表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年(少女)は足掻いている  作者: 草次城
ベラドンナ編
3/19

(3) 文通と王家とゴミ陰謀

 


 鼻息を荒くしたものの、即、壁にぶち当たった。


 作戦を考えはしたんだよ。参考になるものがすぐ見つかったから。

 それが何かって、手紙だ。アスターの、故事に絡んだ小粋な言い回しや、有名な詩をもじった表現が散りばめられている、同い年が書いたとは信じられないような手紙。

 しつこく読み返しているうちにまず閃いた。傀儡の呪いが有名になった事件になぞらえたらどうだろう。


 ダメだった。まず前提として俺に知識がなかった。そのまんま事件で呪われた人を俺、呪った人を父として書こうとしたら、その事件が起こったのがヘリアンサス四世の時代ってことしかわからない。

 名前を知りたくて四世の治世について調べても、それっぽい記述が来ると勝手に本を閉じてしまう。先生はこっそり教えてくれそうだから雇用的に逆に聞けない。過去の怠慢がまた跳ね返ってきて泣いた。


 次に閃いたのは、捻らずに助けてと言うこと。

 却下。何から助けてほしいのかと聞かれても答えられないとなると、相談にかこつけて気を引きたい人みたいになるので。


 最後の案は、操り人形だと伝えること。

 でも父の仲介で文通している相手に、自分は父の操り人形なんですよって言ったら、命令されて嫌々文通してるって意味かなって誤解を招きそうだった。


 それを免れたとしても、もしアスターが、操り人形を、単純に俺が父の言いなりだって比喩だと捉えたら、まず間違いなく俺を結婚によって家から出そうと考える。それ以外に穏便に父から娘が解放される手段はないからだ。

すると当然父に結婚の話がいくわけで、そこで父が、なぜ王子が俺の縁談を世話するんだと不審に思い、俺に説明を命令したらすべてが終わる。


 というわけで俺はもう対面でのボディランゲージに願いを託して純粋に文通を楽しんでいる。


 同い年の実質年下に文章で負けてられないと見栄のために勉強しまくった結果、先生に熱心ですねと褒められたのは嬉しいおまけだ。ただ、微笑ましそうに見守られてるのはちょっと据わりが悪い。


「婚約の打診が来ない」


 父までそういう恋バナ勢かよ。


 晩餐でこの後書斎にと呼ばれ、恐る恐る出向いたらこれだ。お前の座ってる椅子ひっくり返してやろうか。


「アスター殿下は他国の王族の方とご結婚なさるでしょうに。臣下の娘など妻にしたら、陛下は殿下のお子を王族とお認めにならないでしょう」

「ふん。お前は知るまいが、陛下はむしろをそれを喜ぶかもしれんのだ」

「そんな、まさか……。一体どういうことでしょう」

「陛下はかつて、同盟国のバンナンが約束通り援軍を送らなかったために敗戦したばかりか王太子のローレル殿下を失っている。バンナン王への深い恨みはバンナン王の娘と孫、すなわち前王妃とアスター殿下にも向かった。お前とアスター殿下が離宮に住んでいたのはその関係だ」


 ええ。窮地を救ってもらったって、もしやあの離宮での暮らしってアスターを匿ってたわけじゃあるまいな。そうだったら王様怖っ。嫌いになるわ。俺らお互い父親に苦労してんだな。


「数年前に陛下はアスター殿下に対する勘気を解いたが、あくまで表面上に過ぎない。王太子のバーチ殿下にはまだ嫡子がおらず、万が一のことがあればアスター殿下へ王冠が渡るが、陛下は内心では何としてもそれを避けたいはずだ。バンナンの血を引く子孫が玉座に座り続けるのも業腹だろう。お前と結婚させれば、少なくとも後者の未来は潰せる。前にもバンナン憎しで軽挙妄動に出た陛下なら、後先考えず、理解ある親の顔をして婚約すると思ったのだが、さすがに頭がひえたとみえる。アスター殿下と我々との結びつきが強まるのを避けたがるとは、まったく小癪な男だ」

「お父様。お言葉が過ぎますわ」


 お前の発言も怖いな。不敬だよ。その輪郭ぐらい四角四面な言動しとけ。


 せっかくの俺の忠言を鼻で笑ってくれた父は、さらにとんでもないことを言い出した。


「命令だ。学園で殿下を誘惑して結婚を約束させろ。そしてこの部屋での会話を外に漏らすな」

「はい」

「策を練ろうにも、殿下ご本人が強くお前を望まねば話が始まらん。お前も妃になりたいだろう。オータム家のためにも励めよ」


 おいおい自分の栄華のために王家を罠にかけようとしてるよ。反逆罪だろ。俺が裁判で証言したらこいつ首切られるぞ。

 裸になったらすぐバレる谷間に釘があるのに、順当に結婚させようとしているのもやばい。学園の恋人なんかお手々繋いでこっそりキスくらいが関の山だろうが、夫婦になったらそれより先に進むだろ。

 嫁入り前に隠れる場所へ打ち直すなら良くないけどいい。でも俺を利用して、真実を知ったアスターの口封じさせるつもりなら許せない。


 こうなると操り人形だって言うのやめて正解だったわ。危うくアスターに俺を引き取らせる口実を父に与えるところだった。


 父の狙い通りにさせてたまるか。なんとしてもアスターに俺の呪いを暴いてもらう。そうすりゃコルチカム公爵の悪事は白日のもとに晒され、お前も恩着せがましい悪党とさよならできるぞアスター!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ