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第13話 俺の転生

俺は転生する

自分を好きになるために

昨日の夜は、あまり眠れなかった。

重たいまぶたのまま部屋を出ると、扉の脇にミナがしゃがみ込んで待っていた。

俺が出てきた瞬間、ミナはびくっとして、慌てて立ち上がる。目が泳ぎ、気まずそうに口を開いた。

「き、昨日は、その……ごめんね!」

「私、どうかしてたかも……」

小さく息をのむ。

「あの……怒ってるよね……」

そう言うなり、ミナは勢いよく頭を下げた。

「ほんとにごめんなさい!」

俺はミナの肩に手を置いて、頭を上げさせた。

触れた瞬間、ミナの肩が小さくびくっとする。俺は静かに手を離してから言った。

「大丈夫。怒ってなんかいないよ」

ミナは少しほっとした顔をして、それから言葉を探している。

俺は続けた。

「俺も、あれから考えた」

「俺の言い方とか、態度とか、そういうのが、ミナを不安にさせてたんだと思う」

ミナは小さく首を横に振る。

「俺は、このギルドにいるよ。どこかに行ったり、抜けたりしない」

「報酬も、きちんと受け取る」

ミナはどぎまぎして、返事の仕方がわからない顔になった。

俺は続けた

「ここ数日で、俺にも、ここで暮らす人たちのことが少しずつ見えてきた」

「お金の価値も…」

「今日までの依頼の報酬、金貨十九枚だったよね」

「それで、昨日手伝ってくれた人たちへの報酬……全部で金貨半枚くらいって言ってた」

「え……う、うん。そうだよ」

俺はうなずく。

「まだ、この世界の相場はわからない。でも、それを聞いて思ったんだ」

「金貨半枚を五人で分けても、あの人たちには凄く大きいんだって」

「それで、金貨十九枚が、どれだけの大金か、ようやくわかったよ」

それを聞いて、ミナの肩が落ちる。

叱られた子どもみたいに、目を伏せた。

「ごめんね、ソラ……私、ずるかった」

「ソラが分からないうちに、ギルドに入れて」

「そしたら、あっという間に……お金がたくさん入ってきて」

「それで……ソラがいなくなったら困るから……あんな方法で…」

声が震える。

「私のこと……軽蔑したよね…」

俺は首を横に振った。

「違うよ、ミナ。俺は何も変わってない」

うつむいたままのミナに言う。

「ミナ。俺の顔を見て」

ミナはゆっくり頭を上げた。

俺は目を合わせて、はっきり言った。

「俺は、ミナのことが好きだ」

ミナの目が揺れる。

「あ……ありがとう。嬉しい……」

ミナはまた、視線を落としかけて、かすれた声を出した。

「わたしも……」

俺はその言葉を、手を上げてそっと止めた。

「待って。返事はいらない」

ミナが驚いた顔で俺を見る。

「え?」

その目には、昨日と同じ光が、もう浮かんでいた。

受け入れるしかない……そんなふうに、自分に言い聞かせている光だった。

俺は寂しく笑って言った。

「昨日、思ったんだ」

「ミナが本当の気持ちで答えられない状況で、返事をもらうのは嫌だって」

ミナは息を止めた。

「俺は、ミナに自分の気持ちをごまかしてほしくない」

「本当の気持ちのままで、ミナの返事を貰いたい」

少し間を置いて、俺は続けた。

「だからさ……考えたんだよ」

「俺が、特別じゃなくなれば、いいんじゃないかって」

ミナがきょとんとして言う。

「そ、そんなこと……」

「それでさ、俺の報酬の使い道、見つかったんだ」

「使い道?」

俺は頷いてから答える

「ミナも、ナルも、イナクも。昨日手伝ってくれた人たちも」

「みんな、みんな、組合に登録して、能力検査を受ければいい、金は俺が出す」

ミナの眉が上がったまま固まる。

長い間が落ちた。

そして――

「ええぇ!?」

少し遅れて、ミナは目を丸くして叫んだ。

俺はそんなミナの顔を見て、笑いそうになるのをこらえながら言う。

「旧市街には、人がいっぱいいる! 探せば、すごい適性とか、スキルを持ってる人が絶対にいる」

「えええぇ!」

「すぐに、俺がいなくてもギルドは稼げるようになる! そうすれば、ミナは俺に嘘を付く必要がなくなる」

「ええええぇ!!」

それから、俺はわざとらしく肩をすくめて言った。

「ミナ。後払いでいいよ」

「え?」

「俺も、ちょっとくらい、ずるくてもいいだろ」

ミナが、きょとんとしたまま瞬きする。

それから、はっと気づいた顔になった。

「……それ、私が言ったやつ……」

少しの間のあと、ミナが吹き出した。

笑いながら、涙を指でぬぐう。

「私、払うとは言ってないからね!」

そう言いながら、もう前を向いていた。

「でも、いい! それ、すごくいいよ、ソラ!」

それから、ミナは大きく身体を伸ばす。

「あー、慣れないことして疲れちゃった」

そして前のめりになって、俺を見上げながら言った。

「ソラって、やさしいね! かっこいいかも」

からかうような言い方で、いつもの彼女に戻っていた。

「お腹すいたでしょ。行こ、ソラ」

「うん」


先を歩くミナの背中を見ながら、俺は思う。

俺は、彼女が本当に好きだ。

ナルも、イナクも好きだ。

この人たちは、いつもお互いを大切に思い合っている。

ひょっとしたら、自分自身のことよりも、相手を大切に思っている。

それが……ミナの言う「家族」なんだろう。

俺の胸に残っている家族は、少し違う。

きっと俺も、自分のことばかり考えて生きてきた。

そんな気がする。

だから俺は、ミナに惹かれているのかもしれない。

昨日、ミナが部屋を出てから、俺はずっと考えていた。

最初は混乱していた。でも、だんだん頭の中が整理されていった。

今なら必ず彼女に手が届く……と理解したときの、薄汚い欲望が、いまも胸にうずいている。

手に入るなら、手に入るうちに……俺は本気でそう思った。

俺は、そんな自分が嫌いだ。

“自分のことが嫌い”

その感情は、この世界に来る前から、きっと俺の中にあったものだと思う。

俺は、ありのままの彼女が好きだ。

いつも一生懸命で、まっすぐで、でも……本当は弱くて……。

彼女の弱みにつけ込むなんて、糞くらえだ。

彼女にそうさせる現実があるなら、俺が叩き壊してやりたい。

その結果……俺の気持ちが、届かなくても。

二度と手が届かなくなっても。

それで……いいんだ。

俺が好きな彼らのように、自分以外の誰かのために生きてみたい。

そうすれば、自分のことも……好きになれる気がするから。

それができて初めて、俺は本当に生まれ変われるんだ。

それが、俺の転生なんだ。


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