3話 知らない世界
「それより、なにか注文するものは決まったかな?」
僕が目線をあさっての方に向けていると、佐田さんは今まで話していた内容を捨て、すっぱりと話題を変えた。
切り替えが早い。
して、レストランに入ったのは良いものの、会話に没頭していて何一つとして注文をしていないものだからホールウェイターが退屈そうにしていた。
このレストラン、外見でもそうだったが異様な空気だ。
その異様な空気と言うのは僕の観点からだが、〝客を寄せ付けない〟オーラが出ている。
もちろん、その客と言うのは金持ち限定が前提のことであって僕のような一般市民には論外である。
しかし、僕が思っている事はそういうことではない。
金持ちの客でさえ、寄せ付けないと言う感じなのだ。
「ねぇ、旅人。この店、すごいでしょ?」
「うん、すごいよ……。僕なんか大抵来れるような場所じゃないよ」
「まぁそうね。お金が全てだからね。けど、この店はね。例えお金持ちであっても入れないわよ」
「え?」
「だってこの店、私のだもの」
今、なんて言った?
『私の店』って言ったよな?
と言うことは―――、そうでしかないか……。
「ここは私のためだけに作られたのよ。お父様が……いつだったか忘れたけど誕生日に作ってくれたのよ。凄いと思わない? こんな立派なレストランを私のためだけに作ってくれるんですもの!!」
うん、すごいよ。君のお父さんがね。
心で呟き、視線を泳がせる。
このただっぴろいレストランが真夏ちゃん専用。
だから他に客がいなかったのか。
なのに何故テーブルはいくつもあるんだ?
聞いてみる事にする。
「じゃあどうしてテーブルはいっぱいあるの?」
「そんなの決まってるじゃない。気分で席を変えるのよ。今日は日差しが強いから店の真ん中。時間帯によって窓際とか、そんな感じね。あ、けどお父様のお友達と交流パーティーをする時にここを使ったわね。あの時は凄かったわ。とても高価なドレスに身を包んで、それはそれは―――」
なんだが自慢話が始まったのでしばらく聞き流すことにする。
とりあえず僕には到底理解できない話を「へぇ」とだけ言葉を返す。
「お嬢様、そろそろご注文を」
「なによ、人が話してるんだから邪魔しないで」
「ウェイターが困っていますし、毎日ここを開けている訳ではないんです。お嬢様のために本来の仕事場を放棄してまでいらしているシェフの方々などの事を考えてください」
「ふんっ。い・つ・も・の・!」
「君は、どうするかね?」
「え゛……。お腹いっぱいなので特には……」
「遠慮はしなくていい。滅多にこういう所は来れないよ?」
さっき素うどんを食べたばかりだ。
かと言って、どう断りを入れても恐らく無理だと判断しメニューを見開く。
どれもコレも値段が書かれていない。
それもそうか。一般客相手に商売している店ではないのだから。
写真付きのメニューはどれもコレもおぞましい具合に美しい。
「じゃあ……これで……」
ウニのなんたらこうたらスパゲティと言うのを指で指しながら佐田さんに伝える。
佐田さんはパチン! と指を鳴らしウェイターを呼ぶ。
メニューを的確に伝え、おしぼりとお冷を要求しウェイターが去っていく。
「酒類の方が良かったかな? ワインなら出せるよ」
「いえいえいえ、僕は運転手ですから……」
「あれの?」
外を指で示す先は外に止まっているロールス・ロイス。
どう考えても違うだろ。
「いえ、バイクです」
「ふふん、実は運転してみたいと思わないかい?」
「無理です。怖いです」
「なにがだい? オートマだよ」
「マニュアルでも一緒ですよ。傷なんかつけたら大変じゃないですか!! アレいくらするものだと思ってるんですか!?」
「んー安い家なら買えるね一括で」
「……」
「佐田。アナタ、クビって言ったわよね? 今日から運転手は旅人よ」
「いや無理だから。真夏ちゃん、無理を言っちゃダメだよ」
「どうして無理なの? 免許が無いとか? 大丈夫よ無免で。アレで何かにぶつかっても10トントラックにでも突っ込まないかぎりわね」
「だから!! うぅ~~。免許は持ってるけど無理だよ真夏ちゃん。僕はバイクを乗り回してるのも、それに乗り慣れてるから乗れるんだよ。車に乗り慣れてない、ましてやあんな大きい車を運転するにも慣れてないとダメだよ。ペーパードライバーとかが良い例だよ。免許は持ってても実際には乗れない人が多いでしょ? 毎日乗って、運転して、初めて車を運転出来るになるんだ」
「わたしは特に気にしなかったなー。『うぉ!! こんな高級車運転出来るのか!!』みたいな感じだったし」
「もういいです……」
反論する気も失せてしまった。
「その車、ボロだから傷つけても構わないよ。お嬢様の専属ドライバーとして雇われてはどうだい?」
どう見てもボロじゃないです。
黒塗りにされた車体は日光に晒されて光り輝いてます。かなり手入れされていると思う。
どうしてそこまでして僕に拘る?
「君は、どうしてお金持ちが高級車に乗るか考えたことはあるかい?」
「え?」
わからない。
単純にお金があるから? それに国産よりも遥かに安全性が高いって言うところか?
「お金持ちの世界って言うのはとても屁理屈でね。例えば君が超お金持ちの社長だと仮定しよう」
「はい」
「そして君は今から他社に出向いて商談を行うとする。その時君は国産の、しかも型落ちのボロ車で出向いたとしよう。するとどうだい? 相手側からどう思われる?」
「汚い車だなって思うんですかね」
「そうだ。商談に行く時ぐらい見栄えの良い服を着ていくのと同じ様に、見栄えの良い〝物〟を持っていくんだ。その一つが車だよ。君は高級車は好きかい?」
「えぇ、まぁ」
「では君の中で一番好きな高級車を思い浮かべてくれ。その車で他社に出向いたとき『どうよ?』って感じがしないかい? 自分の収入でこれが乗れるんだぞって。うちの会社は景気が良いんだぞって相手に教えるものなんだ」
「……考えたこともありませんでした」
「それだけじゃない。自分の会社の社員にも良い影響を与えるんだ。さっきと同じ様に社長がボロ車に乗ってたら、『あぁ、この会社の社長でもこんな車しか乗れないんだな』って思わせてしまうだろ? だから高級車に乗るんだ。そして出世すれば、こういう物も買えるんだぞって教えてあげるんだよ」
「僕はてっきり、有り余った金をばら撒いて見せびらかしているんだと思っていました……」
「んーそれも一理あるけどね。少なくともお嬢様の父君様は高級車には乗りたくないんだ。思い入れのある、とあるボロ車に乗りたいんだ。プライベートなんかだと、それに乗ってるしね」
「お待たせ致しました」
会話が一段落したところで料理が運ばれてくる。
お金持ちにも、色々とあるんだなと考えながら運ばれてきた料理を見る。
もしかしたら、この料理も味や見た目など関係なく、お金持ちのプライドとして食べないといけないのかも知れない。
真夏ちゃんを見る。
この子は、金持ちの家から生まれたから、金持ちの子として振舞わないといけないのだろうか。
「なに?」
真夏ちゃんが僕の視線に気付きキョトンとする。
「ううん。なんでもないよ」
「私に惚れたのかと思ったわ」
可愛い子だ。
こんな可愛い子も、プライドを背負って生きていく世界なんだ。
なのに、僕は何なのだろうか?
大学生なのに大学生活を楽しもうともせず、馴染もうともせず、それ等を拒否し、夏休みに入って課題も何もかもを忘れ家を出た。
プライドも何もあったものじゃない。
「まぁ、旅人が私をお嫁にしたいと考えているなら考えてあげてもいいわ。そうすれば旅人は玉の輿よ。逆バージョン!! 遊び放題よ?」
……前言撤回。
この子はそんな事ちっとも考えていない様だ。
……。
「ごちそうさまでした」
フォークとスプーンを置き、いつもならするハズもない合掌を胸の前で作る。
こう言った高級料理の食べ方のマナーを知らない僕は、とりあえずテレビの見よう見まねで応戦してみた。
ところがどっこい。
佐田さんはいいとして、真夏ちゃんは普通にがっついて料理を食べていた。
マナーも何もあったものじゃなかった。
「コック長を呼んできて貰えるかしら?」
真夏ちゃんが近くに立っていたウェイターに指示を出し、ウェイターは厨房に消えていった。
少ししてコック長とやらが真夏ちゃんの前に立ち、コック帽を片手に持ち頭を下げた。
「美味しかったわ。相変わらずね」
「ありがたきお言葉です、真夏お嬢様」
「どうだったかしら旅人? 調理担当の代表だけど、何かコメントはあって?」
「え、あー美味しかったです。普通に」
突然の事でこれぐらいしか言えなかった。
こうなる事がわかっていれば事前に準備してたんだけどな。
「旅人も気に入ったそうよ。喜びなさい」
「はい」
「佐田、アレを」
佐田さんが内ポケットから封筒を取り出す。
随分と中身が詰まっている。
まさか―――。
「今回の報酬分よ。90%はアナタ。残りの10%は他の者にやりなさい」
「ありがとうございます」
コック長は深々と頭を下げながら封筒を受け取る。
よく訓練されてる。
人間と言うのは多額の金を目の前にすると、どうしても確認したくなるのが常識だ。
封筒の中身を目の前で見るのはアレだが、少しでも指を動かし、厚みや音を確かめようとするのだが、そう言った素振りを一切見せない。
「行くわ。また、寄る時は連絡するわ」
「またのご来店を、お待ちしております」
「さ、行こう」
佐田さんが僕の肩に手を乗せてきて我に戻る。
僕が硬直していたのを知っていたみたいだ。
席を立ちコック長に軽く頭を下げてその場を後にした。
「あっついわ。ありえないわね、この暑さ」
レストランを出て真夏ちゃんが早速愚痴をもらす。
「相変わらず良い天気だね。けど、コレぐらいの方が夏って感じだよ真夏ちゃん」
「さっきも言ったけど、真夏でいいわよ。特別に」
「……わかったよ、真夏ちゃ……真夏……」
「さて、旅人君。運転席はこっちだよ」
「まだその話続いてたんですか……」
「おや? 今日から真夏様の専属運転手になったハズだが?」
またしても、あの山での出来事の時の様にニヤニヤと僕の顔を見る。
「なってません」
「つれないねぇ君は。それとも、どこか行く宛てはあるのかい?」
「別にそういう訳ではないです。ただ、まだ僕は知らないこの〝国〟を旅したいんです」
「ダメよ旅人。行かせないわ。私の付き人、護衛になって。アナタは強いもの」
「いや、これは僕が決めたことなんだ」
「なら私と一緒に旅をすればいいじゃない? 私を連れ去ってもいいわよ? あ、この車が気に入らないのね。なら欲しい車の名前を教えて。それで万事解決よ!!」
腰に手を当て、えっへん!! と言う感じの態度を取る真夏。
「違うんだ。ある意味これは僕自身の挑戦でもあるんだ。どうとは説明できないけど、わかって欲しい」
「と、言うことですが? お嬢様」
「イヤよ!! 私は旅人と一緒にいるわ!!」
「ごめん真夏。僕には、君の付き人とか護衛には向いてないよ。あの時はたまたま、君を護れたんだ」
そう言うと真夏は、欲しい物を買ってもらえない子供の様に駄々をこね始めた。
きっと真夏にとって初めて欲しい〝もの〟が手に入らないと踏んだのだろう。
「お嬢様、彼とはここでお別れです」
「イヤ!! ぜっっったいにイヤ!! 私は旅人といるの!!」
「お嬢様、旅人が困っています。それに、こんな姿を仮にも誰かに見られていたら恥ずかしくはありませんか?」
「どうでもいいわよ!! そんなこと!!」
「……ッ。お嬢様!! いい加減にしなさい!!」
「うるさいっ!!」
佐田さんが真夏に叱りを入れる。それに対して真夏はこれでもかと大きな声で怒鳴る。
いい光景だ。
いや、僕にS気があるとかそういう意味ではなく子を叱る親の光景が浮かんだ。
真夏は幼い。
この子がいくつなのかは知らないが、いままで甘やかされて生活してきたのは事実だ。
子を甘やかせばまともな大人になれない。いつまでも甘やかすわけにはいかない。
それを佐田さんは付き人としての職を捨て、保護者の立場になって真夏に説教をしているのだ。
「真夏」
「なに……よ、旅人のバカ。私がイヤならどこにでも行きなさいよ……」
「イヤなんかじゃないよ。僕は真夏が好きだ。だけど、わがままを言う真夏は嫌い。この意味がわかるかな?」
「わっかんないわよぉ……!!」
しまいには泣きじゃくる真夏を僕はそっと抱きしめる。
夏の季節に炎天下。立っているだけで汗が出てくるこの状況で真夏のを抱きしめる。
互いの体温が重なり暑さを増すが気にならない。
小さくて、やわらかくて、力を入れたら折れてしまいそうな、人形みたいな真夏。
「君の名前がどうして真夏なのかは知らない。知っているのは君のご両親だけ。だけど、僕は君の名前の通り、夏の明るい日差しの様に、元気に笑っている真夏が好きなんだ。だから、わがままを言っていたら好きにはなれないよ」
「……うん」
「だからさ、笑って? 佐田さんだって君のことが好きだよ? 出なきゃ真夏の傍にはいないでしょ? 真夏のことを好きでいてくれる人がいるのに、真夏のせいで嫌われちゃうんだよ? そんなのはイヤでしょ?」
「……うん」
「したら、もうわかるね?」
「うん、うん……」
頭を撫でながら真夏が泣き止むのを待つ。
服が冷たいな……。涙が服に染み込んで来ています。
この服って、旅に出てから洗濯してなくないか?
いや、昨日ネットカフェで寝泊りした時に洗濯、脱水、乾燥全てを一台の機械で済ましてくれるサービスをしてたか。
それでも汗臭かったらイヤだな……。
一人の女の子を抱きしめておきながら、後悔するハメになった。
「さ、僕はそろそろ行くよ?」
抱きしめていた真夏を離れ、佐田さんに顔を向ける。
「僕の愛車は?」
「うん、ちょっと待っていてくれるかい? 今こっちに向かっているハズだ」
それからすぐにトラックのエンジン音が聞こえてくる。
現れたトラックは随分と大きい。
明らかにサイズ間違えてるだろ?
「あの中に入っているよ。傷をつけちゃ悪いからね、厳重に運ばせてもらったよ。あぁ後、ついでに勝手で悪いんだけど、洗車と車体整備とか色々とこちらでやらせてもらったよ。オイル交換からタイヤ交換、そのほかダメそうな消耗品の交換とかね」
「マジですか?」
「おおマジさ。ダメだったかい?」
「いえ全然……」
パッと計算するだけで3万円は軽く超えてるんですが……。
確かにちょうどオイルは交換時だったからバイク屋を見かけたらやろうと思ってたし、タイヤも磨り減ってたからありがたいんだけど……。
とりあえず現物をトラックに乗っていた作業員らしい人が二人がかりで荷台から降ろしてくる。
姿を現した愛車は……ピカピカだった。
メッキパーツの光るところは日差しに反射し鏡の様に、燃料タンクもツヤのあるコーティングが施され、前後のタイヤは新品で溝がしっかりとある。
「全部でいくらでした?」
「いや、いいんだ気にしないでくれ。あ、コラコラ財布をしまいなさい」
「しかし……」
「君は、それだけのことをしたと言う事さ。それから、これ」
佐田さんの手には現金があった。
ユキチさんが10枚ぐらいあるんじゃないか?
なんだかユキチさんの顔を見てたら「やっほー☆」なんて言ってる様な気がした。
「いくらなんでも、現金は受け取れません」
「迷惑料として受け取ってくれるといいんだが」
「正直言って、これは迷惑ですよ。僕はたいした事はしていません」
「う~ん参ったねぇ。なら、なにがいいんだい?」
「僕は何も欲しくはありません。既に色々としてもらっていますし……」
「う~~~~ん」
「強いて言えばガソリン、ですかね……。まぁアレは持ち運び出来ないものですから」
「そうかガソリンか!!」
「えっ?」
佐田さんは何か閃いたかの様に自分の財布を取り出し、一枚のカードを取り出してきた。
「これを君にあげよう。なぁに現金じゃない。ガソリン50リッター分無料券だ!! どこのガソリンスタンドでも使えるぞ!!」
…………。
ど う し て こ う な る ! ?
「ぶっちゃけ現金と変わらないです……」
「いや違うね!! これはガソリン!! ガソリンだって今の時代安くはない。君は現金は受け取らないが物だったら考えるのだろう? 形は違えどこれはガソリンだ」
なんかもう、ね。
きっと、なにを言ってもダメだろう。
悪気があるわけじゃないんだ。
ここは素直に受け取っておこう……。
「さて、本当にそろそろ行きます」
「うん。気を付けて行くんだよ……って思ったんだが、暑くないかい、革のジャンパーは? 夏だよ? それはわざわざゴッツイ手袋までしちゃって……」
「いいんです。これが、バイク乗りってもんですから」
あの時、僕はライダーの何たるかを教えてもらった。
他人をどうこう言うつもりはないが、色々と経験者から話を聞いてから軽装備でバイクに乗るのが怖かった。
「……ねぇ」
「ん?」
しばらく黙って僕の隣にいた真夏が声を掛けてくる。
既に泣き止んだようだが、目がまだ赤い。
「本当の名前を教えて?」
「名前か……」
そういえば、教えてなかったよね今まで。
だけど、こんな状況にまでなってもやはり名前は教えたくはなかった。
これだけの事をしておいて何だけど、もう二度と会う事はないと思うからだ。
少し考えて、出した結論は……。
「マグナ」
「え?」
「僕のバイクの名前さ」
「じゃあマグナ君」
「はい?」
「君は南砂華島と言う場所を知ってるかい?」
「いえ、全く」
「君がこれからどこに行くかはわからないが、もし機会があれば寄ってみると良い。とても良い所だぞ」
「はい」
最後にもう一度真夏の頭を撫でて、ハンドル掛けてあったヘルメットを被る。
キーを挿し、エンジンを掛ける。
オーバーホールもしたのか?
随分とエンジンの始動性がいいな。
だが、僕がレストランにいる短時間で完璧に出来るものじゃない。
考えすぎだろう、きっと。
サングラスをかけ、エンジンを空ぶかしした後「それじゃ」と言い残し、僕はその場を後にした。
……。
「行っちゃったわね」
「そうですね。彼は、とても清き心を持っている御方でした。そうそういる様な人ではない」
「佐田にしては、随分と気に入ってたみたいね」
「なにを言いますか。それはお嬢様でしょう? 駄々なんかごねたりして……ぷっ」
「うっさい!! 笑うな!!」
「すいません……つい……ぷぷっ」
「クビ」
「では誰が車を運転するのですか?」
「……。それよりも、調べはついたの?」
「なにがです?」
「マグナについてよ。色々と調べたんでしょ? 珍しく車両ナンバーがついてたじゃない。アレで大体どんな人なのか調べがつくハズでしょ」
「あのバイクについてたナンバープレートは偽物です。今の時代はプライバシー社会ですから営業車と軍用車以外はナンバープレートはつけることは出来ません。それによって車やバイクなどでは製作段階でデザイン性が向上しましたが、中にはナンバープレートもデザインの一種と言う人がいます。アレはそのための偽装ナンバーです」
「まぁそうね。ナンバープレートも個人情報の一種になってるものね。けどわからないわ。それだと盗まれた時どうするの? 目印みたいなものじゃない」
「基本的にはナンバープレートは廃止でも免許証の裏にナンバーが配布されているんです。それと一つひとつ車体ごとに刻印される車体番号を組み合わせて初めて個人のものと証明されます。もしくは納車時に役所から配布される個人証明証とか。警察だって馬鹿ではありません。大体の特徴で犯人は捕まりますしね」
「じゃあ、何もわからないって事ね、彼のこと」
「いいえ、そんな事はありません」
「そう。わかったら私に教えなさい」
「わかりました」




