第一章 邂逅 Section2
「行きは何もなかったようだな。このまま何もなく終わればいいがな」
「固有回線勝手に使って言うことはそれかよ。いい加減保護者気分は止めてくれって言ってるだろ」
腕につけたMFA2Cを通して、カイトは己の師と通話していた。
多機能補助チップ:Multi Function Auxiliary Chip、略してMFAC。
通信を始めとしてあらゆる電子装置へのアクセスを一手に引き受ける優れものだ。
地方都市では情報インフラが未発達のため通信と時計、電子マネーの扱いに用いるだけであるが、全ての市民がID管理される惑星首都ラメドではあらゆる電気機器を使用するために不可欠なデバイスとなっている。
携帯端末として所持している者も未だ多いが、カイトのようにブレスレットに埋め込んで所持する場合がほとんどである。
特にセイバースが所持するものは多機能補助アタッチメントチップ:Multi Function Auxiliary Attachment Chip、略してMFA2Cと呼ばれ、戦闘において各種レーダー、攻撃予測、環境によるユーザの運動への影響を補正する戦闘補助アタッチメント統括システムを内蔵している。
今のカイトのようにMFA2Cにはセイバースだけが利用できるプライベート回線が搭載されている。
「つーか、ガウェインの方こそ任務の真っ最中なんじゃないのか?」
「今は待機だ。お前と同じく護衛任務だからな。こうしてたまたま時間が噛み合ったということだ」
「あんたが出るほどの任務って、統議員の護衛かなんかか?」
統議員とはラメド政府のトップであり、この惑星プライム、そして人類の行く末を議論する資格を持った最高権力者だ。
「ランクSSSの極秘任務。ということにはなっている」
「は?だったら尚更俺と話してたらマズいだろ」
通常任務のランクはSSで止まる。SSランクに相当するのは統議員相当の要人警護と大規模な紛争鎮圧任務。
これを超えるSSSは公には存在せず、政府関係者にも極秘で行う『裏任務』にのみ付くランクである。
当然実力と同時に機密性が重視されるため、この通信は最早立派な任務放棄である。
「内容については伏せている。問題あるまい」
「……どうかしてるぜ」
師であるガウェインはセイバースの中でも最高階級にある人間だ。
戦闘能力はもちろんのこと、優れた人格者でもある彼は人望も厚い。
指導力も高くカイトに限らず多くの優秀な戦士を送り出している。
しかし、このように少々過保護な一面があり、カイトは度々頭を悩ませていた。
「とにかく切るぞ。こんなくだらないことでガウェインが懲戒処分になったりしたら寝覚めが悪いからな」
「カイト、最後に一つ言っておく」
MFA2C越しの音声が低く鋭いものに変わる。カイトも自然と顔が引き締まった。
「我らセイバースは剣であるが、その務めの多くは何かを護るためにある。剣を以って盾を為すにはどうするべきか、よく考えて行動することだ」
「……」
またこれだ。カイトはそう思った。この手の話をされるのは初めてじゃない。
特にここ二年間はことあるごとに刷り込むかのように言われてきたものだ。
「なあガウェイン、なんで俺にだけこうまでしつこく言うんだ?」
カイトの知る限りいくら弟子とはいえガウェインがここまで過保護に接するのは自分だけである。
心当たりが無いわけではない。カイトが前科持ちであることは彼自身が一番よく知っている。
だが、失敗を犯すことは何も自分に限った話ではない。カイト自身ここまでしつこく注意喚起を促される事自体不思議でならないのだ。
「そうだな……」
少し考えるような間を置いて、
「期待の裏返し。と、そう受け取っておけ」
師は何か含みのある言葉を残した。
師との通信を終えたカイトはベッドの上に仰向けになって考え込んでいた。
師の言ったこと。これからのこと。
「なんでまた、今回に限ってこんなこと言ってくるのかね」
誰に話すわけでもなく、天井に向かって呟く。
カイトにとって炭坑の貨物をラメスに輸送する飛空艇を護衛する任務を受けることは初めてではない。
今回で四、五回目となる。
「今まで別に何も言わなかったくせに」
過保護とはいえ過去の護衛任務でわざわざ任務の途中に固有回線まで使って小言を言うなんて初めてのことだった。
だからこそ、師の真意がつかめずにいたのだ。
「剣を以って盾を為す、か」
セイバースは基本的に攻撃を攻撃に特化した戦士であり、本質的に守りには不向きなのである。
しかし、攻撃こそ最大の防御という言葉の通りMODSを速やかに撃破して脅威を取り除くことは守りの武装で飛空艇を固めるよりずっと効果があるだ。
「わかってるよ、護るものは必ず護る。そう、決めたんだからな」
その直後、艦内に警報が鳴り響く。部屋中の照明が赤く点灯し、非常事態を告げる。
「これって……」
カイトは飛び起きた。
非常事態宣言を告げる警報の中でも絶え間なくなり続ける警報を真っ赤な照明色は非常事態の中でも最大クラス。つまり、
「MODS、か」
MODS、惑星プライムに度々出現する人類の敵。
極めて高い戦闘能力に加え高い再生能力を持ち通常兵器での撃破が困難な怪物。
約80年前に出現が確認され、同時期に発見された新エネルギーエーテルのみが有効な攻撃方法とされている。
このエーテルの揺らいだ空間に現れることから、歪んだ空間の魔物:Monster of Distort Spaceと名付けられた。
カイトはできるだけ冷静に左腕のブレスレットに取り付けられたMFA2Cに命令する。
「戦闘態勢、アタッチメントオン」
『承認シマシタ』
機械的な指向性の女性アナウンスが聞こえる。
『MFA2C起動、ユーザ認証、カイト=レイアス。セイバースビリジアンクラス戦闘員。認証完了シマシタ』
視界に気温や気圧、重力などを示すパラメータが表示される。
『環境補正、完了。座標情報、取得。艦内ノ地図情報、取得。戦闘補助システム、オールグリーン。起動、正常ニ完了シマシタ』
起動完了の言葉を聞くと、カイトは部屋を飛び出した。
「地図情報展開、司令室まで」
『地図情報起動、目的地マデノルートヲ表示シマス』
カイトの目の前にARビジョンのルート表示が行われる。
カイトはARの示すままに進んでいく。
司令室は2階にあり、階段を駆け上って向かう。40ロット(約200メートル)超えの飛空艇は部屋も多く、マップアプリ無しでは目的地にたどり着くことは難しいのだ。
「状況は?」
司令室の前に立ち、MFA2Cの認証を経て司令室のドアが開くなりカイトは司令室に入りながら乗組員に状況を伺う。
「カイトさん、現在位置から約3マイル(約5キロメートル)のポイントでMODSと思われるエーテル反応を検出しました」
MODSの発生予測はエーテル場の揺らぎを観測することで行われ、揺らぎの状態に応じて幾段階かのMODS発生危険度を設けているのである。
MODSが出現した場合には高いエーテルポテンシャル反応が確認されるため、出現してしまえば位置の特定は容易である。
「対象の動き、数は?」
「こちらに向かっております。本艦は現在進行を止めてホバリングの状態を維持しています。数については不明ですがMODSのエーテル反応があった周辺は数マイルに及ぶ広範囲でエーテル揺らぎがレッドゾーンに達しています」
それを聞いたカイトはMFA2Cに命令してこの周辺のエーテル揺らぎを計測し始めた。
MFA2Cは体に取り付けているだけで脳波を遠隔で測定し思考から直接命令を検出する機能を持つため、強く念じるだけで操作が可能である。
計測の結果はすぐに現れた。レッドゾーンのすぐ下、オレンジである。
どうやら、次のMODSがいつ発生してもおかしくない状況らしい。
しかし、気になることがあった。
「おかしくないか。この規模の揺らぎは異常だぞ?もっと早く気付かなかったのか?」
通常、揺らぎがイエローゾーンに入った段階でMODSへの警戒を換気する警報が鳴るはずだ。
ラメドが保有するプライム第一級規格の飛空艇は10マイルに渡る広範囲のエーテル場を測定できる装置が積まれており、MODSが発生しやすいポイントを避けるように飛行することができる。
しかし、今回は違う。
これだけ広範囲に強い揺らぎが発生しているにもかかわらず、飛空艇は揺らぎの中を突っ切ってしまったのだ。
「それが、周囲のエーテル場が急激に揺らぎ始め、一分もかからずにレッドゾーンへ突入したのです。こんなことは初めてだ」
説明をしている飛空艇の艦長の顔は蒼白だ。見たこともない異常事態、それも非常に危険な状況にあるのだから無理もない。
「わかった。今はホバリング動作を続けてくれないか?こっちに向かっているMODSは俺がなんとかする。そっちは他にMODSが発生しないか観測を続けてくれ。どれだけMODSが迫ってきても慌てて攻撃したり船を動かしたらダメだ。とにかく俺を信じて欲しい」
「わ、わかりました」
艦長は二つ返事だった。MODSに通常兵器は効果が薄い。身体が破損しても周りの物質を取り込んで再生、変容を繰り返すからだ。
MODSにはエーテルをエネルギー源とするエーテル兵装、アタッチメントが唯一有効な攻撃方法なのだ。
今それができるのは特別エーテル兵装ERAAを支給されたセイバースであるカイトただ一人である。
艦長も他の乗組員も、それを理解しているからカイトの指示には従う。もう彼らにはカイトに縋る他手段が無いのだ。
カイトはすぐにハッチへと移動し、外へと繋がる扉を開いた。
強く鋭い風が体を打ちつける。MFA2Cが即座に反応して環境補正を実行する。
カイトに打ち付ける風の感覚はすぐに無くなり、視界も良好になる。
環境補正アタッチメント。エーテル場からエネルギーを取り出す万能の装置アタッチメントの中で、取り出したエネルギーで環境がユーザに及ぼす悪影響を全てキャンセルするものである。
これによっていかなる環境にも左右されず戦闘が行える。
カイトは躊躇うことなく外へと飛び出す。
――エーテルブーツ、起動。空跳!
そう念じてカイトは何もない空を蹴る。するとまるで大地を蹴ったかのようにカイトの体は飛空艇の上へと跳んでいく。
アタッチメントエーテルブーツ。エーテル場を蹴り台の代わりにして空を蹴って宙を駆けることができるアタッチメントである。
――視野拡張、遠方5マイル
『承認。視界拡張、遠方5マイル』
MFA2Cに念じると、カイトの視界は望遠鏡を覗いたかのように遠くの風景を正確に捉えた。
こちらに向かって一直線に飛来するMODSの姿を。
「こちらカイト、北北西距離2.3マイルの位置にMODSを肉眼で確認、速度約毎時290マイルで接近」
司令室に通信を入れる。
「了解です。現在接近しているMODSはこの一体だけのようです」
「了解。ただちに排除する」
MODSの予想到達時間は約28秒。時間はそう無い。遠距離からの攻撃もあり得る。
(遠当てはいろいろ面倒なんだけどな)
カイトは腰に差した剣、シルバースプライトを両手に構え振りかぶる。
左足を一歩前に出して飛来するMODSを見据え、集中する。
――スプライト、チャージオン
MFA2Cに命令を出すと、シルバースプライトはみるみる白く光輝き始める。
人には、魂に等しき神秘のエネルギー、ソウルというエーテル体を持つ。
そしてミスリルから作られるアタッチメントは、人のソウルからエネルギーを取り出すことができる。
「シルバーソニック!」
咆哮と共にシルバースプライトを振り下ろすと、MODSに向けて白銀の光が音速を遙か超えて放たれた。
光はMODSに命中し、爆音と共に銀の閃光となって周囲を照らした。
司令室からその映像を見ていた乗組員達は、雪山に照った日光よりも白く美しく輝くその光に声を失い、ただ見つめつづけていた。
『対象のエネルギー反応を確認』
MFA2Cがカイトに告げる。つまり、MODSはまだ撃破できていない。
「あ、あれは……まだ生きているぞ!」
司令室のカメラにも撃ち漏らしたMODSの姿は写された。速度を失いその姿はカメラにハッキリ映し出された。
全長五メートル程の躯体に、二メートルはあろうかという長い鉤爪、殻に覆われた節足動物のような足が左右に三本。
岩肌のごとく灰色をしたカニのような外殻は右半分が溶解し、内部にある薄紫色の肉が露呈していた。
肉は焼けただれ、緑色の体液が流れている。
甲殻から伸びる頭部はそれを守る甲殻ごと健在で、中心の単眼は血走り怒りの咆哮を上げている。
(コアは、体の方だな)
カイトは船体を蹴り宙に身を投げる。
エーテルブーツの作用で空を蹴るカイトの体は地へ落ちることは無く、空を駆け鷹の如き鋭さで弱ったMODSへと向かう。
MODSは咆哮をあげてカイトに向かって飛んできた。
しかし弱った体では十分な速度は出ず、その軌道はフラフラと宙を舞う蝶のようであった。
MODSは周りの物質を取り込み再生する。
しかし空中では再生のための物質が無く回復力が大きく下がる。
通常兵器でも撃破は難しいまでも行動不能に追い込むことはできる。
MODSの狙いは飛空艇であることは明白だった。船体の鋼材を取り込んで再生するつもりなのだ。
(だからこそ、その前に倒す!)
カイトの駆ける速度は時速100マイルを超える。
アタッチメントから取り出したエネルギーにより強化された肉体は超人の身体能力を獲得している。
「はあ!」
カイトはMODSの懐に潜り込み、破壊した右半身に斬りかかる。
エーテルにより強化されたシルバースプライトは甲殻をものともせず肉を切り裂いた。
MODSが苦悶の叫びを上げる。
すぐに残った左の鉤爪でカイトに斬りかかるが、カイトはたやすくその一撃を避ける。
カイトはそのままシルバースプライトをMODSの肉に突き刺し、本体の中心に向けて更に斬る。
緑色の体液が吹き出すと同時に、その奥から紅く鈍い光が見えた。
(これだ!)
MODSは、強力なエーテル体のコアを持っており、全てのエネルギーをそこから供給する。
逆にそのコアさえ破壊すれば、MODSは崩れ去る。
コアは強力なエネルギーフィールドを形成し、破壊が困難である。
しかし、カイトのシルバースプライトのようなセイバース特注武装ERAAであればこのエネルギーフィールドを突破して攻撃ができる。
「はああああ!」
カイトはシルバースプライトの切っ先にエーテルを集中させる。
白銀の光に覆われ倍にも及ぶ刃渡りになったシルバースプライトをMODSのコアめがけて突き立てる。
MODSもカイトを倒すべく鉤爪をカイトに向けて音の如き速度で突き出す。
しかしそれよりも更に早く、シルバースプライトの切っ先がコアを穿つ。
MODSは悲鳴と共に瞬く間に崩れ去り、殻の欠片に至るまで砂となって空に霧散した。
「こ、これがセイバース……」
セイバースの戦闘を初めて目の当たりにした乗組員が声を漏らす。
息を飲むような激しい戦闘。しかし、カイトがMODSに向けて閃光を放った瞬間よりわずか20秒程度の戦闘。
最後の接近戦は数秒の出来事であった。
(化け物、か)
乗組員は飛空艇に乗る前に同僚から言われた言葉を思い出した。
人とは思えぬ疾さで動き、化け物MODSをたやすく引き裂き、塵に還した。
化け物と呼ばずして何と言えようか。
その徹底した「殺し」の過程は、英雄と呼ぶには余りに荒々しい。
化け物と呼ばないのなら、せいぜい鬼神という言葉が似あいであろう。
彼の心にはセイバース、カイトに対する憧憬の念と共に、それ以上の恐怖を抱いていた。
その恐怖は、司令室にいる全ての乗組員が共有しているものだった。
「対象のMODS撃破を確認、これより帰還する」
カイトの声で全員が我に帰る。
そうだ、MODSの脅威は去ったのだ。
自分たちが助かったことを自覚した乗組員たちは、次々に喜びの声を上げ、MODSを倒したカイトに喝采を送る。
「まだ喜ぶには早い!いまだこの近辺の空間はレッドゾーンに近い状態にあるんだぞ。すぐにでも次の……」
MODSが来るぞ。その一言より早くレーダーが多数のエーテル反応を捉えた。
「あ、ああ……」
「モ、MODSの出現反応を確認、その数三、四、五……まだ増えます!」
「れ、レッドゾーンの中心付近、すさまじいエーテル揺らぎです!この周辺にMODSの出現反応……10を超えています!」
喜びも束の間。すぐに新しいMODS反応が確認される。
それも、今度は多くのMODSが一度に現れたのだ。
司令部の空気は一転、絶望とパニックに包まれた。
多数のMODS反応が確認され、司令部のパニックを通信越しに確認する。
カイトは叫んだ。
「落ち着いてくれ!MODSの数と場所、移動速度と進行方向すぐに報告してくれ!」
カイトの声に艦長だけは答えた。
「数はこの飛空艇の周囲4マイルだけで六体。まだまだ増える可能性が予測されます」
どうやら囲まれたらしい。この飛空艇をゆらぎの外に出さなければ危機は去らない。
「進行方向は飛空艇か!?とにかくMODSがいない方向に逃げて、ゆらぎから脱出するんだ!」
「進行方向は……れ、レッドゾーンです。揺らぎの中核に向かって移動しています。本艦に直接向かってくる個体はありません!」
MODSは目の前の機械や人を襲う習性がある。
それにもかかわらず、MODSは飛空艇を無視してゆらぎの中心に向かっているという。
MODSと遭遇した経験を過去に持つ艦長も、この不可解な行動には動揺を隠せずにいた。
「MODSがゆらぎの中心に!?どういうことだ?」
MODSとの戦いを過去にこなしたカイトもMODSの行動に戸惑う。
「ゆらぎの中心に何がある!?」
艦長に向けて叫ぶ。
「ゆらぎの中心には、更に多くのMODSがいます。その数既に十六、十七、まだ増えます!」
「MODSが集まっているのか?」
艦長の言葉を元にMODSの行動の意味を考えると同時に、カイトは空を蹴って飛空艇に戻る。
MODSが進行方向を変えて襲い掛かってくる可能性は十分にある。
護るべき飛空艇に戻り迎撃の構えを取るためだ。
その時、上空に爆音が轟く。
空に黄色の閃光が走り、MODSの一体を吹き飛ばす。
「これは……!」
間違いなく、大型飛空艇が装備する荷電粒子砲のものだ。
しかし、光が打ち出されたと予想される空間には何も存在しない。
「あの位置、MODSが集まるゆらぎの中心です。中心に何かあるのです!」
艦長が叫ぶ。
なにもないはずのゆらぎの中心、そこに集まるMODS、そして放たれる荷電粒子砲の光。
(まさか……)
カイトは思い出したようにMFA2Cに命令する。
――あの空間の空間情報改竄、確認できるか?
『解析開始……空間情報カラ改竄ノ形跡ヲ確認』
(やはり……)
民間に公開されていない技術の中に、空間の情報を改竄する技術が存在する。
風景と一体化すること自体は光学迷彩によって簡単にできるが、音や計器の類を誤魔化すのは容易ではない。
しかし、音波を打ち消す無音航行法、空間の状態を誤認させる空間情報改竄の技術は既に確立されているのだ。
――空間情報を正しく解析、あの位置にあるものを表示しろ
『改竄サレタ情報ガ多ク、ジャミングニヨッテ正常ナ空間情報ヲ取得デキマセン。復元ハ不可能デス』
――重力場の改竄検出箇所から輪郭を復元するくらいできるだろ!あとは形状予測であそこにあるものを割り出せ!
『了解……空間ニ潜ム物体ノ輪郭再現情報、視界ニ反映シマス』
その瞬間、カイトの視界に空間に無いはずのもの、正確にはあるにも関わらず見えないものの輪郭が映し出される。
緑線で覆った輪郭と曲面を補完するメッシュ線に囲まれて現れたものは。
「嘘だろ……」
カイトの飛空艇の倍以上、ラメドの規格にも存在しない巨大な飛空艇の姿があった。