11話 邪神の使徒
王女様に渋々ついて行くと、王城の奥へと進んで行く。やはり王様の寝所へ向かうのだろう。
王女様が居るからか、特に止められる事もなく兵士が立ってる豪華な扉の前に来た。
「マリア様がお見えです」
兵士が中に取り次ぎ、中から扉が開けられた。小部屋の様になっており、奥にまた扉が有る。後ろの扉が閉まると、奥の扉が開けられた。
中は予想通り王様の寝所の様で、豪華な天蓋付きの大きなベットが有り、その周りに人が集まって居た。
「おはようございます、お母様。お父様のご様子は?」
「おはよう、マリア。……あまり良くないわ…」
王妃様だろう、三十代後半ぐらいの美しい女性が、表情を曇らせたまま答えた。
王妃様の横には神官、薬師、医師らしき人物も控えて居るが全員表情が暗い。思った以上に悪いらしく、他の王子や王女は病が移ってはいけないと、離されているらしい。
「お母様、この方が昨日お話した冒険者のタカさんです」
「初めまして王妃様、タカです。何ぶん粗野な冒険者です。失礼が有りましたらご容赦下さい」
「マリアの母、シルビア・シェル・オオキです」
「……大木さん?」
「この国を作った勇者がオオキと言う、名字だったのです」
「な、なるほど」
「お母様、そんな事より薬を分けて頂きました。お父様に飲ませて差し上げましょう」
「まあ、ありがとうございます」
「あ、その前に一応鑑定をして下さい」
「そうだったわね」
鑑定士が呼ばれ、その場にいた薬師と共に二重、三重に鑑定された。
「ま、間違い有りません! オールキュアポーションです! 全ての状態異常を治す準エリクサー級の霊薬です!」
「こ、この薬を飲めば王様は必ずや回復されるでしょう!」
「ああっ! タカ様! ありがとうございます!」
皆が明るい笑顔でお礼を述べて来る。
「落ち着いて下さい、まだ王様は治っていません。その薬を飲んで頂かないと」
「そうしましょう。あなた、薬よ。飲んで下さい」
控えていた侍女達が、寝ていた王様を支えて薬が飲みやすい体勢にしている。
その時初めて王様を見る事が出来た。
「これは……」
「どうしたの?」
思わずつぶやいた俺の言葉に、王女様がたずねて来た。
「まずいかも知れん」
「え?」
王様を包む霞のような黒い物は、病では有り得ない。隠蔽されているのか、酷く分かりづらいがあの禍々しい気は何だと言うのか。
イヤな予感を感じつつ眺めていると、王様が王妃様の助けを借りながら何とか薬を飲んだ様だ。
王様の身体を回復魔法をかけたときと同じ、不思議と眩しくない光が包む。
「おお! 身体が楽になった!」
王様が自身の手や体を見て、喜んでいる。事実回復したのだろう。自力で起き上がり、ベットのはじに腰かけて横にいた医師や薬師の診察を受けている。
「間違いなく、快癒されております」
「ようごさいました」
皆が回復を祝う。
「そなたが薬を持ってきてくれたのか。礼を言う。褒美を取らせねばならんな、何か望みはあるか? ……険しい顔をして、どうした?」
「恐れながら、気が早いかと」
「なに? いったい………グッ!? カハッ!」
王様が胸と口元を押さえ、咳き込むと吐血した。
「なに?!」
「治ったのではなかったの?!」
「バカな! 完全に回復したはずだ!」
「だが、現にこうして苦しまれて居る!」
「静まれ!!」
慌てふためく周囲を王様が一喝した。
「……見苦しい所をお見せした。そなたは何か知って居るのかな?」
かなり苦しい筈だが、胸を押さえつつも静かに俺に尋ねてきた。
「知っている訳ではなく、分かった事があります。ですが、その前に高位の魔導師と神官をお呼び頂けますか」
「それには及びません、既に控えております」
最初から部屋に居たらしい。
「それは失礼しました。では、魔法の使用を許可頂けますか?」
「何を!」
周りの家臣や護衛らしき人々が騒ぎ出す。まあ、当たり前か。魔法を使うと言う事は、殺せると言う事にもつながるしな。しかし、王様はそうした人達を諌めると鷹揚に頷いた。
「良かろう」
「では、失礼します。キュアカース! アンチカース! ホーリーサークル!」
許可が出たので周りが何か言う前に、立て続けに詠唱破棄で魔法を使った。無詠唱にしなかったのは、分かりやすくするためだ。
キュアカースは呪いを解く魔法。アンチカースは呪いに対する抵抗力を上げる魔法。ホーリーサークルは邪悪な物を寄せ付けない結界魔法だ。
「楽になった。……世は呪われて居たのか?」
「そうですね。かなり高度な隠蔽がされた呪いの様でした。しかも今現在も呪われ続けております。だから、オールキュアポーションで一度治ってもまた元に戻りました。この部屋に結界を張りましたので、ここにいる限りは大丈夫ですが、ここを出るとまた呪われてしまいます」
「なるほど、そうか。して誰が呪って居るか判るか?」
「申し訳有りませんが、あまり呪いには詳しく無いので判りません」
「いや、無理を言った。助けて頂いただけでもありがたい。あとは、こちらで調べよう。……近衛兵団長、神官長、宮廷魔導師長! 聞こえたな?」
「「「ハッ!」」」
「すぐに調べて、捉えよ!」
「「「かしこまりました!」」」
慌てて出て行こうとする3人に声をかけた。
「参考になるか分からないけど、呪いの強さから結構近くに居ると思う。遠くても王都の中だね。それから、最近王様が触った物の中に呪いの媒介になるような呪具が有るはずだから、それを探して見ると犯人に繋がるかも。かなりの力を持った道具だと思うから、王様が倒れる前に触った物を調べると良いかも」
「かたじけない!」
「衛兵! 王の暗殺未遂のくせ者が王都に潜んで居るぞ! 調べろ!」
「魔導兵は魔法の痕跡を探せ!」
「神官達は呪いがどこから来るのか調べろ!」
「文官達は王が倒れる前に触った物をリストアップしろ!」
「騎士団は門を閉鎖しろ! 不審者を逃すな!」
「王子達の身辺にも護衛を回せ! 次は他の王族達ぎ狙われるかも知れん!」
「休み?! 馬鹿やろう! 一大事だ! 非番の連中も全員呼び出せ!」
一瞬で大騒ぎになった。
「………うわ~凄い事になったなぁ。忙しそうだし、俺帰って良いですか?」
「「「「駄目です!!」」」」
なんか怒られた。
バタバタするなか待っていると、兵士の1人がやってきて王様に許可を求めた。
「神官と魔導兵が宝物庫の探索の許可を求めております。いかが致しますか?」
「許可する」
「了解しました」
出て行く兵士と入れ替わる様に、文官が入って来た。
「王のご予定を再度確認した所、先日他国の貢ぎ物を検分しております。魔力を秘めた物の中で、最近新たに触れられた物はそれだけになります」
「今はどこにある?」
「魔力を秘めた物は宝物庫かと」
「なるほど。タカ殿は呪具を見れば分かるかな?」
「恐らく分かると思います」
「では、見て来てくれぬか? 出来る事なら、破壊か封印を頼みたい」
「乗りかかった舟ですし、引き受けました」
「頼む」
文官に案内してもらい宝物庫に行くと、既に神官と魔導兵が集まって調べていた。
「すみません、王様の依頼で手伝いに来ました」
「ここは我等で十分だ」
「そうは行きません。王様の指示ですから」
彼等も自分達の縄張りを荒らされるのは面白く無いのだろう。拒絶されたが、無視する。文官に先日の貢ぎ物が置いてある場所を教えてもらった。
王様に献上されるだけあって、豪華で貴重な物が沢山積んであった。その中でも一際、豪華で強い魔力を内包した杯が1つ飾られていた。
「あれか?」
かなり高度な隠蔽が掛けられている様だが、よく見ると微かに呪いの呪力も見て取れる。
「間違い無い。壊すか」
「まて、本当か?」
近くに居た魔導兵が、口を挟んで来た。やはり自分達の手でやりたいのか?
「確認するなら、早くしてくれ」
「黙れ!」
神官と魔導兵が杯に魔法をかけて調べて居る。遅いなぁ。見て判らないのか?
「確かに何か隠されて居るか?」
「その様だ。もっと詳しく調べなければ」
「馬鹿な事言ってないで破壊しろ。王様を苦しめて居る原因だぞ? また王様が呪われたらどうする」
少し脅してやると、黙ってしまった。
「それを壊されては困ります」
煌びやかな服を着たイケメンが現れた。……何だ? 敵か?
「誰だ? 何しに来た?」
アイテムボックスから虎鉄を出して、いつでも抜ける様に構える。
「……ほう、アイテムボックスに日本刀……異世界人ですかな?」
「誰だと聞いて居る」
「その貢ぎ物を持ってきた使者ですよ。我が国の大切な貢ぎ物を壊されては困ります」
その言葉に俺はイヤな物を感じ、相手を鑑定してみる。……ああ、なるほど。
「そうか、お前が王様を呪った犯人か。わざわざ出てきてくれて、ありがとうよ」
俺の言葉に周りの連中がギョッとする。
「おい! 早く杯を壊せ!」
「他国の使者を侮辱するとは……大問題になりますよ?」
「他国の王様を呪う方が大問題だろうが。……ボケッとするな! 王様を呪う呪具を早く壊せ!」
狼狽える神官と魔導兵だったが、近くにいた騎士が俺の声に反応して剣を杯に叩きつけた。
キイィィン!
「なに?!」
甲高い金属音と共に騎士の剣は杯に当たる前に弾かれてしまう。
「クックックッ! 私の神器はそんなナマクラでは傷一つ付きませんよ!」
「チッ! どけ!」
俺は使者を警戒しつつ、騎士を退かせると虎鉄で斬りつけた。
ガギギギィ!
「!」
俺の虎鉄は異音を立てながら杯の周りの結界の様な物を斬り裂き、杯本体に当たったが斬る事は叶わず、杯を大きく弾き飛ばしてしまった。
「なんと!?」
壁にぶつかった杯を、使者が慌てて魔法を使って手元に引き寄せていた。
「虎鉄で斬れないとは……いや、俺の腕が未熟と言う事か」
杯を見た使者が怒りに体を震わせていた。
「私の神器を傷つけただと!」
「何が神器だ。お前が作った、ただの魔導具だろう? せいぜい少し良く出来た呪具と言った所だ」
俺が虎鉄で斬りつけた事により、杯に少し傷がついた様だ。俺としては自分の腕の未熟さに、へこんでしまう。
「黙れ! 殺してやる!」
「出来もしない事を言うな。それとも邪神をここに呼び出すのか?」
「な、なに?!」
「邪神の使徒なんだろ? その呪具だって邪神に作るのを、手伝ってもらったんじゃないのか?」
先程見た鑑定では、邪神の使徒となって居た。間違いなく、こいつがこの騒動の原因だろう。
「……なる程、さすが異世界人ですね。いろいろ厄介だ。ここで死んでもらいましょう」
「お前が死ね」
俺は縮地で相手の懐に飛び込むと、胴体を真っ二つに斬り裂いた。