織と私は思ってます」
「ぜひ登録させて下さい」
「では記入をお願いします」
用紙には名前、年齢、得意武器、スキル等様々な項目がある。
「代筆は必要ですか?」
「いえ、それは大丈夫なのですが、これは全て埋めないと駄目ですか?」
「いえ、書いて頂けると助かりますが、最悪名前だけでも大丈夫です。しかし、書いてあれば、仲間を探す時や依頼を紹介するときに、お手伝いし易くなります」
「分かりました、クラスってなんですか?」
「例えば、ファイターですとか、アーチャーですね」
俺は迷ったすえ、名前、年齢を記入しクラスにティマー、従魔にポチとシルバーの名前を書いた。
ミスリルゴーレムのホーンスレイプニルとは書けず、今適当にシルバーと名前を変えて書いてしまった。
「これでお願いします」
「はい。……タカさんですね。ティマーでしたか。従魔のポチとシルバーと言うのは?」
「シルバーは連れて来てませんが、ポチはこの子です」
「ピ!」
「え! それ飾りじゃなかったんですか!」
「飾りな訳無いでしょう。スライムですよ。そんなに驚かなくても……」
落ち着いた感じの人だったのに、凄い驚いていた。まあ、動かないポチは肩当ての一部の様に見えなくも無いかな?
「し、失礼しました。スライムは、た、確か……不定形で、従魔証を持てないのでマスターが代わりにお持ち下さい。銀貨一枚になります」
少し慌てて、何かの資料を調べていた。従魔には従魔証を持たせて、野生の魔物との判別をするらしい。従魔証は銀貨一枚で買える様なので、ポチとシルバーの分を買おう。銀貨二枚出して、カウンターに置いた。
「では大きいものと小さい物を一つずつ下さい」
「はい。銀貨二枚確かに頂きました。このサイズで大丈夫ですか?」
小さい物は腕輪ぐらい、大きな物は二メートルぐらい有る。
「あ、ごめんなさい。大き過ぎます。もう少し小さな物は有りますか?」
「あの、シルバーとは何の魔物でしたか?」
「シルバーは馬型のゴーレムです」
「ではこちらのサイズでいかがでしょう? ある程度は調整も出来ます」
「それなら大丈夫ですね」
従魔証は何か小さな宝石の埋まったプレートの付の、ベルトの様な魔道具だった。
「従魔に装備させてから、そのプレートに触れて魔力を流して下さい。それであなたの登録がされ、その従魔証を付けた魔物は街に出入り出来る様になります」
言われた通りに小さい従魔証をポチの上に乗せ、魔力を流すとプレートに文字が浮かび上がった。タカの従魔ポチと書かれているようだ。
「へ~良く出来てますね」
「その従魔証を付けた、魔物が問題を起こせばその責任はあなたの責任になります。くれぐれも、ご注意下さい」
「うちの従魔は戦闘向けではない、おとなしい子達ですから、大丈夫です」
「それもあるのですが、無くしたり奪われたりすれば、悪用される事も有りますので」
「なるほど、気をつけます」
「では、簡単に規則を説明させて頂きます。まずギルドは冒険者同士の問題には基本介入しません。喧嘩になりましても、多少の怪我は問題視されません。しかし、殺害や回復不能の怪我は流石に罰せられます」
「骨折ぐらいは、気にしないと言うことですか?」
「骨折はギリギリですね、ちょっとやり過ぎな部類になります」
絡まれて、回避出来ない様なら手足の一、二本切り落としやろうと思っていたが、駄目らしい。
「冒険者は、SSS、SS、S、AA、A、B、C、D、E、F、G、Hの12ランクに分かれています。最初はHランクの仮登録からになりますが、依頼を一定数こなして頂けるとランクが上がります。また、最初の内は七日に一度は依頼を達成させて下さい。ランクが上がれば十日に一度、月に一度と期間も伸びます。達成出来ないと、ランク落ち等のペナルティーが有りますので」
「依頼は何でもいいのですか?」
「依頼にもランクが付いてまして、自身の一つ上のランクまで受ける事が出来ます。基本的には依頼をうけてから、行って頂きたいのですが、採取系の依頼などは確保してから依頼を受ける事も可能となります。また、討伐系の依頼もたまたま遭遇し襲われて倒した等の場合は、報酬の八割から九割が支払われ依頼達成と見なされます」
「なるほど、ランクは依頼の数さえこなせば上がりますか?」
「下のランクではそうなのですが、上のランクでは討伐系や護衛依頼など特定の依頼を受けて頂く必要が有ります。また、Dランク以上に上がる為には昇格試験に合格しなくてはなりません」
その後も細かく色々教えてもらった。
「説明は以上になります。何かご質問はありますか?」
「大丈夫です」
「ではこれをお渡しします」
Hランク タカと書かれた木の板だ。
「そちらが、仮登録証になります。これでタカさんも、今日から冒険者です。何か依頼を受けて行きますか?」
「そうですね」
「では、一緒に見てみましょうか」
カウンターから、出て掲示板まで付いて来てくれた。掲示板の前は昼時だからか、空いていて楽に見る事が出来た。
「ここのギルドですと、いつも品薄の薬草採取と、ゴブリン、オーク、フォレストウルフは駆除対象で常時依頼となってまして、依頼として受けなくても討伐証明の部位さえ、お持ち下されば依頼達成になります。特にゴブリンとオークは女性の敵、いえ、人類の敵です。見つけ次第殲滅で」
ジッとこちらを強い瞳で見てくる。
「はい! 大丈夫です!」
何か有ったのか? 怖くてはきけないけど…。
「ゴブリンは食べられませんが、オークは食べられます。体ごとお持ち下されば、素材として買い取りカウンターで引き取ってくれますので、お得です」
「なるほど、そうやって稼ぐ事も出来るのか…」
「今日の所は、初心者向けのこちらのホーンラピッドの肉の調達などいかがですか? 革も買い取れますし、後は対象を見つけたら常時依頼をしてみる形で」
「そうですね。そうします」
「では受理しておきます。この依頼は三日以内に達成出来ないと、失敗となります。ご注意下さい」
「わかりました。行って来ます」
「頑張って下さい」
俺はギルドを出て来た道を戻った。途中、定食屋の様な所に入り銅貨五枚で、昼ご飯を食べたがイマイチだった。……ご飯の美味しい店も探さないと……。
門まで戻り、仮登録証と従魔証を見せて門でもらった木の板を渡し、お金を返してもらった。
「やはり冒険者になったんだな、頑張れよ」
「ありがとうございます。やるだけやってみます」
門番に挨拶して、まず開けた草原の方へ歩いてみた。鑑定と気配感知をフル稼働させ、薬草を採取しながら歩くとホーンラピッドが居た。縮地を使うまでも無く、素手で捕まえて仕留めアイテムボックスにしまう。十分ぐらいで五匹捕まえた。薬草も三束集まったので、森の方へ行って見よう。
森の中で、人気がない場所を探し結界を張って目隠しをした。その中でホーンスレイプニルを出す。
「ホーンスレイプニル、済まないが名前を変えても良いだろうか?」
「構いません。お好きにお呼び下さい」
「では、今日からお前はシルバーだ」
「固有名、シルバー登録完了しました。改めまして、シルバーです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな。……さて、シルバーは魔道具は使えるか?」
「その魔道具によります。私に装備可能な物なら、使えるかと」
「なるほど、ではこの偽装の腕輪を使って見てくれ」
俺の使っている偽装のネックレスよりは質が落ちるが、砂漠の大迷宮で拾った魔道具だ。アイテムボックスから、同じ物を六個出してシルバーの各脚に付けてみた。
「これでどうだ? どれぐらい偽装出来る?」
「このクラスの魔道具がこれだけ有れば、普通の馬を装う事も可能です。しかし、見破られる可能性も高いかと」
「そうか。では、形はそのままで材質を変えたらどうだ?」
「それでしたら、かなり上手く偽装出来ます。木、土、岩ですと質感がかなり違うので触られると、見破られるます。金属系の素材なら、ほぼ見破られる事は無くなります」
「そうか、ではブロンズゴーレムを装ってくれ」
「かしこまりました」
シルバーの体色が、ミスリルの青みがかった銀色から、赤銅色に変化した。
「おっ! これはこれで綺麗だな。ミスリルの方が綺麗だが目立つから」
そう、ミスリルは目立つのだ。先ほど街中ですれ違った兵士や冒険者の中にはオリハルコンどころかアダマンタイトやミスリル系の装備している者は一人も居なかった。最高で魔鉄の剣、しかもあまり品質は良くなかった。そこに総ミスリル製のゴーレムなんて、怖くて連れて行けない。
「あと、これをつけないとね。少し頭を下げてくれ」
シルバーの首に、大きめの従魔証をつけて魔力を流した。文字が浮かび上がり、登録完了。あまり連れ歩くつもりは無いが、何か有れば街中でも出すことが出来る。因みにポチは、何が気に入ったのか従魔証を乗せたままだ。引っ張っても離さないので、無くさない様に伝えて好きにさせてる。
「ありがとうシルバー、またアイテムボックスの中で待機しててくれ」
「何時でもお呼び下さい」
シルバーをしまうと、見つからない様に周囲を警戒しながら結界を解除して移動する。この辺りはゴブリンぐらいしか居ないようだ。
……ゴブリン多いな、迷宮と同じぐらい居る。しかし、迷宮のゴブリンより弱い。弱いと言うより脆い? 殴ると爆散して、討伐証明部位が手に入らない。木刀も右に同じ。魔法も普通に使うと一番弱いブリット系で、頭に当たるとやはり爆散してしまい討伐証明部位が手に入らない。胴体を狙うしかない。胴体なら爆散しても耳と言う討伐証明部位は手に入るからね。ただ、汚いけど。
弱めるより、逆に貫通力を強化したブリット系なら被害は少ない。辺りの惨状的な意味で。頭に当たっても、小さな穴が空くだけだ。
……いや、爆散とか本当にきつい。迷宮で慣れたとはいえ、辺り一帯内臓が散らばり血の海とか……匂いに釣られて、他の魔物も寄ってくるし。
爆散した物は、全てポチのご飯となった。結果として、下手に手加減するより貫通強化の魔法で倒すか、虎鉄で首を落とすか頭や心臓を突き刺す方が、綺麗な倒せる。後はウサギみたいに、素手で捕まえて首を折るか?
結論として、意外と討伐は難しい事が判った。………他の人間と喧嘩する前に判って良かった。街中で、人間爆散させたら流石に怒られる。………怒られるで済むのか?
………早めに手加減を覚えないとね。下手にドラゴンと戦うより疲れた俺は、早めに討伐を切り上げ、街に戻ることにした。
「お? 戻ったのか。どうだった?」
同じ門番がまだ立っていて、声を掛けてくる。
「ゴブリンが意外と大変でした」
「ゴブリンに会ったのか、ご苦労さん怪我はない様だな。なかなかやるじゃないか」
「けっこう疲れました」
「ハハハッ! ソロでゴブリン相手に怪我が無ければ、上出来だよ! さぁ、一応ギルドカードと従魔証を見せてくれ」
「はい、どうぞ」
「よし、通っていいぞ、これから頑張れよ!」
「ありがとうございます」
俺は門番に挨拶して、また冒険者ギルドに向かった。ギルドの中は、夕方前なのにかなり昼に比べると人が増えて居た。まだまだこれから増えるのだろう。カウンターはどこも並んでいた。
………ひとつを除いて。昼に対応してくれた受付嬢のところだ。他の受付嬢は十代半ばから後半ぐらい。あの受付嬢は二十代半ばぐらいか? 三十にはなってないと思う。他の受付嬢より年上だが、綺麗でスタイルも良い。モテないハズはない……ハズは無いのだが、誰も並ばない。……なぜだ?
あの受付嬢は誰も並ばなくても、気にとめる事もなく、座って何か仕事をしている。少し眺めていると、あの受付嬢の所に他の冒険者より少しだけ良い装備の中年の冒険者が向かった。あの受付嬢は仕事の手を止め応対し、手早くさばいたのだろう。ギルドカードを受け取り、ギルドカードと共に何かの小袋を渡した。受け取った冒険者は、二、三言葉を交わすと飲食スペースの方へ歩いて行った。
どうやら、並んではいけない訳では無いらしい。考えてもどうせわからないので、行こうとすると横から声を掛けられた。ちょっと前から、俺の様子をうかがっていた、二十歳位の青年(少しイケメン)だ。
「おい坊主、止めておけ」
「何をですか?」
「空いてるからって、ソフィアさんの所に行こうとしただろ?」
「あの方ソフィアさんって言うんですか?」
「知らねーのかよ。坊主はここ初めてか?」
「今日の昼に来て登録したばかりです、今は二回目ですね」
「なるほどな。じゃあ、教えておいてやる。彼女はソフィアさんって言って、受付嬢たちのボスだ。腕も立ち、他の受付嬢に絡んだ冒険者をぶちのめす。Dランク位の冒険者では歯がたたねーよ」
「へ~可愛い見た目によりませんね」
「かわいいってお前……命知らずだな」
「ああ、ごめんなさい、可愛いと言うより綺麗ですかね?」
「そう言う意味じゃねーよ」
「そこの二人、こちらにいらっしゃい」
大きな声を出したわけでも、揉めていた訳でもないが、少し目立ったのかうわさのソフィアさんに呼ばれてしまった。
青年は顔をひきつらせていたが、大人しくソフィアさんのカウンターに向かった。俺も後に続く。
「ソ、ソフィアさん、俺たちは別に喧嘩していた訳では……」
青年がしどろもどろに言い訳をしだした。一応俺も、援護しよう。
「そうです、ソフィアさんが可愛いか綺麗かで意見交換をしていただけです」
「お、おまえ……」
青年が街中でドラゴンに会ったかの様な顔をして、こちらを振り返った。
………何か失敗したか?
「………まあ、いいです。何かカウンターにご用は?」
「ないです!」
「あ、あります」
「ではあなたは行って良いです」
「じゃ!」
青年はあっという間に行ってしまった。
「はえ~な~」
「それで、タカさんは何のご用ですか?」
「相談と報告です」
「では、まず相談からお聞きしましょう」
「え~と、スキルについてお聞きしても良いですか?」
「私にわかる事なら、お答えします」
「魔法使いは少ないのですか?」
「魔法はその属性やレベルの差は有りますが、一定数使い手は居ます。実戦で役に立つレベルは、少ないですがいますので、よほど高レベルで無ければ珍しいとまで言いません」
「錬金術はどうですか?」
「錬金術は生産系のスキルですね。ポーションなどを作るのに必要で、こちらも使い手は少ないのですが、一定数います。珍しいとは言えません」
「アイテムボックスとマジックバックはどちらが珍しいですか?」
「珍しいのはアイテムボックスですね。マジックバックは、高価ですが売られて居ますから。高ランクの冒険者や大商人なら大体持ってます。それに比べアイテムボックスは後から習得がほぼ不可能と言われ、スキルで使える方は生まれつき持っていた方のみです」
「アイテムボックスを使える方は居ないのですか?」
「いえ、珍しいと言うだけですね。ただ問題はその容量です。微小と言われる容量一メートル四方のアイテムボックスなら、冒険者の中にもたまにいます。小と言われる容量二メートル四方のアイテムボックスは極まれですね。容量中や大は勇者の血を引くと言う、王族や貴族でも極まれです」
「なるほど、よく分かりました」
「お役に立てましたか?」
「はい、ありがとうございます」
「では、もう一つの報告の方は何でしょう?」
「依頼達成の報告です」
「ああ、昼に受けた依頼ですね。ホーンラピッドは見つかりましたか?」
「はい、それでここに全部出しても良いですか?」
「………少しお待ちください」
ソフィアさんは、立ち上がって奥に行って、少ししてからバインダーとペンの様な物を手にして戻って来た。
「では、今日は別の所に行って出して頂きましょう」
ソフィアさんの先導で、素材などの買い取りカウンターの奥に連れて行かれた。
その部屋は倉庫のような作りで、奥では別のギルド職員が魔物解体等をしていた。ソフィアさんは部屋の隅の一角を指している。
「こちらにお出し下さい。いまここに居るのはギルド職員のみですから、大丈夫ですよ」
「え?」
「まだアイテムボックスのスキルを知られて良いか、悩まれてるのでしょう?」
「……よくわかりましたね」
「あの質問をされてアイテムボックスを持ってなかったら、そちらの方が驚きです。それに……」
「それに?」
「いえ、何でも有りません。冒険者には、秘密を抱えた方が多いですから」
少し読まれて居るらしい。仕事の出来る女性って怖い……。
「何かすみません、気を使って頂いて」
「大丈夫です」
「まず、ホーンラピッド5羽、肉と皮と角に分けて有ります」
「昼からのわずかな時間で、5羽も捕まえましたか。解体も新人とは思えないぐらい、完璧な仕事ですね」
「ありがとうございます。そのあと、森でフォレストウルフを七頭、こちらも各部位ごとに分けてあります」
「………」
「ゴブリンが二十六匹、ちょっと失敗して討伐証明は、半分以下の十ニ個しか集まりませんでした。魔石は二十六匹全部有ります」
「………………」
「あと、オークが二匹ですね。こちらは全部有ります。解体も終わってます」
「…………………………」
「いくらぐらいに、なりそうですか?」
「……やっぱり、こうなった………」
「ソフィアさん?」
「いえ、何でもありません。……そうですね。全て綺麗に解体されてますし、銀貨十枚ですね」
「ありがとうございます。あの、お金って銅貨百枚で銀貨一枚でしたよね?」
「そうですね。銀貨百枚で金貨一枚。金貨百枚で白金貨一枚になります。ちなみに銅貨一枚で、パンか一つとか果物が一つ買えますよ」
「そうですか、ありがとうございます」
……と言うと、銅貨一枚日本円で約百円ぐらいか? 銀貨で一万円、金貨で百万円、白金貨で一億円?! ……やべえ、本当なら所持金がやばすぎる……。
「ど、どうしました? 顔色悪いですが?」
「あっ、いえ、何でもありません」
「そうですか?」
「すみません、ついでに一つ教えて欲しい事が有るのですが……」
「もしかして、宿屋ですか?」
ソフィアさん、すげぇ! 超能力者か?
「はい。多少高くても良いので、ご飯が美味しくて個室が有って、従魔も泊まれる宿屋を知りませんか?」
「一番目と二番目に高くて良い宿屋は、貴族区の方にありまして客層も貴族とその護衛が泊まっています。三番目と四番目は商店区の近くにありまして、大商人やその護衛が泊まっています。五番目がこのギルドもある中央区のにある宿屋で上級冒険者もよくここに泊まります。各宿屋は護衛も泊まりますので、従魔も泊まれますよ。他にも、安くて良い宿屋は沢山あります」
「では、その五番目の宿屋を教えてもらえますか?」
「ここを出て、広場の反対側にある風の安らぎ亭と言う宿屋です」
「あ、近いですね。ありがとうございます。さっそく行ってみます」
「いえ、お待ち下さい。まだ、依頼の処理と精算が終わってません。一度、カウンターの方に戻りましょう」
忘れてました。
カウンターに戻り、ソフィアさんに木のギルドカード仮登録証を渡した。
「お預かりします。まず、依頼達成の報酬と買い取りの精算ですね。銀貨十枚、ご確認ください」
「はい。確かに受け取りました」
「では、次にこちらが新しいギルドカードになります」
銀色の金属製のプレートを出して来た。何か宝石みたいな石が埋め込まれている。
「この、石の所に血を垂らして下さい。針もありますから」
俺はその針を使わずに、虎鉄の刃を少しだけ鞘からだし、指先を少し切って血を垂らした。その時、変なスキルが表示されない様に必死に祈る。
「はい、もう良いです。何か布は要りますか?」
「大丈夫ですよ」
自動回復の効果でもう、傷すらない。
「えーと、表示に不具合は無いですか?」
ギルドカードをチェックしていたソフィアさんは、何か納得した様な、しない様な微妙な顔でカードを渡してきた。
(表)
名前:タカ 年齢:16才 性別:男 LV: 2
クラス:ティマー ランク:G 賞罰:なし
従魔:ポチ シルバー
(裏)
スキル:アイテムボックス
テイミング
体術
刀術
全属性魔法
魔導錬金術
やった! 一番隠したかった、異世界人や異世界言語のスキルは表示されなかった。
「合ってますよ」
「本当ですか? レベルとか間違ってませんか?」
「……大丈夫です。ちなみにレベルいくつまで表示されますか?」
「理論上はレベル99まで表示可能です。そんな高レベルは見たこと有りませんけど」
なるほど、現在の俺のレベルは902だ。99までの表示なら、合っている。
「……それより、スキルの表示は何とかならないのですか? 手の内がバレバレなのですが?」
「し、失礼しました。他は消せないのですが、スキルだけは消せます。消したいスキルに触れて、非表示と言って下さい」
「非表示、非表示、非表示、非表示、非表示、非表示。おー消えた」
「その操作は本人しか出来ませんので、忘れ無い様にしてください」
「わかりました」
「では、これで終了です。お疲れ様でした」
「色々ありがとうございました」
「いえいえ、冒険者のサポートも私達の仕事です。今後もいくらでも相談に乗りますので、私が居るときは私のカウンターに来て下さい。多少なりとも事情を知っている私の方が、対応し易いですから」
「分かりました、そうさせて貰います」
ソフィアさんに何度も感謝を述べて、俺は冒険者ギルドをあとにした。
ギルドを出て広場を横断し、風の安らぎ亭へ。冒険者ギルドほどではないが、かなり大きな建物だ。外観も綺麗で、清掃等も行き届いていた。
中に入ると直ぐカウンターが有り、奥がレストラン兼酒場の様な作りで、上の階が宿泊出来る部屋がありそうだ。
「いらっしゃいませ。お食事ですか?」
「宿屋と聞いて来たのですが、部屋は空いてますか?」
若女将の様な、綺麗で色気のある女性だ。少しだけ困った顔をしていた。
「お一人ですか?」
「はい、従魔のスライムも一緒です」
「空いては居るのですが、従魔が一緒ですと個室になります。……大丈夫ですか?」
「ええ、個室でお願いします。一泊いくらでしたか?」
「一泊二食付お風呂無しが銀貨二枚、お風呂付きが銀貨三枚になります」
「では、お風呂付きの方をひとまず五泊お願いします」
「……かしこまりました。先払いで銀貨十五枚になります」
「はい」
俺が銀貨十五枚、カウンターに置くと女性は少し驚いていた。何だろう?
「はい、確かに。お客様、魔道具の使用は大丈夫ですか?」
「?」
「大丈夫そうですね。お客様の中には魔道具が、使えない、嫌いと言う方もいらっしゃいますので」
「へ~、そう言う意味では大丈夫です」
「では、ご案内します」
女性に付いて三階の奥の部屋に来た。
「こちらの部屋をお使い下さい」
そこそこ広い綺麗な部屋に、大きめのベッド。奥にはお風呂とトイレも有った。一応魔道具の使い方などを一通り説明してもらった。
「お食事は朝晩、下の食堂でお取り下さい。また、銅貨二十枚でお昼用のお弁当等も承っております。ぜひご利用下さい」
「わかりました」
女性が出て行った後、武器防具を外しアイテムボックスにしまうと、楽な服装に着替えて偽装のネックレスだけ付けて下に降りて食事を取った。
普通にうまかった。パンにホーンラピッドのシチューとサラダとオークのステーキ。シンプルな味付けだが、美味しい。……ちょっとステーキに胡椒を足した、個人の好みだ、けして不味い訳ではない。……たから、厨房の奥からジッとみるのは止めて欲しい。こっそりやったつもりが、ばれてた様だ。
どうやら、この世界は安い不味い、高い旨いの様だ。探せば安くて旨い店も有るかも知れないが、大変そうだ。
「ご馳走様です」
ホールの人に声を掛けて、部屋に戻り風呂に入った。さて、これから夜の街の探索! ……に行きたかったが、疲れたので寝た。
翌朝、朝食を取った後装備を整えて冒険者ギルドへ。ちなみに部屋の鍵は外出するときは、一階のフロント?カウンター?に預けるらしい。昔のビジネスホテルみたいだ。
冒険者ギルドに入ると、真っ直ぐ依頼の掲示板に向かった。現在Gランクなので、Fランクの依頼まで受けられる…………が、あまり良いのは無い。お手伝い系や採取系の依頼ばかりだ。これなら、常時依頼でもやる方がまだましかな?
どちらにせよ、採取系は後受けも可能と言っていた。特定の依頼は受けずに出た。
昨日とは違う門番に、ギルドカードを見せて門を出ると、森の方へ。
森に入ると、さっそくゴブリンがいた。手当たり次第に狩っていく。……多いな。フォレストウルフやオークも居るが、ゴブリンが多すぎる。もう五十匹近く狩ったと思う。
気配感知で周囲を探りながら、森を駆け抜け広範囲を探索した。……他の冒険者らしき気配に近寄らない様に注意して、見て回ったがゴブリン以外特に何もなかった。
昼になり、街に戻って冒険者ギルドへ。ソフィアさんに依頼達成と換金をお願いした。
「では、今日は銀貨十ニ枚になります」
「ありがとうございます」
「他に何か有りますか?」
「そう言えば、冒険者ギルドは人の国、各国に有るのなら、他の国の話とかわかりますか?」
「他の国ですか?」
「はい、冒険者を続けて行く上で、注意する国ややりやすい国、また何らかの法律や習慣で気をつけないとならない国などが有れば教えてもらえますか?」
「そう言う事であれば、沢山ある小国は特筆すべき点は有りません。当たり障りのない国ばかりです。軍国と呼ばれる、ガイギ帝国は実力主義の国です。強い者が正しく弱い者は虐げられる。冒険者でも、強い者は軍に入ると出世できる様です。教国と呼ばれるファータ聖教国は宗教国家で、唯一奴隷の居ない国になります。世界一治安の良い国ですが、規律が厳しく民は貧しい生活を送っています。そして勇者様が建国した、このシェル王国が一番冒険者には良い国ですね。横暴な貴族も少なく冒険者が活動し易いです」
「なるほど」
「注意すべき国は二つ。ブラン王国と竜国グゼロ。ブラン王国はちょっと王族、貴族に横暴な者が多く冒険者とのトラブルが数多く報告されています。竜国グゼロは竜人達の国で詳細はわからないのですが、最近何か有ったらしく、不穏な動きが見られるそうです」
「特に用事が無ければ、この国に居るのが一番ですか」
「そうなります。噂によると、第三王女が国宝の神器の継承に成功したとか。本当なら、益々この国は安定、発展して行くかと思われます」
「………神器?」
「建国の祖、勇者様が神より授かったと言われる、女神の水瓶です」
「それは……凄いですね」
「はい、ですのでタカさんも安心して、この国で活動してください」
「…そうですね。所で神器って他にも有るのですか?」
「う~ん、噂では有るらしいのですが、国の国宝になっていたりと詳しい話は判らないですね」
「そうでしたか、ありがとうございます。参考になりました」
「お役に立てて何よりです」
俺はソフィアさんに挨拶して、その場を後にした。お昼は美味しそうなお店を探したが、見つからず、屋台のパンと串焼きを買って食べた。そこそこだった。
午後からは街中を散策した。リンゴやオレンジの様な果物が売っていて、ケースごと買って見た。物凄い目新しい物は特になかったが、野菜類をいくつか買ってアイテムボックスにしまった。お店の人も、アイテムボックスを使っても、少し驚くだけであまり気にしてなかった。
武器防具の店も覗いたが、良い物はなかった。調味料等も少ない気がするなぁ。この辺が、美味しいお店が少ない理由だろうか?
ちょっとHなお店(と思われる)も発見したが、昼間から入る勇気はなく(俺は勇者にはなれないようだ)大人しく、宿屋に戻った。
部屋に戻り、着替えて夕食(お肉に醤油をかけたらまた、厨房から見られた)を食べ、お風呂に入って寝た。
翌日、朝食を取り冒険者ギルドには行かずに、そのまま街の外へ向かう。門番に挨拶して、門をくぐり抜け草原の方へ。
森と違い、草原はゴブリンが居ない。隠身を使い、見つからない様に移動しながら周囲を探るが、ホーンラピッドがたまに居るぐらいか。
ホーンラピッドを素手で捕獲しながら、移動していると、ビッグボアがいた。久しぶりだ、肉を傷めない様に頭に刀を刺して倒すと、アイテムボックスにしまった。
再び辺りを探るが、あまり魔物は多くない。たまに森の方から、ゴブリンがやフォレストウルフが一匹二匹と来るだけだ。後はホーンラピッドが少しウロウロしてるだけ。
隠身を使い、バレない様に高速で広範囲を調べた。人の気配が沢山集まったところが有り、地図で確認するとトト村となっていた。トロアと他の街を結ぶ街道から、少しだけ森側に入った所に有る村だ。
まさに田舎の村と言う感じで、のんびり暮らすならこんな感じが良いかも知れない。トロアの街から馬車で1日ぐらいの距離かな? 俺なら、走っても一時間とかからないと思うし、転移なら一瞬だ。
一応木の柵が有り、門には村人らしき人が革鎧を着て槍を持って立っていた。
「ん? 冒険者かね?」
隠身を解いてゆっくり近づくと、門番の村人が声を掛けて来た。
「はい。中に食事出来る場所は有りますか?」
「ああ、有るよ。中に入るなら、ギルドカードを見せてくれるか?」
「はい、どうぞ」
ギルドカードを渡すと、チラッと見て直ぐに返してくれた。
「通って良いよ。入って右に行くと宿屋兼食堂が有るから」
「ありがとうございます」
言われた通りにすると、二階建ての少し大きな建物が有った。中に入ると、やはり宿屋のようだ。
「いらっしゃい、泊まりかい?」
なかなか、恰幅の良いオヤジが声を掛けて来た。
「食事出来ますか?」
「ああ、大丈夫だ。適当に座りな」
一階の奥は食堂になっている様だ。誰も居ないので、近くの席に座った。
「何にする?」
「おすすめを一つお願いします」
「あいよ」
しばらくして、パンとシチューとサラダが出て来た。
「銅貨五枚だ」
「はい」
お金を払い食べ始める。意外と旨い。黙々と食べて居ると、宿屋のオヤジが話しかけてきた。
「にーちゃん、冒険者かい?」
「そうです」
「こんな村に何しに来たんだい?」
「たまたま見かけたから、寄っただけですよ」
「へー」
「静かな良い村ですね」
「まあな、それだけが取り柄の村だよ」
「こういう村に住んで、のんびりしたいんですよね」
「何いってやがる」
笑って本気にはしてないようだ。
「ご馳走様、またそのうち来ます」
「そうかい、気長に待ってるよ」
俺は村を一通り見て回った。商店らしき物もなく、必要な物はトロアに行き来する行商人から買って居るらしい。旅人が寄るので、宿屋は経営が成り立っているが、後は特に何も無い様だ。
悪くない。むしろ良いかも。俺は村を出て、魔物を狩りながらトロアの街に戻る事にした。




