彼女の周り、そして又日常へと。
あの後、何だかんだ言って話し込んでしまい、もう辺りは夕暮れを過ぎ夜になろうとしていた。
彩佳は家の中で食器を洗う為、少しだけ見送りが遅くなっている。
「大丈夫~和くん~?大丈夫?」
「大丈夫ですよ、子供じゃないんだし2回も言わなくていいですから、家もそんなに遠くないから帰ります」
ちなみに和敏の家は彩の家から徒歩15分の所にある。
「和くんが良いなら止めないけど、もし襲われても犯罪者になっちゃ駄目よ~?」
そんな事をいう彩のお母さんに、少し恐れを感じる和敏。
「......お義母さん、どこまで知ってるんですか?」
「あら~何のことかしら~?でもね......」
お義母さん...いや美鈴さんは人差し指を立て、俺の胸辺りに軽くつんと刺した。
「何でも大事なのは<心>、体ばっかり大きくなって、心が子供のままの体が大人な人も居るから、そこは覚えておいてね?」
「敵わないなぁ......」
どんな理屈かは知らないけど、この人は俺の<裏の顔>を知っている。
そうとしか考えられない発現だ。
正直、この人には見た目とは裏腹に敵う気がしない。
教えられてばかりだし...まいった。
俺が尊敬する大人の1人だ。
「帰るんでしょ?なら気を付けて帰りなさいよ?」
俺の可愛い彩がそう言いながら玄関にやってきた。
「彩が俺の事を(和)、または(和敏)と今後言ってくれたなら何も心配する事は無い」
「訳分からない!てかそれで大丈夫って何なの?」
「簡単な理由だ。愛する者の為なら男は限界なんて簡単に超えて見せるから」
「ますます訳分からない!......でもまぁ...それで和敏が...大丈夫なら...」
え?今俺の名前言ってくれましたか?マイハニー!?
「満面の笑みを浮かべないの!!...っつたく、か・ず・と・し...恥ずかしいけど、これで大丈夫な訳?」
「おうともさ!マイスイート・ハニー!そう言ってくれるだけで俺は全開120%だ!」
「恥ずかしいからやめれ!そんな事言うともう言わないわよ!?」
「すいませんでした!」
「土下座する程の事!?」
「おう!世界で一番大事な事だ!」
するとお義母さんはそんな俺達の様子を微笑ましく見ていた。
「それじゃあ気を付けてね。最近この辺り物騒だから」
「それじゃあね~和くん~、程々にね~、ちゃんと生きて突き出すようにね~」
「?お母さん何言ってるの?」
「さあね~?」
「じゃあ帰ります。また明日な彩」
「うっ...うん、和敏...」
まだ言い慣れてなく、照れながら言う彩、物凄く可愛いがな!
そしてそれから数分程歩いた人気の無い公園。
そいつは居た。
格好は普通なのだが、体を前かがみに丸め、顔にはマスクをしており、少しチャラい感じの目つきが危うい光りを宿し、手にはそこらで売っている安物のカッターを持った30台半ばの男が。
「おたく、もしかして最近ここいらで噂の通り魔か?」
そう彩の家で最近ここいらが物騒というのは、こういう輩が出没していて人が襲われたとの事件、情報があったからなのだ。
そして俺が彩と一緒に登下校しているのは、こいつ等を警戒しての事なのである。
しかし......彩のお義母さん、美鈴さんは本当に何者なんだろう?何度も言った事が当たる。
まるで予知能力者だ。
でも今は、目の前の男をどうにかするか...やれやれ、俺は正義の味方じゃないんだけどなぁ。
まあ彩の安全確保の為には動かなくては。
1に彩佳で2も彩佳、3、4はなくて5にも彩佳だ。
ちなみに、美鈴お義母さんも大好きだし気の合う人だが、人の奥さんだしLOVEじゃない、ライクの方だな。
「そうじゃなかったら刃物を捨ててくれないか?そのままじゃあただの危ない人だ」
俺はなるべく穏やかにそいつに語りかけた。
だがそいつは俺の言葉を無視すると、刃物を構えてイライラとした表情をしながら。
「煩い!気に入らないんだよ!皆!」
......何で最近の事件起こす奴は、こんなにも小さな動機で事件を起こすんだろう?気に入らないとか、ムカついただの......こっちとしてはいい迷惑だ。
薬物でもやってないのに、人様に迷惑かけるんじゃない、いや薬物自体いけないけどな。
それにこいつをこのまま野放しにしておいたら彩とお義母さんの身が危ない、少々痛い目にあって警察に捕まってもらおうか。
「うわあああああ!」
そいつは俺に向かってカッターをデタラメに振り回して襲い掛かってきた。
...素人だなこいつ、武器の扱いと構えがてんでなってない。
俺はそれを避け距離を取った後、こう言った。
「多少は加減してやる。後悔したら自首するかどうか選ばせてやる」
俺はそう言いながらそいつに世間の厳しさ(鉄拳制裁)を教える事にした。
ーーー翌朝ーーー
朝方、高橋家の朝は普通の家と同じく母親が朝飯を作り、その後に皆が起きてくる。
その日の早朝も彩の母親の美鈴は、娘達の弁当を作る為に早起きをし、ニュースを確認する為にリモコンでテレビにスイッチを着ける。
そしてテレビの電源が入ると朝番組が映し出され、ニュースキャスターが原稿を読み上げていく。
「皆さん、おはようございます。朝のニュースです。昨日夕方頃、〇X署に連続通り魔の犯人と思われる人物が自首してきました」
キャスターは更にそのまま原稿用紙を読み進める。
「自首してきた犯人に事情を聞いた所、(殺される!助けてくれ)と恐慌状態に陥っていたとの事で、落ち着かせて事情聴取した所この辺りで事件を起こしていた人物だと供述したとの事です。
尚自首してきた時は、体中ボロボロの状態で打撲の後が酷かったとの事です。その事を犯人に聞こうとした所、頑なに言う事を拒否して怯えているとの事です。次に......」
朝食を作りながら美鈴はテレビのそのニュースを聞いた後、誰も聞いていない台所で1人独白する。
「和くん上手くやってくれたみたいね。まあ警察には彼がいるし、そこら辺は上手く彼に誤魔化してもらいましょう、彩が被害に会わなくて本当に良かったわ。また今度頼もうかしらね...あらあら、お味噌汁が吹いてるわ!」
彼女はそう言うと、慌てて朝食の準備に戻り始めた。
そして彩の周りは何事も無いかのように普段の生活に戻り始める。
=場所変わって彩の部屋=
それから少しして目覚まし時計が朝のアラームを鳴らすと、ベッドの中からモゾモゾとパジャマに身を包んだ彩が眠そうな顔をして這い出てくる。
そして目覚まし時計を止めると、眠そうな目をしながら起きる事を僅かに躊躇し始めた。
「んー......眠い、後5分...でも起きないと暫くして和が起こしに部屋にくる..う~...」
布団の中で少し葛藤しながら彩は何とか自力で毛布から抜け出す。
「ふぁ~~あ......」
まだ眠さが残っている状態だが欠伸をし、懸命に眠気を取り払おうと背伸びをする。
そんな彼女の部屋は女の子らしく整理されており、所々にファンシーなぬいぐるみが飾られていた。
「時間は......7:05かぁ...ご飯まで少し時間あるか、こんな時は」
彩はそう言うと机の引き出しから緑色の蝋燭のような物を取り出し、机の上に置いた後火をつける。
すると火のついた蝋燭から優しい匂いが漂ってくる。
「ん~、いい匂い。今日のはミントかなこれは、アロマキャンドルまた買いにいこーッと」
そう言いながら彩はアロマキャンドルを着けて匂いを堪能しつつ、次第に目を覚ましていく。
そしてパジャマ姿のままタンスの一番下の引き出しを開けると、そこから下着を取り出し選んでいく。
「今日はどれ履いていこうかな......こんな気分じゃないしこれはちょっと派手過ぎ、これとかいいかも」
そうこうして下着を選ぶと、彼女はその下着と制服を抱え下のバスルームへと歩いて行く。
「彩ー、長風呂は止めなさいよ?もうすぐ学校へ行く時間なんだからー」
「分かったー」
そう言いながら彼女は風呂に着替えを持って行き、そのまま少しの間朝風呂に入る。
7:25
「彩ー!いい加減出なさい、朝ご飯食べれないわよー!?」
「え?もうそんな時間ー?分かったー」
そうして彼女は洗面所にある所定の位置からバスタオルで体を拭き、制服に着替えてからテーブルに着いて食事に入る。
7;45
「......お母さん、今日は和のやつ遅いんじゃない?」
「そうかもね。和くんにしては珍しいわね?」
7;55
「彩ー、待たせたー!」
「待ったわよ。あんた何やってたのよ?」
「......爺ちゃんに(修行が足らん!)とか言われて、朝からしごかれてた...」
「何かやったの?」
「いや、ちょっとヘマしてな」
「ああ、あんたの家のお爺ちゃん厳しいからね」
こうして彼女は今日も、何も知らずに護られていく。
彩はただ好きな事に向かって全力であれば良い、その障害は全て俺が取り払う、青年は誓いながら。
......ただまぁ、彩との時間が無くなりそうな願望は、一応俺的に初っ端否定させて貰うがな。
何が悲しゅうて、彩との大事な時間を削られなきゃならんのだ。
そして玄関で母の美鈴に見送られながら、彼らはまた今日も学校へ足を運ぶ。
「しかし今日も彩は綺麗だなぁ」
「な!なななななな、朝から何を言い出すのよあんたは!」
「よし!この綺麗で愛しい我が君は、俺が責任をもって持って行こう!」
和敏はそう言うと、彩佳の鞄を取り上げると彼女をお姫様のように抱き上げ、その上に鞄を乗せるとそのまま歩き出す。
「いやーーーーー!だからあんたは朝から何考えてるのよーーーーーーー!」
「それは勿論、愛しい愛しい彩の事だけだ」
「馬鹿ーーーーーーーーーー!!」
そうして彼と彼女はまた一緒に道を歩いていく。
取り合えずこれで1章が終わりです。
短いですが...
2章は......まあ気が向いた時にでも始めようかと思います。