娘の生い立ち
私は娘の場面緘黙症の原因を探るため、娘の生まれた頃からの出来事や当時の様子などを思い返してみた。
娘は今から10年前、自然分娩で3416gで何の異常もなく生まれた。私の母乳の出が悪く、粉ミルクで育ったのだが、ミルクをよく飲み、顔は丸々とよく太った。ただ、喉の形が少し狭いためか、ゲップがちゃんと出来ず、飲ませたミルクを吐いて喉に詰まらせてはいけない、と、私が不安になり、片時も娘を一人にしたことはなかった。
1歳。離乳食も好き嫌いせず、普通に食べるいい子だった。夜にまとめて寝るタイプの赤ちゃんで、夜泣きに困ったこともなかった。少しずつ、言葉を話せるようになり、歩けるようにもなった。発育面では、何の問題もなかった。
2歳。丸々としていた顔がスッキリとして、だいぶ女の子らしくなった。5歳上のお兄ちゃん同様、赤ちゃんの時には「鼻呼吸」をしてもらいたいがために、おしゃぶりをさせていた。おしゃぶりが落ち着くのかスタスタ歩けるようになってからも、おしゃぶりが取れなかった。この点に関しては、お兄ちゃんも同じ頃にはおしゃぶりをまだしていたので、特に無理にやめさせることはないと思っていた。
3歳。おしゃぶりが取れた。幼児向けの通信教材を始める。キャラクターが話しかけてくるマイクのついた教材の質問で、『きみのすきなたべものはなあに?』と聞かれた娘の答えは「とうふ」だった。実際にはそんなに豆腐を食べる子ではなかったので娘的にはウケ狙いだったのか、なんとも言えずおもしろい子だった。3歳半頃にオムツも取れた。
4歳。年中から幼稚園に入園。バス通園だったので、同じバス停の同じ年の男の子や女の子とバス停の近くの公園で時々遊ぶようになる。ただ、おとなしいので自分から遊びに誘うよりは、誘われるのを待っている感じがあった。なわとびとブランコが大好きだった。幼稚園ではクラスで行動する時にはいつも娘は一番後から動いていた印象があるが、運動会などではリズミカルなダンスもちゃんと踊れていた。この頃、家の階段から転げ落ちて少しケガをした。
5歳。同じバス停の同い年の女の子の一人とすごく仲良くなる。「一緒に小学校行こうね」と約束をしていたようだ。発表会では、ミュージカルをして、娘が観客の前で一人で歌うシーンもあったが、大きな声でのびのびと歌えていた。少しも恥ずかしがる様子もなく、見事な演技だった。年長にもなると、運動会では組体操、鼓笛隊の演奏披露など内容も盛りだくさんで、その練習で先生にもかなり厳しく指導されたようだが、娘は立派にやり遂げていた。
6歳。一緒に小学校に行く約束をしていた女の子が、父親の転勤で突然の引っ越し。楽しみにしていた小学校入学も不安に感じただろうと思う。1年生の眼科検診で遠視と診断される。この頃、娘は集中力が持続せず、その原因が遠視も影響しているのでは?という診断から、遠視を矯正するメガネをかけることになった。夏に家族で遊びに行ったプールで足を滑らせ、溺れかけて怖い思いをする。1年生の担任の先生は、サバサバとした明るい女の先生。子供もいるベテラン先生だった。懇談会の時に、娘がとても恥ずかしがりで何をするにも消極的だというような話を聞く。
7歳。娘が2年生の頃に、私がPTA本部役員になる。学校へ行く機会が増えたが、娘の帰宅時間に家にいないことが多く、代わりに私の母親に娘を見てもらうことが多くなった。この時の担任の先生は、可愛らしく小柄な女の若い先生だった。この頃には、娘が恥ずかしがりという認識があったので、『恥ずかしがって発表しない場合があるかも知れませんが、特別扱いしないでください』と先生にも言っていたのだが、九九のテストで一人ずつ口頭で発表する際に、娘だけ紙に答えを書かせたと後で聞いた。
8歳。この頃、私と5歳上の兄の影響で、娘はオンラインゲームで遊び始めた。娘は日に日にパソコンの操作をマスターし、いつの間にかブラインドタッチも出来るほど、チャットの達人になっていた。幼稚園の仲が良かった友達が引っ越ししてから、小学校ではなかなか友達が出来なかったようだった。毎日、パソコンの中の顔の知らない友達とチャットしながら冒険ゲームをしていた。3年生の終わり頃、私がスクールカウンセラーを受けた。娘にも学校で少し仲のいい友達が出来た。この時の担任の先生は大卒新任の可愛い女の先生だった。新任なので、大ベテランの先生も副担任で付いていた。カウンセラーを受けるように指示したのは大ベテラン先生の所見だろうと思う。
こうして、思い返した8歳までの娘の主な出来事の中に、場面緘黙になる要素はあったのだろうか。3歳ぐらいまではごく普通の子のような気がする。やはり、幼稚園に通い出して今までとは違う集団生活が始まった頃から少しずつ娘の心に変化が現れたのだろうか。
単なる引っ込み思案と、場面緘黙の見分けは付きにくいらしい。一般的に2~5歳で発症するのだが、6~8歳を迎えた辺りから、場面緘黙症ではないか?という診断が出るらしいのだ。そして、場面緘黙症だとわかった場合には、自然に治るケースもあるが、大人になるまで症状が続く場合もあるので、なるべく早いうちに治療を受けることが重要であるらしいのだが、緘黙症の治療法とはどんな方法なのか。