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プロローグ キスするだけでレベル上限解放? 素晴らしい! 国中の武人をここに招こう!
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・泥鱗の芋将軍 - ロバにもなれる芋将軍 -

「はーー、楽しかったー♪ これ毎日やりたーい♪」

「うぅ……っ。この格好、何……?」


 ガサガサとする通気性のいい服を着せられた。

 これってもしかして、農家の人たちの服なんじゃ……?


「麻の作業着も似合うじゃん♪」

「作業着……? え、デートに、なんで……?」


「おーー……なんかビビっとくるぅー♪ 綺麗な男の子が粗末な格好していると、こう……なんかーっ、庇護欲と支配欲が混じり合ってっ、フツフツとっ!」


 その作業着は清潔ではあるけど貧相だった。

 染色もされていない麻の生地そのままの色合いがストイックだった。


「勘弁してよ……」


 貧しい見た目はおいといて涼しくていい。

 暖かい日中を歩くなら、この麻の服の方がずっと快適そうだった。


「お館様、カチューシャ将軍がおいで――なっ?! なんて格好をさせているのですかっ、ラケシスッッ?!」

「何ってー、姉さんは服汚したりー、ジメジメの汗疹(あせも)だらけになったパルヴァスを見たいのー?」


「わ、わたくしはデートと聞き及びましたが……」

「あってるあってるー♪ 後で説明するからー、とにかくお見送りしよー」


「は、はぁ……?」


 戸惑う長女モイラさんを後ろに連れて一階に下りた。

 カチューシャさんは昨日と同じ席で、朝はビールではなく牛乳を飲んでいた。


 ……大ジョッキで。


 服装は下を着ているのかちょっとわからないオーバーオール。

 かなり大胆だけど、デートにマント一丁でこられるよりもずっとよかった。


「おーっ、なかなか精悍っすねぇ!」

「え、本当……?」


「健康的で実にいいっす! 農家の男の子みたいっす!」

「ありがとう、なんだか嬉しいよ」


 カチューシャさんは残りの牛乳を一気飲みした。

 それからすぐに席を立ち、俺の背中を押して宿の軒先へと連れ出した。


「さ、アレに乗るっす」

「アレって……あのリアカーに……?」


 荷物でいっぱいのリアカーが宿の軒先に置かれていた。

 乗れと言われても、座れるような場所がどこにもない。

 クワに草刈り鎌、何かが詰まった布袋が荷台いっぱいにひしめいていた。


「あの、質問いいかな……?」

「なんすかー?」


「カチューシャさんがあれを引くの……? 俺を乗せて……?」

「さすがの自分も王子様をロバにする勇気はないっすよー。さ、乗った乗ったっす!」


 何かが詰まった布袋をイスにして座った。

 カチューシャさんはリアカーのハンドルを握ると、楽しそうに通りを駆け出した。


 重そうにはとても見えない軽々とした足取りだった。


「それで、今日はどこに行くの?」

「このずーっと向こうっす」


「まだ秘密なの?」

「パルヴァスならきっと気に入るっす。そっちの好みはばっちりリサーチ済みっすから!」


 カチューシャさんは息切れ知らずの快速で昼前の住宅街を駆けて、パンタグリュエルの住処に続く長い道を駆けていった。



 ・



 それから10分後。

 快速のリアカーはパンタグリュエルの住処を横切った。

 デートなのになんで巨人の住処に行くのか不思議だったけど、目的地はそこではなかった。


「ねぇ、まだ行くの……?」

「まだっす。だいたい半分といったところっす」


「でもこのまま行くと――」

「あっ、見るっす! パンタグリュエルが手を振ってるっす!」


「あっ、本当だ……!」


 巨人は昨日と同じテーブルにいた。

 相変わらず遠近感がおかしくなるほどの異常な巨大さだった。


「おーいっっ、自分らちょっとデートいってくるっすー!!」

「きっと聞こえないんじゃないかな」


 何せ肩に乗らないと会話ができないくらいだし。


「あ、そうっすね。けどこっちに気付いたってことは、信じられない視力してるっすよ、あの人」

「それは確かに。……おーいっ!!」


 リアカーの荷台から立ち上がって大きく両手を振った。

 するとそびえ立つ巨人パンタグリュエルが片手を上げて、ゆっくりとこちらに手を振ってくれた。


「いいやつっす」

「でもパンタグリュエルって、普段何を食べているんだろう」


「巨人はご飯とか食べないそうっす」

「え……っ?」


「霧とか光とか魔力吸って生きてるって、ミルディン殿が言ってたっすよ」


 そんなデタラメな……。


「……それが本当なら、まるで神話の世界の生き物みたいだね。……予知能力まであるし」


「確かにっす。案外神様だったりするっすかね、アレ」

「ははは、配下に蹴られてばかりの神様なんて、聞いたこともないよ」


 パンタグリュエルの住処を横切って、さらにその先にある未知の土地へと俺たちは踏み入った。

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