ヒップホップダンス
娘の習い事は、近所の同じ学年の子が数人通っているスポーツクラブの中の、ヒップホップダンスの教室はどうかなぁ?と、体験レッスンにやってきた私たち親子。
娘の場面緘黙のことを話すと先生は笑って
「喋れなくてもダンスは踊れますからね」
と、優しく言ってもらえて、私も一安心したのだった。あとは、娘が体験してみて、楽しいと感じるかどうかだ。
私は、てっきり同じ学年の子たちと同じクラスに入れるものだと思っていたが、去年からシステムが変わったらしく、どの年齢の子も、最初は初めのクラスからのスタートになるらしい。
このクラスには、下は3歳児、上は娘の小学4年生が一番年上だった。こんな小さい子に紛れてお遊戯のように踊るのが、娘には嫌かもなぁ・・・と不安に思っていたが、なんか案外楽しそうに踊っていた。
まずは初めのクラスでダンスのステップなどの基礎を学んでから、月に1回あるテストで実力を見てもらい、年度末のテストで合格すれば上のクラスに上がれるというシステムのようだ。娘の同級生の子たちは、もう2年ぐらい先にダンスを習い始めている。実力の差があって当然だし、同じクラスに入ってもレッスンについていけないだろう。初めのクラスには、学年は違うが、同じ学校の子たちも結構いるようなので、娘もさほど嫌な顔はしなかった。しばらく通ってみることに決めて、体験レッスン終了後に、入会の手続きを早速したのだった。
その翌週、新しい子が数人、体験レッスンにやってきた。その中には、娘と同じ学年の男の子もいたし、背の高い女の子もいた。その女の子は、別の学校で娘より一つ年上の小学5年生だったが、背格好が娘と似ていることから、自然とコンビを組むようにもなり、娘にもいい意味でのライバルが出来たようだった。
レッスンを見ていて、気付いたことがあった。教えてくれている先生のお腹が大きいのだ。
「どう見ても妊婦さんだな」
その翌週から、別の先生も来るようになって、2人で一緒にレッスンしていたのだが、やはり最初の先生は妊婦さんでそろそろ産休に入るということだった。
妊婦の先生が抜けて、ダンスを教えてくれるのは、まだ20代そこそこの若い先生になった。入ってすぐに先生が変わっちゃうなんて・・・と少し不安になっていたが、娘とコンビの女の子もいたので、娘もやめたいとは言わず、通い続けていた。
そんなある日、若い先生が教え始めてもうすぐ1か月になるかという頃、また先生が変わった。どこかのダンス教室で、ジャズダンスを教えているらしい、と噂を聞いた。ジャズダンスの先生がヒップホップを教えられるのかなぁ?と疑問に思っていたのだが、さすがは先生、ダンスの基礎はさほど違わないらしく、見事なまでに格好いいのだ。
そんな先生にも、娘のことを先に一言言っておこうと、私が先生のところへ近付いた時だった。
「わぁ!?ちょっと!水夏希ちゃんに似てるって言われませんか!」
と、唐突に言われたのだった。
「はい・・・何回か言われたことあるんです」
そうなのだ。私は元宝塚の水夏希さんと同じ系統の顔で、一度友人に言われて、初めて水夏希さんの顔を見たときに、自分かも知れないと思うほど似ているのだ。じゃあ、私も男役風のメイクをすればあんな美男子になるのかも・・・などと思ったこともあった。
そして、そんなミーハーな会話のあとで、娘のことを話すと
「なるほど・・・じゃあ無理強いしない程度に、やってみますね」
と、答えてくれた。
この先生のすごいところは、なんといってもMCの面白さだった。時々出る関西弁やら、曲のリズムを
「ダラララ、ダラララ、で、ターンね」
とか砕けた感じで喋りを入れたりするのがとても楽しいのだ。
産休に入った先生には申し訳ないが、このままこの先生のままだといいのになぁ・・・と思うぐらい、この先生の魅力はすごいのだ。
そして、肝心の娘のダンスはというと、やはり場面緘黙が影響しているのか、踊りの一つ一つが消極的なのが見ていてもわかった。リズム感は決して悪くないのだが、動きが小さい。振りが控えめ、顔は無表情・・・。まだダンスを心から楽しいとは感じられていないようだった。それでも、先生が何かおもしろいことをいうと、クスッと笑っている顔も時々見られるようになってきた。
ダンス教室では、毎年発表会があるらしい。上のクラスに上がると、どこかのホールで行われる発表会に出演できるみたいなのだが、初めのクラスだとそれもないようだ。しかし、それではやりがいがないと思ったのか、先生が言った。
「ここのスポーツクラブのクリスマス会で、このクラスもダンスをみんなの前で踊りましょう」
そのイベントにはスポーツクラブの中の、バレエ教室や空手教室も出演するらしい。
「単調な動きばっかじゃ飽きるやんね。フォーメーション組んで、本格的にいこっか」
ダンスの基礎を習うクラスだからと言って、飽きさせない。そんな先生の優しく熱い思いが、見ているこちらにも伝わってきて、娘にももっと楽しんでもらいたいと思うのであった。