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【ご自由にお持ち帰りください】  作者: 本宮愁
その他バトン類
20/26

愛してると言ってくれバトンfeat.綾女臣(2014/02)

・このバトンが回ってきたら指定されたキャラの口調でその日の日記を書く。(キャラがない人は、ノリで書く)

・日記の最後で回してくれた人へ「愛している」という内容をそのキャラの口調で言う。(キャラがない人はノリで書く)

・大好きなあのキャラに愛してると言われたい!が為のバトンです。

・日記の内容は自分の日記で。口調だけ変える。♂のキャラが「今日は可愛いスカート買った」とかもあるかもしれない。面白い。

・そして愛して欲しい人に回してください

・やったことある人もやってください。




 昨夜からうるさかった。どしゃどしゃと耳ざわりな音がして、換気扇でも壊れたのかと思いながら目を閉じた。


 朝になってカーテンを開ければ、長らく出会わなかった雪景色。……ふぅん。初雪ごときが俺の安眠を邪魔したわけ?


 まあ、でも、珍しい光景ではあるので、そのまましばらく黙ってみつめていた。雪が降らない街、なんて小洒落たもんじゃないし、ぶっちゃけ街ですらないわけだけど。


 真っ白な屋根。見慣れた景色が、ちょっとだけ異世界の情緒。――まあ、悪くない。


 バレンタインの材料(自分用)を買いに行こうかと思っていたけど、すぐに棄却した。こんな日に外に出るなんて、冗談じゃないよね。


 エアコンの電源を入れて、ベッドにこもってぬくぬくと。


 鳥の鳴き声と、かすかな喧騒。耳をすませば聞こえるけど、意識しなけりゃ無音も同然。なんだか、いつにも増して、世界が孤独に寂しくみえる。すぐ隣の部屋にだって知りあいはいるのに、馬鹿な感傷。


 雪だからだ。なにもかも、雪のせい。静寂と孤独と、――それから。


 たぐり寄せかけた記憶を投げだして、ふと、床の上で眠るパソコンに気づく。開きっぱなしのノートパソコン。かろうじて電源は切れていた。


 あ、やべ、卒論。……いや、いま草稿チェック中だし。でもタイトルだけで飛ばした節もあった。あれは埋めるべきだろう。めんどくさ。


 結局、そのまま現実逃避。ネットを漁ったり、お気に入りの梅抹茶を飲んでみたり。寝落ちの代償、浴び忘れたシャワーを浴びてみたり。


 今日だけは、なんて言い訳して、思う存分ダラけてみた。明日のことは考えない。


 ――自堕落に引きこもっていた、その夜のこと。



「綾女ちゃん、ちょっといい?」



 は?


 俺の安眠、じゃなかった、至福、――まあいい、幸せタイムを邪魔するのはどこの誰かとドアを開ければ、留学生の姿。


 ……ああ、なんだ。


 パッと現金に気持ちを切り替えて、部屋に迎え入れる。彼女には、俺の時間を使う合法的な権利があるしね。


 一年前の記憶を掘り起こしながら、課題の説明をし、デモムービーを加工して、プレゼンと最終成果報告書の過去データを渡す。


 あーあ、俺らのプレゼン、かなりふざけてる。けいおん!の会話劇とかガチでやったんだよね。それに、最終成果報告書も、考察書きすぎてるし。留学生が参考にするにはツライかな。ま、しかたない。


 もうひとりきた後輩と、ふたりセットで送りだしたのが22時ごろの話。



 ――そして、奴はやってきた。



「卒論やってるかーい?」



 やってないね、見ての通り。心のなかで返事をして、向かい部屋に住むクラスメイトを迎え入れる。



「ぜんぜん書いてないんだよね」



 馬鹿正直に答えれば、いや書けよ、と至極まっとうな指摘を受けた。わかってるけど、めんどいんだよね。やる気しない。つまんないし。


 結局、向かい部屋にせっつかれて、卒論を開く。理論がどーの、評価がどーの。なんかいろいろ相談した気もするけど、だいたい忘れた。まあ、なんとかなるでしょ。俺だし?


 卒論がひと段落した後、なにがどうしてそうなったんだかわからないけど、向かい部屋が「ときめき」を熱弁しだす。


 いつだっけ。「あなたにはトキメキが足りない」と、カウンセラーに真顔で言われたんだよね、俺。で、卒業するまでにトキメキをみつけろ、と。


 でもさ、きみのトキメキ語られても、俺のトキメキに影響しないんだよね。



「結局、萌えってなんなの? よくわかんないんだよね」

「はあ? 生きる糧だし! ねぇの? きみだったら、(集めてる漫画)の新刊でるとかさ、テンション上がるだろ!? たのしみだろ!? そのためにがんばろうって思えるだろ!?」

「いや、……ないけど」

「意味わかんない。お前死んでんの!?」



 友人の価値観に殺された、ハタチの夜。



「あー、……昔は、あったかもしれない」

「ありえない。老けてるよ! お前、俺の母親より老けてるよ!」



 向かい部屋は止まらない。なんとか俺に、萌えやトキメキを理解させようと躍起になって、熱弁に継ぐ熱弁。



「なんなの? 俺のときめきを語ればいいの? (アニメキャラ)可愛いとか言いまくればいいの? いくらでも言えるよ! そうしたら、お前は、ああそれあるかも、とか思ってくれんの!?」

「いや、きみのときめきポイントには習熟してるけどね……なんていうかさ、俺のなかの『ときめき』っていう情報のうち、95%くらいはきみのときめきが占めてるよ。ああ、これ、(向かい部屋)ときめくんだろうなぁって理解はできるし――」

「お前のなかのときめきの95%が俺のときめきで占められているなら、残りの5%も埋めて100%にしてやるよ!」

「……は?」



 うわ、ときめき、のっとられる。


 ヒートアップした向かい部屋のセールストークにより、ときめきの輸入契約を結ばされかかる。だから、きみのときめきは俺のときめきに影響しないし。


 向かい部屋からの愛が重い。



「あんだけ布教したろ!? なんでわかんねぇの!? いつになったら理解するの!?」



 そうだね。うたプリ、Free!、ブラコン、ディアラバ、ときメモ――きみからの「ときめき布教」ラインナップはよく覚えてるよ、俺も。



「俺はもうどうすればいいの!? ダイヤのAも見せればいいの!? わかった明日の朝8:30に起こすから一緒に見よう! で、俺のときめきを横で見てればいいよ!」



 ……もう意味わかんないんだけど。愛が暴走してるよ、向かい部屋。



 約二時間、延々とトキメキを語った向かい部屋は、気づいたときにはガックリとうなだれて壁を叩いていた。



「そこだよ……お前、そこだよ……っ!」



 俺、なにか言った? どうやら、なにか間違えたらしいけど。なにを間違えたんだかよくわからない。


 そうして向かい部屋は、哀愁漂う背中をみせて帰っていった。


 ――は?


 いや、だから、意味わかんないだけど。



 痛む頭をおさえながら、ネットを開く。あっちこっちに顔をだしながら、気持ちを整理。


 新着の記事のなかに、嫁の名前。


 ――****。


 癒されるね。ほんと。

 ときめきとか、萌えとか、やっぱよくわかんないけどさ。


 とりあえず。



 俺のこと無視するなんて、許さないから。

 一瞬も目離さずに、見てろよ?

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