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カナリアという街

 猫の後を追いかけて暗闇の中を歩いていると、あんなに不安がっていた闇は案外簡単に晴れてしまった。その代わりに周りに現れたのは、人が一人通れるくらいの狭い路地。壁から突き出た排水管や変則的な石段には、何度も躓きそうになるのだが、目の前を歩く猫は難なく通り抜けていく。

 まるでこの道は迷路だ。人が通る道ではない。そんな文句をぶつくさ考えながら猫の後を付いて行く。そんな猫はというと、私と少しでも距離が開くと、すぐに立ち止まり尻尾を左右に振りながら、こんな所も満足に通れないのかとあざ笑うように見てくる。それが余計に腹が立って仕方がない。

 負けず嫌いの私はそんな猫の後を必死に追うが、自分の身体はすぐに思ったようには動かなくなってしまった。

「なんだい?こんなところでもう疲れてしまったのかい?」

 膝に両手を当てながら、息を深く吐く私に近寄った猫は、顔を見上げながらそう聞いてきた。これは決して心配しているのではないというのが、その猫の表情からして見て分かった。

「そんな訳ないでしょ!馬鹿にしないで」

 強がっては見るが体は正直だと、私は思った。身体はまるで何年も何もしてなかったかのように思うようには動かない。少し走っただけでも息が上がってしまう。そんな私を見て猫は

「君は本当に正直じゃないんだね」

とそう言い残して先に進み、振り返った。

「じゃあ、少しだけペースを落とそうか。この街についても君に話しておかないといけないこともあるからね」

 猫は軽く笑って再び尻尾を振りながら歩きだす。

「最初からそうすればいいのに……」

 私はぼそっと文句をつぶやいたのだが、前を歩く猫には聞こえなかった。



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