1話 異世界転移と迷宮
気がつくと見知らぬ空間に居た。
「え? ……どこだ、ここ?」
どこまでも続く白い空間…辺りを見回すと少し離れた場所に、ポツンと一組の机と椅子が置いてあった。
「ええと…すみません! どなたか居ませんか?!」
恐る恐る声を出してみるが、反応はない。怪し過ぎるが机に向かって歩き出し、直前の状況を思い出す。
少しだけブラック企業気味のきつめの仕事を終え、家に帰る途中だったはず。時刻は深夜で人通りもなく、少しうつむきながら歩いていた。……で気がつくとここにいた。
「……まるでわからん」
異常な状況でも意外と落ち着いた自分に安心しつつ、机にたどり着く。そこにあったのは無造作に置かれたタブレットだった。
「……夢か?」
自分の正気を疑ってしまう。そこには『佐藤 貴志 三十五歳 男』の文字が……。
「なんで俺の名前が……」
無意識に椅子に座り、タブレットを手に取ってしまった。
『間違いありませんか? はい いいえ』
俺は震える指先で『はい』をタッチする。
『あなたには異世界に行っていただく事になりました』
「なんで?!」
驚き怒りがこみ上げて来る。先程の(意外と落ち着いた自分)などと思ったのが恥ずかしくなる程動揺していた。瞬間的にテレビのドッキリを疑い辺りを見回したが、そこにあるのは非現実的などこまでも続く白い空間。
多少のあきらめと共に頭が冷えて、冷静になる。幸か不幸か、俺は独身一人暮らし。離れて暮らす親は心配するかもしれないが………。
『その世界は魔物が多数生息する剣と魔法の世界です。そこで何をなすかは、あなたの自由です』
「魔王を倒せとか、いわれないのは良かった」
『では、最初にスキル数を決めて下さい。(一部のスキルは努力次第で後から取得可能です)』
グルグル回る数字をタップすると『11』の表示。一つ前は15だったが、一桁の数字も多かったから、まだいい方なのだろう。……やり直しもできなかった。
『スキルを選択してください』
膨大な数のスキルが表示される。先程の11と言うのは枠の様な物らしい。いいスキルは複数の枠を使うようだ。……『不老不死』など100も使う。
「…取れないスキルは消して欲しいな…」
思わず愚痴が出てしまうが、今後の人生にかかわるので隅から隅まで確認する。
「……う~ん、魔物もいるらしいからある程度は戦える様にした方がいいのか? でも、田舎で物作りでもしながらのんびり暮らしたいかな? 今まで忙しかったし」
スキルは一長一短火魔法をスキルレベルマックスまで上げると10も枠を使ってしまう。火魔法特化のスキルなら、5で済むが他の魔法は取れなくなるらしい。迷いつつ俺はスキルを選択していく。
『アイテムボックス』
生き物以外なら、何でも入り中では時間が経過しないらしい。合金を元の金属に分けるのは無理だが取った動物を肉と皮などの簡単な分解もできる。アイテムボックスはいくつか種類があり、時間の経過するものや分解出来ない物もあった。収納量も小から無限まで沢山有ったが全て同じ一枠だったので、一番いいものを選ばせてもらった。
『鑑定』
様々な物の名前や特長などの詳細を読みとる。これも簡易鑑定など複数有ったが、全て一枠なので一番いいものを選ぶ。
『異世界言語(読み・書き・発音)』
……危ういところで気がついた。そのままだが、なかったら終わっていた。
『魔導錬金術』
魔力を使ってポーションや素材などを作るらしい。このスキルを使って田舎で雑貨屋をするか、アイテムを売ってノンビリ暮らそう。武器や防具などは別のスキルになるらしいが、日用雑貨ぐらいなら作れそうだ。二枠だった。
『体術』
身体の動きをサポートするスキル。武器術と組み合わせると、より効果的。俺は運動神経は普通だが、特別良いとは言えない。あるに越したことはないだろう。……運動神経は普通だ、念のため。
『刀術』
……刀を使う時にサポートするスキル。まあ、珍しいかもしれないがあまり戦うつもりもないし、念のため半分、趣味半分ぐらいかな。生活が落ち着いたら鍛冶屋に作ってもらおう。
『全属性魔法』
三枠使用したが、全ての属性魔法が使用可能なスキルを選んだ。二枠の基本四属性魔法と迷ったが、こちらは聖属性も使えて回復魔法も使えるようだ。ただ、スキルレベルは非常に上がり辛いとの事。まあ、さっき言った通りあまり戦闘する気は無いので、少し使えれば大丈夫だろう。
『取得経験値増加』
残った一枠はかなり迷ったがこれにした。読んだまま。これが有れば日々のちょっとした物作りでも、魔導錬金術のレベルが上がり出来ることが増えて行くはず。
「……まあまあかな?」
これから行く世界で暮らしたことが無いので、絶対とは言えないがそれなりに対応は出来るはず。満足し、次に進む。
『ステイタスを決めて下さい。佐藤 貴志 十五歳 男』
名前も年齢も性別も変えられるらしい。年齢は十五歳で成人扱いのため、デフォルトだと十五歳の様だ。
「本当なら、体力のある若さに成れるのは嬉しいな。名前だけ当たり障りのない様に変えるか」
『タカ 十五歳 男』
これで決定する。次に出たのは各パラメーター。百ポイントをHP MP 力 体力 知力 魔力 敏捷 の七箇所に割り振る様だ。
「これは簡単だな」
力 体力 知力 魔力 敏捷には均等に十ずつ割り振り残り五十。HP MPに半分ずつ二十五を割り振る。
『最後にスタート地点を選んで下さい』
「これは、また迷うなぁ。……いきなり田舎も悪くはないが、田舎は閉鎖的だったりするし。……少し大きな街に行って、経験と実績を積んでからの方が無難か?」
思わず身を乗り出し考える。その時左手がタブレットの画面に僅かに触れてしまった。
「おっと危ない危ない……?」
『砂漠の大迷宮に決定しました』
「いやいや、有り得ないから、キャンセル、キャンセル」
『では、行ってらしいませ。良い異世界生活をお楽しみ下さい』
「待って!! えー!?」
意識が遠のき、どこかに吸い込まれていく様な感触。最後の最後でやっちまった!?
気がつくと見知らぬ空間にいた。
「少し前にも同じ事を考えた様な?」
見知らぬ空間なのは同じだが、今度は砂漠のど真ん中だった。テレビで見た様な砂と岩の世界がどこまでも続いていた。
「本当に異世界に来ちまった……」
心のどこかで疑って居たのか、すぐには信じられなかった。どれぐらいボーっとしていたのか、遠くに大きな筒が砂中から、飛び出して来るのが見えた。何だろうと思い目を凝らすと
『サンドワーム LV25』
「魔物だ!!」
ボーっとしていい世界ではなかった。慌てて近くの大きな岩に隠れた。
「食料もないし死んだか? 俺? あ、でも『砂漠の大迷宮』だったな? 迷宮の中に入れば何かあるか?」
辺りを見回すと、隠れて居る大岩に人が入れるぐらいの亀裂があった。周囲を警戒しながら近付くと、奥に階段が見える。そっと覗いて見るが奥が深く迷宮で間違いないだろう。
「入る前にいろいろ考えないと……」
服装はジーンズにデニム生地のシャツ。靴はランキングシューズ。持ち物はまずポケットに財布とスマホ、家の鍵。…ここではゴミと変わらん。鞄代わりのリュックには…コンビニ弁当は食べて捨てたよな……ノートとボールペン、シャープペン、消しゴム、空になった直飲みタイプの水筒。ペットボトルのジュース、ぬるくなってるがこれは嬉しい。食料はないと思っていたけど、おやつ代わりのカロ◯ーメイトが二箱あった。嬉しい誤算だ。
「次はスキルとステータスの確認だな。ステータスオープン!」
タカ 十五歳 異世界人 男 LV1
職業:無職 状態:普通
HP:55 /55 MP55/55
力:20 体力:20 知力:20 魔力:20 敏捷:20
所持スキル:アイテムボックス 鑑定LV1 異世界言語 魔導錬金術LV1 体術LV1 刀術LV1 全属性魔法LV1 取得経験値増加LV1
「決めた通りだな。あとスキルの確認もしないと……」
ステータスはもういいと思った瞬間的、目の前にあったステータス画面が消えた。一々声に出さなくても、開いたり閉じたり出来るらしい。
次はアイテムボックスと心の中で言うと、目の前の空間が裂ける。試しにリュックを入れて閉れ、と考えると裂けた空間が消えてしまう。ただアイテムボックスに意識を向けると、収納リストが脳裏に浮かび異世界の鞄があった。なかなか便利だ。
「魔法も試すか…」
スキルの使い方は取得した時から、何となくわかる。意識を集中し言葉を紡ぐ。
「ただよう水よ、集え! ウォーター!」
体の中から、温かい何かが少し抜けて手の平から、水が溢れる。
「おお!」
慌てて飲む、うまいきれい水だ。少し服が濡れてしまったが、すぐに乾くだろう。水はもう止まった、次は水筒を用意してから試そう。
「これで少し生きてられる。……後は戦う方法だな。武器はないから魔法主体か?」
少し離れた岩壁に指先を向ける。
「小さき火よ、集い敵を打て! ファイアーブリット!」
指先から、小さな火弾が飛び出し岩壁当たりはじけて、小さな焦げ跡を作った。
「威力は低いが問題なく使える。しかし、これだけで倒すのは難しいな。やはり武器はないと駄目か」
ここでようやく俺のメインスキル(になる予定)の魔導錬金術の出番だ! 武器は作れない、でも日用品の中には、武器として使える物もあるはずだ。スキルに意識を向け、作れるリストを調べていく。
「思った通り包丁は作れる……でも斧は無理か伐採用とかで行けるかと思ったが……」
思い付く中で、一番攻撃力の有りそうな斧は駄目らしい。他は何が有るだろうか?
「……草刈り鎌も作れるけど、戦うのは難しいなぁ……あ! 鉈が作れる! 一つはこれだな。……魔導錬金術!」
身体から多量のMPが抜けていき、手に集まった光の中から少し大きめのシンプルな鉈が現れた。
「おお! 中々良いな! これなら多少は戦えそうだ」
鞘を腰に取り付けて、鉈を抜き振るってみるが、扱い易い。メインの武器とは行かないが、サブウエポンぐらいにはなりそうだ。
「防具も欲しいが、防具そのものは作れない。……だけど……」
思い付いた事を試す為に、丸い木の板、皮のベルト、釘とカナヅチを作って行く。板にベルトを三本、釘で固定し腕にベルトで縛り付けてみた。
「まあ、何とか盾として使えそうだな」
鑑定してみると、簡易型スモールウッドシールドの表示。やはり材料を作り、その材料でを手作りすれば良いらしい。
まだまだ、やりたい事は多いがMPが残りわずかだ。水筒を出し、わずかなMPで何とか水を出すとそれを飲みながら、少し休憩する。
「休めばMPは少しずつ回復するのか、……まだMPは多くないから休み休みやるしかないな」
MPが回復したら、今度は寝床を作ろう。休憩後。
「さて、魔物の居る世界で安全に寝るには……この場所だと岩の中かな?」
土属性の魔力で、岩に穴を空けて行く。レベルが低い為か、MPがドンドン減って行く。
「ぐぅ! 地味にきつい……」
幾度かの休憩を挟み、何とかニメーター四方の小部屋が完全した。入口は小さく作り、木の引き戸を付けた。……建て付けが悪くやたら重い。
もう日が暮れて来た、残りのMPを振り絞り畳一枚と毛布を作り、気絶する様に眠りについた。
翌朝、カロ◯ーメイトと水で食事を済ませる。正直、物足りないが他には何もない。今日は食料を見つけてこないとならない。
「……行くか……いや、その前に……」
回復したMPでメインの武器になる道具を作る。出来たのはツルハシ。…使いづらいが破壊力はある。
「よし! 行くか!」
俺は迷宮へ足を踏み出す。
迷宮の入口に当たる階段を降りると、岩盤を掘った様な洞窟に成っていた。車がすれ違えそうな、かなり広い作りだ。壁自体がうっすら光っていて、視界は確保出来ている。
「思ったより静かで、上より涼しく過ごし易いのかな?」
今のところ、敵らしい物は見えない。慎重に歩いていくと、カサカサと音が聞こえて来た。やがて見えて来たのは子犬程もある、大きなサソリだ。鑑定すると、サンドスコーピオンとの表示。先制を取るために、魔法を使う。
「小さき火よ、集い敵を打て! ファイアーブリット!」
撃った火弾は、サソリのすぐ横の床に当たり火の粉を撒き散らす。
「ハズれた?! 魔法は必中じゃないのか!」
驚く俺に、サソリは意外と素早い動きで近づいて来る。
「もう一度! 小さき火よ、集い敵を打て! ファイアーブリット!」
今度は右足を二本吹き飛ばし、胴体はじに命中した。動きの鈍ったサソリに、ツルハシを振り下ろすがかわされてしまった。
「くそ! あたれ!」
何度も振り下ろし、四度目でようやくツルハシがサソリに突き刺さった。
「やった!」
サソリは少し動いていたが、やがて死んだ。
「な、何とか倒した……なかなかうまくいかないな……」
反省すべき点は沢山ある。まず、武器が当たらない……武器って言うか、ツルハシだしな。元々動かない地面などを掘る道具だ、素早く動く虫に当てるのは大変過ぎる。普段から使用して、手になじんでいるならともかく、俺はあまり触った事もない。
次に魔法だな。小さい頃やったゲームだと、魔法は必中だったが現実はそこまで甘くなかった。だが、だいぶ魔力の動きがわかってきた。
取ってはいないが、タブレットで見たスキルの中には無詠唱・詠唱破棄・詠唱短縮などもあった。無詠唱は声に出さなくても、魔法が使える。不意打ちにも便利だし、相手の意表をつけるかもしれない、今一番欲しいスキルだ。詠唱破棄は魔法名のみで、詠唱短縮は呪文をある程度略して、魔法が使える。試しに魔力を強く意識して、ファイアーブリットを心の中で唱えてみる。
「……………………うんともすんともいわねぇ」
普通に失敗した。やはり、いきなり無詠唱は無理か。
「ファイアーブリット!」
……何も起きない。詠唱破棄も失敗だ。最後の詠唱短縮に望みをかけ、魔法をイメージし体内の魔力を意識する。
「火よ集え! ファイアーブリット!」
火弾が指先から、出て迷宮の壁を焦がす。
「お! 上手く行った!」
これでまた少し便利になった。練習すれば、いつか他のも使えるかな? 探索を続けようかと思ったら、急にふくらはぎに痛みが走る。
「痛っ!!」
慌てて脚を見ると、蛇が噛み付いて居る。
「やばい! いつの間に!」
腰の鉈を抜き、振り下ろす。上手く一撃で首を切り落とした。しかし、脚に痺れが広がって行く。
「毒か?! 聖なる力よ、毒を消し去る光となれ! キュアポイズン!」
淡い光と共に、痺れが段々消えて行く。
「油断してたか。 騒ぎに他の魔物が、寄って来てたのか」
慌てて周囲を警戒し、他に何も居ない事を確認後倒した魔物をアイテムボックスに収納し、その場を離れた。
少し歩くと大きなトカゲが見えた、こちらには気がついていない様だ。鑑定するとデザートリザードの表示、頭から尻尾の先まで一メートルはありそうだ。
息を潜め、作戦を考えよう。先ほどは慌てて、毒のみ治療し傷は治してないが、少しチクチクするぐらいで動きに問題はない。
多少オーバーキルになっても、魔法を連発し少しでもHPを削ろう。近づいて来たら、ツルハシで攻撃ではなく牽制する。トカゲに大きな隙が見えた時だけ………鉈で攻撃するか。
あと、多少攻撃力が高そうだと火魔法ばかり使っていたが、他の属性も試して見よう。静かに深呼吸し、強く魔法をイメージする。
「風よ集え! エアーバレット! 土よ集え! ストーンバレット! 冷気よ集え! アイスバレット! 光よ集え! ライトバレット! 闇よ集え! ダークバレット!」
魔法の構成、発射から着弾まで、しっかりイメージした結果全弾命中した。ただ防御力が高いのか、傷だらけになりながらも近づいて来る。
正面から横に素早く移動し、こちら追いかける様に向けてきた頭に、ツルハシの横で殴る。
「グギャ!」
のけぞったトカゲに、更に魔法を叩き込む。
「水よ集え! アクアバレット! 雷よ集え! サンダーバレット!」
痺れたのか、痙攣するトカゲの首に鉈を振り下ろすと、骨を断つ感触があった。鉈は首半ばまで刺さりトカゲは息絶えた。
「やった! 今のはイメージ通り上手く戦えた!」
トカゲをアイテムボックスにしまうと、辺りを警戒するが何も居ないようだ。少し疲れた俺は、来た道を引き返した。
家(仮)に戻った俺は水を飲み、一息ついた。初めての迷宮はかなり緊張していたらしい。家(仮)は、まだ1日ぐらいしか居ないが自分で作った為か、妙に落ち着く。
「最後の戦闘は、我ながら上出来だった。もっと動きながら、魔法主体で戦わないと」
動く事自体は凄く良く動けた。スキル体術の影響か、以前より身体が軽い。
魔法も良く使えている。ただ、威力は低い。多少攻撃力のある火魔法でも、それは同じ事だ。それなら多少の差より、追加効果のありそうな雷魔法の方が使い勝手が良いかも知れない。まあ、状況と相手次第で選択かな?
「一番の問題は武器防具だな」
防具は盾みたいに、少しずつ作るか。ゲームみたいに、迷宮の中に落ちてないかな? 余裕が出来たら、探して見よう。
……武器は……どうしたらいいのか……。ツルハシでは上手く戦えなかった。包丁の方が良いかも、知れないな。魔導錬金術を使い、牛刀と大きめの柳葉包丁を作って見た。
「悪くは無いが……鉈と大差ないなぁ。持ち手を作り替えたらいいのかな?」
どういう風に作れば、良いのかしばらく悩む。持ち手は木なので植物魔法という樹木を変形させたり、成長を助ける魔法を使い、指の形に変形させる。
「使い易くなったが、包丁は包丁だな。………ん? 植物魔法? ………そうか!」
まだレベルが低い為、植物魔法で木材は作れないが、魔導錬金術で作った木材なら、加工出来る。
さっそく魔導錬金術で、極力硬くしなやかな木材を作り出す。黒い謎の木材が出来た、鑑定するとアイアイウッドの表示。鉄の様に硬く重い木らしい。
この木材を、植物魔法で木刀の形に変形させる。
「出来た!」
素振りして見るが、非常に使い易く刀術の補正か自由攻撃を繰り出せる。
「満足! …………って馬鹿か俺は!」
良く考えたら、金魔法もある。鉄棒を作って、同じ様に刀も作れるはず。やって見よう。
…………失敗した。俺のレベルの低い金魔法だと、刃をつけるまでは行かなかった。それならと、砥石を出して何時間もかけて研いでみたが、鑑定結果は模造刀の表示。
それはそうだ、芯も折り返しも火入れも何も無いんだからそうなる。少しでも刀が作れる、と思った数時間前の自分を殴りたい。
「……そろそろ昼でも食べるか」
先ほど倒した魔物三匹を出してみる。サソリ、ヘビ、トカゲ………喰えるのか?
まず、サソリを鑑定するとサンドスコーピオンの死体、毒は無い。……食べられるらしいが、虫はハードルが高い。
次にヘビを鑑定すると、サンドスネークの死体、毒は無い。これなら、大丈夫たな。昼はこれにしてみよう。
念の為トカゲも鑑定すると、デザートリザードの死体、毒は無い。これも食べられる様だ。
三匹共一度アイテムボックスにしまい、ヘビを肉、皮、骨に分けてから、肉だけを出してみる。
「本当に肉になった。謎だけど便利だなぁ」
竹串を作りにくを刺した所で、焼き方に悩む。
「生は怖いし、魔法では火加減が出来ないし……作るしかないか」
かまどと金網をつくり、炭を作って完了。魔法で火をおこして、ヘビ串を焼く。魔導錬金術で作った塩を振り完成。恐る恐る食べる。
「意外と旨い。鳥肉に近いかな?」
淡泊な味だが、腹が減っているからか旨く感じる。食が進み、あっという間に食べ終わってしまった。水を飲むと少し休憩した。
休憩がてら、ステータスをみる。
タカ 十五歳 異世界人 男 LV2
職業:無職 状態:普通
HP:80/83 MP12/83
力:30 体力::30 知力:30 魔力:30 敏捷:30
所持スキル:アイテムボックス 鑑定LV1 異世界言語 魔導錬金術LV2 体術LV1 刀術LV1 全属性魔法LV1 取得経験値増加LV1 詠唱短縮LV1
ステータスポイント:1 スキルポイント:1
「お! レベル上がってる!」
ステータスは約1.5倍。スキルも魔導錬金術のスキルレベルが上がり、新たに詠唱短縮のスキルを取れた様だ。謎なのは、ステータスポイントとスキルポイントだな。
色々調べて見ると、ポイントを使い、スキルレベルやHP等の数字を増やせるらしい。これは今は貯めておこう。
魔導錬金術のレベルが上がり、何が変わったのか? どうやら、錬金にかかる時間やMP効率が微妙に良くなったのと、作れる物が少し増えた様だ。
その増えた物の中に、小麦粉と胡椒が有った。基準がわからないが、小麦粉はありがたい。パンはイースト菌がないので無理だが、何か主食系は作りたい。
「休憩してMPが回復したら、部屋も拡張したいなぁ」
部屋を見回して、今後の予定を考える。部屋の隅に銀色の、五百円玉ぐらいの物が落ちている。
「なんだ?」
よく見ようとすると鑑定が発動した。
『シルバースライム LV1』
「魔物?!」
「ピ!」
声を上げると、小さく鳴いて見えなくなってしまった。少し待つとまた現れる。
「なんだ、こいつ? 魔法打っていいのか?」
「ピ!」
また、隠れた。しばらく待つと、また現れる。
「………変なん奴だな? 言葉がわかるのか?」
「ピ! ピ!」
「…返事した」
上下に少し揺れて、アピールしている。
「友好的な魔物って奴か? 残念ながら、テイミングのスキルは持って無いんだよな」
「ピ……」
少し落ち込んだらしい。そして、食べ終わった串をじっと見ている(様な気がする)。
「…腹減ってるのか?」
「…ピ…」
「何食べるんだろ?」
ゴミとなった、ヘビの骨と内臓を出してみる。
「ピピ?」
ヘビの骨を見ながら、いいの? と聞くように揺れる(たぶん)。
「食べれるなら、いいよ?」
許可を出すと、ススッと近づいて骨にくっ付く。ジワジワと骨が、小さなスライムの体の中に入った行く。
「……不思議だな、どこに入るんだ?」
見ているうちに骨は無くなり、内臓に取りかかる。ヘビの内臓は量が少ないからか、あっという間に無くなった。少し驚いていると、小さな黒い石みたな物を残した。
「ゴミ?」
「ピ!」
違うらしい。鑑定してみると、サンドスネークの魔石と表示。
「ああ! 魔石か、忘れてた。売れるんだったな」
「ピ! ピ!」
魔石を持つから魔物らしい。そして魔石は、魔道具作成にも使うので、買って貰えるらしい。
らしい、と言うのは実際には知らないから。魔導錬金術の中に、魔石を使った物があり何となくわかる………気がする。一応拾ってアイテムボックスにしまっておこう。
「ありがとうな?」
「ピ!」
スライムは、揺れて喜んでいるらしい。食べて一回り大きくなった様だ。
「さて、俺は色々やるから自分の巣に帰りな」
「ピ!」
スライムは、返事をするとどこかに帰って行った。それを見届け、俺は作業を始める。
まず、かまどはこのままでは使い辛く炭がもったいないので、作り変えるよう。少し大きめの七輪を四つ作り、かまどの燃えている炭を分けて入れる。七輪は、そのままアイテムボックスに入れてしまう。使ってない炭も箱を作っていれ、箱ごとアイテムボックスにしまう。
かまどは潰して、七輪を四つ並べて置けるぐらいの台に作り変えた。七輪が安定するように、少し窪みも作ってある。
七輪台の横に、作業台も作った。まな板も作ったが、今はアイテムボックスにしまって置く。
流しが難しい。今は流し台の下に、排水を溜める壺を作って入れて置こう。まめに外について捨てれば、とりあえずの代用にはなる。
MPが無くなって来たので、休み休み壺を3個作って、中に塩、胡椒、小麦粉をそれぞれ作った。壺を満杯にするのは、かなり時間が掛かってしまい、もう夕方だ。
さて、晩ご飯の時間だ。休憩し、回復したMPを使い寸胴とフライパン、ゴミを入れる大きな壺を作った。七輪を出し、寸胴を置いて水を入れる。お湯を沸かす間に、隣にもう一つ七輪を出して網を乗せ、バラしたトカゲの骨を焼いてみる。焼けた骨を寸胴に入れ、これで出しを取ってみる。出しを取っている間に、小麦粉に塩水を加えて捏ねて行く。
…………加減がわからん。少ない食材で、少しでも美味しく成るように工夫してみたが、うまく行く気がしない。
仕方ないので、ある程度捏ねたらフライパンで焼いて見よう。寸胴から骨を出し壺に捨て、トカゲ肉を小さく切って入れ塩で味を整えた。同時に串に刺したトカゲ肉に、塩胡椒を振って網で焼く。火が通ったら完成だ。
お椀と皿を作り、盛り付ける。ナンもどきとトカゲ肉のスープとトカゲ肉の串焼き。……微妙だな。
食材がすくないから、仕方がないな、いただきます。
ごちそうさまでした。それなりには、食べられた串焼きが一番旨かった。シンプルイズベストらしい。少し悲しくなった。