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街の公園の小橋の上まで行くと、猫は手すりに飛び乗ると立ち止まって私に話し出した。
「君が街の孤児施設での生活を送っている、ある日のことだった。孤児施設の君に、とある訪問者が現れた。それは黒いコートを着て杖を突いて歩く怪しい老人。でも、人と会話をしない君は当然、老人と会うことを拒否した。老人は日を改めてくるとだけ伝えて帰って行くと、孤児施設の人に、君用だと言ってプレゼントを残していった。
君は施設の人に渡されたプレゼントの中身を開けると、そこに入っていたのは、君がいつも眺めていた黒い猫のぬいぐるみだった。
それにはさすがに君も驚いて、その時だけは素直に喜んだ。
もらったぬいぐるみを、君はよほど気に入ったのか、それから猫のぬいぐるみを離すことなく、ずっと抱きかかえていた」
頭に痛みが走り、息が荒くなる。
すると、急にさっきまで晴れていた空には、雲が一面を覆いすぐに激しい雨が降ってきた。
まるでこうなることを分かっていたかのように、苦しむ私を見ながら猫は話を止めない。
「でもね、そんなある日、事件は起こった。誰とも話さない、さらに猫のぬいぐるみをずっと抱きかかえている君を、近所の子供たちはさらに気味悪がった。
それは、今のように雨の降る日のことだった。公園にいた君は、近所の子供達に必要以上に絡まれた」
頭が割れるように痛くなると、どこからか私に浴びせる子供たちの罵声が聞こえてきたような気がした。「気持ち悪いんだよ、この女!」「この街から出てけ!」と。
私は我に返る。さっき聞こえてきたのは、私の記憶・・・。
「君はとことんついていないんだね・・・。つくづくそう思うよ。
子供達に絡まれた後、君がいつも、抱きかかえていたぬいぐるみは子供達によって取り上げられた。嫌がらせに、ぬいぐるみの耳は引きちぎられ、目はえぐり取られ、川に捨てられたんだ」
とある映像が頭を横切る。
雨の中、一人子供達に囲まれて、雨の中公園で罵声を浴びせられる映像だ。
男の子が一人、私に近づいて来て、猫のぬいぐるみを無理やり取り上げる。やめてっ!と言う私の言葉を無視して、ぬいぐるみをキャッチボールのように投げあって、ふざけながら遊んでいる子供達。
猫のぬいぐるみは耳が取れ、布が引きちぎれて中の綿が出たひどい状態にもかかわらず、子供達は今までの恨みをぶつけるように、やめようとはしない。
「これが現実だ。人間は常に集団で行動しようとする。この、子供たちにとっては仲間から離れた君への制裁だったのかもしれないね。全くこんなことして何が良いのか、僕には全く分からない。だけど、これが人間の仕組みだってことは分かる」
猫がそういうと、私はとうとう耐えられなくなってしまい叫んだ。
「もうやめてよ……」
そう言ったが、入ってくる映像は終わらない。また子供たちの罵声が聞こえてきた。
『この街から出てけ!』『お前は必要とされていないんだよ!消えろよ!』
私はとうとう耐えきれなくなってしまい、その場で叫んだ。
「やめてって言っているでしょ!こんなの間違っているもの!」
とうとう耐えきれなくなった私は、そう叫び声をあげた。すると映像は途切れ、しばらくの間、雨だけの音が聞こえてきた。そしてすぐに雨は上がり、空は快晴になる。
「残念だけど、これが君の通ってきた過去なんだ。人間はね、自分の記憶からは逃れなれないからね」
猫は残酷にも無慈悲にそう言い切った。