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夕日の先に

今、私はビルの屋上にいた。どの建物より高いここからは、あの巨大で光りを放つ玉が見える。それを屋上の手すりにもたれかかりながら見つめていた。ここには風はない。ここで一人黄昏るには、何かが物足りないような気もしたが、頭の中はあの施設から逃げようとしていた私と、あと二人の男の子のことでいっぱいだ。

 目が覚めた後は、ここに来たようにあの寝室のベットの上で眠っていた。ここに来てら頭がさらに痛くなってくる。それは時には吐き気を催すほどにだ。

 頭痛が治まった頃に、私は廊下に出るとこの部屋の出口の扉が開いていることに気が付いた。そして、何も考えずに屋上に上がり、ここで時間の進まないこの異常な光景を見ているのだ。

 結局あれは何なんだろうか。私に何か関係があるのだろうかと考えながら、数分経ってしまった。

 猫はそのうち思い出すことになるよと言っていたが、ここまで話を聞かされて何も思い出さない。まるで、猫が話す私という存在はまるで他人事だ。全く自分のことのように受け止めることができる訳ない。

 このまま何もせずに眺めているのにも飽きてしまった頃に猫は音もたてずに突然現れた。

「今にも泣きそうだね……」

 からかう言葉にもう私は、張り合う気もない。

「別に。なんだか他人事みたいで、涙なんか出ないよ」

「そうか……」

 猫はそう言うと、私のもとに来て見上げる。

「ねぇ、あの後、私はどうなったの?」

 猫は顔を伏せて話し出した。

「大丈夫、君は無事に近くの村の住人に保護された。そして街に行き、施設の存在を赤裸々に公表したんだ。でも、政府にとって施設の存在を公にすることは、なんとしても避けなければいけなかった。結果的には、この出来事を無理やり闇に葬る形になった。だから施設に関する情報をすべて抹消されたんだ」

「抹消ってつまり?」

「子供達や、施設の人間すべて殺されたよ。あそこで生き残ったのは君一人。後で君に内密に聞かされたことは、施設の子供たちが全員、口封じのために殺されたとだけ。それを聞かされて君は大変落ち込んでしまった。私のせいで、なんの罪もない子供たちが殺されてしまったのだとね・・・」

「そう・・・」

 私は小さくうなずいた。なんだか後味が悪い話だ。自分たちが戦争のためにあそこまでやって、状況が悪くなるとすべてをなかったことにするなんて。

 でも私にはそこには怒りはなかったのだ。いや、正直今の自分の気持ちが分からない。この猫になんと答えていいのかも分からないのだ。

 猫はそんな私のどうしようもない表情を見上げて、手すりの上に乗りすぐ隣に来た。

「でもね、残念なことに君の物語にはまだ、続きがあるんだ。聞くかい?」

 私はため息をつく。

「聞かないって言っても、あなたは話すんでしょ?」

 猫は微笑む。

「まぁね。それが君にとっての運命でもあるからね」

 猫はそういうと、手すりの上から下へと仰向けでゆっくりと飛び降りた。

「え、えぇ―!」

 私は、今まで出したこともないような声を上げて驚いてしまう。猫は下に落ちながら笑いながら言う。

「早く君もおいでよ。全然、怖くなんかないから」

 平然とそんなことを言う猫に、私に私は戸惑いを隠せなかった。

「もうっ!」

一瞬の出来事過ぎてどうするか迷ったが、体はすでに手すりの上に足を乗せていた。そしてまっすぐに立ち自分の体を前へと倒し、その場から飛び降りた。

 空気を切る音がした。体がふわふわ風に当たる。これが本当に現実なら、自殺行為もいいところだ。でもあの猫のことだ。きっと何かあるはずだ。そう思い私はそのまま身を任せていると、まっ先に飛び降りた猫がすぐに私の横まで来て言う。

「君が本当に飛び降りるなんて正直驚いたよ。本来ならこの行為は自殺行為だ」

 当たり前のことを堂々と言ってくれるなと思った。

「あなたに言われたくないよ。それより、この後どうなるの?本当にこのままじゃ死んじゃうよ」

「死ぬ訳ないじゃないか……君はね……」

「……え?」

 猫の言っていることが分からないまま、私と猫が下へと落ちていると地面が近づいてきた。私はとっさに「きゃぁ!」と声を上げて目を閉じる。

 すると、地面につぶされてしまう寸前に体が宙へと浮いた。体が宙にふわりと浮かび両足が地面につく。

「ね、大丈夫だったでしょ?」

 自慢げに言ってきたが、無視した

私たちが飛び降りたビルはすぐ後ろにあった。ビルの高さは顔をこれでもかと上げないと見上げることができない。改めて私はさっきまでいた建物の高さに驚く。

ここは見るからにどこかの街だ。人や車が多く行きかい飲食店や、デパートが街には立ち並ぶ。見るからにこの街は都会という感じだった。

 空を見上げると、夕日のように輝いていたあの巨大な光の玉はなくなっていた。その代わりに、この街には本当の夕日が海に向かって沈みかけていた。

「ねぇこの街は、さっきまで眺めていた街でいいの?」

 猫はうなずく。

「うん、そうだよ」

「じゃあ、あの光の玉はどこに行ってしまったの?」

「ここは君の記憶の中だからね。だから光の玉はまだないよ」

 猫はそう言って街の中を歩き出した。私も猫に言われてもいないのに付いて行った。



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