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3話 夏季休講

 今日は雨が降っていた。

 結構強めの雨だ。

 梅雨が明けて以来初めての雨。

 雨足が瞬く間に強まる。

 これがゲリラ豪雨っていうやつか?

 二階の自室から屋根を雨粒が叩く激しい音が聞こえる。


「今日は休むか」


 こんな状態で大学にはいけない。

 もちろん電車を使えば行けるけど単車(エンジン)での登校を覚えてしまった僕には無理な話だった。

 雨って言うのはどこか幻想的である。

 国が泣いている。とでも言おうか。

 ―――なんだかくだらないこと言っている。

 ……。

 そういえば車がある。

 僕は免許を持っている。

 一気に問題は解決してしまいなんだが気が重くなる。

 結局大学にはいかないといけないのだ。

 サクッと朝食と着替えを済まし荷物をまとめ車庫(ガレージ)に向かう。

 水害でも起きなければいいが。そう思えるほどの豪雨になりつつあった。

 どうも車の運転はつまらない。

 ATだからか? おそらく違う。

 きっとMTでも一緒のことを考えていただろうな。

 バイクは所詮趣味の乗り物。

 運転することによって楽しみが増す乗り物だ。

 もちろん車が好きな人にとってはバイクとは違った回答が得られるだろう。

 人それぞれってことよ。

 いつもなら大学に着くや否や駐輪場に向かうのだが今日は車だ。駐車場にいかないといけない。

 駐車場は駐輪場の先にあるため通り間際にチラりと駐輪場を見たがほとんどバイクは止まっていない。

 こんな雨の中運転するバイクは危険だ。

 根性のある人なら運転するかも知れないが……。

 それに比べて車は大盛況。

 ボロっちぃ車から国産高級車、名の知れたベンツやBMWだって平気で止まっている。

 はたしてその車は自分の物なのだろうか?

 きっと違うだろう。ほとんどが親の物だと思う。

 学生が車を維持するのはとても難しいことだ。

 軽車だったらまだどうにかなるかも知れないが。

 ……。

 豪雨化していた雨脚は収まりつつあるが雨自体は止んでいない。

 ケータイで天気予報を観たが、今日は一日降り続くそうだ。

 そんな天気であってか学生の数が少ないように思える。

 まぁ元々学園みたいな規則は厳しく毎日出席する義務があるわけではないので休みたければ休めば良い。

 それこそ学生の自由だ。

 僕が今ここにいるのも自由だし家で寝ているのも自由。

 だから怠けてしまうのかもな。

 逆にビッシリと予定の詰まった状況下で必ず登校しないといけない義務とかがあったほうが良いのかもしれない。

 そしたら考えることが学業の方に集中するから考え事も少なくてすむ。

 自由だからこそ考えることが増えてしまう。そんな気がした。

 今でも僕自身、今の環境下をどうにかしないといけないと思う。

 周りがそうだから、とかこれが当たり前なんだって言うのは言い訳。

 周りが変われば自分も変わるのかと問われればきっとそうではないだろう。

 自分が変わらないといけない。

 だけど、そのキッカケが欲しい。

 そのキッカケがあれば変われる……そんなふぬけた事を思いながら、今日の講義は全て終わった。

 


 それから数日経ち、前期の講義は全て終了し正式に夏季休講(なつやすみ)が始まった。

 学生にとってとても喜ばしいことである。

 休みの間を遊び尽くす者、バイトで金を稼ぐ者、なんだっていい。

 どんな生活をするかなんて人それぞれなんだ。

 そんな僕はと言うと、家でぐーたらと過ごしていた。

 友達がいない僕にとっては遊ぶ相手など皆無。

 僕を遊びに誘いだしてくれる人も皆無。

 僕は……暇人だ。

 ……。

 その日の晩、僕は昼間と同じようにベッドに寝そべっていた。

 なにかを考えるわけでもなくだらだらと……。

 


 何か夢を見たいんだ。

 そう。人間は夢を見たいんだ。

 寝ている時に見る夢じゃない。

 自分が描いた世界を、眼を通して続けたいんだ。


「僕は、どんな夢が見たいんだ?」


 自分で自分を問う。

 剣を持って世界の脅威となる魔物と戦いたい? 

 ―――ちょっと違うな。

 人が生きる屍となってしまった世界で銃を持って仲間たちと生きる術を探すホラーサバイバルな夢?

 ―――違う。


「何が、見たいんだ」


 わからない。

 わからないから想像が膨らむ。幻想を思い浮かべる。

 どこか―――幻想的で景色の良い場所を走りたい。

 ただ単純に目的地も無く、ただひたすらバイクで走り続けたい。

 この国に、美しいと思える景色はいくつあるんだろう。

 おもむろに床に置いてあるバイク雑誌を手に取る。

 最新のバイク情報からメーカー特集のページを次々と送り、ツーリング特集を見つける。


「違う」


 こんな特集で紹介されるぐらいの場所ではなく、もっと人が知らない秘境みたいなところ。

 そんなところに行けば、今の僕は変われるんじゃないだろうか。

 理屈なんてどうでもいい。

 変われないかもしれない。だけど変われるかもしれない。

 可能性はいくらだってある。


「行こう」


 夏休みは始まったばかりだ。時間は山ほどある。

 僕は周りに流されて生きようとする。周りの環境が自分。

 それは言い訳だ。

 周りが変わったら自分が変わるんじゃなくて、自分から変わっていくんだ。

 そのキッカケが欲しいと思ったときがある。それが今だ。

 僕は特に荷物をまとめるわけでもなく適当にウェストポーチにサイフとMP3プレーヤーとその充電器を入れる。

 ケータイは入れなかった。

 誰かに縛られるわけでもなく、自由気ままに行きたかった。

 


 大学生活で二度目の夏季休講(なつやすみ)

 僕は、旅に出ようと思った。

 どこを目指すわけでもなく、ただ道をバイクで進む。

 何か夢を見たくて僕は家を後にする。

 〝何かを変えるために〟

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