エピローグ
ひと足先にアパートに帰ったロヴィは狼の姿に戻り、ソファにゆったりと腰掛けて、帰りに寄り道して買ったシュークリームに舌鼓を打っていた。少し遠回りだったが、やっぱりここのシュークリームは絶品だ。
4つ買ったうちの3つをあっという間に平らげ、少し迷ってから最後の1つに手を伸ばしかけた時、部屋の玄関が乱暴に開かれた。咄嗟に手を引っ込めて玄関の方を振り返る。
「おっ、随分遅かったじゃねーか、てっきりとっ捕まったのかと……なんでそんなにずぶ濡れなんだ?」
玄関先に立っていたフレミアはにわか雨に降られたかのように全身水浸しで、横顔にぺったり貼り付いた毛先から滴をポタポタ滴らせながら身体を小刻みに震わせていた。
「なんでって、こっちが聞きたいわよ!作り物とはいえ、普通人の生首を川に捨てる!?信じられない!」
「あー……川底にワープしたのか……ククッ……そりゃ、災難だったな」
「もう!笑ってないでタオルと着替え持ってきておいて!」
フレミアは笑いを噛み殺すように手で口元を抑えているロヴィに当たり散らすように言うと、びしょ濡れの服を脱ぎ散らかしながらバスルームに駆け込んでいった。
ロヴィは音を立てずに笑いながらシュークリームを箱にしまうとヤカンに火をかけ、洋服棚を漁ってタオルと白いタンクトップを引っ張り出しバスルームの前へ放った。
ロヴィがソファに寝転がりながらぼーっと窓の外を眺めていると、着替えを終えたフレミアが髪を乾かしながらリビングに現れた。
「はあ……今日はなんだか散々な1日だったわ……クシュン!」
「こりゃ珍しい、魔女も風邪をひくんだな」
「ふん、あんたにも感染してやるからね。というか窓閉めてくれない?寒いんだけど」
「窓くらい自分で閉めろよな……よっと」
ロヴィはのっそりと起き上がると窓際に近づいた。その時、外から新聞配りの少年の大声と共に、一枚の紙切れが舞い込んできた。ロヴィは器用にキャッチすると紙面をじっくり眺め始めた。シュークリームの箱を開けていたフレミアはロヴィの様子に気付くと声を掛けた。
「何それ、号外記事?」
「ああ、お前のことが書いてあるぞ……そんな顔するなって、今度は喜んで良さそうだぜ」
うんざりした表情を浮かべているフレミアに対し、ロヴィは紙面を突きつけた。フレミアはロヴィの手から記事を受け取り目を通した。そこには彼女の名前とともに、新しく更新された手配書が掲載されていた。似顔絵は本物の彼女そっくりに描き直され、おまけに懸賞金も倍になっている。
「ガハハ、お望み通りで良かったじゃねえか。ただしばらく出歩くのは無理そうだな。いっそお前の顔の方をを前の手配書そっくりに変身させてみるか?」
「……笑ってるけどあんたも他人事じゃないからね?ちゃんと記事を読んだの?」
「ん?どういうことだよ、ちょっと貸せ……『……同時にこの魔女の手下である男、通称「ロヴィ」も指名手配とする』……は?」
受け取った紙面の左端に添えられた追記文と小さな似顔絵に気付いてロヴィは呆然とした。それをよそに、フレミアはテーブルの上の小箱を見つけて目を輝かせた。
「まああんたは変身する時ちょっと弄れば気付かれないだろうし、今度から買い物は任せるわ。あと私の濡れた服も洗濯しといて。「手下」なんだからそのくらい当然よね?」
「…………」
クスクスと笑いながらシュークリームを手に取るフレミア。ロヴィは苦虫を噛み潰したような顔をして黙って睨みつけていたが、突然彼女の手からシュークリームをひったくると、大きな一口で食べてしまった。
「ちょっと!それ私の分じゃなかったの!?」
「うるせー全部俺のだ!そんなことよりさっさと汚え服洗濯してこい!……」
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