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猫の置物

作者: 二天

今、僕はどこにいるのか全くわからない。

ただわかるのは、周りは墨で染められたみたいに真っ暗で、その中に僕と、なぜか見えている猫の置物が僕の正面に座っているだけ…

猫の置物には驚いた。まるで本物の猫と変わりがない。目も生き生きとパッチリ開いていて、鼻もぴくぴくと動かしながら空気を吸い吐きしそうである。しかし本物の猫とは言えない。大きさがおかしいのである。座っている姿の猫の置物は170cmある僕の身長と高さが同じなのだ。





・・・置物はどうでもいい。そんなことよりなぜ僕はこんなところにいるのか?


「死んだか?じゃあここは天国か地獄だな」


死んだ。僕は何も考えずに真っ先にそう思った。

まるで感情のない機械のようだ。僕は軽い気持ちで死んだと仮定をした。


別に死んだと仮定した時点で何も起らない。周りは真っ暗で、僕と置物しかないのだから・・・

僕はそのままあぐらをかき、退屈そうに猫の置物を見た。


「どうしてあるんだ・・・」


何気なく猫に聞いた。当然だが、返事はない。

猫は所詮置物なのである。返事などするわけが無い。僕はどうして今置物に話しかけたのか自分自身不思議に思った。

それからは猫の置物も僕も動くことなく、ただ見つめ合うだけで氷のような沈黙が続いた。





どうしてだろう・・・

なぜか猫の置物はどこか生き生きとしている。

それに比べ僕は・・・


いつからか僕はそんなことを思うようになり、どこかに孤独を感じるようになっていた。


生き物ってなんだろう・・・

置物は生き物じゃないのか?

僕は今まで生きていたんだろうか・・・


幼稚園児みたいなこと、今まで考えたことすらないのに、なぜかこの時僕は思った。

そしてそんな考えは次第に大きくなっていき、もはや抑えきれない感情をも生んでいく。


「家に帰りたい・・・もっといろんなことがしたい・・・もっと沢山話がしたい・・・」


今までにないくらいの鼓動が、心臓から聞こえる。

僕は猫の置物を見つめながら、必死で猫の置物に気持ちを伝えようとするが、当然猫はそれに答えるはずがない。

いつしか僕はあぐらではなく、正座をしていた。


「まだ死にたくない!まだやりたいこと何も出来ていないじゃないか!冗談じゃない」


怒り、恐怖、悲しみ、全ての感情が直接猫の置物にぶつかっているはずである。

しかし、それでも猫の置物はなんでもないかのように同情するでもなし、やめてくれとも言わず、動きの1つすら見せることなくただ僕を無視し続ける。


「あの世なんて嫌だ!絶対嫌だ!ふざけんな」


こんなに感情がむき出たこと、こんなに叫んだこと、こんなに震えたことなんて今まで無かった。

僕はとにかく叫んだ。

涙だって止まること、勢いの限度も知らずに流れている。

顔では涙がすごい勢いで流れ続け、心では感情がすごい勢いで流れ続けている。

このときの僕にはもう、無言でいられる力など無く、思ったことをそのまま口から出すしか出来なかった。




今までの僕と今の僕とでは全てが逆転している。

命の大切さ、そんなことは今までに何度人に聞かされてきたか。

それでも今までは「死んだらそれまで」

だけど今では「生きたい」

足掻いても足りず、叫んでも足りず、泣いても足りず・・・

とにかく「死にたくない」どんなことをしてでも「生きたい」


このとき僕は初めて「生きること」の大切さを知ったのかもしれない。




気がつけば僕は慣れた臭いのする布団の中にいた。

僕はそうとう泣いていたらしく、布団はびしょ濡れ。かなり気持ち悪かった。


どうやら夢だったらしい。僕は濡れている顔を手で拭き、布団から出て窓の外を見た。

空は青く、そこを雲が自由に散歩し、その下では木々が世間話をしている。


「きもちいいな」


そういって僕は頭を思いっきり掻いた。


《おわり》

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