あらあら? おかしいですね?
リディアには自分は他人よりも器用でそつがないことに自覚があった。
そしてそれを理由にうぬぼれるのではなく、人にできないことがあっても目をつむって知らないふりをしてやるような人間で、おおらかな部類に入る。
しかし、ここ最近はそんな優しさが影を潜めるほど余裕がなく、食事が喉を通らない。
特に多くの人が集まる社交の場では気が張りすぎていて、いつも心臓の音が耳に響いていた。
そつなくこなせる食事の席も食事を胃に入れると変にムカムカして、血の気が引いて、手がグラスにぶつかってつけている指輪がカツンと音を立てた。
広がる赤い液体に、横目で隣に座っている婚約者のテレンスのことを見た。
彼は驚きと同時に、どこか高揚感を覚えているような、ある種の喜びを得たような顔をしていてリディアは頬が引きつった。
「気が緩んでるんだろうな」
テレンスは厳しい表情でそう口にする。食事会が終わってすぐ、二人きりで話がしたいと言われて、応接室を用意した。
入って座るや否や彼はそう切り出した。
「そうとしか思えない。あんな場でグラスを倒すなど、恥以外の何物でもない。そんなこともリディアはわからないのか?」
「そういうわけでは、ありませんわ」
もちろんわかっていて十分に気をつけていた。それでもああなった。それはその場にいた多くの人が理解してくれたリディアの心境だと思う。
誰だって失敗する、何度もやったわけではないし普段のリディアを知っているからこそ仕方ないことだと多くの人は気にしない。
けれどもテレンスは違う。そんなこともわからないのか? と問いかける。
「なら、なんであんな初歩的なミスをするんだ? 気が緩んでいたんじゃないのか?」
「……」
「それに、私が見ていた限り十五秒だ」
「?」
「十五秒も背もたれに背中を預けている時間があった」
言われてぞわりと悪寒が走る。
「そばでずっと見ていたんだから言い訳はできないぞ? どうして君はそんなになにもできないんだ? マナーを完璧にすることぐらい誰にだって簡単にできることだ」
「……気をつけては、いますのよ」
「でもできてない。君はなにもできてない。グラスの持ち方もおかしい時があった。飲み物を飲むときの目線も話をしている人間の方へ向いている時があった!」
「……」
「カトラリーが皿と触れる音も君だけ特別下品だった」
テレンスは次から次に、リディアに指摘を続けていく。
あんなに気をつけていたのに、あんなに気を配っていたのに、テレンスは隣からまるで監視するかのようにリディアのことを見つめていて、そのすべてを覚えている。
家庭教師にだってこんなに細かなことを言われた覚えはない。
他と比べてもそれなりにやっているはずだとリディアも思う。
「叱ってるんだから謝罪ぐらい素直にしてくれ。リディア、私だってなにも鬼じゃないんだ。君が恥をかかないように特別に気を配ってやってるんだ」
「……」
「こういう君を導くための教育をしてやる愛情こそ本物なんだ。君は本当に愛されているから叱られているんだ。それにこんなに何度も何日もずっと言ってやってるのに、うまくやれていないのは君だろう?」
「……え、ええ」
「私だって君が完璧ならなにも言ったりしない、君が悪いんだ。注意散漫で、マナーが覚えられないほど頭が悪くて、見苦しいほどかわいげもなくて」
テレンスは断定的に言葉を紡いでいく。
今までリディアはそんなふうに評価されたことなど一度もなかった。
努力だってする方だ、覚えだっていい方だ、楽しくマナーを学んでお稽古事も人並みにできる。
「すぐに気が緩んでしまうような間抜けで、ごめんなさいと謝ってくれ、そうすれば私がきちんと君を導いてあげるし」
「……」
「将来きっと素晴らしい公爵だと褒められるようになるから」
テレンスは、優しい人だとアピールするような善人の笑みを浮かべている。
それにたしかにテレンスは間違っているというわけではないと思う。しかし同時に受け入れられなくて、黙った。
するとテレンスはまた自分がどんなにリディアを愛しているのか、正しいのか、そしてリディアは今日どんな失敗をしたのか事細かに説明して垂れ流すように説教をしたのだった。
「ねぇ、どうかした?」
リディアは問いかけられて、ハッとすることなく緩慢な動きで彼を見上げた。
リディアがキリキリと気を使って即座に笑みを浮かべなかったのは、声をかけてきた彼が見知った人であり、今日は近隣領地の懇親のためのとてもプライベートなパーティーだ。
だからこそテレンスはそばにいないし、ゆっくりと考えることもできる。
しかしいくら考えても答えは出ない。あの人の愛は本物だ。
細かすぎるとはいえ、マナーは気にするに越したことはないし、リディアだって完璧になれるならなりたい。ためになっているとも思う。
それでも受け止められない、しかし受け止められない理由を表す言葉が出てこない。
腹が立っているような気がするが、腹を立てていいのかもよくわからなくてストレスで目の前がチカチカして、テレンスがいる社交の場に出ようとすると体の動きがぎこちなくなる。
「すごいシワ」
言われて、ふと目の前にいた彼が眉間に触れた。
ふっとそこでやっと、顔を上げる。とにもかくにもリディアは少しストレスでどうにかなっている。それは事実だろう。
「眉間、跡になっちゃいそ」
「……ヴィクター、驚きましたわ。突然、触れるんですもの」
「だってぼーっとしてたから。で、どうかした? すっごい悩んでる顔してたよ」
彼はヴィクターと言って、このパーティーが開かれているウィシャトー公爵家の子息だ。跡取りではないが、身分が近く昔から縁のある相手である。
彼は昔から代わり映えしない人だ。昔からそうなのだ。しゃべり方も、トーンもマナーなど怒られなければ気にしないような人で、今話をするには少し気の楽な相手だった。
なんせ、悩んでいるのはテレンスのことだ。
リディアは彼の説教について、とても心が……つらい。
しかし、その指摘がどんなつらさを生んでいるのか、どうしたいのかそれを、父や母に話をするというのは難しい。
正確には伝わらない可能性が大きく、いまだ解決の手段も持ち合わせていない。
それもまた苦痛で、そしてなんとかしたいという大きすぎる気持ちが頭の中をしめていて、最近はずっと考え込んでしまっていることが多い。
その苦しみを彼にならばうまく伝わらなかったとしても、少なくともリディアが悪いと責められることなく話をできるだろう。そう思った。
ヴィクターは適当に目の前のソファーに座って、ほお杖をついて、ちらと視線を上げて周りを見た後、音楽に耳を傾けるように少し目をつむってそれからリディアを見た。
「……婚約者がここ最近、とても厳しくて」
「うん」
「きっと、最初に指摘されたときに謝罪とお礼を言ったことが始まりだったと思うわ」
「ふん」
「それからだんだんとエスカレートしていって、でもそうやって説教をするのは彼がわたくしを愛しているからで」
「……」
「たしかに将来のためになることを言ってくれていて、愛の言葉も忘れずに言ってくれて」
いいながらリディアは、自分のつらさを伝えることを半分以上諦めていた。
だって、言葉にするとただの愛でしかないから。
「…………行きすぎているだけで、いつか落ち着くんでしょうね、きっと」
だから諦めて、このリディアの話を聞いて、その他大勢がいいそうな言葉を自分で言って自嘲した。
するとヴィクターは急に話の流れが変わったことに驚いて、それから意外そうに言った。
「でもそれ、リディアにとっては嫌なんでしょ」
「……」
否定しなかったのは、それが本音だったからだ。嫌である。
「でも、愛だから~っとかいわれて、周りからしたらいい婚約者みたいに見えて? みたいな? リディアって意外と、ふふっありふれたことで悩むんだね。かーわいい」
「……ありふれてますの」
「うん。あるある。君ってばなんでもできるし、優秀な跡取りだからもっと重い悩みかと思ったら、意外と普通の女の子やってて笑っちゃった」
「だって……一度わたくしの内に入れた人なんですもの。向き合うべきでしょう、婚約者だもの、将来をともにして愛するのですもの」
「まー、初めてのことだろうしね。難しいのもね、わかるよ」
「逆に何であなたはそう平然としていますの」
「俺、女兄弟いるし。人と話すの好きだからいろんな人の話聞くし」
ヴィクターはニコニコしてとても当たり前のことのように答えて、リディアは今までまったく落ち着かずに焦っていた心がとんと地についた気がした。
ありふれていて、ありきたり。そう言われて肯定されるとすごくほっとした。
リディアは割となんでもそつなくこなす方だ。でもそれは決まった指標のわかりやすい事柄についてだ。
勉強もお稽古も得意である。組み合わせてなにかを解決するのも得意だ。だってなにが正解か答えが出ているから。
しかしテレンスの件は違った。正解がどこか、向かうべき場所は、正しい主張とは、愛情とは。
とめどない問いばかりで、また彼に会う日がやってくる。
そう思うと焦ってとめどなくてつらかった。
「でさでさ。俺は思うよ。リディアの人生の正解は君の幸せなんだから、嫌なことしてくる人がなにを主張してたって、関係なくない」
「……いいこと言いますね。ヴィクター」
「そうでしょ。いや~うまくいったかな。気になる子が落ち込んでいたら声かけて話聞くのが一番効くらしいんだよ。俺のこと好きになりそ?」
「……ええ」
ヴィクターは冗談めかしてそう言って、リディアが肯定すると「やったぜ、最高!」と言って、彼の本心はまったくわからない。
しかし昔からこうである。リディアはすっきりとした気持ちで自分の屋敷に戻ったのだった。
リディアはわがままを言うことにした。
それはテレンスと別れたいというただの一方的な主張ではない。彼と自分のことを多くの人にわかってもらうためのわがままだった。
実家のプレスコット公爵邸の大ホール、そこには親類に近しい人間が集まっており、ヴィクターのような一部個人的に招待した友人などもいる。
パーティーはまだ始まっておらず順次人が入れられている状態だ。その中で、リディアはホールの中の真ん中でぽつんとしていた。
本来ならば、ゲストに挨拶をするために父や母と並んでエントランスで出迎えるべきだが、今日ばかりはそれもできない。
しかしきっとテレンスは、リディアが出迎えに父と母と並んでいなかったことを指摘しに意気揚々とやってくるだろう。
彼やその両親の登場は最後だ。
着々と時間が過ぎていって開会の時間が迫ってきてももうつらく思うことはない。
リディアはちょうどホールの出入り口からすぐに見える場所に立っていて、やっとテレンスたちは到着する。
なにも知らないふりを頼まれている親類や友人たちだったが、誰もが歓談しているふりをしながら聞き耳を立てて、若干そばに寄ってきていた。
そんな中、両親であるイザート伯爵と伯爵夫人とともにテレンスがリディアを視界に収めた。テレンスの後ろには、出迎えを終えたリディアの父であるプレスコット公爵と公爵夫人の姿がある。
「っ!!」
彼は驚いて、目を見開き、それから信じられないものでも見るかのようにリディアのことを上から下までじっくりと見つめた。
その怪訝な表情に、リディアは小さくにこりと笑みを浮かべる。
彼女は黒のドレスを身にまとっていた。
手袋から靴まで細部に至るまで、夜の闇を体にまとっているみたいに漆黒で、美しく明るい色のドレスをきた令嬢やきれいな宝石をつけた貴族たちとは違う異質の存在感を示している。
だからテレンスがそんな顔をするのは間違いではない。
問題はここからである。
リディアは明らかに、テレンスを待っていてこれからエスコートしてもらおうと考えているかのように一歩踏み出した。
テレンスは詰められた距離を戻すように一歩は後ずさり、明らかな侮蔑の表情を浮かべて身を翻した。
しかしその様子を後ろからじっと見ていたプレスコット公爵と公爵夫人に驚いて、立ち止まりこの場から逃げ出すことはできない。
「テレンス」
リディアは声を張って、彼に届くように呼びかける。
テレンスはびくりとして、それからそろりとリディアのことを振り返った。
「あらあら? おかしいですね。どこに行くと言うんですの。今日は、いつものようにしてくださらないの?」
集まってくれた全員に聞こえるようにリディアは話しながら彼の元へと向かう。
「あんなに、愛しているからといつもいつも説教をしてくれていたのに。何時間でもわたくしの至らない点を羅列してくれたのに」
「……リ、リディア」
「食事会で背もたれに背をつけた秒数まで数えて指摘してくれたと言うのに」
リディアはまっすぐにテレンスの元へと向かっていく。
テレンスはどこに逃げ出す手立てを考えているのか視線をあちこちにやっていたが最終的にはリディアを見据える。
「こんなに、わたくしが明らかな間違いを犯しているのに、あなたはどこに行こうって言うんですの」
「……」
「愛しているのでしょう? 私のためなのでしょう? どうして今、わたくしから逃げだそうとしたんですの?」
「い、いや、そんなことは……」
テレンスは問いかけると、ぎこちない笑みを浮かべてかぶりを振り、否定しようとする。
「否定なんてできませんわ。テレンス、あなたの行動はしかとこの目で見てましたわ」
「……だ、だからなんなんだ、よ」
彼は開き直ったように聞いてくる。
その言葉にカツカツとヒールの音を響かせてそばにより、リディアは睨みつけながら行った。
「だから? だから証明ができましたわ。テレンス。……わたくしずっとあなたの過剰な説教と嫌がらせのような監視に、腹を立てていましたわ。納得なんていかなかった、だって常軌を逸していて酷いストレスだったから」
「……」
「それを嫌がっていることはわかっていたでしょう? わたくしが苦しく思っていることもわかっていたでしょう?」
「っでも、それは君を思ってだって、私は何度も――」
「ええ、そうですわ。だから苦しみは簡単には終わらせることができなかった。そう言われてしまえば、向き合うべきだとわたくしの中の常識も判断する。将来のためで、わたくしのため、それはとても美しい感情ですわ。だから否定できなかった」
「しかし!」リディアは続ける。テレンスはリディアのことを非難するような目で見つめていた。
「あなたの本音は違いましたわ。わたくしの失敗とも言えないような些細な行動を掲げて、愛を盾に攻撃し、反論を封じて、自尊心を満足させるそれだけが目的だったのでしょう」
「ちが、違うに決まってるだろ!」
「じゃあ、どうして、あなたは今、たじろいで身を翻したのかしら? こんな時こそあなたの美しい愛ならば、フォローをしてその後に説教をするべきことのはずですわ!」
「そ、れは」
「あなたは逃げだそうとした。軽蔑して隣に並ぶことなんて考えもしなかった!」
「……」
「あなたはマナーに気をつけて周りから評価を受けているわたくしに対しては、おとしめるのが気持ちいいから愛を盾に説教をする。でもわたくしが本当に常識外れのことをして隣にいて恥ずかしい対象になったなら関わりたくもない!!」
すでに彼は、あの時点で詰んでいたのだ。
振り返って、逃げだそうとして、あんな大きなマナー違反の塊になったどうかしている女性の隣に並ぶことなんて考えられなかった彼は、その醜さを露呈させるしかない。
「あなたのその感情がたとえ愛だとしても、それはとても醜く、誰にとっても醜悪で、害にしかならない代物ですわ!」
「っ……」
「わたくしにはそんなものはいらない。あなたの愛なんて誰が欲しいものですか、さっさと処分するのが正解ですわ!」
テレンスは言葉を失って、ぐっと強く拳を握ってリディアから目を離せずにいる。
なにかを言ってやろうと考えているというのはわかるが、この件を判断して、決めるのはリディアではないし、プレスコット公爵でもない。
「さて、ここまで言われても自分の非を認めず、考え直す気もなさそうなテレンスとはそれでも婚約をしていますわ。こんな彼が我がプレスコット公爵家へと婿入りし配偶者となったら、もっとこじらせた愛情をもっと苛烈にわたくしに注ぐのかも」
言いながら、イザート伯爵と伯爵夫人に目をやった。
「でもわたくしは逃げも隠れもしませんし、許しもしませんわ。徹底的に争いますもの」
二人の顔はすでに真っ青だ。
「公爵家と伯爵家では分が悪い。そうなったら不利になるのはあなた方ですもの、だから将来のリスクを知る機会をもうけたのが今日のパーティーですわ」
「和解金はたっぷりと支払いますので、婚約解消お願いいたします!!」
「愚息が大変申し訳ありませんでした!!」
二人は、頭を下げてテレンスはそれを見て、ガタガタと震え出す。
伯爵家の彼が公爵跡取りであるリディアの配偶者になるのは玉の輿と言ってもいいほどの大出世だ。
それはあっけなく失われ、さらには、この大衆の面前。
完全に非を認めた両親。
もはやテレンスにできることなど何もなく、彼はたった一つの行いで山ほどのものを失って、もう二度と戻ることはないのである。
テレンスとはその後、婚約を解消した。
それ以降、彼を社交界の場で見ることはまったくなく、後日領地の屋敷の方で監視、管理されながら他家に出さずに生かすことにしたらしいと父から聞いた。
テレンスをああいう人間だと知った以上は、そうできる相手を与えず魔力などを搾取して使うのがたしかによい案だろうとリディアも思う。
そういうわけでリディアはなんの心配もなく快適な日々を過ごしていた。
そんな中、早急に跡取りのリディアの配偶者を探すべく父と母はいろいろと頭をひねっている様子だったがリディアの心はもう決まっていた。
父や母も幼い頃とは違ってリディアの優秀さをわかっていて領地を治める能力自体に心配はないと知ってくれている。
そしてそんなリディアには心を落ち着ける相手が必要だろうということで納得してくれた。
しかし当の本人であるヴィクターはそうではないらしい。
「だって……まさかこんなことになるなんて思わなくって」
珍しく深刻そうにしているヴィクターを目の前にリディアは、意外な一面もあるのだなと思った。
「俺は、できが悪い方だし、魔力も多くないし魔法も持ってない……なにより誰も俺の言葉ってあんまり本気にしないしさ」
「……」
「だから君が真に受けるなんて思わないじゃん、俺どうしたらいいの……?」
口元に手を当てて目を伏せて悲痛な声を漏らす彼に、リディアは問いかけた。
「どうもこうもありませんわ。……わたくしは、ただ……ヴィクター」
「うん」
「少なくともあなたの優しさの形がわたくしにとって嬉しいもので、わたくしの幸せがわたくしの人生にとっての正解だと言い切ってくれたあなたを選びたかったそれだけですわ」
「う~んっ!」
素直に気持ちを伝えるとヴィクターは目をぎゅっとつむって赤くなる。
嫌で嫌でしょうがないと言うわけでないようだった。
「それに真に受けてはいけなかったんですの。あなたはたしかに態度も軽いし適当に見えることもあるけれど……嘘はつかない。違いますの」
「う~、え~? ……嬉しい」
「ならいいでしょう」
「いいのかなぁ、俺でいいの?」
「あなたがいいのよ。わたくしは」
「あ~」
少し微笑んで言えば彼は、赤ん坊の喃語のようなうめき声を漏らしながらチラリをこちらを見てその瞳はなんだか潤んでいるみたいだった。
「……」
「……」
「婚約、してくださる?」
「もち、もちろん。拒絶なんてしないよ。俺も君が好きだったし、好きだからあのとき声かけたんだもん」
「そう、ありがとう」
ヴィクターからその言葉を聞くことができて、リディアはほっと息をついた。
彼は、リディアが困っているときに、必要な形の情をくれた。きっとこれからもそうだろう。
リディアもきっと彼にとって、よい愛情を与える人になりたいと思うのだった。
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