第6話 くだらなぬ自己投影 前編
登場人物
【ヴァイス】大鎌を持つ死神、外見は銀髪の少女。感情的になる怨念を吸収し暴走する特異な能力を持つ。
【クロガネ】大剣を背負う死神、外見は黒髪ロングの女性。ヴァイスのバディ、目つきも態度も悪く、男口調で喋る。
【助手】物語の視点。ヴァイスが選んだ人間界の助っ人、一番趣味がヴァイスに近いらしい。
【ローズ】傘を武器とする死神、外見は貴族らしい服装を纏う女性。ヴァイスとはよく対立したせいで関係が悪い。
【クロエ】槍使いの死神、中性的な外見で執事の服装を着ている。ローズのバディで、彼女をお嬢様と呼ぶ。
ヴァイスがまだバディを組んでいない頃、彼女は趣味でどマイナーな任務を受注し、一人でを完遂し続けた。そのおかげで能力はあるがかなりの変人、というイメージが付いた。
バディや助手を得られた今でも、その任務選びに変わりはない。
「また変なのを受けたんだね、ヴァイス」
死神組合で任務の受注をしたヴァイスに、受付嬢が話す。
「私の興味をそそのかせるいい任務が他にないのが悪いんだよ」
「はいはい、いつものことだよね」
ヴァイスが受けたのは、ソシャゲの主人公(プレイヤーの分身)を消す任務だ。
投影すべき対象である分身にヘイトを集まるソシャゲは非常に珍しく、消すとどうなるかも分からないし、誰も受けようとしなかった。
「あら、これはこれは、変人ことヴァイスさんではないかしら」
「げっ、ローズかよ」
「お嬢様相手に『げっ』とは、失礼な者ですね」
ローズとその従者クロエが受付のカウンターに近づきながら、ヴァイスを挑発した。
「ローズさんにクロエさん、今日はどんな任務にするのか?」
「その変人と対立する任務を所望するわ」
「アンタまたそんな嫌がらせを……」
「失礼わね、ワタクシは貴方と決着を付きたいだけよ。このアジア支部で最も有能なのは、ワタクシであることを皆さんに認めるためにね」
「こほん、口喧嘩は外でして貰える?」
受付のお姉さんが会話に割り込んだ。
「そうわね、無駄話これくらいにして。任務の受付をしてくれるかしら」
「はい、こちらがヴァイスとは対立した『裏切りの少女を消す』任務である」
対立する2つの任務は、どれか一方をクリアすると、そのコンテンツに関連する怨念が消え、もう一方の任務が無効となる。つまり受注した両方のチームは競争する形になる。
「確かに受け取ったわ。早速参りましょうか、クロエ」
「はい、お嬢様。こちらへ」
ローズは従者にエスコートされながら退場していった。
「アイツらも結構変だよね、まさか対立するために報酬が貴女より低い任務を受け取るなんて」
「報酬低いのは主人公を消すことを望む人間のほうが多いからね。でもしつこいライバルには困ったものよ」
「そう言えば、前に来た助手ちゃんとは仲良くできていた?」
「それはもうバッチリだよ、伊達に趣味が一緒の人を選んでいないからね!」
「そう、なら良かったわ。そろそろアレを使わせる時期なんじゃない?」
「アレね、ちょうど今度しようかと思ったの」
…………
「という訳で、今日から助手ちゃんには、この『助手ボット』の操縦をして貰うよ」
「何がという訳ですか、最後の会話でしか全然説明してなかったじゃないですか!」
今日も任務の日で、ヴァイスが変なロボットを持って私の部屋のモニターに現れた。
「無駄話が多いのはヴァイスの悪い癖だぞ」
「クロガネはテンション低すぎなんだよ、そんなんじゃ助手ちゃんが好きにならないよ」
「別に、勝手に思えば?」
このバディはいつものように二人漫才を始めるのを見て、私は苦笑うことにした。
「じゃあ説明するね。この助手ボットは地形探知やターゲットの特定など、コンテンツ探索の手助けをしてくれるよ。助手ちゃんはそっちでコントローラーを動かして操作するのよ」
「コントローラーですか……今更ですが、死神なのに結構なハイテクですね」
「時代だからね!」
「オレはこういうのに疎いけどな」
「クロガネって時々、お爺さん臭いんだよね」
「うるせぇぞ」
「でもなんでまた急にこれを?」
「お前が任務中に暇すぎるからだぞ」
「作品の本体を用意したじゃないですか。ていうか暇じゃないです、早く終わらせてゲームしたいんです」
「なら少しでも任務中で手伝え」
死神の助手って、やっぱり苦労するだけの仕事だ……
「そんじゃ、習うより慣れよ。コンテンツに入ってから操縦してみて」
「はい、分かりました」
そして私は例のブツ、USBメモリをゲーム機に挿入させた。この中にはサービス終了したはずのソシャゲのデータが入っている。
「しっかしホントに物好きが世の中には居るんだね、一年も前にサ終したゲームのデータを保存しているなんて、中々の怨念だよ」
「この任務の依頼人の一人かもしれんな」
今回の任務が長い間放置され続けた理由の一つは、データが残らないからである。このUSBメモリも、私が海外の者と連絡を取ってようやく手に入れた物だった。
「以前リークからサ終の予言をしていた海外の人だっけ、反転アンチの威力は計り知れないわね」
「あはは……」
大好きだったシリーズが大っ嫌いな主人公になったからか、ファンの多くの反感を買い、失敗に終わった作品だった。そしてシリーズもそのまま終焉へ向かうことに。
「さて、読み込みが終わったし、いざ出発しよう」
次に、画面が暗転し、私たちソシャゲ(オフライン)の世界に入ったのだった。
…………
どうやらモニターの画面は「助手ボット」の視角となっている。画面上に色々のUIが表示されていて、中に最も注目すべきなのは右上のミニマップだろう。これは周囲の地形や、ターゲットの方角を表示していて、非常に便利な機能だ。
「正常に作動しているようだな」
「はい、これすごいです!ヴァイスさんたちを直感的に見えるだけでなく、周囲の地形まで分かってしまうんですよ!」
「でしょ、人間の助手が居れば使わない手がないのよ」
「あっ……」
「どうしたの?助手ちゃん」
ボットの身長が低すぎるのもあって、ヴァイスの元に移動して上を覗くと……
「スケベだな」クロガネが突っ込んだ。
「違います!事故ですよ!」
「いくら助手ちゃんでもダメなことはダメだからね?」
ヴァイスはスカートを押さえて睨んできた。
「以後気を付けます……」
…………
「ヴァイスさん、なんか複数のエネルギーを探知しました」
「何々?もうターゲットに出会ったの?」
「いいえ、普通の生命体ではないらしいです……」
マップに表示されたのは、黒いモヤモヤだった。そう、まるで怨念そのもの。
「ギシャァァァァーー!」
恐ろしい叫び声と共に、灰色の怪物たちが突然姿を現した。
「なんだこれは?」
クロガネが突然のことに戸惑う。
「このゲームに元々あったエネミーキャラだね、確か灰なんとかとか。ま、名称なんてどうでもいいけどね」
「そんなことを言ってる場合じゃないですよ、襲ってきます!」
「分かっている。人間でも怪物でも、この死神には消せないコンテンツはないからね!」
ヴァイスは鎌を振り回すと、怪物は両断され、煙となって消えた。
「こっちのは任せろ」
クロガネも大剣で敵を一掃してくれた。
「なーんだ、『怨念清掃』の雑魚たちと大して変わんないじゃん」
「さっさとターゲットを探しに行くぞ」
「そうね、ローズたちに先手を取らせては困るわ」
このゲームの世界観は、世界が灰に包まれ、灰の怪物が地球の生命を絶滅に追い込んでいた。なのに二人は軽々に退治できた、やはり死神は作品の中でも人間とは別格だった。
「助手ちゃん、ターゲットの探査をよろしく」
「はい、頑張ります」
私は、ターゲットのシンボルを確定し、そこへの最適ルートを模索し始めた。
…………
久しぶりに最新話を書きました。最初の鬱憤晴らしから心機一転し、この「コンテンツ・リーパー」を彩る設定を盛り込んでみました。
さすがにずっと観ているだけではイキリ助手太郎になってしまうのでボット操縦士の役割を与えました、これで助手ちゃんの今後の活躍も見込めますね!




