5話 海を越えた向こう側
僕の前をトコトコとカブで走る女性にスピードを合わせて道路を進む。
スピードメーターから読み取り、60キロは出ている。
一昔前までは50cc以下の原付バイクは法定速度が30キロだった様だが、今となっては60キロまで緩和されている。
一方、車や50cc以上の二輪に対しては一般道路で80キロ。高速道路で100キロだ。
しかし一般道路においての80キロは通りの激しい国道など、二車線以上の道路に限定しており肩幅一車線しかない道路では基本的に60キロと思っておいた方が良い。
目の前のカブも本気を出せば80キロは出るだろうがご丁寧にも左斜線で法定速度を守り走行している。隣の右車線ではそれ以上のスピードで車などの車両が過ぎ去っていく。
「ガソリンスタンド!! 寄って行きますね!!」
赤信号で停止したところで女性が言う。
青信号に変わり、左前に見えているガソリンスタンドに入っていた。僕もそれに続く。
「いらっしゃいませぇぇ!! こちらにどうぞぉぉ!!」
若い店員に誘導され停車する。
「えっとぉ……ガソリン満タンで……」
「レギュラーでよろしいですか?」
「えっ、レギュラーって何だろ……?」
「バイオ満タンで。会計は僕と一緒でお願いします」
「バイオ満タンで!! バイオ満タン入りまーーす!!」
バイオとはバイオ燃料の事で人工ガソリンだ。
今となっては石油から抽出するハイオク、レギュラー、ディーゼル、3種類の他にバイオ燃料が存在する。
バイオ燃料は純正ガソリンより遥かに安く販売されていて、環境にも良いとされている。
石油には限りがあるとされていた事から、色々と実験を繰り返し植物性の物から抽出し完成した上で実用化される様になった。
昔に製造されたエンジンから最新型のエンジンまで幅広く使え、今となってはこちらの方が一般的と言われる程。
しかし中にはバイオ燃料を使っているとエンジンの最大パワーが出し切れないなどと言う理由で使用を拒む者様々だ。
それと変わり、ガソリン等を一切使わない電気で動く車両などもある。
エンジンに変わり、モーターで車体の動力を作ることで排気ガスが一切出ないと評判の電気自動車。まちまちと世に普及しつつあるが、充電スタンドと呼ばれる電気自動車専用の〝バッテリー充電所〟は中々普及せず、結局は今も昔も〝ガソリン〟に頼ってばかりなのだ。
「あの、いいんですか? ちゃんとお金払います」
「いいですよ、これぐらい」
ウェストバッグから財布を取り出し、あの時貰ったカードを取り出す。
どこでも使えるって言ってたよな?
店員が二台のバイクに給油が終わるのを待ち、カードを差し出す。
「コレで」
「ありがとうございます、50リッター分無料券ですね!! 残り残高はレシートに記載されておりますのでご確認ください!! またのご来店、お待ちしております!!」
レシートを受け取り、残り残高を確認する。
まだまだ十分に残っている。
「行きましょう」
「はい。あっ、もうちょっとスピード出した方がいいですか?」
「いえ、安全運転に心がけてください」
「こう言うのって、ツーリングって言うんですよね?」
あながち間違ってはいないが……。
ツーリングと表現するにはいささか微妙なところである。
買い物袋をかごに入れた原付についていく僕の軽二輪。はたから見たら、ツーリングとは思われないだろう。
「しかしお兄さんのバイク、すっごい大きいし音も大きいですねぇ。ハーレーって言うヤツですか? お金持ちー!」
「いえ、ハーレーじゃないです。見た目は似てますけどね。メーカーはカブと一緒ですよ」
「へぇぇぇ、色々とあるんですねぇ。もしかして、暴走族とかやってました? たまぁにドンドンドーーン!! なんて鳴らすじゃないですか?」
「……」
無意識にクセが出てしまってる様だな……。
自分のペースで走る時はあまりやらないんだが、誰かのペースに合わせる時は手が寂しいんだよな。
「ごめんなさい、変な事聞いちゃって……。行きましょ!!」
「あ、はい……」
少しキマズイ雰囲気になったところで女性がカブのエンジンを掛けて先を走る。
確かに、社外マフラーを着けてる時点でうるさいのは事実だよなぁ。
あの時から変えてないし……。
「あの」
「はい、何でしょう?」
「僕のバイク、うるさいですか?」
「そうでもないと思います。もっと凄いのとかいますからね。良い音だと思います」
まだ近くにいたガソリンスタンドの店員に聞いてみて少し安心した。
しばらくカブについていくと、遠くの景色が変わりつつある。
建物が並ぶ景色は海へと変わりつつあったのだ。
「キレイだ……」
初めて、海を見た気分だ。
僕がまだ幼い頃、両親に連れられて海水浴に行ったことがあるけど、それはあくまで保護者同伴のもとだ。自分自身の力で海にやってきたのは初めてである。
どことなく潮のにおいがする。
こんな炎天下の中で海に飛び込んだら、さぞ気持ち良いだろう。
遠くにあった海はだんだんと近づいてくる。
この辺は遊泳が可能なのだろう。浜辺には人々がごった返しているように見えるし、車の流れも悪くなってきている。
「この辺、流れが悪いので別の道に行きます」
渋滞気味の道路を低速で進んでいると女性が別の道に進む。
細い、車一台がギリギリ通れそうな道をスイスイと進んでいく。
しばらく対向車が来ないか心配になりながらカブについていくと一気に視界が広がった。
絶景の青だ。
白い砂浜に穏やかな波で押し寄せる海。
すぐ目の前にある光景を横に海岸沿いを進んでいく。
海水浴場からは逆に進んでいるらしい。
まるで夢のようだ。
いつかバイクで海岸沿いを走ってみたいと思っていた。
それが今この瞬間である。
マンガやテレビ、バイク雑誌で見た光景に近い。
こんなに気持ちの良い場所を走れるなんて最高の気分だ。
ゆるいカーブを描きながらも先に進む。
しかし、よくよく考えたら何故カブを運転する女性はあそこまで遠い場所に行く必要があるんだ?
買い物に来ているのはわかるが、何もここまで遠い場所に来ないでもさっき見掛けたスーパーじゃダメなのか?
「ま、それなりに事情があるんだろうな」
かすかに聞こえる波の音、愛車の排気音と風切り音でかき消される僕の言葉は誰にも聞こえることはなかった。
……。
「ふぃぃぃ。とうちゃっっく!!」
海岸沿いの走行をしばらく堪能しながら到着したフェリー乗り場。
それにしても、あのショッピングセンターからは結構な距離があったな。
キッチリと女性が言っていた二時間ぐらいだった。
「気持ちよかったでしょ? あの道」
「え、あっはい」
まだ興奮していた僕に女性が声を掛けてくる。
「あたし、あの道好きなんですよー。いつもは車で買い物に行くんですけど、今日はバイクで買い物に行くといいよって知り合いが言ってたんで、初めてバイクに乗ったんです。いやー気持ちよかったー!!」
―――初めて?
あぁなるほど。
だからあの場所で色々と戸惑ってたのか。
「って言うことは、持ってる免許は普通免許だけですか」
「ですねぇ。一応、普通免許で原付は乗れますから」
普通二輪免許を持っている僕には関係のない話だが、昔から普通免許を取得し、同時に原付バイク講習を受ける事によりオマケで限定原付免許が交付される様になっている。
一時期は廃止になる噂も立ったが、正規の原付免許自体を取得すると125cc以下まで乗車できる様になったことから50cc以下の原付の需要が低くなり、未だに普通免許で原付が乗れるのだ。
ちなみに二輪免許の種類としては、原動機付き自転車(原付)で125cc以下、普通二輪免許で600cc以下、大型二輪免許は600cc超となっている。
昔は小型二輪と言うのもあったらしく、それが今で言う50cc以上125cc以下に分類される免許だったそうだが、あまりにも需要がなく原付と統合されたらしい。
「始めてでよくあんな遠くまで行けましたね」
「あーちょっと説明不足。島の外でバイクに乗ったのは始めてって意味。島の中だと車より原付が便利なんですよ」
ちょっとそこまで的なノリか。
確かに僕の住んでいた所でも原付があれば相当便利だ。
残念ながら僕の家では原付がないので、コンビニに行くのは徒歩だったけど。
こんなデカイのでコンビニ行くと逆に不便だったしな。
「実は出港までまだ時間があるんです。ちょっと休憩しましょ。今が3時ちょっと。4時に出るんですよ。ほら、さっきにも言いましたよね? 一日に二本しか便がないって。島からこっちに来る便で一本、島に帰る便で一本の二本です。不便ですよねー」
「南砂華島に行けるのはフェリーだけなんですか?」
「そうなんです。一時期、大橋を架けて通行を便利にするって言う計画があったみたいなんですけど、未だに出来てないし、誰も手を付けない状態。……暑いのであそこに入りましょ」
近くにあった建物に入る。
冷房が効いていて涼しい。どうやら待合所の様だ。
先に乗車券でも買ってしまおうか。
「あれ? 乗船券買おうとしてる?」
「え? ダメなんですか?」
「う~~ん。ちょっと待てて」
女性が受付に行って係りの人と話している。
時折、僕の方を向いては戻ったりとしているが、どんな話をしているんだろう。
「おっけ。タダだよ」
女性が戻ってきて言う。
どういうことだ?
「あたし達、島の人間は基本的に無料なんだよ。買出しとか行くたびに料金取られたら厄介だからねぇ。で、君もその関係者だって言ったらタダにしてくれたよん」
「……いいんですかね?」
「いーのいーの。色々と助けてもらってるしねぇ。ってか、あたしの名前まだ教えてなかったね。〝咲沢美穂〟美穂って呼んで良いよ。君は?」
「えっと……」
ここにきて、ようやく聞かれてしまった。
あの時、真夏に名乗ったように〝マグナ〟で済ませてしまおうかと悩む。
しかし、どう考えてもそれじゃ不審者だろう。
仮にも島の民宿を営んでいる女性にお世話になろうとしてついてきているのだから、失礼にあたいする。
しばらく考えて、偽名でも使ってみようかと思ったが、素直に名乗ることにした。
「〝高木直人〟です。よろしく……」
自分の名を旅に出て初めて名乗った後、真夏に大して罪悪感を覚えた。
こうなるなら素直に名乗っておけばよかった、と。
まぁ二度と会うこともないし、いいか。
「でわでわ直人くん。アイスたべる?」
「アイス?」
「うん。あそこの売店で買うけど」
「なら、僕も行きます」
「いーよいーよ。ガソリン代のお礼。ちょっと待てて~~」
美穂さんが売店に向かって二人分のアイスを買っている。
僕の隣に残された買い物袋の中身を覗いてみると、食器用洗剤やら洗濯用洗剤やシャンプーなどの日用品ばかりだった。
てっきり僕は食材の買出しとばかり思っていたが……。
「はい、おまたせ~~。バニラだけどいい? こっちは抹茶だけど」
「美穂さんが先に好きな方を選んでください。僕は頂く立場なので」
「みぃほ。美穂でいいって。さん付けはちょっとなぁ。なんか他人行儀な感じしない? その代わりあたしも直人って呼ぶから。はい抹茶」
「あ、ありがとうございます。抹茶じゃなくていいんですか? 美穂さ―――」
「ふふっ可愛い。あたしはバニラ。直人は抹茶が好みかなぁと思って。目線が抹茶に行ってたし」
バレてたか。
確かに僕は抹茶系統のものは大好きだ。
とは言っても抹茶そのものを楽しんだ事はないけど……。
「直人って、人と目線合わせるの嫌い? と言うか人付き合いが苦手? さっきから目線が泳いでるよ」
「え……」
「それともぉ、〝お姉さん〟だから緊張しちゃう?」
「別にそんなわけじゃ……」
「初めて君に声掛けられた時よりもなんだが違った人に見えてねぇ。ほら、あたしも一応、民宿で働いてると色々とわかるんよ。どんな人かな~って。君の場合、裏がありそう」
「裏って……」
「いやぁゴメンゴメン。別に責めてるわけじゃないよ? ちょっと強引に直人を知りすぎようとしちゃったかな。あはははは」
「……ははは」
アイスクリームを舐めながら、彼女の横顔を見る。
結構ズバズバとした性格の持ち主だと言う事がわかった。
僕がいつまでもどもっていると、どんどん心の内を明かされそうな気がする。
これも人の性格が成せる技か。
まぁ悪い気はしない。
……。
「美穂ちゃん、そろそろ準備して」
「あ、は~い。いこっ直人」
しばらく涼んでいると係りの人が声を掛けてくれた。
待合所を出て、バイクをフェリーに乗せる作業に入る。
手押しで行ってもいいのだが、なにぶん船に乗せる際に港と船の間を繋ぐ甲板が坂になっているため車重200キロ前後ある車体では平地以外での手押しはキツイのでエンジンを掛けてパパッと船に乗車する。
「お疲れ様です。南砂華島行きでよろしいですか? 乗車券を確認します」
「やっほ~おじさん。ただいま」
「あれ美穂ちゃんじゃないか。おかえり」
「ただいま。あぁ彼はあたしの関係者」
「なにっ!? 彼氏か!?」
「ふふ~ん。どうでしょう?」
「あぁん? 坊主、見掛けねぇ顔だなぁ。どこから来た?」
怖いです、この人仮にも船員だろ?
一番最初の対応と明らかに違うじゃないか。
「冗談冗談。ちょっと宿手伝ってもらう知り合いだよ。買出しついでに連れて来たのさ」
「なぁんだ驚かせないでくれよ美穂ちゃん。おじさん心臓発作で死んじまうぞ」
「おじさんなら簡単には死なないでしょ。多分、両手足縛られて海に投げられてもね」
「そりゃひでぇ例えだわな!! ほれ、単車はそこ置いといて上に行きな。坊主、お前もだ。紐で縛って固定しないといかんからな。特別にやっておくよ」
「ありがと、おじさん」
「……ありがとうございます」
(おい坊主)
(はい?)
お礼を言ってその場を立ち去ろうとしたら船員に小声で声を掛けられた。
(本当に美穂ちゃんの男じゃないんだな?)
(は、はい……)
(ほぅ……。まぁいい。行けっ)
―――本当に怖いな。
そそくさとその場を後にし、近くで笑っていた美穂と共に客室甲板へと上がっていく。
「そういえば直人ってなにも持ってないけど、近くから来てる訳じゃないよね?」
「え、えぇまぁ」
「どこから来てるの?」
「えっと、えっと……」
「答えたくない? 何かワケあり?」
「そんなんじゃないですけど……まぁ〝都会〟からです」
「〝都会〟……。ぶっちゃけ〝東京〟?」
東京―――。
今となっては珍しい表現の仕方だ。
「まぁその近辺ですよ」
「ふ~ん。いいなぁ。あたしも東京行きたい。あたしのお父さんがね、そっちにいるんだ。仕事で」
「そうなんですか?」
「うん。出稼ぎってヤツ? それで年に帰ってくるのは2、3回程度」
「大変ですね、色々と」
「う~ん。むしろ逆に楽しがってるかもよ? 一人で悠々と生活できるんだから。まっ人それぞれね」
「あ、荷物持ちますよ」
「ありがと」
美穂が持っていた買い物袋を受け取ると、かなりの重さがあった。
よくこんなの平気で持って歩いてたと思える。
「あ、動いた」
出港の合図の笛が鳴り、ゆっくりと港を離れていく。
「どれぐらいで着くんですか?」
「2時間ぐらい? それを考えると、やっぱ橋架かってた方が楽だよねー」
徐々にスピードを上げる船は水しぶきをあげながら先に進む。
風が気持ち良い。
「ね、〝都会〟から来たって事はフェリーに乗るの初めてでしょ」
「はい、初めてです」
「そっかそっか。今あたし達は平気でフェリーに乗ってるけど、だんだんと減ってるみたいだからねぇ。レアな体験?」
「ですね。それどころか、一人で海を見に来たのも初めてです」
「大学生? 夏休みだから旅に出る、みたいな?」
「そんな感じですね」
「そっか。南砂華島には、あたしが言うのも何だけど、〝都会〟から来る人にとっては楽しいと思う。だから、楽しんで行ってね」
「はい」
それからしばらく、フェリーに揺られながら美穂との会話を楽しむ。
どちらかと言うと一方的に質問されては答えると言った感じだけど。
離れていく本島を見ながら、しばらくのお別れを心の中で呟く。
……。
『乗船されているお客様にご連絡いたします。まもなく南砂華島に到着いたします。お忘れ物のなさいます様、よろしくお願いいたします。繰り返します―――』
「やっと着いたかぁ。いやぁ慣れちゃうと暇だねぇ。まっ直人がいたから、そうでもないか」
「……ははは」
「さ、車両甲板行こうか」
車両甲板に下り、ロープで固定されているバイクの元へと向かう。
そのロープは先ほどの船員のおかげで既に解かれており、手間が省けた。
「ありがとー、おじさん」
「なぁに気にするな。今日は客も少ないしな。美穂ちゃんとこはどうよ?」
「これからじゃない? まだシーズン始まったばかりだよ」
「それもそうだな。これから忙しくなるんだろ、大変だなー」
「大丈夫よ。彼がいるから」
「……ははは」
どうやら、フェリーが無事港に到着したようだ。
ハッチがゆっくりと開いていき、暗い車両甲板に光が入り込む。
「さ、到着だ。気をつけて行けよ」
「はぁい」
さっきのパターンとは別に、今度はエンジンを掛けないで外に出る。
相変わらず外は暑い。だが、午後6時をまわった時間帯のため、昼間よりかは気温が落ちている気がする。
「じゃ、後ろについてきてね」
「あ、はい」
「そこ、ちょっとお待ちなさい」
「「え?」」
バイクに跨り、出発しようとしたところで声を掛けられる。
僕と美穂が声のする方に顔を向ける。
「いらっしゃい〝マグナ〟。待ってたわよ」
「真夏じゃん、何か用? ってか〝マグナ〟って何よ?」
「アナタには用はないわ。用があるのは、そっち」
「直人、コレと知り合いなの?」
声を掛けてきた人物はあろう事か、あの時別れた少女、真夏だった。
隣には、こんな暑い中汗一滴も流さず笑顔で僕を見ている佐田さんの姿。
「どうして、ここに?」
「そんなの決まってるじゃない。迎えに来たのよマグナ」
「やぁマグナ君。久しぶりだね。別れてからそんなに長い時間経ってはいないけど」
「どういうこと直人?」
「僕にもさっぱり……」
「マグナ、行くわよ。別荘に招待するわ」
「ちょっとそれどういう事? 直人はあたしの宿に泊まっていくのよ」
「あら、そんなチンケな所にマグナを泊める気? 合わないわ、却下ね」
「チンケとは失礼ねっ!! 何よいきなり現れて!? 直人、何とか言ってよ!!」
「それより直人って誰よ? 私はそんな人知らないわ」
「あんたふざけるのも大概にして!! 直人はここにいるじゃない!?」
「そこにいるのはマグナじゃない。アナタこそ、私のマグナに近寄らないで」
「私のって……。これはどういう意味、直人!?」
「えっとですね、まず、落ち着こう?」
「マグナ!! 早くその女から離れなさい!!」
「直人!!」
「あ、あはは……あははははははははは」
「いやぁ、モテる男は辛いねぇマグナ君」
僕は、南砂華島にやってきた。
しかし、そこには二度と会うことのないと思っていた真夏が待っていた。
真夏と美穂が僕を睨んでいる。
僕の夏はここから始まりを迎えた。




