第3話 ようこそリーパーズ・ワールド
登場人物
【ヴァイス】大鎌を持つ死神、外見は銀髪の少女。自分が興味を持つコンテンツでしか仕事を受けない変わり者。
【クロガネ】大剣を背負う死神、外見は黒髪ロングの女性。ヴァイスのバディ、目つきも態度も悪く、男口調で喋る。
【助手】物語の視点。ヴァイスが選んだ人間界の助っ人、一番趣味がヴァイスに近いらしい。
あれから1日が過ぎ、『ヘルバーンズ』はまるで最初から爆弾が存在せず、ユーザー全員が最新シナリオで盛り上がっていた。
冗談で脳破壊のことを悪夢で見たとか言ってみたけど、やはり誰も覚えていないらしい。ヴァイスからの連絡もないし、自分でも本当にただの夢かと思った。
「今日こそ新作ゲームの続きをしようっと」
早寝のおかげで今日は元気一杯だ、夜2時まで遊び続けられそう(続くとは言っていない)。
…………
時計が12時を回った。
「ふぁ~、そろそろ寝ようか」
夜更かしは肌の大敵とも言うしね。
「やっほー」
突然大きな鎌を持つ黒いマントがモニターの画面に現れる。
「で、出たーー!」
「なんだよそのお化けでも見た反応は」
ヴァイスは不満そうに言う。
「だって、いきなり出ちゃったんですから!」
結局昨日のことは夢ではなかったなぁ……
「また死神の仕事ですか?まだ一日しか経ってませんよ」
「いえいえ、今日はアンタをこっちの世界に招待すると思って」
「どういうこと?とうとう私の命を……?!」
「別に死ぬ必要がないからよ……そのままベットで寝れば、私の手引きで夢の世界としてこっちに来られる」
「睡眠学習の上位互換じゃないですか!」
「精神の集合体みたいなもんだから、来るのは結構簡単だよ。でもまぁ、睡眠の質は落とすんだけど」
「落とすかい!」
そのあとヴァイスに言われたまま、ベットで横になった。
「…………」
「気になり過ぎて逆に眠れない……」
既に睡眠の質を自ら落としていた自分。
…………
「……も…目…開け…いいよ」
朦朧として誰かの声を聞こえた。
「おい、起きろ」
次の瞬間、頬っぺたに強烈な衝撃を覚えた。
「パン!」
「いたっ!」
痛みで目を覚めてしまった。
「ちょっと、『私たちの』助手ちゃんにもっと優しくしてー」
「『お前の』、な。オレはまだ認めてないぞ」
目の前に居たのはヴァイスとそのバディの……たしかクロガネと言った女性。
「ようこそリーパーズ・ワールドへ!ここが私たち死神が生活する世界だよ」
回りを観察してみると、街中がほとんど真っ暗で、地面と建物だけが明るい線で繋いでいる。VRゲームでサイバー世界に入っている感じだ。
行き来する人……多分みんな死神なんだけど、ほとんどが黒いマントを着用してて、それ以外の者も服装は黒い物にしている。背景と合わさって視認性が悪い。
「す、すごいところですね」
「私たちにとっては見慣れた光景なんだけどね、生活するのに最低限の機能しか保てないというか」
「ここよりつまらん世界はないだろうな」
クロガネが昨日と同じ態度で冷たく話した。
「いえ、結構新鮮ですよ。あの……どうして私をここに招待したんですか?」
「助手になるから、もっと死神のことを知ってもらいたくて」
「コイツが人間の体に興味があるからだ」
「からだ……?!」そう聞くとすぐさま身を引いてしまう。
「もぉー!勝手に変なこと吹き込まむなよ、助手ちゃんもそんなに引かないで」
「で、どうするんだ?オレはまだ訓練の予定があるぞ」
「せっかく生身の人間と会えたのに、全く興味が湧かないわね、クロガネは」
「ふんっ、弱い人間には用がない」
この凸凹コンビに慣れてきたからか、ちょっと面白いと感じる。
ヴァイスが先頭に道案内をし、私とクロガネは後ろについている。
「これからリーパーズ・ワールドの重要施設を見て回ろう、まずはいつもお世話になった死神組合ね」
「仕事を受ける場所……ですかね?」
「正解、仕事だけではなく、死神関連のことは何でも管理してくれるよ」
…………
話しているうちに、もう施設の入り口についていた。何だかこの世界では普段より歩くのが早くなっていた気がする。
「他の建物より明らかに作り込まれていますね」
「ここ死神組合は、リーパーズ・ワールドの顔でもあるんだからね」
「一番見飽きた所だ」
「入ってどうぞ」
水を差すクロガネをよそに、ヴァイスは私を中へと案内してくれる。
内部は様々なエリアがあり、真っ正面のカウンターや椅子がいっぱいある休憩所、そこそこの人が立ち読みしている掲示板。でもトイレは見当たらない、そもそも死神ってトイレしないのかな。
「あら、人間を連れてくるなんて珍しいわね。やっと助手を作ったの?」
カウンターに立っているお姉さんが親しげにヴァイスに話しかけた。
「仕事効率を上げるためだものね」
「自分のやっているゲームが炎上したら、急いで解決したいだけだぞ」
「バディに恥をかかせないでよアンタ!」
「相変わらず漫才が上手いね、君たち。でも昨日の仕事は確かによく出来ているわ」
二人の会話に微笑むお姉さん。
「挨拶はこれくらいにして、他に気になるとこはある?」
「あの掲示板のところですね」
「あぁー、あれは私たち死神が任務を確認する場所だ。どれかを決めたらこのカウンターで受付ができる」
「あのヘルなんとかの任務もここで受け取ったんだな、次はもっと面白いヤツにしろよ」
クロガネはまだ昨日のつまらない戦闘を気にしている模様。
「実はまだいくつか厄介な任務に目をつけていたんだけど、助手ちゃんが暇があったらいつでも私に言ってね」
「現実に戻ったら、どうやって話しを伝えますか?」
「寝る度にここへ引っ張ってやるぞ」
「毎回ですか……」
クロガネさん、やっぱりこわい人だ。
「もう次の場所へ行っていいか?ここに居てもつまらんだけだ」
「アンタの案内をしていないのに……まぁ長居すると助手ちゃんが明日疲れるから」
「そういえば今寝るはずの時間だったんですね、明日も平日ですよ」
「次はコンテンツ・ストリートに行こうか、この世界から人間たちの創作に接触できる唯一の場所だよ」
三人が話しながら目的地へ向かった。
…………
途中に、突然現れた女の子が不機嫌そうにこちらに話しかけてきた。
「お姉様、あの者は誰ですか?」
金髪ツインテールで、ヴァイスよりは少し幼い格好。
「リリィ。この子は私と……クロガネの助手だよ」
「助手ですって?バディはクロガネさんに譲りますが、助手くらいリリィで宜しいのでは?そんなにリリィがお嫌いですか?!」
どうやらシスコンのようだ、しかも矛先は私に向けている。事情が分からないから自分から弁明する言葉もない。
「落ち着いて!リリィが嫌いじゃなくて人間の助っ人が必要になったからよ」
「本当ですか?」
「はぁ、めんどくせーな」
不機嫌なリリィに、クロガネが嘆く。
「あの子、ヴァイスさんの妹ですか?」
「いや、ただの知人だ」
「ああ……そういうタイプの子ですね」
女子校作品ではよく見るヤツだ。
「ヴァイスがバディを決める時も、オレに結構迷惑をかけたな。なんでそんなにヴァイスが好きなのか全くわからん」
「そういう子は大体、一目惚れなんでしょうね」
一応個人の偏見だと補足する。
「そうだな、アイツの外見だけを見れば」
「ごめんね、助手ちゃん。ちょっと用事ができて、続きはまた今度の機会にしようか」
「あ、はい。大丈夫です」
あっちの話も纏まったみたい。リリィを慰めるために用事ができたのかな。
「オレも訓練に行くから、これで解散な。オレたちから離れれば、お前はすぐ元の世界に戻れるぞ」
こういう仕組みだったんだね。
三人と別れた途端、私はまた眠りに落ちた。