・総力戦:オーリオーンの闇計画 - 時代の潮目 -
・生ける観測気球
アルバレアでの開戦より一晩が明けた昼。
我は天空より奇妙なる動きを目撃せし。
エーテル体に大地の大半を支配され、国々が散り散りに分断された世界に、大きな異変起こりたり。
各地の民は首を傾げ、アリのごときその目線から彼方を見やる。
我は異変の答え知れど、きゃつらは当惑するばかり。
大地に青き地上絵現れたり。
おびただしき軍勢、一路に決戦場アルバレア国へ旅立ちし。
全て参謀殿の計画通り。
我、威力偵察をもってその進軍妨害をしつつ、参謀殿の檄を待つ。
「うむ、きたか」
天空にてあぐらをかき、眼下を見下ろしていると虹色の折り鶴が現れた。
開くと中にはミルディンの筆跡がある。
「む……むぅ……母上め、我に向かぬ仕事を要求しおる……」
ミルディン母上は我に外交使節になれと要求している……。
この事態を各地の国々に通達し、アルバレアへの援軍の到達を妨害させよ、とある。
今こそ天下分け目の瞬間である。
迅速にこれを各国へ通達できるのは我、飛竜ファフナだけだ。
我は人間が嫌いだ。
我は人間への憎しみから生まれた存在だ。
だが我が欲しいと望む卵は、愛しきパルヴァスとの有精卵に他ならぬ。
我を産んだ母様は人間を憎んでいたが、我は、別に、特に何かをされたわけではない……。
いや、むしろ、我はパルヴァスにたくさんもらった……。
そう、パルヴァスならいつかは有精卵も我にくれるはずだ!
「是非もなし、というやつじゃな……。ふんっ、地にはいつくばるあの惨めなアリどもに、真実を伝えてやることにしよう。今こそ、天下分け目の好機であると!」
我はたまたま足下にあった都に、天空より降下した。
窮屈なオルヴァールにはない開放感に震えれば、城のバルコニーに降り立っていた。
「な、何者っ!! 敵襲っ、敵襲っっ!!」
「クククッ、止められるものなら止めてみせよ」
人間は水風船のように脆い。
それでいて潰すと面倒な生き物だ。
我はバルコニーから内部に飛行し、謁見の間を蹴り破った。
王冠を頭に乗せた男が何かを言ったが、我にはどうでもよい。
「王よ、情勢の変化に困惑しているようだな。特別に、この我が外の情勢を教えてやろう」
襲いかかってきた匹夫どもを尾撃一つで無力化した。
重鎧を着てくれていると扱いが楽で助かる。
「……というわけだ。我は別に人間の力など必要としていないが、そなたらにも勲を上げる権利があろう」
「人ならざる者よ。その話、まことであるか……?」
せっかく教えてやったのに、虫けらの王は慎重な言葉で我にそう尋ねた。
「ふんっ、疑うならばその目で確かめよ。一つ忠告してやるがな……急げよ?」
「なぜだ?」
「ハーッハッハッハッハッ!! 決まっておろうっ、出遅れれば後の時代に臆病者と評される状況だ!! 恥をかきたくなかったら、せいぜい急げっ、時代の潮目ぞ!!」
我の言葉に武人官どもが目の色を変えた。
世界のどこかで円環との総力戦が起きている。
やつらも戦士なら加わらずにはいられないはずだ。
「ククク……ちんたらしていると、我らザナームが世界を救ってしまうぞ」
これでよい。
我は交渉などせぬ。
後は人間どもの好きにすればよい。
我は次の王朝を目指して天空へと飛翔した。
ミルディンは鬼畜だが、天才だ。
後の時代に人でなしとそしられようとも、レイウーブのマナ鉱山を爆破したのは正しかった。
ミルディンの――困った母上の望む盤面を作り出すために、我は空を翔けた。
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・総力戦:オーリオーンの闇計画 - 死なないで -
欲深き円環との総力戦は激化の一途をたどった。
昼夜問わず絶え間なく攻め上ってくるエーテル体を、我らザナーム騎士団および、彼らアルバレア軍は撃退した。
不定期に届く手紙から予想するしかできんが、仲間たちが活躍する姿が我にはありありと見えた。
我が発破をかけてやった諸国もまた、それぞれの土地での追撃戦を始めた。
エーテル体は何がなんでもアルバレアを陥落させ、ザナーム騎士団を排除すると共に、マナ鉱石を確保したいようだ。
敵が足止めの軍勢を残しては、諸国に駆逐される姿を、我は天空から見下ろした。
苦戦しているところは、少し手伝ってやったしたかもしれんな。
「む、今度の折り鶴はでかいな……」
見下ろすばかりで退屈していた我の元に、またあの折り鶴が届いた。
我はそれを分解し、内側の手紙に目を通した。
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パンタグリュエルが新しい未来を見ました。
新しい予知には私たちの勝利と、新たなる秩序の誕生が映し出されていました。
これまでの予知の中で、最もマシな未来と言えるでしょう。
しかし私たちはまだ勝ち取っていません。
オーリオーンの闇計画を成就させなければなりません。
ザナームの参謀ミルディンとして命じます。
竜族の呪詛より生まれし復讐の刃よ、愚かな彼らの本懐を果たしなさい。
今こそ邪なる邪神の瞳を穿ち、オーリオーンの闇をもたらすのです。
行きなさい。そして必ず生きて帰ってきなさい。貴女が死んでしまったら私、泣いてしまいます。涙で一生立ち直れなくなってしまいます。
私は紙の寄代。承認なく子供を残すことなど許されない存在。
私にとって貴女は我が子同然です。
ファフナ、貴女が失敗しても構いません。
どんなことよりも、生きて帰ってくることを優先しなさい。
円環の瞳なんて穿たなくていいから、死なないで。お願い。
――ミルディン
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「ふ……ふぇ……、ふぇぇ……っ」
な、なんじゃ、この士気の下がる手紙は……。
かつて死ねと言った口で、今度は作戦を放棄してでも生きろと言うか!!
我は手紙を焼き払った。
これから我は死地におもむくのだ。
欲深き円環の中枢に乗り込み、やつらの瞳を穿つのだ。
「なんじゃ……なんじゃぁこの手紙はーっっ!! ふじゃけおってっ、しゃいごのっ、しゃいごのしゃいごでっっ、こんな器の小さいわがままを言うなバカ者ーっっ!!」
我は創られし命。
我は竜族の呪詛そのもの。
こんな命令、母様がお望みになられるはずがない。
ヘタレおって……。
最後の最後に、ヘタレおって……。
我だって母上を悲しませたくないわ……。
生きて帰って、我はパルヴァスの有精卵を抱くのだ……。
そう……パルヴァス、パルヴァスだ……。
「まあよい……我には、コルヌコピアの加護がある……。パルヴァス……そう、我がここで死ねば、パルヴァスはミルディンに、独占され……ぬ、ぬぅぅぅぅんっっ?!!」
そもそも、おかしいではないか……。
母親を名乗るなら、娘が狙っている男にちょっかいをかけるとか、おかしいではないか!!
何を考えておるミルディンッ!
ぬぁぁぁっ、思い出したら無性にイライラしてきたぞっっ!!
我が死んだら、ミルディンとパルヴァスが傷を舐め合うことになるではないか!!
死んだら出汁にされるとか、我は水槽のカニかっ!?
「母上に独り占めはさせんっっ!! 死んでたまるものかぁぁーっっ!!!」
我はパンタグリュエルの予言により知り得ることになった天空のまた天空の座標、遙か空の彼方を見上げた。
円環よ、そなたは我とパルヴァスのハートフル子沢山物語の前座に過ぎん。
竜族の復讐!? 世界の救済!? そんなものこの我の知ったことかっ!!
「消えよ、欲深き円環!! 我とパルヴァスがさらにイチャイチャせんがためにっっ!!」
我は総力戦の中心ならざる真の決戦場。
円環の瞳を目指して天空のまた天空へと昇った。
感謝するぞ、ミルディン!
我は竜族の妄執から今解き放たれ、欲望の徒となったのだ!




