マッチ売りの少女
お正月なので大晦日の童話をもとに書いて見ました
むかしむかし、もう少し具体的に言うと19世紀の半ばの大晦日。
その年は近年稀に見る大飢饉だったからでしょう、多くの者は経費削減による大量解雇の余波を受け、仕事を失いました。
そしてこの男、クリストファー、通称クリスも受験戦争に勝ち抜き、一流大学を経たのち、世界的に有名な家電メーカーに入社したものの解雇されてしまいました。
彼の忙しくも幸せな人生はそこから狂い始めたのでしょう。
例年リストラされたものは、次の雇用先を探しながら最低おちんちん基おちんぎん、銅貨120枚――要するに食パン一斤分、お腹いっぱいになるから幸せ。なおこの年は飢饉の影響でパン一切れが一斤に相当するそうです。大変だ――をお恵みくださる雇用主様のすねをかじりながら、何とか暮らしていくのですが、大量解雇の余波はこんなところまで広がっています。雇い口が足りなくて多くのものが、ぷーさんでした。
ニュース番組では多くのものが新年を迎えられないだろうともっぱらの噂です。
クリスも雇い口を見つけることができず、ぷーさんとして暮らしていました。
しかし彼は賢しい男でしたので何とか金を手に入れようと、マッチを売るお仕事を始めました。何事にも先立つモノが必要ですが、安いやすーいマッチ、しかも全部の箱から数本ずつマッチ棒を抜き取っているので、元手はそんなに必要ありませんでした。
しかし彼は愛嬌も無ければ容姿もそんなに良くありません。よって買ってくれるお客さんは、マジものの聖人君子や単なる物好きくらいでした。
まあ少し考えればこうなることはわかっていたでしょうが、あの時のクリスは白いふわふわのお部屋に入ってもおかしくないような精神状態でしたから仕方ありません。
優しく見守ってあげましょう。
少し前口上が長くなりましたが話を戻しましょう。
端的に言ってしまえば。クリス青年は朝起きるとクリス幼女になってしまっていました。
TSしてしまったのです。性転換してしまったのです。ロリロリ美幼女になってしまったのです。
愛嬌が身につきました。容姿も最高です。そして頭脳は一流大学レベル。明るい未来が待っている、才色兼備の勝ち組人生!
なのですが、明日よりも今日なのです。親もいなければ金もない、明日生きているかも分からないその日暮らしを乗り越えなければいけないのです。
早速クリスはマッチを売るお仕事の準備にとりかかりました。
彼、今日から彼女は服装とは、仕事をする上で最も大事という信条を持っていたので、パリッと糊の効いてアイロンも書けられていたであろう現在はボロボロでみすぼらしいスーツでマッチを売っていました。
残念クリスちゃんの体格に合うお洋服はないです。
仕方がないので彼女はボロボロのワイシャツを着て、袖は切ってしまいました。
しかしそれだけだと寒いので、カーディガンを着ることにしました。今度は切っていないので萌え袖になりました。萌え袖ですよ! 萌え袖!
さてズボンは履いていませんがワイシャツの裾がスカートみたいなのでその格好で出かけることにしました。靴はぶかぶかです。
さすが大晦日お外は寒いですがおしゃれは我慢と自分を奮い立たせクリスは人通りの多い時計台の前までやって来ました。
「マッチ一本火事のもと、マッチは実に便利ですが自然発火してしまうってんだから危なくて仕方がない。ポケットに入れておいたら気づかず火がついて、火だるまなんてえニュースが後を絶たない。本当に危険なものでしてやっぱり時代は火の魔石。一つたったの銅貨1000枚! 安いよ安いよ」
時計台の前では何やら怪しい男が火の魔石なる石ころのようなものを売っていました。
もちろんこの世界に魔法なんてものはないですし、自然発火するマッチ。つまりは黄リンを使ったものなんて、廃れているので彼は白いふわふわのお部屋に入れておくべき人でしょう。
そんなきちが……保護するべき人のことを横目に見ながら、クリスはマッチを売り始めました。
「マッチいりませんか。マッチいりませんか。」
普段とヤリ方は何一つ違わないにもかかわらず多くの人達が彼女からマッチを買っていった。次から次に老若男女問わずお客さんが訪れたおかげもあり、彼女のマッチはあっという間に売り切れてしまった。やっぱり可愛い幼女は得である。
さあこれで年が越せるぞと嬉しげに帰り支度をしているところに。さっきの魔法石を売っている男が近づいてきた。
「お前がそんな野蛮なもん売ってるせいで俺の魔法石が売れねえじゃねえか。セールストークも、商品もうちのほうがレベル高いっていうのに」
そう言いながら男はクリスに向かってその大きな握りこぶしを振り下ろす。
とっさにクリスは後ろに下がった。正確に言うと下がろうとして、靴のサイズのせいで足がもつれて転んでしまった。
その隙に男はクリスの売上金を奪い取るとさっそうと立ち去っていった。
あぁなんということか男が幼女を押し倒し――勝手に倒れた――金を盗んで行くという考慮の余地もない事案が発生したのだ。しかし時代は大不況、街は荒れに荒れているのでそこまで手の回る警察組織は存在していなかった。
クリスは一人悔しさと悲しみに涙を流しながら家へと一人、うつむきながら歩いって行った。
前方不注意、ドン☆と男とぶつかり尻もちをついてしまう。
男は幼女とぶつかり、更にその幼女が泣いていることに気が付き手を差し伸べ「大丈夫? 痛かった?」と声をかける。
「ありがとうございます。でも痛かったから泣いているわけではないんです」
そう言ってクリスは立ち去ろうとするも、男が彼女を引き止める。
「じゃあどうしたんだい? 大人として泣いている子をそのままいかせたりできないよ」
「でも泣きながらイク人だって世の中にはいるでしょう? 私も昔はそういうこと付き合ってましたから。」
「確かにそれはそうかもしれないが、君みたいな小さな子が泣きながら行くのをほうって置けるはずないじゃないか」
「え? 私今イってるんですか? そうか……これがイクって感覚なのか……」
彼女の言葉を受け今度は男がお頭に疑問符を浮かべる。
「取り敢えず何があったか知らないが、取り敢えず分けを話してみなよ」
「ナニってナニはもうないんですけど……」
そう彼女は言ってから、キチガイにお金を巻き上げられた話をする。
「こんな時代なので私が自衛できなかったのが、いけなかったんですけど、何故か涙が止まらなくて」
「どんな時代だろうと大の大人が子供からお金をとっていいはずがない! ……そうだ家に来なよ。 あいにく俺は独り身だから大晦日だっていうのに一人だし、君も家族がいなくて今日食べるものをを買うお金もない。お似合いだろ?」
そう言うと男はなかなか首を立てに振らないクリスに痺れを切らしお姫様抱っこで彼女を家へと連れ帰った。
再び事案が発生した瞬間でもある。
その後クリスは男と結婚して幸せに暮らしましたとさ
おしまい
時代に意味は特にない