りすぷでじゃおうえんさつこくりゅうは!
俺はしがないプログラマー。
C言語、Ruby、Java、php、JavaScript
いろいろなプログラミング言語を仕事によって使い分けているが、やっぱり一番好きなのはLispだ。他のどんな言語とも違う独自の文法と小さくも意欲的なコミュニティを持つ素晴らしい言語だ。今話題の人工知能にだって使われている。
そんな俺は今ダイエットのためにランニングをしている。というのもプログラマーと言う仕事上迫る納期や座りっぱなしの仕事だ。どうしても不規則で不健康な生活を送りがちなせいで、すぐに太ってしまうのだ。
だからこそ時間の空いたときに少しでも健康的なことを、とランニングをしている。
人の疎らな生活道路。曲がり角を曲がったところで原付バイクが突っ込んできて……
(
「っ……ここは……」
どうやら原付とぶつかり意識を失っていたようだ。目を覚ませば何処かよくわからない。唯一分かるのは、俺が倒れていた場所は木漏れ日がきれいな森ということだけだ。
「喉がかわいた」
意識がしっかりと覚醒したからこそ自分の喉に、いや声に違和感を覚える。なんと言えばいいのだろう。録音した自分の声を聞いたような違和感。予想していた声より幾分高い声が俺の耳に入ったのだ。
気のせいだと自分を誤魔化して水を探しに行こうと立ち上がると視界が低い。視界の端を黒い糸―髪の毛らしきものが揺れる。身体も心なしか、否確実に軽い。
まさかという気持ちを頭を振って吹き飛ばし、闇雲に歩き始める。
「それにしてもここはどこなんだ? 俺の家の近所にこんなにも広い森はなかったはずだけど……」
30分程歩いても森の端は見えない。近所で緑のある場所なんていえば少し大きな公園くらいで、せいぜい10分も歩けば端から恥を少し見て端まで横断出来る程度の大きさだ。
それにしても体力が増えた。疲れない体に気分が高揚し、夢中で歩いているとどこからか水が、川が流れる音が聞こえてきた。
「川がある? 水だ水だ」
体は疲れずとも喉は渇く。水を求め足は次第に早歩きへ、そして駆け足となる。次第に川のせせらぎが大きくなる。そして森が途切れ、大きくは無いが魚くらいなら住んでいそうな川にたどり着いた。
「川だ川。水、水」
手で水を掬うことすらもどかしく、川に直接顔を突っ込む。髪の毛が顔に張り付くがそんなことお構いなしだ。
ゴクリゴクリと水を飲むにつれ、思考がまともになっていく。がばりと川から顔をあげる。果たしてこの水は飲めるほどキレイなのか、飲んでよかったのかなどと考え始めるが、済んでしまった事は仕方ないと頭の外へ疑問を吹き飛ばす。
川をじぃっと見る。嗚呼、必死に自分を誤魔化していたが、背が低くなったくらいだと自分を騙していたが、水面に映った自分の姿、少女の姿を見てしまうともう否定することは出来ない。
「女に……なってる」
少しの間混乱していたが、あることを思い出す。
「アスファルトに舗装された住宅街から突然こんなところに来るはずない。ならこれは夢だ夢に決まっている」
夢なら楽しむしかない。せっかく女の子、それも美少女になれたのだ楽しもう。ならば何をするべきか。人を探す? それとも女の子を楽しむ? そうだ。女の子と遊ぼう。この体なら女の子とスキンシップをとっても誰もなんとも思わないだろう。
そうと決まれば人里を目指そう。川があるということは下っていけば人の住む場所があるに違いない。
喉の渇きを潤して先程以上に元気になった俺は走ることは無いが、しっかりとした足取りで村を探しながら歩いていく。
しかしあるけどあるけど人影は見つからない。川を下れば人がいるという発送は間違えてはいないのだろうが、あまりにも森が深いのだろう。
いつまで歩けばいいのだろう? そう思っていたところでふと思いつく。
夢なら空を飛べるのでは?
思い立ったが吉日とばかりにすぐ実行に移す。しかし飛ぶ方法なんてわからないし、どうすればいいのかも分からない。ならば自分に身近な物、プログラミングで飛ぶという行動を定義すれば良いのだ。
ある人は言った。神はLispで世界を作ったと。ならば世界の理に干渉するためにLispを使うのは何ら間違っていないだろう。頭の中でコードを組んで行く。空を飛ぶ、そして進む止まる方向転換などを実装するだけのかんたんな仕事だ。細かいところは想像力という便利なもので何とかなるだろう。
「よいしょっと」
そうつぶやきながら、ひょいとジャンプしてみる。結果から言うと空を飛べた。そこまで細かい定義もしていないのに自由自在に飛べる。想像力様々だ。
高度を上げて遠くに人里があるか探そうとも考えたが、現実とは違う世界に何があるかは分からない。あまり危険なことをするのはやめようと森より少し高い程度の高度で飛行する。森とは言っていたが、そんなレベルではない。ジャングルと言ってもいいような大きさだ。しばらく川沿いに飛んでいると何やら森の中が騒がしい。すっと近くに降りてみると人の声が聞こえてきた。
「へへへ、ボス見てくだせぇよこのガキ。上玉ですぜ。きっと高く売れますよ」
「やめて、来ないで。私はこの薬草をお母さんに届けないと、はやく届けないと行けないのよ……」
「知ったこっちゃねえな。おいお前ら、捕まえろ」
ボスと呼ばれた男が部下達に命令を下すと、「ガッテン承知」という威勢のいい声がいくつも聞こえ、男たちが女の子に飛びかかっていった。なぜ言葉が分かるのか。きっと夢だからだろう。これはいわゆるお決まりの展開で、俺が華麗に女の子を助け、彼女の住む村なり街に案内してもらい、コイニハッテンシテ…素敵なことやないですか。
そうと決まれば悪・即・斬
少女を守るように男たちの前へ立ちふさがる。
「お、おいこの女空から降って来たぞ!」
「ど、どこから来やがった!」
「そ、そんなことよりかなりの上玉じゃねえか。さっきのガキなんか目じゃねえぜ」
温玉食べたい。
「君、俺の後ろに下がってな。なあ狡い奴ら、今なら逃してやるよ。お前らじゃ俺に敵わなブベラ」
俺が奴らに諦めるよう告げていると殴られた。
「い、痛えじゃねえか。だが、Lispは人工知能として優秀な学習能力がある。二度と同じでは食わヒデオッ」
「なんかごちゃごちゃ言ってるがさっさと捕まえるぞ。空から降ってきたから何かと思えばただの獲物だ。顔は傷つけるなよ」
なんて奴らだ。一撃目は拳、二撃目は足。学習が追いつかない……
「こうなったらあの技を使うしかない。君ちょっと離れて……いない……」
まさかあの娘逃げたのか? なんてこったフラグはどこに行った。テンプレ展開じゃなかったのか。
「ちくしょう! 喰らえ邪竜炎殺黒龍波ァ!」
「ぐわー」
「いたいよー」
「しにましたー」
俺の放った漆黒の炎で出来た邪竜が奴らを燃やし尽くした。ちなみにLispで動いてる。悪は滅び……
いしきが、とおの――
)
ッ……ッ……ッ……ツーーー
「2時14分……ご臨終です。死因は睾丸からの大量出血です。」
医者は二度と目を覚ますことの無いプログラマーを前にそう告げた。
お題:ダイエット、Lisp(LISt Processing)、邪王炎殺黒龍波