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 夢を見た。たぶんこれは記憶の続きだ。

雨の降る川の中、私は子供達の集団に捨てられた猫のぬいぐるみをずっと探し続けていた。雨で服も髪を顔もずぶ濡れだったが関係ない。私がここにきて、たった一つ、心を許せたものがなくなってしまった。私のただ一人だけの友達を。

 私は人間の残酷さを思い知ったような気分だった。弱いものが生きていくことができないこの世界。

 私の顔から次第に涙がこぼれてきた。腕で顔をぬぐいひたすらと猫にぬいぐるみを探すが見つからない。

 私は雨が降りそそぐ空に向かって泣き叫んだ。

 弱いものが強いものに虐げられるこの世界が大っ嫌いだと・・・。

 皆死んでしまえ!そうすれば誰も悲しまなくってすむ。弱いものが死ぬことも、強いものが虐げることもなくなる。

私はこの世界を一生恨み続けるだろう。こんな人生を虐げた神様を恨むだろう。すべてのものを恨み続けるだろう。

 だが、私の声は天には届かない。こんな私の叫びなんて、きっとこの雨にかき消されてしまう。ふざけるなと思ったが、私にはもうどうすることもできない。

 頬から涙があふれ出してきた。また一人になってしまった。もう嫌だ。死んでしまいたい。

 だが、私が顔を伏せて泣いていると、私の目の前に傘がそっと差しだされた。そして、傘を持っていない片手には、さっき投げ捨てられた猫のぬいぐるみがあった。

「あなたのことをずっと見ていましたよ」

 私はさっと顔を上げると、それは何度も私を訪ねて来たという黒いコートを着た老人だった。

老人は自分が雨に濡れているのにもかかわらず、私に傘をさし優しそうな目で私に言った。

「さぁ、これを。君が捜していたものです」

 老人はそう言うと猫のぬいぐるみを私に差し出す。私はすぐにそれを取り抱きかかえる。

「あなたはカナさんだね。あなたのことを少し調べさせてもらいました。カナリアの街の戦争に巻き込まれて、そこで孤児になったあなたは兵隊に連れられ、山奥の強制施設に入らされた。そこで、唯一生き残った少女だと。私は、あなたをずっと探していました……」

 老人はうんと顔をうなずかせて、私を見て口を再び開く。

「もし、君がこの世界に復讐を望むなら、私に付いて来てはくれませんか?君にこの世界に抗う術を教えてあげましょう……」

 私は目の前の老人に向かって、声もなくうんっとうなずいた。涙はもう出ない。その様子の私を老人は見て、優しく微笑んで言った。

「この世界では、再生は破壊に後に起こるものです。常に壊した後に、新たな者を生み出す。これは歴史的にも人類が自ずと気が付いてきたこと。

もし、君が私たちに力を貸してくれるのなら、この世界はどう変わるのだろうか・・・」

 それが最後に私に向かって老人が言った言葉だった。でもその言葉が、どんな意味なのか、その時の私は、分からなかった。

 



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