第8話 男子禁制は守るべし
登場人物
【ヴァイス】大鎌を持つ死神、外見は銀髪の少女。感情的になる怨念を吸収し暴走する特異な能力を持つ。
【クロガネ】大剣を背負う死神、外見は黒髪ロングの女性。ヴァイスのバディ、目つきも態度も悪く、男口調で喋る。
【助手】物語の視点。ヴァイスが選んだ人間界の助っ人、一番趣味がヴァイスに近いらしい。
【リリィ】死神の一人、外見は金髪ツインテールの女の子。ヴァイスをお姉様と慕い、助手の人間をライバル視している。
「ふーん、これが助手ボットですね」
「そう、地形探知やターゲット特定など、任務のサポートをしてくれる高性能な機械だよ」
モニターの中に、ヴァイスがリリィに探索補助ロボットの解説をしている。
「地味な見た目で人間には似合ってますわね、リリィならもっと可愛らしい見た目のがいいですわ」
「地味で悪かったですね」
「まあまあ、塗装を変更したければコンテンツ・ストリートに行けば何時でもできるわ。助手ちゃんもキュートな見た目が欲しいなら私に言ってね」
「別にこのままでもいいんですけど」
現在の助手ボットはデフォルトの全身白のカラーリングで、簡素でありながらハイテク感を出している。私にとっては十分な見た目だ。
「それで、今日はリリィさんも任務に参加してくれるのですか?」
「今回のはリリィが推薦してくれた任務なんだよ。報酬分けなくてもいいから連れていって欲しいって」
私の問いにヴァイスが答えてくれた。
「それはリリィがずっと気になっていた任務なのです。前回お姉様が終了したソシャゲの案件を解決しましたので、もしかしたらこれも解決できるかもしれないと思いました」
「だからまたこんなサ終したはずのソシャゲを、掘り起こす任務を受けたんですか。てかウチのソシャゲ率高すぎません?」
「それだけ人間世界では重要なコンテンツでしょう」
ヴァイスの答えは答えになっていないが、確かにそうだった。
今回もゲームデータを用意するのは骨を折った。前回は欧米の方が提供してくれたが、今回は中国の方に連絡を取ることになった。
日本IPで中国産のゲームだから仕方ないけど、言語の壁をなんとか越えるのは苦労した。
タイトルは「ラピスリライト」と言い、(日本版が終了したため死産となった)中国版はまた全然違うタイトルなんだけどその辺は割愛する。
メディアミックスとしてアニメ・マンガを出していたが、どちらも女同士の関係性を描いてるのに、ソシャゲ版はなんと男主人公固定のハーレムもの。
世界線は違うとは言え、元のファンからは支持されず1年立たずにサービス終了となった。
てあれ?これ前回も前々回も全く同じパターンなのでは…?なぜ人間は同じ過ちを繰り返すのか。
「で、例のブツは用意できたわね?」
「はい、こちらでございます」
私は例のUSBメモリを持ち出したら、「なんか犯罪臭がしますわ」とリリィが正直な感想を発表した。
「作中での行為とは言え、〇人をする死神のほうが犯罪ですよ」
「コロしてません、消えさせてもらっただけです」
一緒や!
「話はもういいか?女が三人も居るうるさいんだな」
隣で見ているだけのクロガネが文句を言いに来た。
「そろそろ自分も女の外見をしているのを自覚してよね、我が相棒よ」
「どうでもいいことだ、さっさとこの任務を終わらせろ」
「せっかちさんなんだから。それじゃあ助手ちゃん、データの読み込みをお願いするね」
「はい」
ヴァイスの言う通りにUSBメモリをゲーム機へ接続し、間もなくして読み込みが終了した。
そしていつものように画面が暗転したあと、死神たちはゲームの世界に入り込んだ。
…………
助手ボットの視線からは学校が見えた。これは剣と魔法のファンタジー世界でのアイドル学校、しかも女子校。
「ターゲットはこの学園で唯一の男性で、教師をしていますの。元々は教師でも女性のみだったのですが、男主人公ぶち込むためのガバガバ設定ですわね」
「ガバガバって……」
言葉遣いが上品なリリィだが偶にとんでもない単語が出る。
検索フィルターを人間・男性・成人に設定すると、やはり一件だけ結果が出た。間違いなく今回のターゲットだ。
「どれどれ、職員室に居るみたいね。となると結構回り込まないと行けないわね」
ヴァイスが助手ボットのモニターを覗き込んで考える。
「邪魔者は全部排除すればいい話だ」
「いや、必要のない殺生だめでしょ」
正常運転のバディにブレーキを掛けるヴァイス。
「どうしますか?リリィたちの格好では目立ちますし……」
「生徒のフリをして潜入する手もあるけど、制服がないとねぇ」
「だから無理矢理突破すればいいと……」
「クロガネは黙って」
私も自分なりに考えたが、生徒を身ぐるみ剥がして服を奪うのはなんかやり過ぎたようで言い出せない。
「こうしよう、二手に分けるのはどう?私とクロガネは校内で騒ぎを起こし、助手ちゃんとリリィは騒ぎに駆けつけた先生を狙撃する」
「私もですか!?」
「そりゃあ、ターゲットの居所を掴めるのはアンタしかないじゃん」
思いのほか大役だったな、このロボットは。
「これでいい、オレも派手に暴れたいんでな」
うーんこの戦闘狂。
「出来ればお姉様と一緒行きたいのですが……」
「リリィは狙撃が得意でしょ?私やクロガネよりは適任だと思うの」
「お姉様がそう仰るのなら」
「これで決まりだな、実行と移ろうか」
せっかちなクロガネはヴァイスを引きずって校内に侵入した。
程なくして、騒ぎが起こした。どうやら私とリリィが潜入する合図だ。
「行きましょう、人間。いいえ、今はロボットですか」
「人間でいいです!行きましょう」
小柄な女の子が小柄なロボットを連れて校内を歩き回るシーンは、横で見ると非常に癒しなのだろう。まあ実際はコンテンツ中の殺し屋なんだけど。
…………
「うりゃあっ、どうした?この世界の人間はこの程度か?」
「早く、先生たちをッ!」
遠くでも戦いの音とクロガネの声が聞こえる。
「楽しそうですね、クロガネさんは」
「任務だっていうのにね……やっぱり羨ましいですわ(小声)」
聞き逃れそうな音量だったけど、リリィが好き勝手戦えるのが羨ましいわけないよね?
私たちは混乱に乗じて職員室の近くまで来た。
「どう?ターゲットは移動してましたの?」
「はい、校内放送を聞いて騒動へ駆けつけたのでしょう。もうすぐ建物から出ます」
「分かりましたわ、ここで構えましょう」
「でもまだ入り口から大分離れていて……」
「大丈夫ですわ、この距離なら十分ですの」
100メートルくらい離れているのに、この距離からの狙撃って、リリィは瞬間移動でもできるのかな?
「来ます!」
合図と同時に、一人の男が屋外へ走りだした。そして次の瞬間……
「そこですわ!」
リリィが隣でどこから持ち出した銃を構え、ターゲットへ発砲した。魔力の弾丸はターゲットの脳天に直撃し、そこから黒い煙が漏れ出す。
「キャーー!先生がッ!」
転倒した男を目撃した生徒が大声を出した。もし周りから人が集まると狙撃は不可能となってしまう。
「もう一発ッ」
しかしリリィは既に次の弾を用意し、数秒置かずに二発目を打ち出した。
今度は心臓を打ち抜き、ターゲットは完全に霧と化して消滅した。残されたのは1つのどす黒い結晶のみ。
男の存在が消えたせいか、目撃者は全員何こともなかったのように、また騒ぎの現場へ移動し始めた。
いつも可愛らしい言動で人の心を引き寄せるリリィが、こうも殺意高いスナイパーに早変わることには少し戦慄を覚えた。
「任務完了ね、早くお姉様たちと合流しましょう」
「アレ、回収しなくていいんですか?」
「いいの、他の任務でもいっぱい回収できますし。あれは汚すぎて触りたくありませんわ」
素材が汚いから取りたくないなんて、ゲーマー目線では全く理解できないわね。
…………
「お姉さまぁー!任務は無事に完了しましt……」
「ってすごい光景じゃないこれ!」
鎖に縛られた生徒や地面に倒れた生徒を数十人見て、私は驚愕を隠さずに叫んだ。
「リリィたちが戻ったみたいね、これで引き上げよう、クロガネ」
「ちっ、まだ校長とやり合い足りなかったが、この勝負は預けるとしよう」
校長先生まで登場したのか……どんだけヤったんだクロガネは。
「待て!君たちは一体何が目的で……」
「そうね、強いて言えば、あの男を校内に入れた貴女にも責任があるんじゃないかな?」
ヴァイスが意味深な一言を残して、私たちはこのコンテンツから脱出した。
…………
現実世界に戻ると、リリィは直ぐ私のスマホにさっきのソシャゲをインストールすることを強要した。
「今じゃないとダメ?新作ゲームの続きやりたいんですけど」
「ダメです」
「オレは付き合わんぞ、お前たちだけで楽しめ」
クロガネは相変わらず最速で退場した。
どうやらリリィはアイドルものが結構好きで、このゲームには執念があるらしい。男主人公を消した変化として、新たに男女選択可能な主人公になった。
女性固定ではないとは言え前よりは大分マシで、3年間も運営が続いた……そう、続いていた、ちょうど今年でサ終済みである。
「そんなぁ~!リリィはまだプレイしてなかったのにぃ~!」
「残念だったわね。あっでもプレイヤーのみんなに感謝の気持ちを込めたオフライン版は残してあるみたいよ、ストーリーしか見れなくなったけど」
「見ます、少しだけでも見ます!」
結局、三人で一晩中ストーリーを見続けて、ようやくリリィの気が済んだ。
今日はいつも以上に時間を取られてしまったなぁ、でもリリィの意外な一面も見れたしで……
いやいや、私はこんなことのために助手になっていない!そう、私は……あれ、なんのためだっけ?
今回とは関係ない話ですが、最近は明確的に「ユリの間に」を売りにするノンケ作品が散見するようになりました。これはジャンルが世間に浸透していた現しですが、実際は悲しいことです。
そういうモノはジャンルの意義を否定しているだけで悪い影響しか与えませんし、勝手にタグが付いたら検索妨害でもあります。
つまりどういうことなのかと、本作のネタが増えてしまったのです、はい。狩らせて頂きます(犯行予告)