表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「歪な均等」

作者: *sho

歪な形だった。それでも、歪な形なりの均等が取れていれば、それでよかったはずだ。世界はそんなふうに動いていると信じていた。


彼女と僕は、美術館の一角に展示された彫刻を見つめていた。

金属でできたその塊は、あらゆる角度から見ても正しい形をしていない。それなのに、妙に落ち着き、均整が取れているように見える。人間の目というのは、どうしてこうも矛盾を楽しむのだろう。


「これ、面白いね」と彼女が言った。

「どっちの面から見てもバラバラだけど、不思議と綺麗に見える。」

彼女は僕を振り返る。大きな瞳の中には、金属の塊が映り込んでいた。


「まあ、角度次第で何だって意味は変わるよ。夕焼けの写真を朝焼けだって言い張れば、ほとんどの人はそう見えるんだから。」

僕はそう答えた。


「それって嘘じゃん」

彼女は笑いながらそう言った。でも、僕の目を見ていない。


「嘘でもいいんだ。大事なのは見せ方だよ。正しいかどうかなんてどうでもいい。見る側が信じたら、それが真実になるんだから。」

僕も笑って答える。でも、笑い声は少しだけ乾いていた。


彼女はその彫刻の横に回り込みながら、ふと立ち止まった。

「ねえ、これって、もともとどういう形だったんだろうね?」


僕はその言葉に答えられなかった。

壊れた何かの欠片なのか、それとも最初から完成された歪な形なのか。誰にもわからない。美術館の解説にも、その出自についての説明はなかった。


「もともとの形なんて、どうでもいいんじゃないかな。今、この形がこう見えるってことだけが重要なんだよ。」

僕の言葉に、彼女は小さく頷いた。でも、どこか腑に落ちていないような表情だった。


それから、僕たちは美術館を出て、夜の街を歩いた。

風が冷たく、彼女の髪が乱れる。そんな彼女を見ながら、僕は思った。僕らの関係も、たぶん同じだ。歪な形をしているけれど、それなりの均等を保っていたはずだった。でも、それはただの見せ方の問題で、実際にはとうに壊れ始めていたのかもしれない。


「写真撮ろうよ」と彼女が言った。

僕はスマホを取り出し、夕焼けの残り火が街灯に溶けていく景色をカメラに収めた。画面の中で、橙色の空が輝いている。


「ねえ、これ、朝焼けに見えるかな?」

彼女が冗談めかして言う。


「どうだろうね。でも、朝焼けだって言えば、たぶん誰かは信じるよ。」

僕はそう答えた。でもその声は、自分でも驚くほどに空虚だった。


彼女はその写真を覗き込みながら、小さく笑った。

でも、その笑顔がどこか遠く感じたのは、僕の心がすでにその角度から外れてしまったからだろうか。それとも、彼女自身がもう別の均衡を探し始めているからだろうか。


どちらにせよ、答えを知ることはない。

歪な形の彫刻のように、僕らもどこかで壊れたものを形作っていただけなのだから。


写真の中の空は、夕焼けだった。でもそれを朝焼けだと言い張る僕たちには、もはやその違いなどどうでもよかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ