第5話 リーパーズ・ワールド再び
登場人物
【ヴァイス】大鎌を持つ死神、外見は銀髪の少女。自分が興味を持つコンテンツでしか仕事を受けない変わり者。
【クロガネ】大剣を背負う死神、外見は黒髪ロングの女性。ヴァイスのバディ、目つきも態度も悪く、男口調で喋る。
【助手】物語の視点。ヴァイスが選んだ人間界の助っ人、一番趣味がヴァイスに近いらしい。
【リリィ】死神の一人、外見は金髪ツインテールの女の子。ヴァイスをお姉様と慕い、助手の人間をライバル視している。
前回の案内の続きをする予定だったから、早めに就寝し、夢の中に死神たちの世界『リーパーズ・ワールド』へ向かうことにした。
「もう目を開けていいのですわ」
今回も無事に来られたが、いつもの二人の代わりに、目の前に居たのは金髪ツインテールの子だった。
「あれ、リリィちゃん?ヴァイスさんたちは?」
「お姉様たちなら今は出撃していますわ、リリィに迎えをさせて頂きました」
(来るの早すぎたかな?)
「先に言いますが、リリィはまだあなたを認めていません。お姉様に指一本触れたら、その首を撥ね飛ばしますわ」
「ひっ……」(なんだこの子こえーよ!)
「それと、今『ちゃん』付けて呼んでいましたわね?あなた、リリィのことを子供だと思っています?」
「中学生くらいにしか見えませんが……」
「これだから人間は……いいですか、リリィはあなたが生まれる前より、数百年も死神をやっていましたわ」
ロリババア……じゃなくて、死神はそもそも生きていないから年齢もないのか。
「すみませんでした、リリィさん」
「宜しいですわ。では早速、お姉様たちが居るコンテンツ・ストリートへ向かいましょう」
私はリリィの後ろについて行くことにした。
…………
コンテンツ・ストリートとは、死神世界から人間界のネットワークへ接続することのできる場所。と、リリィは説明してくれた。
実際に到着していると、色々な店舗があった、まるで現実世界にもあった商店街のようだ。
店を経営している者は皆、リリィやヴァイスたちのような戦闘員とは違い、サルベージを専門とする死神だ。
ネット上のデータを集めるのが仕事で、集めるために偶には人間にも偽装してたらしい。
そしてヴァイスたちが任務へ向かわれたのは、『怨念清掃』の看板を掲げていた所。
個人の店ではなく死神組合が経営した施設で、出入する死神が非常に多い、まさにスーパーだ。
「ここから行けるコンテンツは、特定の物に取り憑かない怨念が蔓延ています。そういった怨念は読者たちに不快を与えることはありませんが、放置すると人間界に溢れかねないので定期的に清掃が必要です」
リリィもよくここに通ったみたいで、サービスにはそこそこ詳しい。
「戦闘の腕を磨くついでに、『結晶』稼ぎもできますわ。でも入場料は支払われますので、最初の内は赤字になりやすいですわね」
「ビジネス感がつよい訓練施設ですね……」
人間の怨念を消滅させることで生成した『思いの結晶』は、死神の存在を維持することや、武装の強化に使えるのはもちろん。余分を買い取らせればこの世界の通貨『G』も貰える。
「お姉様たちを呼んできますので、ここで待っていてくだいね」
そう言うとリリィは人混みの中へ消え、私は近くのベンチに座って待つことにした。
…………
人間が珍しいなのか、往来する死神からは異様な眼光で見られていて気まずくなった。
「あら、人間の庶民ではないこと」
俯いていたら、誰かに声をかけられ、顔を上げるとそこには一人の女性が居た。
ウェーブの赤い髪に、ヨーロッパの貴族らしい服装で、私を見下している。
「お嬢様、あまり人間に近づけてはいけません。何をされるかわかりませんので」
声の主は隣の傘を持つもう一人。青髪のショートカットに執事らしい服装で、中性的な格好をしている。
しかし死神の世界に雨なんか降るわけもないのに、何故傘を……?
「クロエ、この方には何か困りごとがあるように見えるわ」
「それならボクが話を聞いてきます」
クロエと呼ばれた者はこちらへ近づいてきたら、私が慌てて説明する。
「違いますっ、待ち合わせしているだけです!」
「だそうですよ、お嬢様」
「なんだ、てっきり迷い込んだとか。ではご機嫌よう、人間の方」
クロエは人混みをかき分けながら、隣の女性を導いて施設の奥へと移動した。
「ローズさまだわ、今日もお美しいわね」
「クロエさまのエスコートはいつも素敵だわ」
二人が通ったあと、黄色い悲鳴が聞こえた。
…………
暫くして、リリィはヴァイスとクロガネを率いて戻ってきた。
「居ましたわ」
「なんかうるさいわね、ここどうした?」
ヴァイスは会って間もなく私に現場の説明を求む。
「ローズさんとクロエさんだったんですよね、さっきここから通った後からこうなんですよ」
「アイツらか、どおりで女どもがうるさいな」
と、クロガネが話しに割り込んだ。
「あの人たち、スターか何かですか?」
「まあ、有名人ではあるかな。私とクロガネのような死神のバディで、任務中も偶にぱったりと会うわね」
「任務中……?同じ任務を複数のバディが受け取ったんですか?」
「いや、違う任務でもコンテンツが一緒の時には逢う」
クロガネの説明にまったく理解できず、頭の上に「?」が浮かんだ。
「例えば、同じ作品に『Aを消せ』と『Bを消せ』の両方の任務があるとして、別々の任務を受けたチーム同士でも出会うことはできるよ」
ヴァイスは分かりやすい例えで補足してくれた。
「そういうことですか」
「それに、Aの任務を完成させると読者たちの怨念は消滅し、Bの任務が無効となる。逆も然りね」
ヴァイスは続けて補足する。
「あれ?それならお互いの仕事が対立になっていませんか?」
「当然だな、出会う度に戦っていたぞ」
同士討ちになるっていうのに、クロガネは楽しげに話している、これだとただの狂戦士じゃないか。
「そんなことより、今日は助手ちゃんに、このコンテンツ・ストリートを体験させたくて来てもらったの」
「えっ?私、死神の仕事なんてムリですよ?!」
「別に仕事するためだけの場所じゃないよ。例えば人間たちの動画を観たり、ゲームを遊んだりすることもできるわ」
そう言えば、ヴァイスはスマホゲームもやっているよね。どうやってしているのか疑問だったけど、こういう事か。
「なんと!有料コンテンツまで利用し放題なんだよ」
「それ違法なんじゃないですか?!」
「ハハハッ、お前は真面目だな。死神の世界に、人間の法が通用するわけないだろ」
珍しくクロガネが失笑している、そしてリリィは「おかしな人間ですわね」と相槌を打つ。
「それで、助手ちゃんはどんなコンテンツを体験したい?」
「急に言われたら……オススメとかないですか?」
「リリィのオススメは今期アニメのアイドルキュアプリです」
女児アニメか、すまないがあんま興味ない。
「興味ないって顔に出てるわよ」とヴァイスが突っ込む。
「表情だけで返事するなんて失礼ですわね」
「お前らの趣味が同じなら、ヴァイスが決めればいいのだろ?ま、オレは付き合うつもりはないがな」
そう言うとクロガネは前回と同じく、早々と去っていった。
「もう、あんなのでバディでいいんですの?リリィならもっとお姉様と一緒に居たいのに」
「そんなことないよ、二人きりの時は結構付き合ってくれるし。今はまだ、リリィや助手ちゃんに慣れてないんじゃないかな」
「お姉様を独り占めしようとしていますわね、ヤキモチ焼いてますよきっと」
そうだったら、案外ツンデレなのかな。
…………
結局ヴァイスがお勧めした新作ゲームを体験しに行った。人気作でもあるから取り扱った店にそこそこ人が集まってる。
「あれ、これ発売は来週なんでしたっけ」
「あぁ、フラゲだよ。人気作にはよくあること」
「絶対法に触れてますよこれ!!」
ヴァイスに使用料を支払わせると、私たちは法的に怪しい先行プレイを始めた。
現実世界でのプレイとは違って、手ではなく頭で直接操作を行っている感覚だった。
さすがに発売前に公式サーバーに繋ぐことはできないが、ローカル通信で3人で一緒に遊ぶことになった。
ヴァイスとリリィのアバターがお互いの外見と逆になってるのが面白くて思わず笑った。
「そんなに笑うことないでしょ?そもそも助手ちゃんも私のと大差ないじゃん」
私もヴァイスも、背がやや低くて明るい赤色の髪をした女の子にした。趣味が同じなのは、アバターにも現れていた。
そしてリリィのアバターはそれはもう、銀髪赤目で、ヴァイスの格好そのままだった。
「どうですか?お姉様そっくりでしょ。これでいつでもお姉様と冒険している気分ですわ」
アバターの完成度からリリィの執念を感じる。
…………
「助手ちゃん、そろそろ引き上げにしない?」
小一時間の協力プレイ後、ヴァイスに話しかけられた。
「もうですの?まだまだお姉様と遊び足りていませんわ」
「私に話聞いているんですけど……」
「ほら、人間は私たち死神と違って、睡眠をとる必要があるから」
「あぁー、そうですわね」
そうだった、夢中になって今は睡眠時間を削ってこっちの世界に来たことを忘れる所だった。
「そうですね、今日はこれで終わりにしましょう。結構楽しかったのでまた来ますね」
「また来るっていうか、来なくても引っ張って来るからね」
「あはは……」
どうやら死神の助手は静かな眠りを許されないようだ。
でもいい面に考えると、普段有料なコンテンツを(ヴァイスの私財で)体験できるからメリットでもあるかな?そう思うと助っ人になったのも案外悪くない。
「じゃあ私、クロガネと合流しに行くわね。リリィは助手ちゃんを送ってあげて」
「わかりましたわ」
私たち3人はその場を後にした。
…………
死神から離れれば現実世界へ戻る仕組みになってるけど、せっかくなんだしリリィと少し話をしてみようか。
「リリィさんは、どうしてバディを組まないのですか?」
「そんなの、お姉様以外と組むつもりはないので当たり前ですわ」
「でもヴァイスさんはクロガネさんと組んでますし、リリィさんも別のお相手を探した方が……」
「リリィはね、以前にバディを募集したことがありますの」
「そうなんですか、ならどうして……」
「でも応募した者はみんな男かおばさんですの。リリィは女の子がいいのに」
確かにリリィはそういった層に人気高そう。
「もしあなたが死神だったら考えあげてもいいのですけど……」
「えっ?」
「なんでもないですわ、この辺でお別れにしましょう」
「う、うん。またね、リリィさん」
「はい、ご機嫌よう」
リリィは気まずそうに挨拶した。
…………
私が死神だったら……か。死んだ後にヴァイスたちと一緒に活動できたら楽しいのかもね。あっでも私なんかでまず死神として選べらることもないだろう。
そんなことを考えていると、視界がぼやけて、現実世界での睡眠状態に戻った。




