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少年(少女)は足掻いている  作者: 草次城
ベラドンナ編

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(10) 顛末とムカツキ報復と愚父

 


 ソレル曰く、アイリスは嵌められたらしい。


 呪いのネックレスがある。それに向かって、呪いたい相手の名前と簡単な命令一つ唱え、相手に素手で触らせる。すると相手はそれを着けている間、その命令に従うらしい。


 そのネックレスを、アイリスの交友関係に目を着けた男子が、アイリスの前で落として拾わせ、自分と婚約するよう命じた。そいつの誤算は、呪いに意識が曖昧にかる副作用があったことだ。


 いつも元気で頭もいいアイリスが、一日中ぼんやりしていたらそれはもう不自然だ。当たり前のように彼女の知人は訝しみ、アスターが不審な古臭いネックレスに気づいた。解呪されたアイリスの証言から、無事事件は解決したという。

 犯人の男子は、婚約さえ成れば、庶子の少女ごときいくらでも言いくるめられると思ったと供述したらしい。


 へえアスターが。なんだ。参考にならない。

 あれ、なんでソレルは普通に呪いについて話せてるんだ。こいつもしかして呪われてないの? え、もしかして家族の中では俺だけ? 公爵家の裏の雇用条件に呪いがあるとかじゃなくてライアって侍女なせいで本気で俺の巻き込まれ?


 俺の混乱をよそに口が動く。


「満足したなら離してくださる。気分が悪いの」

「アイリス嬢は何の落ち度もなく呪われました。発覚したのは殿下のご慧眼の賜物ですが、呪いによる異常は、特別な状況での確認は必要なく、彼女と仲がいい友人ならすぐわかるようなものでした。この事件において彼女の名誉に関わるようなことなど一切ありません。あなたがそれを理解して、二度とこの件で見当違いに彼女を攻撃しないと約束してくれるなら、離します。本当はあなたから彼女に謝罪して二度と関わらないと申し出るべきだと僕は思いますが」

「……殿下はご健康を害されてはないのでしょうね。それとあなたも」

「おまけで心配してくださって涙が出ますよ。呪いが判明した際、そばにいた僕たちも念のため確かめてもらいました。殿下もご無事です」


 はい少なくともこいつは呪われてないこと確定。もう敵。一旦戸惑いは置いておこう。

 俺は口角をぐいっと上げた。


「恥を知りなさい」

「え?」

「大事な人の異常をみすみす見逃して、殿下に穢れを近づけた。その大失態を恥じるでもなく、したり顔でさすが殿下と称えてみせる。さらには庇護するつもりで人の意見を潰して話を奪ったかと思えば、ほとんど話したこともない人を悪意に満ちた存在だと頭ごなしに非難する。自己中心的かつ自分に甘い、厚顔無恥の極みですわね。オータム家の人間ともあろう者が、何の意図もなくそんな醜態を晒している現実に目眩がしますわ。ここまで幼稚で己の行いを省みることができないお前が家督を継がずにすむのはまさに神の思し召し。お前は軍人よりも聖職者になりなさい。そして三男坊に生まれついたことを、お父様とお母様とこの世のすべてに感謝しながら、間違っても責任を負わずにすむよう、お兄様たちと甥たちの健康を祈って頭を垂れて謙虚に生きなさいな、ソレル・オータムさん」


 長口上で罵る間、だんだんソレルが赤くなり、表情が歪んでいくのが気持ちよかった。俺にはよくわからないが、貴族の次男以下にとって、爵位が継げないというのはかなり悔しいものらしい。


 緩んだソレルの手から腕を抜き、顎を上げて思いっきり見下してから、マントの裾を翻して今度こそ歩き去ってやった。


「どうしてこんな人を……!」


 憎々しげな言葉を背中に投げつけてくる、いかにもな負け犬仕草、実に愉快。

 これでソレルにとっての俺が悪女で固定されても構いやしない。俺だってお前のこと嫌いだもん。なんならまだ腹の虫がおさまってない。

 まずアイリスへの質問中に割り込んできたのが邪魔だった。俺がアイリスに接触したら近くにいる追っかけ野郎に連絡でもいくわけ? 次に俺がアイリスの貞操について騒ぎ立てようとしてるという悪意に満ちた解釈も鬼のようにうざかった。そして何より許せないのが、最初にアイリスの異変を見抜いたのがアスターだと言ったその口で、仲のいい友人ならすぐわかるとほざいたことだ。


 いやそんなことお前、じゃあアスターが俺のことをスルーしてんのは俺がアスターにとってどうでもいい存在って意味かお前。

 気づいてんだよアスターは。ただ傀儡の呪いに辿りつかないだけ。だってアイリスとは三ヶ月の付き合いなんだぞ。俺は空白があるとはいえ五年だぞ五年。

 悪いのはひとえに俺の伝え方。そうだろアスター、なあ、そうでないと俺は、本物のベラドンナは。


 頭の中がぐしゃぐしゃになってきた。 せっかく時間をかけて心を落ち着かせたのに。

 夕食にアイリスと約束したのだけが希望だ。女子寮に男子なんか入れないから、邪魔されようがない。勝った。


 しかし悪いことは重なるもので、なんと午後、父に王都の屋敷へ呼び出された。よほど断ろうと思ったが、部屋に立てこもる前にライアが迎えにきたので、抵抗むなしく制服のまま連れてかれた。


「よほどマーガレット妃の言葉は耳に快いとみえる。アスターに王妃になれるほど立派な嫁を世話してやったそうだぞ」

「そうですか」


 開口一番それだった。俺はどんな反応をするのが適切なのかわからなくて、真顔で直立を保ったが、父は頬杖をついて、波打つガラスが何枚も嵌った窓を眺めており、俺の取り繕いもまんま眼中にない。

 そのまま父は話を続ける。


「半分は冗談だ。見合いがあったのは事実、妃の長年の関係改善の試みも事実だが、王の翻意の実際のきっかけは必要にかられたからだろう。昨年のちょうど今ごろ、バーチ殿下の病状が最も深刻だった時期に、アスターは王に謁見している。その後、アスターへの国内貴族の縁談がすべて断られるようになったのと、アスターがバーチ殿下の代理として外国を訪問したために、王がアスターに王子としての自覚を含めるための謁見だったと考える向きもあるが、調べたところによると、謁見を申し込んだのはアスター側からだった。当時、バーチ殿下の詳しい健康状態とアスターの見合いが、私にも届かぬほど厳重に秘匿されていたこともあわせて考えると、おそらくアスターは、何も知らずに王へお前との結婚を望んだのだろう。王はそれを却下し、密かに見合いを用意した。当然代理訪問のときだな。それを今度はアスターが蹴った。こう考えれば、私が婚約を持ちかけた際の王の反応にも説明がつく。お前はすでに勝利を手にしていたにもかかわらず、取るに足りない小娘を敵視して学園で愚行に走ったわけだ」


 アスターが俺と結婚したい? うっそだあ。お前が自分に都合よく物事を解釈してるだけだろ。

 なんて軽口は叩けないのでとりあえず謝っておく。


「申し訳ございません」

「今でこそバーチ殿下は回復したが、不治の病なのだ、いつまた命が危うくなるかわからん。アスターの結婚はあの王をしても重大な関心事だろうな。しかしなんと無慈悲な男よ。血を分けた子より国が大事か。今まで辛い仕打ちをしてきた息子の願いくらい叶えてやればよいものを。でないと私の大切な娘は愛人止まりではないか。王子の妃どころか、王妃になる未来が手の届くところにあるというのに」


 あーやっぱこいつの目的って外戚として権力を握ることなんだ。そういうの昔の日本にいたよな。

 おや? 王様はまだ元気だし、話を聞く限り持ち直したらしいバーチ殿下が長生きするかもしれない。そしてこれからバーチ殿下の奥さんが男の子を授かるかもしれない。なのに俺が王妃になる道筋って、つまり。


「だが、そうだな。非道な行いをしてきた父親こそ、死の間際には贖罪を願うもの。まだアスターが次の王と決まっていない今ならば、遺言でお前との結婚を許してもそこまで不自然ではなかろう。喜べ我が娘よ。この父がお前に女として最高の栄誉を与えてやろう」


 ほらやっぱりそういうことじゃん。それはお前の望みであって俺の望みじゃないだろが。


 王様に何かあって公爵が得をしたら間違いなく疑われる。それはこいつもわかっていて、うまく立ち回る自信があるのだろう。

 だがどんなに完璧な策であっても、呪いさえ解ければ、大逆者のカスが暗殺計画立ててること俺が全部しゃべれる。お前がこんなやつに肉親を奪われて良いように使われなくてすむようになる。

 だからアスター、お願いだ。俺の呪いを見抜いてよ。


 アイリスにはしてやったように。




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