表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

子供達の楽園

目を覚ますと私はあの最初の寝室にいた。あれ?とそこで私は思う。さっきまで猫に連れられて、街の公園にいたのが嘘みたいだった。悪い夢でも見ているような気分だ。

 ガラスの向こうの街の中に浮かぶ巨大な玉は、いたって動くような気配を見せてはいない。目が覚めてすぐなので、頭が思うようには働かない。

 私は、ベットの上で体を小さくして座った。なんだか怖くなってきた。

 猫から聞いた街の話を思い浮かべてみる。目の前で多くの人が死んだ話だ。

でもやっぱり私は思い出すことができない。だから全然実感がわかなかった。

 そういえばあの黒い猫は、いったいどこに行ってしまったのだろうか。

 私はそう思い、寝室のベットの上から辺りを見渡すが、この部屋には猫の影はない。

「全くどこに行ったんだろうか・・・」

 そんなことを考えながら、独り言のように私はつぶやき、そっとベットから降りてリビングに入った。机の上にはさっき入れられたのだろうか、コーヒーが入ったカップが湯気を立たせながら置かれていた。

 机の前に立ち、そのコーヒーカップを凝視する。これは飲んでも良いということなのだろうか。それとも、毒でも入っているのだろうか・・・。

 私は恐る恐るコーヒーに手を伸ばし飲んでみた。最初は警戒してコーヒーに鼻を近づけて香りを嗅ぐ。私の鼻が正常ならいたってこれは普通のコーヒーだ。

 私はカップを口につけてコーヒーを飲んでみる。

「熱っ!」

 私は警戒のあまり、コーヒーの熱さのことなんか考えていなく、一気に飲んでしまい熱さのあまり少しだけ噴き出した。

 すぐに腕で自分の口をぬぐい辺りを見渡す。こんな所、誰かに見られていたら恥ずかしいと思ったが、後ろから誰かの笑い声が聞こえてきた。

「君はいったい何をやってるの?」

 それはもちろん人間の言葉を話し、私のことを小馬鹿にするあの黒猫だ。

 さっきの私の行動を見ていたのか、猫は床の上に座ってさっきからにやにやと、笑っている。

「べ、別に・・・」

 私は猫から目線をそらした。顔が少しだけ熱くなったけど、なるべく気にしないようにする。こんなの、誰かに見られることすら恥ずかしいのに、よりによってこの猫に見られたのだ。

「君はお茶目な一面もあったんだね、知らなかったよ」

 猫が近づいてくる。私はなるべく目を合わせないようにした。

「だから、違うって言ってるでしょ」

 顔を赤くして私が言葉を発したのが、自分でも分かった。そして私はため息をつき、気を取り戻したかのように猫に聞く。

「それにしても、あなたはいつも突然現れるのね。魔法でも使えるんじゃないの?」

「魔法か……。本当に魔女の下部にでもなれば使えたかもね。でも、僕はそんな存在じゃないさ」

 それはさっきの街で教えてもらって分かり切ったことだ。この猫はもともとは捨て猫で、私達の家族だ。

「どうする?コーヒーの代わりに水でも飲むかい?」

「いや、いい。それより、私はあの後どうなったの?あの男たちに凌辱でもされたの?」

 あの後とは、私が一人ぼっちになって男たち数人に連れていかれた後のことだ。男たちが言った言葉。悪いようにはしないとは、いったいどういう意味なのだろうか。

「安心していいよ。君はそんなことには決してならなかったから。でもある意味それよりひどい結末を迎えたのかもしれない」

「どういうこと?」

 私が猫に問いかけると、猫は私の目の前の机の上にひょいっと乗る。そして、私の顔を見て何かをごまかしたような表情で言う。

「君はそんなに自分の過去を早く知りたいのかい?もう少しゆっくりすればいいのに。僕と無駄なお話をするとかさ」

「私、猫と話をするのが嫌いなの」

 皮肉を言ってみると、猫ははいはいと気の抜けた返事を返した。

「分かったよ。そんなに君の過去が知りたいのなら、これから僕の言う通りにすればいい。まずは、僕が良いと言うまでは目を決して開けないで。分かった?」

 私は猫に対してうなずくと、目を閉じた。

「ねぇ、まだ?」

「もう少し・・・。はい、いいよ」

 猫に言われるまま私は目をそっと開くと、周りに広がったのは、あの部屋ではなく、いつの間に来てしまったのか分からない山の砂利道の上だった。道にはつい最近、トラックが数台通った後が、地面にびっしりとついている。

 空は青々としていた。それが少しだけ私は奇妙にも思えた。なぜこんなとこに連れてこられたのか分からない。

「ここはどこ?」

 私は目の前に立つ猫に聞くと尻尾を振りながら答える。

「そのうち分かるさ……さぁ、行くよ……」

 ただそう言って猫は砂利道を歩きだしたので、私はそれに何も言わずについて行くことにした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ