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シャワーの蛇口を捻った瞬間、室内が真っ白な湯気に包まれて行くのが自然と感じられた。シャワーの噴出口から出た湯は、私の身体を次々と通り抜けて床に落ちて排水口へと吸い込まれて行く。吐いた後だ。シャワーを浴びるのは変な汗を存分にかいてしまった身体を洗い流していく。
初め、シャワールームに入った瞬間、湯はおろか水さえも出ないかと思っていた。だが、そう疑いながらも試してみて正解だと今、身に染みて感じている。
私は湯が出たと思いきや、すぐに来ていた服をその場に雑に脱ぎ捨てて中へと入った。そして棚にあったシャンプーボトルを使い、全身を泡立たせている。気持ちが良い。私は素直にそう思った。
ある程度体を洗った後、もう一度湯を浴びた私は、かけておいたバスタオルに包まって、さっき乱暴に脱ぎ捨てた汗だくの服をもう一度着なければいけないのか、と落胆しながら、シャワー室を出のだが、それを見た途端、私はふと手を止めた。
そこにあったのはさっきまでにどうしようもない、ダサい服とは違いきれいにたたんで置かれていたのはグレーのパーカーに新しいジーパンだった。それに私が脱ぎ捨てた服一式はどこかに消えていた。
そんな光景を見て、私はひどく不気味に感じた。まずこの新しい服はいったい誰が用意したものだろうか?それに、私がシャワーを浴びている最中に、誰かがここに来て服を交換したのなら、シャワールームからガラス一枚で区切られているここに人影が現れたのなら、私は真っ先に気が付けたはずだ。だが、私にはそれがなかった。
普通じゃ考えられないほどに、この空間や世界は不思議なことが多いような気がしたのだが、いつまでもバスタオル一枚を身にまとっている訳にもいかずに、私はきれいに積み上げられた服を仕方なく手に取る。
ただ、不気味ではあるけれど、この服を着るのはそんなに嫌でもない。むしろシャワーを浴びた後に裸でいても風邪を引いてしまうだけだ。そっちの方がよほど困る。
私はパーカーとジーパンを見比べながら、
「どうせなら、もう少しセンスの良い服を用意してくれればいいのに……」
とここに置いていった見ず知らずの相手に文句を言ってやった。