4話 最下層へ
B51階へやってきた。この階の敵はゴーレム達だ。前と違うのは、B41~B49までのゴーレムは石や土の寄せ集めの様な武骨な物だったが、この階はリビングアーマーの様な感じだった。動きも早く滑らかになっている
材質は石、鉄、鋼、魔鉄、等様々だった。だが、俺の新しい武器、蛟と虎鉄の前には紙同然だ。
「脆いな!」
押し寄せ魔鉄のゴーレム達を、蛟と虎鉄で切り捨てる。魔鉄を抵抗なく斬る切れ味に、少し酔っていたかも知れない。
全て切り捨て、動く物の無くなった部屋で一息ついて落ち着きを取り戻すと、冷静になり少し不安になった。
「凄い刀だ。戦闘が物凄く楽になった。しかし、これで良いのか? 何だか、戦闘にばかり慣れて行く様な気がする」
田舎でのんびり暮らすという、夢と現実の落差に苛立ちが出て来るが、この迷宮で情報や魔道具を手に入れてからの方が人の街に行けるだろうと思う。探索に詰まって進めなくなるまでは、行けるだけ行くのが、正解だと思う。
「……もう少し探索したら、今日は早めに切り上げて休むか」
そう決めると、倒したゴーレムをアイテムボックスにしまい、再び探索するのだった。
家(仮)に戻って来た。あの後探索を続けていたら、宝箱からなかなか良い魔道具が出て来た。分解の魔道具と浄化の魔道具だ。
分解の魔道具は、魔物や生物以外の無機物を細かくするもの。浄化の魔道具は、汚れや穢れを消し去るもの。………これがあれぱ、排水の処理が出来る!
この魔法自体は俺も使えるのだが、利用方法は思い付かなかった。浄化など、ゾンビみたいなアンデットにかけるかと思っていた。
……この魔法があれば、掃除しなくても良いのか……。試しに魔法を使ったら、部屋が凄く綺麗になった。風呂も入らなくても、体も綺麗になった。……後で風呂は入るけどね? かなりの便利魔法だった。
一カ所に集めた排水の大きなゴミを、分解の魔道具で塵に変えて、その後浄化の魔道具でその塵を含んだ汚水を真水に変えてから、岩の外側の入り口から一番遠い所に露天岩風呂風の池を作りそこへ流れる様にしてみた。……立て看板で『飲むな危険!!』と書いて見た。真水だけど、元汚水だし人間が飲むには……。その辺の野良犬、野良猫が飲むには良いだろう。まあ、砂漠に犬猫が居るかは知らんが。
最近は、入り口のドアを岩にカモフラージュして、ロックの魔法をかけてある。俺以上の魔力が無ければ開けられまい。外からわからない様に偽装してあるが、岩も魔法で強化し結界を張って俺以外が転移出来ない様にしてある。俺だけの砦だ。……訪ねて来る人は居ないけどね?
他にも、お湯や水は魔道具で出るようにしたし、空気も魔道具で循環させてある。照明も魔道具だ。居間の壁に埋め込まれた結晶にMPを貯めておき、各魔道具へMPを供給している。
かなり快適だ、これなら(仮)を取って俺の家としても良い。今度はここから出て、旅をするときのアイテムボックスに入るセカンドハウスを作っても良いかも知れない。必ず転移出来るとは限らないし、旅気分を味わいたくなるかも知れない。うん、色々作って見よう。
木と石で、色々作って見た。木はアイアンウッドでログハウス風に作り、中は少し狭いが家と同じ様な設備になっていて、客間が追加で増えている。
石造りの方は少しやり過ぎた。ストーンゴーレムの石が大量に余っていたので、それを使い本当に砦を作って見た。城壁に沢山泊まれる兵舎、馬房、食堂、厨房、食糧庫、武器庫、会議室、城主の部屋、客室、使用人部屋、等々思いっきり作って見た。………何に使うんだろう?
戦いから少し離れ、色々作りリフレッシュした俺は、迷宮探索を再開した。B53階の宝箱から、『マジックテント 折りたたみ自由で、小さく見えるが空間の魔法がかけられており、中は大空間の快適スペースとなっている。暮らすための、一通りの家具や設備は揃っている』が出た。迷宮は俺のやることを潰したいらしい。……少しだけ目から汗が出た……。
B60階に到着した。B50階から三週間ほどかかったが、魔鋼の武器防具や魔道具が、色々集まった。あと金貨が、少し増えてきて銅貨を見なくなった、ひとまず全てアイテムボックスに入れてある。
大きな扉を開けると、銀色のフルプレートアーマーが並んでいた。その数12体。鑑定すると、ミスリルゴーレムとの表示。
「ミスリルか、こう沢山あると有り難みがないなぁ」
俺は力みなく、自然な足取りで中に踏み込んだ。その一歩に合わせて動き出す、ミスリルゴーレム達。全員が、剣や斧、槍と言った武器を抜いた。
無詠唱でサンダーストームを撃ち込むが、無反応だった。諦めて、蛟と虎鉄を抜いて迎え撃つ。
先頭の剣を装備したミスリルゴーレムを虎鉄で唐竹割りにし、右側から来る奴を下からすくい上げる様に胴を両断する。後ろから近づいて来た奴を逆袈裟切りにした。纏まると面倒なので、二十本ほどのストーンランスを無詠唱で打ち込み、衝撃で体勢を崩した所へ斬り込んだ。
左の蛟を大きく振るい、三体のミスリルゴーレムの胴と手足を切り裂いた。右の虎鉄は、一体ずつ確実に斬り倒して行った。更に踏み込み、胴凪にして三体まとめて切り倒した。
手足を切り落とされなからも、立ち上がろうとしていた二体にとどめを刺して、残りは二体のみとなった。ゴーレムに感情など無いのか、仲間を踏み越え並んで向かって来る。
二体のミスリルゴーレムの間に、縮地で飛び込むと蛟と虎鉄を胴体に突き刺した。
「……片付いたか。蛟と虎鉄、便利だなぁ。ミスリルでも楽々斬るとか、凄すぎる」
ミスリルゴーレム達をアイテムボックスにしまい、一息ついた。
「今までの刀なら折れてたな。そして、強力な魔法を使ってたか? あの魔法の代わりになる物を…………か? なるほどね」
俺のステータスでは、以前の刀だと半分の力でも振るうと折れて居たが、この蛟と虎鉄は全力でも折れないし歪まない。魔力を流せば切れ味が増す。これで刀での戦闘に不安は無くなった。いくらでも、戦い続けられる。
………ん? そもそも、雑貨屋をするのに戦い続ける必要性は……いやいや、今は忘れよう。後から、昔こんな事が有ったなと思い出にすればいい。じゃないと泣きたくなる。
「さて、食べ物もそこそこ集まった。夜寝るテントも手に入った。防具も一通り、それなりの物が手には入ったし、武器は良い物が手に入った。後は情報と移動手段が有れば、何時でも行ける」
俺はこれからに、手応えを感じた。むしろ、どちらか片方でも良いのでは? 砂漠を歩いて旅するのは大変だが、情報が有れば行けるだろう。また、移動手段があれば、楽に進める分適当に進んだとしても街にたどり着けるはずだ。
「あれ? 宝箱は無いのか?」
辺りの床を見回すが、見当たらない。
「ピ!」
ポチが、肩から壁側を指している。見ると、壁に宝箱風の扉が出来ていた。
「新しいパターンだな。何があるのかな?」
扉を開けると、馬と小さな馬車が有った。
「馬? 魔物か?」
銀色のかなり大型の馬で、頭に角がありユニコーンかと思いきや、足は六本ある。鑑定すると、『ミスリルゴーレム:ホーンスレイプニル型 未登録未起動』との表示。馬車の方は『ミスリルゴーレムオプションパーツ:馬車型 未登録未起動』と表示された。
「両方ゴーレム? 未登録未起動って何だ?」
どうやら、近づいても襲いかかって来る事は無いらしい。
「この部屋が宝箱の代わりなら、ボスに勝った報酬みたいな感じかな? アイテムボックスに入るのか?」
ちなみに敵性ゴーレムは、アイテムボックスに入らない。倒してからなら、入るので何か条件が有るのだろう。
俺はアイテムボックスに仕舞うため、馬に触れた。
「マスター登録されますか?」
「しゃべった?! マスター登録?!」
「マスター登録されますか?」
「……ああ、登録する」
「触れて、魔力を流して下さい」
言われた通りにすると、馬体が淡く輝いた。
「マスターのお名前を教えて下さい」
「タカだ」
「マスタータカ様、登録が完了しました。私はホーンスレイプニルです。個体名称の変更を行いますか?」
「いや、ひとまずはそのままでいい。俺に従うのか?」
「はい、以後私はマスタータカ様に従います」
「なるほど、何が出来る?」
「私の背にマスタータカ様をお乗せすること、馬車を引く事、多少ですが戦う事が出来ます」
「タカでいい。戦闘より移動が専門か?」
「そうなります、タカ様。あと、登録して頂ければ簡単な魔法を使用出来る様になります」
「何個位?」
「その魔法の難度によります。非常に難しいものなら、数個。簡単なものなら、数十個となります」
「記憶容量が有るのか、魔法の登録方法は?」
「私を杖や武器に見立てて、魔法を使用してください」
「なるほど、やって見るか。後から変更は?」
「可能です」
「よし」
馬体に手を当て魔法を使用する。
「……エクストラヒールを登録しました。……オールキュアを登録しました」
「容量は?」
「約半分です」
「あまり入らないな。現状戦闘方法は?」
「蹴りと角と体当たりになります」
「攻撃魔法もあると便利か」
更に魔法を使用する。
「……プラズマブラストを登録しました。……サンダーストームを登録しました。……サンダーランスを登録しました。……サンダーアローを登録しました」
「これで容量は?」
「約残り二割です」
「なるほど、後は……防御系が良いかな?」
「……ストーンウォールを登録しました。……マジックシールドを登録しました」
「まだ入るか?」
「簡単なものなら、一つ登録可能です」
「簡単なものか、戦闘用ではないが…」
「……浄化を登録しました。これ以上は登録出来ません」
「こんなものか? 馬車について何かわかるか? 」
「馬車は私のオプションで、既にタカ様の登録がなされています。中は空間魔法により外見より広く、居住可能な作りになっております。セットでの運用も個別の運用も可能です」
「なるほど、それは便利だ。ちなみこの近辺の地理情報は?」
「申し訳ありません。起動したばかりで情報ありません」
「それはそうだな。アイテムボックスに入れるか?」
「私はタカ様の所有物なので、問題ないかと」
俺は旅立ちのメドが立って喜び、馬車とホーンスレイプニルをアイテムボックスにしまい、B61階に移動してから、外に転移した。
砂漠に出て、ホーンスレイプニルだけ出しまたがった。馬など乗った事は無いが、何とかなりそうだ。ようやく移動手段を、手に入れる事が出来た。
これで砂漠を脱出出来る。迷宮の探索は途中だが、街に着いて少しのんびりした後にでも、転移で来て続きをやろう。
「しばし、さらばだ迷宮よ!」
俺は逸る心を抑え、迷宮に別れを告げてその場を後にした。また、来ることを約束して。
無理でした。………すぐさま戻ったよ! だって、沈むから。いくら軽いミスリルと言っても、大きな馬の体だとかなりの重量だ、多分数千キロはあるのだろう。砂の上だと沈んでしまう。すぐにホーンスレイプニルをアイテムボックスに戻して、歩いて家に戻りふて寝した。……せっかく、旅立てると思ったのに!
翌日B61階の探索へやってきた。馬と馬車は一度忘れよう。砂漠さえ脱出すれば、使えるのだ。今後に期待だ。
B60より降りてすぐは小部屋になっていた。扉があり、そこを開けるとそこは草原だった。
「は?」
どうなっている? 理解出来ない………が、異世界だ、そういう事もあるのだろう。だが、それよりも重要な事が有る。
「野菜きた!」
考えて見て欲しい、何ヶ月も主食と肉類のみ。幸い身体に変調は無いが、内心栄養の偏りに不安を感じていた。俺は喜び、食べられる野菜類を求めて走り出した。
B70階に到着した。B60階から、2ヶ月がたっている。宝箱からはミスリル系の武器防具と魔道具、金貨が更に多くが出ていた。草原や森と言った広い階層で、敵にはグリフォンや鳥系の魔物が多数出て来た。特に困ったのは、ハーピーだった。あいつら可愛い女性の顔をしており、ためらうと襲って来る。戦ってかなわないと思うと逃げる。正直やりにくかったが、ここまでの道のりで俺は学び、殺す事に慣れた。襲って来るものは全て倒す。……迷宮は弱肉強食であり、油断すれば殺され、魔物を倒さねば食べる物にも困る。そう学んだ。ハーピー達は何羽か圧倒的な力で倒してやれば、学習するのか襲って来なくなる。その後歌を唄ったり、踊ったりと意味不明な行動が見られたが、よくわからないのでスルーした。
広い階層と空飛ぶ魔物も大変だったが、一番時間がかかったのは畑の作成だ。B69階の一番外れに、植物魔法で、簡易版の迷いの森を作り、その中心に畑を作った。ここにもログハウスを建てて、何時でも来れる様にしてある。
土魔法で畑を耕し、手に入れた種を植え、植物魔法で成長させて収穫する。……恐ろしい世界だな。この世界には飢饉とかは無いのだろう。
何度か種蒔き、収穫を繰り返し食材を確保した。その後ここを放棄するのは勿体ないので、ポチに管理(魔物から守る)をお願いしたら、分裂し分体を置いてくれた。
……分裂? いつの間にそんな芸を………違った、スキルを覚えたのか? しかも、本体と分体は意識を共有し離れていても、分かるらしい。相変わらず、謎生物だった。
大きな扉を開けると、天井の高く広い部屋で中にはグリフォンが、6匹いた。特に大きな個体が一匹いて、鑑定するとキンググリフォンとの表示。
「グリフォンの上位種か」
中に踏み込む。
「グルォォォ!」
キンググリフォンが、大きく声を上げた。
「何かのスキルか? 無駄だな」
グリフォン達が翼を広げて飛び立とうとしている。そこに無詠唱で、サンダーレインを落とし飛翔を妨害した。しかし、グリフォンは地面に叩きつける事が出来たが、キンググリフォンは雷撃に当たろうとそのまま飛び上がった。
「じゃあ、雑魚からだな」
俺は、縮地でグリフォン達に近寄ると虎鉄で首を切り落として行く。最後の一匹と言うところで、キンググリフォンが魔法を使って来た。
「ガァ!」
「ウインドランスか? 弱いな」
左腕の防魔の盾でウインドランスをはじき、右手の虎鉄で最後のグリフォンにトドメをさした。
「グルゥゥ!」
キンググリフォンが、怒りの声を上げる。
「他に気を取られる余裕など無いぞ?」
アイスハンマーの魔法を唱え、キンググリフォンの頭上に巨大な氷塊を出現させた。キンググリフォンが気がつくが、何かするより早く氷塊に撃ち落とされ、床に叩きつけられた。
ふらつきながら立ち上がろうとするキンググリフォンの横に俺は滑り込み、その勢いのまま虎鉄を振り下ろした。
グリフォンとキンググリフォンをアイテムボックスにしまい、辺りを見回すと宝箱を発見した。開けて見ると、中には細かく綺麗な装飾のされた額当ての様な物が入っていたので、鑑定してみる。
『知恵の額冠 知力・魔力・魔法攻撃力・魔法防御力・魔法命中率特大アップ 消費MP軽減大 MP回復中 魔力精密操作アシスト 精神系状態異常無効 頭部物理・魔法障壁展開』
「お~また、凄いの来たなぁ。魔法職用の頭防具かぁ」
俺は魔法も多用するから、使える防具だ。交換しよう。現在の装備は蛟、虎鉄、防魔の盾、知恵の額冠、ミスリルの胸当て、ミスリルの篭手、ゴルゴンの革ブーツとなった。
篭手もB10階のボスから出た物から、ミスリル製に交換した。ミスリル製の防具は、軽くて硬く使いやすい。
鉈は外した。余り使わないのと、武器が蛟と虎鉄の二本になったからだ。いざとなれば、アイテムボックスからも出せる。
さて、どんどん進もう。扉を開けてB71階におりた。
B71階も草原と山岳の広い階層らしい。魔物は地竜、走竜、飛竜等の亜竜らしい。
宝箱はアダマンタイトの武器防具に魔道具、お金も白金貨が、時おり混ざっていた。
探すのに苦労したが、亜竜達の巣を見つけ卵を手に入れた。卵は食材扱いなのか、アイテムボックスに入れる事が出来たので積極的に探してしまった。……久しぶりに目玉焼きを食べた、人の頭ぐらい有ったけど……。
良く考えたら、前の階層で鳥の卵探せば良かった。野菜に気を取られて、そこまで見てなかったな。今度暇を見て行って見よう。
B80階までたどり着いた。寄り道的な事はほとんどしていないが、B70階から一月半がたった。単純に広く迷ったのだ。大きな扉を開けると、巨大な竜がいた。鑑定すると、ドラゴンとの表示。
「とうとうドラゴンとか出てきたか」
中に一歩入ると、ドラゴンはこちらを見据えて雄叫びをあげた。
「ガアァァァ!」
「威嚇か?」
雄叫びの後、大きく息を吸い込み喉の奥が少し光って居る。
「ブレスだった!」
大きく横に飛び退き、無詠唱でアクアウォールを多重に張り巡らせ、アイスストームをぶつけて相殺を試みた。ドラゴンから放たれたブレスは、アイスストームを打ち消したものの、アクアウォールで防ぐ事が出来た。
俺はすかさず、サンダーレインとサンダーストームを発動し牽制すると、通常より魔力とMPを多く込めて強化したサンダーランス、ストーンランス、アクアランスを各30本ずつ連続して放つ。
「グオォォォ!」
ボロボロになりながらも、立ってこちらを睨んで居るドラゴンの頭の横を飛び越え、すれ違いざまにその首を切り落とした。
ドラゴンの死体をアイテムボックスにしまい、出てきた宝箱を開ける。宝石が散りばめられ複雑な記号と模様の入った篭手が入っていたので、鑑定する。
『結界結晶の篭手 結界生成・結界強度上昇特大アップ 自動修復大 攻撃命中率上昇大 防御力上昇中 攻撃力上昇中 武具操作アシスト 篭手の結晶部分に強力なシールドを作ることができる。また、強度は落ちるが、離れた任意の場所に結界やシールドを作る事ができる』
「これもまた、強力な装備だなぁ。下に行けば行くほど強くなるのか?」
俺はミスリルの篭手と結界結晶の篭手を交換してみるが、綺麗な見た目と裏腹にしっかりとした作りで丈夫そうだ。付け心地も良く、不思議なほど馴染んでいる。
「これは凄いなぁ。こんなの使ったら今更、革の篭手とか装備出来ないな」
辺りを見回し、何も無い事を確認してから、次の階に向かうべくそこを後にした。
B81階に到着した。ここもやけに広い階層らしい。歩いて行くと、湖や渓谷、遠くに火山も見える。………なるほど、ドラゴンエリアらしい。その辺をドラゴンが歩いている。カラードラゴンと言うのか? レッドドラゴンやブルードラゴンも居る様だ。また時間が、掛かりそうだ。……ドラゴンって食えるのかな?
B90階に到着した。B80階から2ヶ月かかった。宝箱からは、オリハルコンの武器防具が出ている。………いいのか? 数は少ないが、オリハルコンだぞ? お金は白金貨が出ている。……ザラザラと、金貨はもう出てこない。
レベルといい、装備といい、俺街に行っても大丈夫なんだろうか? お金も白金貨は流石に価値が高そうだ。白金貨以上は出てこない所を見ると、一番高い貨幣なのだろう。白金貨一枚、日本で一番価値の高い貨幣の一万円札と同価値とすると、数百万円分、一千万円近い金額になっている。
………まあ、やばくなったら、全員ぶちのめして逃げよう。他の街とか、他の国に行けば良いだろう。最悪ここに戻って来れば良いのだし。
大きな扉を開けると、三メートルぐらいの鎧を来て大剣と盾を構えた人と竜の中間の様な生き物が立って居た。
「竜人というやつか?」
「いや、ドラゴンジェネラルだよ」
「おお! 話せるのか!」
「まあな。しかし、ここのような大型ダンジョンの深層階まで来るとはご苦労な事だな」
「ああ、本当にこんな予定では無かったんだが、ここまで来たらついでだ一番下まで行ってダンジョンマスターに会って、情報をもらって行くことにするさ。……深層階と言うぐらいだ、もう直ぐ終わりなのだろう?」
「それでいいのか?」
「それでとは?」
「お前がその気なら、ダンジョンマスターを殺して新たなダンジョンマスターになることも、ダンジョンそのものを破壊する事も出来るだろう」
「何か恨みでも有るのか? 悪いが、ダンジョンを壊すつもりは無い。このダンジョンには助けてもらったからな。このダンジョンが無ければ、俺が死んでいただろ」
「ならば、ダンジョンマスターは?」
「それは向こうの出方次第だな。襲われれば返り討ちにするが、そうでなければ、話して帰ると思う」
「なるほど、本気なんだな」
「それはそうさ、元々ここに来たのは事故みたいなものだ、俺はどこか田舎でのんびり暮らすんだ」
「お前には難しいと思うが、頑張ってみるがいい」
「言われなくてもそうするさ」
「私ではお前に勝てないだろうが、戦わせてもらう。ああ、ちなみにダンジョンマスターに恨みなどない。ダンジョンマスターは我等の神だ。神をどうするつもりなのか、確認したかったのさ」
「………何かヤバい、宗教系?」
「違うから! …もういい、俺を殺して先に行け。だが、簡単に殺せるとは思うなよ?」
「あ、格好つけてる所悪いが、一つ聞かせてくれ」
「お前、ひどいな?!」
「おまえ等は、一部の例外を除き、死を怖れず向かって来る。弱い魔物もだ。不思議なんだが?」
「無視かよ……。まあ、いい。お前は知らないんだな。ダンジョンにはいくつか種類があるんだが、ここのダンジョンは完全掌握型。倒された奴らの魂は回収され、再び産み出される」
「よみがえるのか?」
「そう言う事だ。色々条件はあるらしいがな」
「条件?」
「そうだ、例えば魂ごと滅してしまう武器や魔法で倒されるとお終いだ」
「なるほど、そんな武器や魔法も確かに探せば有るかも知れないな」
「なに他人ごとみたいな顔してる」
「何の話だ?」
「お前がそう言う魔法を使ったのだろう? ダンジョンマスターより全員に、あの魔法だけはくらうなと言われている」
「あの魔法?」
「心当たり無いのか? 一応アイテムを渡して使わない様に約束させた、と聞いて居るが?」
「ああ、あれか。あるある、使うなと言われた魔法。対上位不死者用とか考えて折角作ったのに、ダメ出しくらったよ」
「そろそろ良いか?」
「そうだな、先に行かせてもらおう」
お互いに武器を構えて、相手の動きを伺った。一瞬の停滞後、ドラゴンジェネラルが大剣を振り下ろした。
「そんなの当たる訳がない」
見切りでごくわずかに動いてかわし、虎鉄を横凪に振るう。
ギイィン!
虎鉄は盾に弾かれた。
「盾ごとでも斬るつもりだったが………」
「特製のオリハルコンの武具だ、簡単に斬られてたまるか!」
激しく斬りつけるが、全て盾と大剣で防がれた。
「やるな、ではギアを上げよう」
刀速が上がり、ドラゴンジェネラルが防戦一方に追い詰める。
「グウウウ!」
ドラゴンジェネラルの口から呻き声がもれ、防具の無い箇所に細かい傷が刻まれて行く。
「終わりだ!」
更に刀速が上がり、ドラゴンジェネラルが苦し紛れにブレスを吐こうと口を開けるが、それより早く虎鉄がドラゴンジェネラルの首をはねた。
周囲を見回し、敵が居ない事を確認し武器をしまい、ドラゴンジェネラルの死体をアイテムボックスに放り込み、宝箱を発見した。
宝箱の中には、鎧が入っていた。鑑定して見る。
『竜王の鎧 防御力上昇特大 HP自動回復大 自動修復大 魔法ダメージ軽減中 形状変化 状態異常無効 背部のマントは大きさ形状を変化させることが出来る。戦闘時は小さく邪魔にならない様に、移動時は大きくフード付きに等、その時に応じた形状での使用出来る。また、竜の翼に変化させて飛翔可能』
「おいおい、飛べるのか。凄いな! ……あれ? 魔法でも飛べたよな? も、もしかして、魔法で飛んで砂漠を越えれたのか? そうするとかなり、早い段階での脱出が可能だったんじゃ……」
しばらく落ち込んだ後、竜王の鎧を身に付け、気を取り直した。
「さ、さあ後少しだ。早く迷宮を踏破して、街に向かおう」
辺りを見回し、忘れ物が無いか確認後、次の階層へ向かい歩き出した。
階段を降りてB91階に来た。壁は綺麗な神殿の様な作りに変わった。だか、一番の違いは敵のいなない小部屋と正面の大きな扉だ。
「ん? ボス部屋みたいな作りだな?」
扉を開けると、広い大きな部屋に大きなドラゴンがいた。
「良く来たな、人の子よ」
「また、話すドラゴンか」
「我は戦竜王。戦いの神の武具を守護せし者」
「守護者か、俺はタカだ。武具を守護すると言うのであれば、武具は要らないから通してくれ」
「我を倒さねば、下に行く扉は開かぬ」
「ならば、倒すまで! …少し知らなくて良いことを知ってしまいイライラしている。加減無しだ、覚悟しろ!」
「八つ当たり?!」
驚く戦竜王に、魔力とMPを通常の何倍も込めたストーンランス、アクアランス、サンダーランス、ファイヤーランスを各100本ずつ連続で叩き込んだ後、虎鉄に魔力を流し一気に飛び込み首を切り落とす。
「ガッ!」
何も出来ず、短い断末魔を上げて戦竜王は倒れた。戦竜王をアイテムボックスにしまい、辺りを見ると宝箱が有った。開けて見ると、ブーツが入っていた。鑑定して見る。
『戦神のブーツ 詳細不明』
「は? 鑑定で詳細不明は初めて見たな。神々の武具は鑑定不能か?」
手に取ると、光の粒子の様になり手に吸い込まれる様に消えてしまった。
「え? 消えた? ……よく判らないが、まあ、いい。先を急ごう」
B92階に降りて来た。やはりB91階と同じ作りで、大きな扉が有った。開けると広い大きな部屋に、ドラゴンジェネラルに似た人と竜の中間の様な生き物が立っていた。
「よく来たな、人の子よ。我は闘竜王だ」
「タカだ、戦おうか」
「まて、出来れば素手での戦いを望む」
「素手?」
「左様、戦い方の好みだ。もちろん人と竜との違いが有る。不利と思うなら、普通の戦いでも良いが?」
俺は、無言で全て装備をアイテムボックスにしまい、布の服になると、脚を肩幅に広げ腰を少し落とし拳を構えて、魔闘法・気闘法を同時に発動した。
「ありがたい! では行くぞ!」
闘竜王が、突っ込んで来るがただでさえ高いステータスが魔闘法・気闘法で更に爆発的に上がり、最早止まって見える。
向かってくる拳を左手でいなし、右手で鳩尾を抉る様に殴り、下がった顎を膝で蹴り上げ、空いた胸に左手に魔力を右手に気を込めて双掌をぶち込む。
爆散するかと思ったが、意外と丈夫で原形を留めたまま、砲弾の様に飛んで壁にぶつかった。一瞬だった為、気と魔力の練りが甘かった様だ。今後の訓練課題だろう。
ピクリとも動かないので、近づいて見ると既に死んでいた。死体をアイテムボックスに放り込み、現れた宝箱を開ける。中には篭手が入っており、鑑定すると『闘神の篭手 詳細不明』との表示で手に取ると、戦神のブーツと同じ様に消えてしまった。
「なんだこれ、どうなってる?」
不思議に思いながらも、考えてもわからず、先を急ぐ事にした。
B93階に到着した。やはりボス部屋みたいな作りだ。扉を開けると、巨大と言うほどでは無いものの、大きなドラゴンが居た。何となくだが、老竜に見える。
「儂は魔法竜王じゃ。お主の名は?」
「タカといいます」
ついご年配の方を前にした様に、丁寧な感じになってしまった。
「うむ。儂を倒して、先に行かねばならんのだろう? 儂は名の通り魔法が得意じゃ。魔法戦はどうかの?」
「わかりました」
適当に距離を取って、大きく深呼吸をした。
「行きますよ?」
「来るが良い」
無詠唱でサンダーランスを連発するが、魔法竜王の体に当たる前に何かにぶつかり弾けてしまった。
「儂の防護結界だ。容易く破れはせんぞ?」
俺はサンダーランスを絶え間なく放ち続けるが、全て結界に阻まれてしまっていた。更にサンダーレインも合わせて放つが、やはり結界を破る事は出来なかった。
「無駄じゃよ。その程度では効かぬ」
「その中から攻撃出来るのですか?」
「さて、どうじゃろうか?」
答える気は無さそうだ。まあ、自分から手の内をさらす者も居ないか。サンダーランスを左右から挟む様な軌道に変え、魔法竜王の正面を明けた。サンダーランスとサンダーレインに加えて、プラズマブラストを放つ。大木程もある極太のレーザーの様な今まで以上に強力な雷撃が、正面から魔法竜王の結界にぶち当たった。
「グウウウ! 流石じゃ! しかしまだ、儂の防護結界を破る事は出来ぬ」
結界の維持に力を取られるのか、呻く様に何かを振り絞る魔法竜王。俺は均衡を破るべく、新たな魔法を放つ。
「影より来たれ、闇の御手よ。彼の者を包む、見えざる守りの衣を剥ぎ取り深淵へと持ち去らん! ダークハンドシールドイーター!」
俺の背後の影から、黒い手が無数に伸びて魔法竜王の防護結界に触れ、侵蝕して行く。
「わ、儂の防護結界が!」
闇の手に侵蝕された防護結界は、雷撃を防ぐ事が出来ず、魔法竜王は閃光に飲まれて行った。
閃光が消えた後には、ボロボロになり全身から煙りをあげて息絶えた、魔法竜王の姿があった。
俺は魔法竜王をアイテムボックスに放り込み、出てきた宝箱を開ける。中には美しい冠が入っており、鑑定すると『魔法神の冠 詳細不明』との表示で、手に取るとやはり消えてしまった。
もう気にせずに、次に行こう。
B94階もボス部屋のようだ。大きな扉を開けると、中に剣を構えたドラゴンが居た。
「………いや、ドラゴンのまま剣って使い辛いだろう?」
「試してみると良い。俺は剣竜王だ」
「タカだ、そうさせてもらおう」
虎鉄を抜いて、ゆっくりと歩み寄り、鋭く斬りつけた。
「そう簡単に斬られてやるわけには、行かないな!」
剣竜王が剣で受け止め、激しい剣撃の応酬が始まった。
あの後、剣竜王からは『剣神の剣:フツヌシ 詳細不明』が出た。B95階は武竜王から『武神の鎧 詳細不明』B96階は光竜王と闇竜王の双子竜から『光神闇神の双盾 詳細不明』B97階は炎竜王から『炎神の剣:カグツチ 詳細不明』B98階は雷竜王から『雷神の剣:タケミカズチ 詳細不明』B99階は竜神から『竜神のマント 詳細不明』が出た。全て手に取ると同じように消えてしまった。……タケミカズチは欲しかった。少し泣きそうになった。強そうだったのに……。
そして、B100階までやってきた。一際豪華な扉を抜けると、机や椅子、書棚が有り執務室の様な造りになっていた。
「これは……」
「来たか」
今までの様子からのギャップに、驚く俺に奥から出てきた美女が声をかけて来た。
「まったく、ずいぶん酷くやってくれたの? 分体とは言え堪えたわ」
「誰だ?」
「最下層へようこそ。妾がダンジョンマスターぞ」