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恋愛心理士 夏目恵介研究所  作者: 柑藍
友達は恋愛依存性
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とある4年制大学で心理学を専攻している3年生

夏目恵介



学部生、教師陣

誰もが認める天才だ



大学の図書館に置いてある心理関係の書籍の内容は

全て頭に入っているなんていう噂もある



その上ルックスも文句なしときた



「あ!夏目先輩よ!

いつ見てもかっこいいなー

お近づきになりたいけど

学部も違うし1年の私たちじゃ無理よねー

同じ大学ってだけで良しとするしかないかぁ」



「えー

確かに格好いいけど冷たい人なんでしょ?

心理学部なのにそれってどうなの?」



校舎に向かって歩く夏目を窓から眺めながら話している経済学部の女子2人



彼女達の言う通り

夏目は誰とも親密な関係を築くことなく

大学生活を送っている



しかし逆を言うと

それが夏目のカリスマ性を高めているのだ



「ねぇ知ってる?

大学内に夏目先輩専用の部屋があるらしいし」



「学生が部屋持ってんの!?

さすがだね


そういえば冬音って心理学部じゃん」



「あ!そうだった!

冬音!あんた夏目先輩の情報何か知らないの!?

って、まだ食べてるし…

あんたって本当残念な美人だよね」



2人は窓の外から視線を移し

教室にいるもう1人の友達に目を向ける



色白で美人で

男受け抜群な顔立ちだが

好奇心旺盛で活発すぎるというギャップから

残念な美人と冗談混じりに言われることが多い



それがここにいる神谷冬音だ



今日もプリンを嬉しそうに食べている冬音の姿がある



「夏目先輩?そんなに有名な人なの?」



首を傾げて

不思議そうにしている



「は!?あんた夏目先輩知らないの!?」



冬音は

凄い勢いで詰め寄られあたふたしてしまっている



「えっと、名前は聞いたことあるかな…」



「あのねぇ

夏目先輩は本当に凄い人で…―」



そこから1時間


散々夏目がどれだけ凄い人で

学生の憧れの的なのかを語られた冬音は

クタクタになって次の講義へと向かった



夏目恵介について

あまりにも沢山の情報が入ってきすぎた

冬音の脳内は

"夏目先輩は人に興味が無い心理学部の天才"

と処理をした



夏目の話を聞いて

冬音は1つ思い浮かんだことがあった



―夏目先輩なら解決してくれるのかな



とある深刻な問題を抱えている冬音は

取り敢えず夏目を探すことにした



面識のない夏目に

相談を持ちかけようという発想を

他の学生ならしないだろう



しかしこれが神谷冬音という女なのだ



大学内を歩き回って夏目を探すが

全然見つからない



「いないのかなぁ…


あ!夏目先輩専用の部屋!」



夏目専用の部屋があると

聞いたことを思い出した冬音



しかし場所なんかは分からず

片っ端から部屋を見て回った



大学にはいくつの部屋があるかわからない



教授、准教授、非常勤講師…



そんなプレートばかりがかかっている建物を抜けて

何に使われているのか

1年生の冬音にはわからない棟にまで来ていた



「もう疲れた…

本当に夏目先輩の部屋なんてあんのかな?」



友達の情報を疑い出したその時

廊下の突き当たりに

"夏目恵介研究所"の文字が見えた



「あ!あった!」



今までの疲れも吹っ飛び

その部屋の前まで駆け出す



そしてそっと扉を開く



「何ここ…」



窓から夕日が差し込み

オレンジ色に染められたその部屋には

広いデスクに

ソファー、テーブル

壁一面の本棚には分厚い本が隙間なく敷き詰められている



相当散らかっているだろうと

勝手に失礼な想像していた冬音だが

そんな考えは見事に打ち砕かれるほど

綺麗に片付けられていた



「ん?」



部屋の奥でガサゴソと音がする



「あのー!

誰かいますか?」



部屋の奥に向かって呼び掛ける



すると本棚の後ろから人が現れる



黒いTシャツに身を包み

黒縁眼鏡をかけた端正な顔立ちの青年だ



彼が夏目恵介だ



「あの、助けてください

お願いします!

親友が悩んでるんです!」



冬音は名乗るよりも先に

頭を下げた



「は?

誰だよ、お前」



そして当然の反応を受けたのだった



突然現れ助けを求めてきた見知らぬ女を

夏目は驚いた様子も見せず

ただ少し面倒臭そうに見ていた



「私、この大学の心理学部1年、神谷冬音です」



「冬音って…

俺に喧嘩売ってるような名前だな」



いかにも機嫌が悪そうに

大量の本をもってソファーに移動すると

本を開き文字に視線を落としながら

会話を続ける



「ほんとだ!先輩の名字夏目ですもんね

でも、喧嘩売ろうなんておもってませんよ

あー…だけど私、結構この名前気に入ってるんですよね

あ!こんな話してる場合じゃなかった!

実は…

別の大学に通ってる私の親友に好きな人ができたんです」



「ちょっと待て」



「っ、何ですか?」



本題に入りかけたところでストップをかけられ

慌てて自分の言いたいことにブレーキをかける



「ここはお前の悩みを聞く場所じゃねーぞ

しかも友達の恋なんか…


自分達で何とかしろよ」



シッシッと手で払い除けるようにすると

その手でクッと眼鏡を上げ

真剣に本の世界に入り込む



「うわ…

さすが、人に興味がない夏目先輩」



ため息混じりにそう言われた夏目は

ピクッと眉が動くと

読んでいた本を閉じる



「それは違うな

俺は人間に興味が無いんじゃなくて

個人に興味が無いだけだ


人間に興味が無くて

ここまでの実績が残せるかよ」



自慢混じりに反論する



自他共に認める天才

謙虚さなど持ち合わせていないようだ



「じゃあ、人間の恋愛というものに興味を持ってください!

私の親友、片想いしてる人がいて」



「俺は話を聞くなんていってねーぞ」



夏目の冷めた視線を気にすることなく続ける



「親友と同じ大学に通う

同級生の男子なんですけど」



「その男と親友をくっつけるためには

どうしたらいいかっていう相談か?」



「いえ、違います

親友にその人を好きなのを辞めて欲しいんです」



「は!?」



予想とは正反対の答えに

夏目は話の内容よりも

神谷冬音という人間に若干の興味が沸いてきた

あくまでも人間性にだ



「親友に紹介されて

その人とちょっと会って話したことがあるんですけど

平気で浮気をする人だと思うんです

軽い人、というか…」



トーンを少し下げて困った様子を見せる



「1度会って少し話しただけなんだろ?

なんで軽い男だってわかるんだよ

見た目で判断したんじゃないだろうな?」



外見からの印象は非常に影響を与え

そこからの先入観で人を判断してしまう


それが日常的に発生するということを

夏目は充分に知っているのだ



「見た目もチャラかったんですけど…

その…ちょっとしか会話してない私に、付き合ってとか

そんな感じの事を色々言ってきたんです」



言いにくそうにしながらも伝えた冬音だったが

夏目は全く気にしていない



「ふーん

その男がお前を口説いたことを

親友は知ってるのか」



「口説いたとか…生々しい言葉使わないで下さいよ…

親友が席を外した時の事だったし

私も伝えてないんで知らないですよ

…どうにかして今の恋を辞めて欲しくて

遠回しに言ってるんですけど

そこまで強くは言えないし…」



いつの間にか冬音の話を聴いてしまっていた自分を後悔しながら

ここまで話させて追い返す訳にもいかず…



「はぁ…今回だけだ

俺も暇じゃないし、軽くアドバイスするだけ

それを実践するもしないも

お前たち次第だ

言っておくが、失敗しても責任なんか負わない」



夏目がそう言うと冬音の表情は

みるみる笑顔になっていった



「ありがとうございます!

やっぱり夏目先輩の所に来て正解でした」



「あぁ

なら今日はもう帰れ

俺は用事があるから

また今度具体的に話し合うぞ」



「はい!

お邪魔しました」



そう言って礼をすると

パタパタと廊下を走りながら去っていった



「騒がしすぎるだろ…」



人を寄せ付けないオーラを放ち

天才ということで

夏目に個人的な話をする生徒はなかなかいない



それが今日

後輩に悩みを持ち込まれるという

人生初の出来事に

刺激を感じながらも面倒が舞い込んで来たという気持ちの方が大きい夏目であった


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