舞踏会でプロポーズしているときに婚約破棄をする空気が読めない令息……というかただのアホ
「なろうラジオ大賞7」参加作品です。
「セレンディーナ……好きだ。結婚してくれないか」
舞踏会の曲の合間に始まったプロポーズ。周りの令嬢達も、その率直な愛の言葉にほうっと息を吐きます。
私も不特定多数のうちの一人として、二人を見守ることにしました。
「まぁ……シトリス様。わたくしもお慕いしております」
きゃあっ、と小さく悲鳴が上がりました。こんな素敵な場面を目の当たりにできるなど、なんて幸運なのでしょうか。
じっと見つめ合う二人。間には既に甘い空気が流れています。
会場全体が幸せな空気に包まれていたその時、耳障りな大声が鼓膜を震わせました。
「公爵令嬢モニカ・ナタリエール!お前との婚約を破棄する!」
あぁ、最悪の気分です。
高揚感に包まれていた心が、一気に冷めていきました。こんな馬鹿のせいで。
第一、仮にも婚約者だった相手に対して「お前」とは、失礼すぎるでしょう。
婚約破棄された令嬢――モニカ様は、肩を震わせて俯いています。真面目な方だと聞きますのに、婚約破棄されるなんて。よほど相手方に恵まれなかったのでしょう。
で、その相手方は……と見ると、勝ち誇った顔でモニカ様の方を見ています。周りは全員「うわぁ……」みたいな顔で見ているのに、気づかないのでしょうか。
そんな地獄の空気の中で、一人の令息が声を上げました。
「エイネイラ様、ずっとあなただけを見ていました。どうか、僕と婚約していただけませんか」
ヒュード様です。前から噂は知っていましたが、本当に懸想していたのですね。
そして、私は彼のやらんとすることに気づきました。あの馬鹿の前で婚約を結び、この場の空気を味方に、ということでしょう。
彼の気持ちを汲み取ったのは私だけではなかったようで、あちらこちらで声が上がりました。全て、意中の方への言葉です。
先程婚約破棄されたモニカ様にも、侯爵子息が話しかけに行ったようです。モニカ様の未来も安泰そうですね。
「ミランレー伯爵令嬢、僕と婚約してくれませんか」
あら、私にも想いを寄せていてくださった方がいたんですね。何度か見かけたことがある方ですが、好印象です。
「もちろんですわ。これから、よろしくお願いいたします」
ワルツが鳴り始めました。私達は手を取り合い、再び踊り始めます。
他の方も、新たな人生のパートナーとともにステップを刻んでいます。皆様、末長くお幸せに。
たった一人、誰とも手を繋がず壁とお友達になっていた方がいたようですが、私の知るところではありません。




