第一章 邂逅 Section1
「おーい、貨物はこれで全部か?」
軍服を纏った男がフォークリフトで貨物を入れたコンテナを運ぶ作業員達に話しかける。
「これで最後だ」
フォークリフトに乗った男が答える。
コンテナは飛空艇の貨物室に並べられた。
「今回はこれだけか」
軍服の男が呟く。
「無理言わんでくれ。ここも随分掘ったんでな。そろそろ場所を変える時期だろうな」
聞こえていたのか、軍服の男の近くにいた作業員が吐き捨てるように答えた。
「それはそっちの勝手だ。納期までに十分な量を収めてさえくれればこっちは何も言わない」
軍服の男も張りあうように吐き捨てる。
作業員はフンッと鼻を鳴らして踵を返す。
「何話してたんスか?」
飛空艇から戻った作業員に若い作業員が尋ねる。
「量が少ねえとよ。こっちの事情なんぞあいつらは知ったこっちゃねえ」
「あぁ、そういう。でも仕方ないっスよ。ラメドの連中なんて誰一人うちら地方民のことなんてわかりゃしませんよ」
「だろうな。話すだけ不毛だからこうして帰ってきたんだ」
「しっかしデカイ船ですねぇ。こんなのが空飛ぶんスよね?」
若い作業員はキョロキョロと飛空艇を物珍しそうに眺めながら言った。
それを聞いた壮齢の作業員は珍しいものを見たように目を丸くして若い作業員に訊く。
「なんだお前ああいうのは初めてなのか?」
「ずっと穴蔵みたいなとこに住んでましたから。炭坑を掘る機械以外は見たことねえっス。あんだけデカいならMODSもイッパツでふっ飛ばしちまうようなすんごい武器山ほど積んでるんですかねえ?」
「そりゃ違うぞ。あれくらいの船には対空賊用の装備はあってもMODSに対抗する装備は無え」
「え!?あんだけデカイ船なのに!?」
若い作業員は驚いて壮齢の作業員の顔を向いて聞き返す。
「ああ、MODSってのはそれだけヤバいんだよ。お前も実際に見ればわかるがな。だが代わりにラメドの飛空艇には対MODSのエキスパートが乗ってる。えーっと……お、いたいたあいつだな。ほら、あの小僧がそうだ」
壮齢の作業員は飛空艇を囲む軍人を見渡した後、輪から外れた影に佇む青年を顎で指した。
「え?あの俺より年下みたいなガキが?MODSを倒せるんスか?あんのデカい飛空艇の武器でも倒せない奴を?」
若い作業員は胡散臭そうに青年を眺めた。
「そうだ。そういう訓練と特殊な武装を与えられたエリート様だ。あの胸についた金刺繍のエンブレムがその証よ」
「へえ?ラメドはやっぱわからんことだらけっスねえ。人間が束になって機械やら武器を持ちだしても勝てないようなあの化け物をガキ一人で倒しちまうなんて……」
二人の作業員はしばらくその青年を見つめていた。
飛空艇の元、貨物室のハッチの近くに佇んでいる少年の元に一人の軍人がやってきた。
「セイバースの方、貨物の取り込みが終わりましたので間もなく発進します。速やかに乗船していただきたいのですが」
「わかった。あとカイトでいい。俺の名だ」
「は、それではカイト様。乗船を」
「様はいらねえって……」
カイトと名乗った少年は軍人に連れられて飛空艇に乗り込んだ。
その後ろで貨物の取り込みを行っていた軍人たちが小声で話す。
「あれが今回のセイバース?随分若いんだな」
「あれ、お前見てなかったっけ?」
「ああ、セイバース自体見るのは初めてじゃないがあんな若い奴は初めてだな。大丈夫なのかよ、俺達の船を任せたりして」
「お前、セイバースがMODSと戦ってるところ見たことあるか?」
「いや、俺実はラメドの外で勤務するのってこれが初めてで、MODS自体本物を見たこと無いんだよ」
「なるほど。ま、実際に見ればわかるさ。若いも年寄りもカンケイなんてありゃしねえ。セイバースのエンブレムを付けてる奴は全員MODSを狩る化け物だぜ。ホントに同じ人間なのか疑うほどにな」
「おいおい大げさだろ。つか聞こえたらどうするきだよ」
「大丈夫だって。それにホントのことだからな。ま、見ることがないのが一番だけど」
(聞こえてんだよ……)
そう心で悪態をつきながらカイトは飛空艇に乗り込んだ。
(化け物、か。確かにそう言われても返す言葉ないかもな……)
飛空艇の中を歩きならカイトはセイバースに入った日のことを思い出していた。
『これを手にした時からお前はセイバースだ。人ではない、覚悟はいいか?』
セイバースを象徴する白金の剣を受け取る時、自分は確かにそう言われた。
――セイバース。惑星プライムを外敵MODSから護る人類の剣。
鍛えあげられた軍人の中で更に適正によって選ばれた人間のみがなることを許された精鋭部隊。
この世で唯一MODSを一方的に屠る武装を与えられた戦士であり、その力は人の範疇を超える。
(コイツを手にして、戦った時からわかってたコトだ。化け物なんて今更だよな)
カイトは腰に差した自分の剣に手を当てながら自室に戻った。