表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

第2話 死神の共犯者 後編

少しして、ゲームデータのダウンロードが完了した。

「もう終わったみたいね、それでは目的のコンテンツに侵入しようか」

そう言うと、モニターがスマホの画面と同期した。ケーブルで繋いでもいないのに、さすがは異世界の力というべきか。

「さぁ、ターゲットが最初に出現するストーリーにまで移動して」

ヴァイスの指示に従って、ストーリー回想に入り、食材男が出現するシーンまで来た。


「よーし、私たちの出番ね」

「行くぞ」

掛け声と共に、二人はゲームの世界に入ったように、登場人物として舞台であった島に現れた。

異星の生命体に侵略された地球で、生存者は皆避難所にいる中、何故か数人組がサバイバルする不自然な設定だった。彼らは狩りをして食料を調達している、今回のターゲットもこの中の一人だ。


「シャアーーッ!」

なんと、異星からの侵略者たちがヴァイスたちの前に立ち塞がる。真っ黒な巨体を持つその怪物に、人間だとまず恐怖を感じるが、ヴァイスたちは顔色一つ変わらずにいた。

「このコゲームの敵キャラだね」

「本命と戦う前の手馴しと行こうか」

二人は武器を構えた。


「あの、特殊の武器じゃないと傷つけられない相手なんで……」

私が言い終える前に、光の速さで黒い怪物たちが倒されてしまった。どうやらゲーム設定など死神には関係ない話のようだ。

「あ、あはは……すごいですね、二人さん……」

「ちっ、つまらん相手だ。もう少し耐えてくれないか」

「クロガネ、今日はモンスター退治しに来たんじゃないから」

「分かっている、次行くぞ」

死神はまたターゲットを探しに出発した。


そして、あるテントの周りにいるターゲットとその仲間たちが見えた。

「さーて、そいつ誘い出してコロそうか」

「めんどくせーな、全員まとめてぶちコロすでは駄目か?」

「シナリオへの影響が大きすぎるから禁止」

二人の会話は殺し屋のやり取りにしか聞こえない件。実際そうだけど。


「助手じゃん、出番だよ。イノシシの鳴き声を再生してくれないかな?」

「再生ですか?ちょっと待っててください」

ネットからイノシシの動画を探し、声を再生した。すると、テント周りの人間は獲物が現れたと錯覚したようで、動き始めた。

「よし、大成功。後はチャンスを見て突撃だけね」


…………


ターゲットである食材男の後を追い、一人になる所で、ヴァイスが鎌を、クロガネが大剣を構えて対峙した。

「なんだ貴様ら!」

「アンタはこの作品では邪魔だ、消えて貰おう」

ヴァイスはさっきまでと態度が変わり、冷たい口調で言う。

「何をバカなことを!」


ただの狩人なんて絶対死神の相手にもならないだろと思ったが、何故か黒いモヤがその者の体に纏った。

「そうこなくてはな」クロガネがニヤリと笑う。

「何ですかあれ、原作にはこんな設定なかったんですよ?!」

「あれは読者、つまりこのシナリオを見たプレイヤーたちの怨念だ。怨念が強いほど、対象の人物も私たち死神には強く出られる」


「私にも何か手伝えることが……」

「スティックを動かして、アイツを画面外に逃がせないようにすればいいんじゃない?」

「分かりました、やってみます」

カメラ操作ができないゲームだったけど、何故か今はできるようになっている。


いよいよ戦闘が始まった。ヴァイスが奇襲をかけて鎌を投げ飛ばした、が、黒い煙に弾き返され、彼女の手に戻した。

「なるほど、そこそこ硬い怨念バリアだね」


男は銃を構え、ヴァイスへ射撃。危ない!って私が言いかけたけど、パチンッ!とクロガネの大剣が弾丸を止めた。

「早い!こいつら人間じゃない!」

気付くのが遅かったけどね。


今度はクロガネが前へ出て、一瞬で距離を詰めた後、大剣を振り下ろした。それが怨念バリアをも両断し、男は「うわぁーー!」の断末魔と共に塵と化した。

そしてよく見えなかったが、何か黒い塊が地面に落ち、それをヴァイスが拾い上げてマントに隠れたポケットに入れた。


…………


「なんだ、弱っちいな」

「おっかしいわね、こんな弱いはずが……」

「まぁ、無事に倒せればいいんじゃないですか?」

勝利を祝おうとした時、また一人、白い髪の少女が画面内に現れた。その子は私にもよく知っている、ライターが勝手に恋愛関係を持たされた子だ。


「あ、あぁ……!どうして……!」

どうやら彼女は戦いの現場を見て、悲しさと怒りで叫んだ。そして怨念のエフェクトまで纏い始めた。


「なるほど、残りの怨念はコイツにあるようだ。どうする?」

「ダメです!あの子には罪がありません、消さないでください!」

そう、ユーザーのヘイトは殆ど食材男とライターへ向いていて、この子は半分被害者だと思われている。

元々責任感が強く、チームメンバーや相方をよく思う子だったのに、記憶喪失を言い訳に数日の間に恋愛感情を仕込まれた。


「わかってるよ、ターゲットじゃないことくらい」

だがその間に少女は攻撃してこず、エフェクトも徐々に消え去った。

「あれ?私、何をやっているんだ」

なんと、少女は何こともなかったのように来た道へ折り返えた。


「ふん、結局戦えないのか」

「あの男を消したおかげで、記憶からなくなったみたいね」

「記憶から……なくなる?」

「そ、私たちが消した物は、作中に限らず作者や読者の記憶からも消えるの。もちろん死神や共犯者であるアンタの記憶からは消えないけどね」

「共犯者って呼び方、やめて貰えませんか?」

記憶にすら残らないのか……まさに存在そのものが消えたよね、嬉しい気持ちと共に悲しさも感じた。作中の登場人物とは言え、人を殺める助けをしたことには変わらない。


任務が終わったせいか、同期が切れ、モニターは真っ暗な背景に戻った。

「つまらんかったぞ、ヴァイス」

「まぁ……助手ちゃんのチュートリアルとしては丁度よかったじゃない?」

不満そうなクロガネに、ヴァイスが苦笑いながら言う。


「ほとんど見ているだけなんですけどね」

「コンテンツの本体を見つけてくれれば、あとは私たちの仕事だから。楽でいいでしょ?」

こんな変わった協力を断った方が楽なんだけどね。


「お前ら、まだ事後の確認が終わってないぞ」

「そうだった、『ヘルバーンズ』のシナリオがどうなったのか一緒に観ようか」

それは私もすごく気になっている。

「オレは遠慮するぞ、あとで結果だけ教えろ」

「はいはい、私と助手ちゃんが確認するから、クロガネは先に帰っていいよ」

「じゃあな」と言いながら、クロガネが画面の右側から消えた。


「あの、ネットで情報を集めてきましたが、炎上の発言が全部消えましたよ」

「そっか、よかった。じゃあ私たちも始めよう」

「もう確認する必要がないじゃないですか?」

「確認なんて建前、本当は自分で観たいのよ」

「そうでしたか、私も観たいのでご一緒にしましょう」


そして私は、ヴァイスと二人でストーリー鑑賞を始めた。

「そういえばヴァイスさん、『ヘルバーンズ』をどのくらい知っていますか?」

「前はストーリー全部追ってたけど、最近はメインストーリーだけかな。ちなみにスコアタは皆勤だよ」

「私も同じです!」

流石は趣味が一番近い者同士と言ったところかな。


「だから今回の依頼が来た瞬間、私が秒で受け取ったわ。急いで解決しようとしたら、どうしても人間界の助っ人が必要なのよ」

「だから私を……ですね」

少し話したら、二人は静かにスマホを見つめていた。


…………


1時間後、ようやく最新ストーリーの再生が終わった。

「う、うぅ……久々に涙が出ました」

「今回もいいシナリオだったね~ま、私たちのおかげなんだけど」

爆弾を仕掛けたが大体シナリオライターのおかげだろ、と突っ込みたかったが、空気を読んで言うのやめた。

ラストシーンだけでなく、余計な恋愛関係が無くなり、代わりに記憶喪失だった少女が戦友との日々を思い出すシーンもとても感動した。


「進展に関わる人物が消えたせいで、ストーリーがごちゃごちゃになるかと思いましたよ」

「死神はそんな荒い仕事をしないのよ。と言っても、世界が自動的に改変を修復しただけなんだけどね」

「改変を修復……?どういう意味ですか」

「世界線が変更した、と言ったら分かる?これ以上の詳しい説明は私でも無理よ」

まるで理解不能な真理を覗いた気分。


「じゃあ今日はこれで、仕事終了かな。次もこの調子で頼むわよ」

「次もあるんですね……」

「当然でしょ、アンタはもう共犯者なんだから」

「うっ……こんなお手伝い、受けるんじゃなかったかも」

ヴァイスは笑って別れの挨拶をしたら、モニターが正常に戻った。

ゲームの続きをしたいけど、今日のことで頭いっぱいになっててそのところじゃなかったから、早めに就寝した。


明日起きたら、ただの夢にならないかな……

ネタはまだ2つ残りますが、気が向いたらまた続きを書きたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ